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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第一部 異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。
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第9話 異世界遊園地エスタードパーク!


「……さぁ、言い訳を聞いてあげるね?」


 汚物を扱うような態度で俺を見下しているルークは、腕を組んで俺の言葉を待っている。

 俺達が待ち合わせたのは、城下町の賑やかな繁華街から少し離れた噴水のある、芝で出来た広場である。


 そう、土下座をするには膝が痛くならず、丁度いい場所だ。


「言い訳をするつもりは無い!これが俺の誠意だ!!」


 俺は例えこの状況を招いたのがあのアホ王子のせいであっても、そんな事はルークには関係がない。俺は言い訳はしない男だ!!

 オリウスは後でちゃんと殺す。あの疫病神め……


「へぇ……つまり目の前の噴水までぶっ飛ばされたいってことカナ?」

「それだけは勘弁してぇ死んじゃうぅ!」


 あの噴水の威力おかしいんだけど!?

 さっき、とあるご婦人がうっかり荷物を落としたとした時、荷物が空の彼方へ消えていったんだぞ!?

 ガタガタ震えながら土下座を続ける俺に、ルークは「ハァ……」とため息を吐く。

 

「……ユウがさっさと来ないから面倒な事になったんだよ?」

「え?それってどういう……?」


 この場まで全力でダッシュし、ルークの元へ着くなりスライディング土下座をかました為、未だルークの顔すら見ていない。

 俺はようやく顔を上げた。

 するとそこには──


「お、おはうようございます。ユウ君」

「エキナ!?」


 なんでエキナがここに!?

 い、いや学園から程近い場所だし居ててもおかしくはないのだが……


「悪いんだけど、事情を説明してくれ……」



「……おそい」


 デート感を底上げする為に時間をずらして待ち合わせしたのは良かったんだけど。

 ユウめ、まさかこの短い時間で遅刻するとは……


 

「魔力はずっと動いて無いし、もしかして寝ちゃったのかな……」


 目を閉じてさらにユウが微動だにしていないのか、周囲の魔力を感知してみると──部屋にはもう一人の反応が、訪問者が居た。


「誰だろ……ま、まさか女……!?」


 いますぐ寮に戻って、ユウを奪還しなきゃ……!

 慌てて広場から去ろうと、目を開けてすぐ走ったせいで、目の前にいた誰かとぶつかってしまった。


「わぁっ!ご、ごめんね大丈──」

「い、いえこちらこそすみませ──」


『え?』


 あたしは、ぶつかった相手が尻餅を付いて倒れてしまったので、手を差し出して謝罪をしようとした。

 しかし相手の顔、何だか見覚えがある……

 相手も同じ事を思ったのか、シンクロしちゃったじゃん。

 動揺したあたしは差し出した手で転んでいる彼女に人差し指を向けて叫ぶ。


「あ、あんたはユウの浮気相手!?」

「あーー!ユウ君を吹っ飛ばした危険な人!?」


 彼女は同じ様にあたしに指を向けて失礼な事を言ってきた。


「誰が危険な人だー!!!」

「う、浮気相手なんかじゃありません!!!」


 お互いに酷い覚え方をしていた。

 こ、この女どうしてくれようか……

 ふん、まぁいいよ、あたしはこう見えて大人だからね。

 とりあえずさっさとこの女にはここから消えて貰おう。ユウと会わせたら面倒な事になりそうだし。

 あたしはもう一度手を差し出して彼女を立たせた。


「ほら、とりあえずぶつかってごめんね」

「い、いえ私の方こそすみませんでした……」


 うんうん。さすがあたし。これぞ大人の対応。

 お尻の方の汚れをポンポンとはたき、浮気女があたしに話し掛けてきた。

 な、なんでお尻をはたいてるのにおっぱいが揺れてるの?摩訶不思議。


「あの、どうしてここに……?」


 何であんたに言わなきゃいけないの?

