第35話 私だけを見てて欲しい
「ルーク!200年前と同じ──精霊の力を!!」
「任せて!!」
200年前、あの時リースはマーネが放った精霊の力を収束して月へと導いた。
──マーネ、あたしに力を貸して。
「お願い……!!!」
あっちの世界に置いて来てしまったケド、いつだって心配性のあいつは必ず来てくれる。
目を閉じて魔装を身に纏い、数メートル上空へ翼をはためかせた。
そして空中に留まりながら、両手を伸ばしてただじっと待った。
感じる……!
光の粒子があたしの眼前で剣の形になっていくのを!!
「ありがとう──マーネ!!」
世界を越えて、奇跡が現れた。
あたしはそれを手に取り、左手の紋章を黄金に輝かせる。
あたしの力だけじゃ、あの光は起こせない。
ただし、精霊の力をコントロール出来るユウの魔力があれば別だ。
あたしには2人の英雄がいるからネ。
「──解放しろ、奇跡の全てが剣にある!!」
天高くマーネの剣を掲げ、目映いばかりの光が夜の帳を払う。
「エキナッ!!!」
「はい!!!」
エキナは背中から翼を広げ、天高く舞い上がった。
あたしよりも、更に高く──
「綺麗ですわ……!」
天使……いや、女神でも彷彿とさせるエキナに、ディセートが見惚れている。
魔族の皆が長い事食い止めている青い閃光──その源である月に向けて、エキナは精霊の力を束ねて送り込んだ。
『おぉ……!!』
同時に青い閃光はその光を段々と薄めていく。
魔族の皆もやがてその勢いを失った光を見て、全員がその場に座り込んでいる。
「……つ、疲れた……!!」
「まさかここまでとはね……」
特に青ヅノと赤ヅノのヴァンとヴァズは、普段は感情をあんまり見せないのに、安堵の表情を浮かべている。
だけど──
「ルーク君!!来るよ!!」
「アデラート……!分かってる──ヨ!!!」
今のあたしじゃ魔力が足りない。
だけどマーネの剣から、そして左手の紋章から力が沸いてくる。
精霊の力を帯びた強力無比な一撃を、赤く染まった月に向けて放つ。
「いっけぇ、真祖の槍!!!」
極太の一閃がエキナの居る遥か上空へ向かう──
「ルーク、私も……!!」
エキナは両腕を広げてあたしの放った魔力を受け止めようとしている。
「エキナ……!?」
あたしは月を破壊するつもりで全力で放ったのに……
まさか、この一撃まで月の魔力の浄化に使うとはネ──
「……さすがですねルーク──それでも今の私なら……!!」
エキナは黄金の光であたしの魔力を包み、光り輝く閃光へと変えた後、それを月へと放った。
そのおかげで赤い閃光が落ちてくる事はなく、月も破壊される事はなかった。
浄化の余波でキラキラと光の粒達があたし達を覆う。
それを一身に浴びるエキナが上空から舞い降りてきた。
その様は正しく──
「さすがだネ聖女様」
「ルークこそ。世界最強の吸血姫の魔力、凄かったですよ」
「ヒヒ、今の世界最強はあたしの英雄ダヨ」
「む、私のです」
「ハイハイあたし達の、ネ」
「ふふっ、そうでした」
あたしはやれやれといった感じでエキナに手を伸ばした。
「後は隕石か……」
「いえ、それなんですがもしかすると大丈夫かも知れません」
「え?」
エキナはあたしのきょとんとした顔を見て説明を続けた。
「学園長のお話では破壊された月から降って来るのが隕石との事で……」
「あ、だからエキナは──」
「はい。少し腑に落ちない点はありますが、一先ず私達に出来る事はもう無いかと」
「そっか……」
腑に落ちない点はあたしにもあるケド、まぁ今は一旦置いておこう。
あたし達は地上に居る魔族やアデラート達の元へと降りる。
「エキナ、終わったネ」
「えぇ……後は──」
そう、後はユウ次第。
どうやって世界を戻すか、そして高坂をどうするか……
きっとあたしとエキナは同じ事を考えてる。
──ユウ……お願い……もう高坂の事は諦めて。ユウまで罪人になっちゃう。
※
