第34話 決着といこうか
「エキナっ……!!」
「……うっ……」
ほんの数秒だったが意識を失ったエキナが目を覚ましてくれた。
俺の腕の中で意識を取り戻した彼女からは、覚醒した聖女の輝きが溢れている。
「……すみませんユウ君、私……」
「大丈夫か……?」
「……はい。リースさんと……お話してただけですから」
「それって──」
俺が思わずルークの方を見上げると、ルークはとても優しい顔をエキナに向けていた。
「……ありがとネ、リース……」
何はともあれ、聖女の力は上手くエキナに渡せたようだ。
よし、そうなれば後はルークに──
「ルーク、次はお前……だ……」
「滝川……!?」
俺は急激に体中から力が抜けていくのを感じた。
そしてそのまま倒れてしまいそうになったのを、後ろから高坂から背中を支えてくれる。
腕の中でうつろうエキナが俺の頬に手を触れながら心配してくれた。
「ユウ君……聖女の力を私に渡したから……!」
「──やっぱりネ」
「……ルーク……?」
俺が苦しみながらルークの顔を見上げると、ルークは俺を強く睨んでいた。
「あたしもそうだったもん。自分の中にある力を渡すっていうのは想像以上に体力を使うの。契約でもしてない限りネ」
「……分かってたなら言ってくれよ……」
「ちょっとは反省して。ハァ……どの道、その体じゃ足手まといだからここに残ってその女と話でもなんでもしてたらいいヨ」
「……お前……!」
何だかんだ言っていつも俺のワガママを聞いてくれるんだよな。
……一筋縄では聞いてくれないけどさ。
「すまん……ルーク」
「……フンッ」
あーあーすっかり拗ねちゃって。
俺はエキナを降ろし、よろめく体を無理矢理動かしてルークの方へと歩いた。
「……ルーク、向こうは頼む」
「……ユウ……覚えてる?あたしを初めて呼んでくれた時に言った事」
「え……?」
ダンジョンでの事か?
いきまりそんな前の事を──
……いや、いい加減ルークの事も少しは分かってきたつもりだ。
きっとこいつの言いたい事は──
「……お前の言うことを聞いてやるってやつか?」
「ちゃんと覚えてたんだネ。今、それを使うネ」
「……今、か……」
「うん。断らせないからネ。あたしが何を言っても」
「そ、それは……」
……仮に、今のここで高坂を諦めろと言われても、それは聞けない。
それはルークも分かってるだろう。
一体何を言うつもりなんだ……
ルークは間を空けずそれを口にした。
「あたしにキスをして」
「……え……!?」
「2人が居る、今、ここで」
「……な、なんで……?」
チラリとエキナと高坂の方を横目で見やると、2人共困惑の色を浮かべている。
……く、くそっ……ルークの奴、こんな時にっ……!
「早く、ユウ」
あーもう!目を閉じてキス待ち顔を見せんなよ!!
仕方ない、かなり恥ずかしいがやるしかない!
「ル、ルーク……」
「……うん……!」
「っ……」
俺も目を閉じて彼女の唇に顔を近付けた時だった。
「ぶべぇっっ!!!??」
気が付くと、世界が回転していた──
「って、何度目だよこれ!!」
教室の一番後ろの黒板までぶっ飛ばされた俺は、痛む頬を押さえながらルークに叫ぶ。
すると、ルークとエキナを囲うように転移の魔法陣が浮かび上がっていた。
「お前、わざと……」
「これくらいしないと気が済まなかっただけ。ねぇ、ユウ」
「……ん、なんだ」
「あたしはユウの女だから、ユウの守りたいものを守ってあげる。ユウの重荷も一緒に背負ってあげる。だから……」
……あぁ、分かってるよ。
そんな泣きそうな顔しなくたってさ。
「……高坂と一緒に死んだりしねぇよ。安心しろって。俺が一緒に死んでやるのはお前だけだ、ルーク」
「……分かってるならいい。それじゃ、行ってくるヨ」
「任せたぞ。エキナもすまん」
「……私だってユウ君達と生死を共にするつもりなんですからねっ」
「分かってるって。ありがとう、エキナ」
「いいえ、それじゃユウ君──」
そして2人は転移魔法によってその姿を消した。
「2人共、頼む──」
さてと……この後俺がやる事は1つ。
「待たせたな、高坂」
さぁ、こちらも決着といこうか──
※
「……君達だけかい?」
アデラートの転移の魔法陣から出てきたのが、あたしとエキナだけなのを見て皆が戸惑っている。
ハァ……ほんとしょうがないご主人様なんだから。
「ユウはアデラート、あんたが連れてった高坂って女とあの部屋に残ったヨ。それより今どういう状況?」
「そうか……」
「……?」
こいつ、人の質問無視して何口元を隠してるの?
……まぁいいや。
状況は見れば大体分かるしネ。
「爺や!第二射は!?」
あたしは未だ青い閃光を防ぎ続けている魔族を代表して、爺やに声を掛けたんだケド……
「ひ、姫様っ……我々は今説明する余裕が……!!」
「あー……まぁそうだよネ」
「い、一応依然として現在の攻撃を防いでいるのみで、第二射というのは……まだ……!!」
あ、でも説明してくれるんだ。さすが爺や。
「大変なのにごめんネ……さてと、エキナいける?」
あたしがずっと隣に居るエキナに振り返ると、覚醒した聖女の輝きを放ちながら笑顔を向けてくれた。
「……はい……!!」
エキナの姿を見て、アデラートの後ろに居る皆が驚いている。
「エキナちゃん、そいつが覚醒した聖女ってやつなのか?」
レオンの奴が感嘆の声を上げると、レインも続いた。
「……これが世界中が求める聖女の輝き……とんでもない魔力ね……」
エキナは皆ににっこりと笑い掛ける。
「ユウ君が私に預けてくれた希望の力です。皆さん後は任せて下さい!」
「……よし。なら200年前にリースがやったやつを教え──」
「大丈夫、分かりますよ。ただ……ルーク、手を握っていてくれますか?」
「……うん。やろう、エキナ!!」
あたしは契約の紋章が浮かぶ左手をエキナに伸ばした。
エキナも自分の右手をあたしに重ねると、その暖かさが全身に伝わってくる。
凄く、懐かしい……
「ルーク……?泣いてるんですか……?」
「! ううん、何でもない。ごめん大丈夫っ!」
無意識の内に流れていた涙を拭い、あたしは空を見上げた。
何でもないと言いつつ、どうしてもこう思ってしまう。
……リースと、こうして一緒に歩いて行きたかったなぁ。
あたしのそんな気持ちは、どうやらエキナに駄々漏れだったみたい。
「ルーク、そんな寂しそうな顔しないで下さい。今は、私が隣に居ます。そしてこれからもずっとです!」
「……ヒヒ、分かってる。エキナ!さっさと終わらせてあたし達の世界に帰ろう!!」
「はいっ!!」
さぁ、決着をつけよう──
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