 って思ったけど、大人の対応をすると決めたあたしは正直に話してやることにした。さすがあたし。


「これからユウとデートなの」

「!!」

 余裕のある感じで言ってやったよ。へへん。

 驚いた顔をした彼女はあたしに詰めよってきた。


「ユウ君とどういう関係なんですか!?」

「それはあたしが聞きたいんですケド!」


 思わず大声で返してしまった。

 イケナイイケナイ……大人の対応だよあたし……

 彼女はあたしの返答に怯むこと無く口論は続く。


「わ、私とユウ君との関係は以前お伝えしました!」

「はーん?ユウがえっちなのは認めるけどあたしが聞きたいのはそんな事じゃないんですケドー?」

「むぅ……そうですね、ユウ君は私の恩人です」

「恩人?ふーんそうそれだけ?」

「──あとは、憧れです」

「!」


 憧れ……ネ。

 まぁ、分かるよ。あたしもあの背中に何度も──

 っと、今はそうじゃない。

 頭を横に振り、思考をリセットする。

 そして疑いを掛ける。


「あんた、シンプルに言いなよ。ユウの事が好きなんでしょ」

「す……!?」


 浮気女が顔を真っ赤にして動揺している。

 ハァ……あいつと同じだよ、無駄に女を引き寄せるんだから。

 

「悪いんだけどユウはあたしにベタ惚れなの。諦めなよ」

「い、嫌です!」

「意外と強情な女だね……!?」


 なんなのコイツ!

 ナヨナヨした見た目のくせに……


「……ユウ君が居たから、今私はここに居るんです……簡単には諦められません!!」

「諦めるの!あんたの入るスペースなんか無いんだから!!」

「それはユウ君が決める事ですぅ!!」

「ユ、ユウはあたしを選ぶに決まってるもん!!」


『ぐ~~~~……』

 

 お互いを睨み合うあたし達はこのままでは埒が明かないと判断した。

 あたしは折衷案を提案する事にした。


「……いいよ、ならユウに決めて貰おうじゃん。ユウが来たら、あたし達二人でユウを喜ばせるの。1日そうした後、ユウにどっちが好きか選んで貰う、これでどう?」

「……分かりました。絶対負けません!」

「ヒヒ、年季が違うよ。小娘」


 ん?あれ、なんであたしとユウのデートにこいつを連れて行くことに……?

 


「お前ら……何をやってるんだよ……」

「ユウ君、ご迷惑でしたらすみません……」

「い、いや迷惑とかじゃないんだが……」


 2人の説明を聞く限り、今から俺はエキナとルーク、二人と同時にデートをすることになるみたいだ。

 2人共、俺からすれば超が付く程の美少女だ。

 そんな2人を両手にデートが出来るなんてワクワクしないわけがない!

 ──だが


 吸血鬼としての直感が告げている。

 この二人は混ぜるな危険、だと。


「ほら、行くよユウ!」

「お、おい引っ張るなって!」


 2人とデートをする事に躊躇していると、ルークに服の袖を引っ張られ、無理矢理だがデートをスタートする事となった。


「2人共、どこに行きたいとかあるのか?」


 いきなり3人デートとなってしまった為、俺はある程度考えていたプランは捨て、2人の意見を聞くことにする。

 すると──


『エスパ!!』


 声を揃えて宣言してくる2人。

 あれ、意外と混ぜても大丈夫だったのか……?

 しかし、シンクロしてしまった事で睨み合ってしまった。

 なんなんだ……


「エスパってエスタードパークのことか?」


 この単語のあまり聞き馴染みが無かったので一応確認してみる。確か遊園地の事だった気がするのだが……


「はい!私、入学する為に田舎から出てきたばかりなので、昨年出来たばかりで話題のエスパに行った事が無くて気になってたんです!」


 へぇ、結構有名な所なのか。

 相変わらずこの世界の事何も知らないんだな俺……


「あたしも、初めてデートするならあそこって決めてたの!超面白そうな乗り物があるんだって!」

「へぇ、ならそこにするか」

 

 2人の意見も一致したのでまぁいいだろう。

 さて、向かうか!



 ──と、いうことでやって来ました遊園地!


