第36話 未来に紡いでいきたい
「俺はお前との子どもが欲しい!!!」
「……???」
鼻が触れ合う程の距離で俺は叫んだ。
「お前とずっと笑い合って恋して……そしてお前とエロい事をいっぱいしたいんだよ!!」
高坂が散々抱いてって言ってきたんだ。
文句は言わせねぇぞ。
「ルークとエキナと皆と、エロい事しまくりたいんだよ!!お前の事だけなんて見てやらねぇよ、我慢出来んからな……だけど嫉妬なんてさせねぇ、いっぱい幸せにしてやるから俺の3番目のお嫁さんになってくれぇぇえーーーーっ!!!」
「……」
あまりに予想外だったのか、高坂はポカーンと口を開けて数秒の間フリーズしていた。
しかし、すぐに彼女は口元を隠す事もなく大きく口を開けて笑い出した。
「ぷっ……ふふふ……アハハハハハ!!」
「お、おい……」
「あーお腹痛いわ!アハハハハ…………」
「高坂……?」
「ハー…………全く……」
高坂は次第に口角を下げ、すぐ近くにある椅子に足を組んで座った。
その光景は制服のせいも相まって、本当に2人で高校に通っていた頃を彷彿とさせる。
「……貴方、自分がどれだけ無理言ってるか分かってる?」
「さぁな。俺はお前を救う事しか考えてない」
「そもそもそれが無理なのよ。私はどっちの世界に残っても死刑でしょうし」
「どうだろうな。どっちの世界でもこんな出来事、裁けるもんか」
「……少なくとも、こっちの世界では私は8人の人間を殺めた殺人鬼よ。まぁ今となっては何人殺したのか分からないけどね」
どこか開き直ったような物言いをする高坂。
「それとも滝川ならなんとかしてくれるの?」
「……あぁ。向こうの世界でなら出来る」
「そうね……貴方は英雄だものね」
「……英雄なもんか。大事な人を守れない奴が英雄なんて呼ばれちゃいけないんだよ」
「滝川……」
俺は二度も大切な人を救えなかった。
一度目は目の前に居る高坂を。
そして二度目はメリア先輩を。
今、俺にはその2人を救える可能性がある。
だったら俺が折れる訳にはいかない。
ルークの時と同じように諦めず、エキナの時と同じように高坂の障害は全て俺がぶっ壊してやる。
そうして──
「俺は……お前の命を未来に紡いでいきたい。二度とお前を失いたくないんだ」
俺は椅子に座る高坂に膝を着いて、彼女が太ももの上に置いていた手に自分の両手を重ねた。
「その為なら何だってする。お前が嫌がったって俺と結婚して貰う」
「私の意思は関係ないと?」
「関係ねぇ。俺は助けると決めたらその本人に嫌われたって目的をやり遂げる男だ」
「最低ね……」
「それが俺だ。こんな男を好きになった自分を恨め」
「……自分なんて、散々恨んだわよ。いつも貴方が私を守ってくれるから……」
「……!」
高坂は椅子から少しずれて、膝を着く俺の顔を覗き込んだ。
「……ねぇ滝川、私の事……好き?」
「大好きだよ。きっと、出会った時からずっとお前に恋してたよ」
「……私も同じ。だからこそ、これ以上貴方に迷惑は掛けられないとも思う」
「迷惑だなんて微塵も──」
「ありがとう、滝川──」
「高坂!!!」
彼女は少しだけ俺の唇を奪った後、転移魔法でどこかへと消えて行った。
「くそっ……!!!」
俺はすぐに魔力探知を行った。
居場所はすぐに分かったよ。
「師匠……力を貸してくれ……!!!」
俺は目を閉じて精霊の力を解放した。
イメージするのは大精霊セフィラが用いた、兄貴に匹敵する高精度の転移魔法。
俺の足元にはうっすらとだが魔法陣が構成されていった。
失敗すれば体がズタズタに引き裂かれた状態で向こうへ着く。
死にはしないが、その状態では高坂を説得することは出来ない。
俺の残り少ない魔力で出来るかは分からないが……
頼む、上手くいってくれ……!!