俺の右手の甲が熱く反応している。
見てなくても分かる。
あいつの本気、これ程とはな。
──さすが俺の相棒だ。
俺も続かないとな。
「さぁ高坂、そろそろ俺達もケリ着けようぜ」
「……」
俺と高坂は思い出の残る高校の教室で、数歩離れた位置で向かい合っている。
ルークとエキナが向こうへ行ってからもう随分とこうしている。
高坂が皇帝に体を乗っ取られている間に何があったかはもう説明した。
彼女がずっと黙って俺の瞳を見ているのには理由がある。
ずっと俺の言葉に返事が出来ないで居るからだ。
俺が高坂に言った言葉、それはこうだ。
「高坂、一緒に向こうの世界でやりなおそう。死んでしまった人達は俺達が生き返らせるからさ」
高坂の罪は消えない。
けれどこうすれば、少なくとも死刑になることはないだろう。
それに向こうの世界にはこっち程しっかりした法はない。
要はレインさん達王族が赦すか赦さないか。
なら情状酌量を勝ち取る事は可能だ。
……分かってる。これは俺のワガママだ。
それでも俺は、高坂の命を諦められない……!!
だから頼む高坂……
「……なんとか言ってくれよ……」
「……」
高坂はずっと何も答えてくれない。
「俺は……俺はもうお前を見殺しになんかしたくないんだよ……!!」
「……」
思わず握り込んでいた拳からは血が滲んでいた。
「俺はお前とこうしてこの世界で2人きりでは居れない……!」
今の俺にはルークとエキナ、自分の命よりも大切な人が居るから。
そして、必ずやり遂げないとならない約束があるから──
「だけど、向こうの世界でなら一緒に暮らしていける、だから──」
俺の言葉を遮るように、ようやく高坂が口を開いた。
「──貴方と2人きりで居られない世界なら要らない」
「……っ!」
……そうだ。
結局高坂の願いはずっと、俺という人間──今は半分魔族だが──と死ぬまで2人きりで居たい。ただそれだけなのだ。
──俺達が過ごしたこの世界で。
俺達の願いは交わることはない。
どちらかが折れるしかない。
高坂も同じ結論に辿り着いていた。
「……滝川……もう良いわよ。私は貴方を苦しめたい訳じゃないわ。世界中の生物を殺す為の月からの攻撃も、どうやら防がれちゃったみたいだしね……」
「……」
確かに上空からの禍々しい魔力が消えている。
──やったんだな、ルーク、エキナ。
「……もう私に出来る事はないわ。私の魔力も皇帝にほとんど持ってかれちゃったしね」
「……何を諦めようとしてるんだ?」
「何をって、私の命をよ。もうどう足掻いても私に残ってる未来は1つだもの。貴方が私と来てくれるならまた別だけれども」
「……お前は……っ!!」
「本当、何年経っても諦めが悪いのね──」
高坂は俺に近付き優しく頬に触れた。
その手は酷く冷たく、俺の頬から熱を奪っていく。
「……どちらかが折れるしかないわよ滝川」
「お前が折れろよ。それで丸く収まる」
「私に貴方のハーレムの一員になれと?死んだ方がマシよ」
「前は良いって──」
「……あの時はそんな未来も良いかと本気で思ったのよ。だけど、無理だった」
「どうして……!!」
思わず高坂の両肩を強く掴んでしまう。
「だって──」
高坂は少しだけ笑顔で答えた。
「私は貴方を一人占めしたい。他の女になんて触れさせたく無い。私だけを見てて欲しい」
「……!」
それは俺がいつルークとエキナに言われてもおかしくない言葉だった。
今の俺は2人の優しさに甘えてるだけだからな。
高坂はたぶん、この言葉に俺が答えられない事を分かっててこれを言ったんだ。
逆に言えば、これに答えを出せたら高坂を諦めないで居られるかもしれない。
だから俺は迷う事無く答えた。
「俺は──」
その答えに、高坂は笑った。
お読み下さりありがとうございます!
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