 移動している間も、2人の積極的なアピールとやらに振り回された俺は、入園する前に既に満身創痍だった。

 それでも、異世界遊園地、エスタードパークに着くと、疲れが吹き飛ぶくらいにはワクワクし出した。


「おぉ、あんまり期待して無かったけど中々いい作りじゃないか」

「凄いですねぇ!私、ドキドキしてきました!!」

「ねぇねぇユウ!あれだよ、あのはっやそうな乗り物に乗りたい!!」


 俺とエキナは遊園地の雰囲気に呑まれている。 ルークは元々興味があった、ドでかいジェットコースターみたいな乗り物を指差した。


「ほら、2人共急いで!!」


 入園手続きを済ませ、ルークの言う乗り物へと目指す。

 Welcome to EP!!!と、書かれたゲートをくぐると、妖精や精霊を意識したような幻想的な世界が俺達を出迎える。てか、英語なんだ……異世界感0だよ。


「そう言えば、この国って精霊を凄く神聖視してるよな?」


 俺の何気無い質問にエキナがびくっとした。

 あれ、何かまずかったか?

 何も答えないエキナに代わってルークが答えてくれた。


「……そりゃあね。この国どころか世界中でただ一人、精霊と契約してる人を聖女と崇めるんだから」

「へぇ~御大層なこって」


 エキナは、俺達の会話を遮る様に俺の左腕に抱きついて、「そんなことより」と俺を誘惑してきた。

 

「ユウ君、今日の私……どうですか?」

「あ、あぁ可愛いと思うよ」

「フフ、ありがとうございます!」


 今日のエキナは当然私服だ。

 春先とあって、肩だしの薄目のニットに短パン、ハイブーツと、彼女のグレーの髪によく似合った服装している。

 ──しかし、巨乳にニットは駄目だろう!?

 谷間が見える隙など存在しない。なのに、あの溢れ出る、圧倒的存在感!!!

 今一度言おう。おっぱい万ざ──


「いてて!!」

「ユウ君、胸ばっかり見すぎです……」


 脇腹をエキナにつままれた……

 少し膨れた顔も可愛い。

 それに左腕は圧倒的幸福に包まれている、いくらつままれようが一向に構わん。幸せぇぇ~。


「ちょっと、ユウあたしには何も無い訳?」

「え?ルークも可愛いって。さっき言わなかったっけ?」

「言ってない!!」


 言うやいなや、今度はルークが「バカ」と言いながら空いている右腕に抱きついてきた。

 さすがに歩きづらい……

 しかし、こちらはこちらでやはり確かな膨らみを感じる。

 成長に期待だ。齢何百歳のこいつにこれ以上の肉体の成長があるかは分からんが。


 くだらないことを考えていると、ようやくジェットコースターの行列が見えてきた。


「おいおい、めちゃめちゃ並んでるぞ?」

「どれどれ、あちゃー150分待ちかぁ」


 ルークが、最後尾の従業員が掲げているプラカードを確認した。

 まぁでもルークはこれが目的でエスタードパークに来た訳だし、並ぶか。


「学園も休みだからなぁ、それも原因かもな。よっし、気合い入れて並ぶか!」

「え、い……いやいいよ、他のならそんなに並ばずに入れるだろうし……」

「でもお前これが乗りたいんだろ?」

「う……うん……」

「なら行こうぜ、エキナもいいよな?」

「は、はい……構いましぇんよ」

「……ありがと」


 ルークの奴、変な遠慮しやがって。ニコニコして嬉しがってまぁ。

 しかし、さっきからエキナの様子がおかしいな。今、噛んでたし。

 まぁいいか。

 俺達は最後尾のプラカードを持った従業員に声を掛け列に並ぶ。

 

「……ここから150分、退屈だな……」

 