「! 出来た!!」
少し時間が掛かったが、魔法陣の構築が完了した気配を感じた。
俺はすぐさま魔法を発動する。
その時だ。
残り少ない魔力で出来た不安定な魔法陣が、急速に完璧なものへと代わっていく。
「……!?」
聞こえるのは懐かしさを感じる声。
──行きな。
「ありがとう師匠……いっっけぇぇえーー!!!」
俺は思い出の残る教室を後にした。
※
あたし達は月の魔力を解き放った後、ユウを待つ為にその場から動かず待っていた。
そう長い事は待ってないケド、いい加減早くして欲しくなってきた。
……いつまであの女とイチャついてるの……!
いっそ魔力探知で様子を探ってやろうかと思った時だった。
あたしとはまた別種の冷たい魔力を感じ取った。
「……誰!?」
アデラートの近くに誰かが転移の魔法を使ってこっちに来る……!!
あたしは思わずこの場にいる全員に大声を出した。
「皆、今すぐ離れてっっっ!!!」
『!?』
皆は素早くあたしの言う通りに後方へと走ってくれた。
唯一、アデラートを除いて。
「アデラート!!何してるの早く!!」
「……フフフ」
「……!?」
アデラートはあたしの言うことを無視して暗く笑っている。
一体何を考えてるの……!?
「ルーク、どうしたんですか!?」
「エキナ……!」
あたしの隣にいたエキナは不安そうにしている。
「分からない……だけどもうぐ分かるヨ」
「……?」
やがて転移の魔法陣がアデラートとあたし達を挟んだ中間に出現した。
「来るヨ──」
この魔力……もしかして……
「……高坂さん??」
どうやらエキナも気付いたみたいだネ。
転移が完了し、姿を見せた高坂にあたしは問い掛ける。
「あんた、ユウはどうしたの!?」
「……まだあの教室に居るわ。そんな事よりも、貴女達は今後の滝川の精神の心配をしておきなさい」
「ど、どういうこと……!?」
「……」
高坂は何も言わず、目の前に居るアデラートの方へと視線を向けた。
「……ずっと、ずっとこの瞬間を待っていたよ……!!」
アデラートは指を鳴らし、ずっと姿を現さなかった人間を招いた。
「──ミラッッッ!!!」
瞬間、アデラートの影が揺らめいた。
影は高坂の足元まで伸び零距離になった時、その中から一人の女が右腕に身震いする武器を携えて全員に姿を晒した。
あれは──天の矛!?
「あ、あんた、逃げなさい!!死ぬわよ!?」
「……滝川に、ごめんねって言っておいて──」
「高坂さん!!?」
──気が付くと、あたしは駆け出していた。
エキナはあたしがしようとしている事に気付いて、慌てて手を伸ばしてくれたみたい。
「だめです、ルーク!!!」
エキナの手はあたしには届かず、それと同時に大好きな人の声が聞こえた。
「……兄貴!?お、おい……待て、なにを──」
「ユウ君!?ルークが……!!」
ユウがこの場に現れたのは見えてたけど、頭は理解してなかった。
無我夢中で走ってたもん。ごめんネ、ユウ。
……何でだろうネ。
あたしはあの女に──言い方は悪いけれど──端的に言えば死んで欲しかった。
この先ユウと一緒に居れば、必ずあいつはユウの邪魔になる。
自分が何をしでかしたのか、どれだけユウに迷惑を掛けたのか。
その命をもって償えとまで思っていた。
エキナも似たような事を思ってた筈。
だからあたしよりも動き出すのが遅かった。
それを責めるのはお門違いだヨ。
正しいのはエキナの判断だもん。
だけどネ。
──あたしはそれ以上にユウの悲しむ顔をもう見たくなかった。
メリアが死んだ時、あたしはユウの心を救う手助けが出来なかったから。
今度こそ、ユウの大事なものを守りたい!!
「!? ルーク君、止めろ!!!」
あたしの願いは、高坂を突き飛ばす事で無事に叶ったヨ。
「くそっ!!やめろ兄貴──ルーク……ルーク、ルークゥゥゥウーーー!!!!」
代わりに──
「やめろぉぉぉぉおおおーーーーー!!!!」
──あたしの心臓を、天の矛の無慈悲な閃光が突き抜けていった。
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