 俺がそう呟くと前方からグラサンを掛けた怪しい2人組に話し掛けられた。


「あれ、聞き覚えのある声だと思ったら君達か」

「……こんな所でお会いするとは、やれやれ腐れ縁というやつですわね」


 目の前に居たのはアホ王子ことオリウス・セル・エスタードと金髪縦ロールの化石令嬢ディセート・メア・ボルゼキアの2人だった。

 俺は2人がグラサンを外しつつ俺達の方を向いてきたので苦言を呈す。


「な、なんでお前ら大貴族様がこんな所に……!?」


 エキナとルークまで驚いているじゃないか。

 ルークはまた邪魔者が増えた!と、言わんばかりに番犬の如く、ぐルル……と唸っている。ちょっと可愛い。


「いやぁ、僕も一度は来たいと思っていてね。お忍びで来てみたんだ。まさか君の用事と一緒だとは思わなかったよ」

「お忍びって……お前らその怪しい格好で忍べてるつもりなのか……?」


 こいつらの怪しさは半端じゃないぞ。

 黒い帽子に、黒いコート、おまけにサングラス……黒すぎるだろう!!

 ……今からこのジェットコースターで殺人事件なんて起きないよね?

 

「本当躾のなってない男ですわ。殿下、相手をしてはいけません」


 駄目だ、ディセートの兄貴というフレーズが頭に浮かんで笑ってしまいそうだ。

 こいつは一体どれだけキャラを増やせば気が済むんだプププ……


「頼むからお前ら俺達に話し掛けるなよ。知り合いと思われたくない」

「なっ!!こちらの台詞ですわ!!」

「ルーク、エキナ相手にするなよ」


 2人は何も言わずに頷いてくれた。

 触らぬ神に祟りなしと思ったのだろう。

 オリウスは次会ったら殺すつもりだったが、面白かったので許してやろう。

 しかし、こいつら王族は政略結婚だろうに仲がいいんだな。

 ──まぁ俺には関係ないことだ。


 面白コンビを目の前に、何だかんだでもう少しで行列の先頭になる所まで来た。

 ルークは相当楽しみにしているのか、俺の右腕をブンブン振ってワクワクを表現している。


「もうちょっとだね!!あぁー楽しみ!!!」

「痛い痛い!あんま振り回すな!」

「フゥーーー来るぞ来るぞーー!!」


 ……全然聞いてねぇなこいつ。

 まぁ俺もさっきから聞こえている、先にジェットコースターの乗った客の歓声を聞いていると、自然と心踊っているのに気が付く。

 浮き足立つ俺達を他所に、左を見ると小刻みにぶるぶる震えている小動物がそこにいた。


「エキナ……もしかして怖いのか……?」

「ひぇ!?だ、だいじょじゅでしゅ!」

「え?なに1つ大丈夫じゃないよね?」

「むぅ……」

「……怖いんだな」

「……あんなに迫力ある乗り物だと思わなくて……」


 まぁさっきから聞こえてくる歓声はどちらかと言うと悲鳴の方が多いからな……

 何十年振りの遊園地で、しかも死なない俺は割と楽しみにしていたが、一般人であるエキナが怖がっても仕方がない乗り物だった。

 なにせ、乗り込み口に近付くにつれ……


「やめてくれ!俺はまだ死にたくないぃ!!」

「お、おい、この乗り物安全バーは無いのか!?」

「なぁ……レールの先が途中で途切れてるのは気のせいか……?」


 こんな悲鳴が聞こえて来たらさすがに俺も段々怖くなってきた。

 どうやら生還した強者達がハマり、友人などを無理矢理連れてくることで大人気のコースターとなっているみたいだが……

 不安が募っていくばかりである。

 

「エキナ、無理しなくてもいいぞ?」


 俺は列の外側にある出口を指差し、「俺も一緒に出てもいいし」と言った。


「いえ、私はもう逃げません……!」

「エキナ……」


 強い意思を示してきたエキナは、しかしやはり怖いものは怖いのだろう俺の腕のしがみ付く力を強める。


「で、でも怖いのでユウ君、乗っている間私の手を握っていてくれませんか……?」

「あぁ、お安い御用だ」


 震えながらもニコッと俺に微笑むエキナ。

 さぁ、いよいよ俺達の番が来た。

 ルークがテンションマックスでコースターに乗り込む。

 3人横並びのコースターで、俺を真ん中に右にルーク、左にエキナがいる。

 エキナはずっと震えており、俺の左手を物凄い力で握りながら何かを呪文の様に繰り返し呟いている。

 そっと耳を近付けてみると──

 

「ぼぶらぺっと……ぼぶらぺっと……ぼぶらぺっと……」


 これはあれだ。触れちゃいけないやつだな。

 エキナはそっとしておくとして、そういやあのアホ王子達はどこだ?

 座席に案内される際、前後交互に案内されたのだが、俺達は一番前だしもしかして最後尾か?

 ……うわ、本当に最後尾だ。ジェットコースターに黒ずくめの2人組を最後尾に座らせるなんて正気か!?


 首チョンパの死体が出ない事を祈りながら、今度はルークを見やる。


「くぅぅ~~早く進まないかなーー!!」

「お前は楽しそうだな……俺も少し緊張してきたってのに……」

「え?だってこれほんとぶっ飛んだ乗り物なんだもん!!」

「そんなにか?」


 途中でレールが無くなったり、コースターが逆さまになって走っていたりしたが、この世界には魔法がある。

 何かしら安全な仕掛けがあるはずだと高を括っていたんだが……

 ルークは興奮を押さえきれないといった様子だが俺に説明してくれた。


「このジェットコースターって、あたし達をコースターにくっつける為に強すぎない重力魔法をコースター自体に半永続的にエンチャントしてるんだよ!あたし達からしたら軽いデバフ的な?」

「へぇやっぱり魔法が掛けられてるんだな」

「そうそう!ユウがいたらそんなの意味無いのにね!」

「……今何て言った?」

「だから、吸血鬼の真祖にそんなチャチなデバフ効くはずないじゃん?ユウの魔法に対する抵抗力は世界一なんだから!」


 なんだ?冷や汗が止まらないぞ……

 い、いや待て。それじゃ抵抗力の強い奴は全員乗れない事になるぞ?


「待ってくれ、俺以外にもそんな奴幾らでもいるだろう?」

「居ても皆それくらい魔力をコントロールしてデバフを受け入れれるよ。ユウと違って生まれつき魔力を操っているんだし」

「お、お前なんで最初に言わないんだよ!?」


 笑顔のままルークは俺に説明を続ける。


「ヒヒ、ユウがこのコースターに乗り込んだ時点でエンチャントが弾け飛んだよ!そんな中で安全バーも無しに爆速で走行するなんて……ネ!イカれてるでしょ!?」

「従業員ーーーー!!!今すぐこのコースターを止めろーーーー!!!!」


 しかし、無情にも俺の叫びは周囲のざわめきに掻き消され、3、2、1とカウントダウンは進む──


「いっけーーーー!!」

「やめろぉぉおおーーーー!!!!」


 ………………

 ……………………


 ……ん?

 あれ、動かない……?

 周囲も何事かとざわざわし出した。

 すると、アナウンスが鳴り響く。


「只今、コースター内部に異常が発生しました。現在コースターにお乗りのお客様は直ちにお降り下さいますようお願い致します。繰り返します──」


「た、助かった……」

「えぇぇぇ~~~……」

「あ、あれどうしたんですか?」


 よ、良かった……

 さすがに異常を検知できるプログラムが存在するみたいだな……

 ルークは非常に悔しがっている。


「せ、せっかくここまで並んだのに……」

「アホか!あのままだととんでもない事になってたんだぞ!?」

「最っっっ高に面白そうだったでしょ?」

「反省しなさい!!」


 白目を剥いてルークを叱る。

 しゅん、としょげてしまったがこいつには少し大人しくしてて貰う。全く。

 未だ何が起こったのか分からず固まっているエキナに声を掛ける。


「エキナ、何かあったみたいだ。出口の方に行こう」

「そ、そうなんですか?……助かりましたぁ……」

「良かったな。……本当に」


 ……もう二度とこの世界のジェットコースターには乗らないと決める俺だった。

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