第31話 完全なる消滅
「むっ、急に醸し出す魔力が少し変わったな……貴様、覚えがあるぞ……」
「ヒヒ、覚えていなくて結構。リースとマーネの仇を討つ──」
あたしはありったけの魔力を左手に集めた。
以前体の交換を行った際に、デメリットは解ったからネ。
体の器官にダメージは無く、あたしがユウの力を使えるという、最上の結果に終わって良かったヨ。
体が縮んだのは生命力まで使ったからだと思うし、それならあたしが皇帝をやっつけてやる!!
ユウの体に眠る精霊の力をも引き出すヨ──
「真祖のや──」
あたしが極大の魔力で皇帝に攻撃しようとした時だった。
(待ってくれルーク!!)
「!」
……起きたの、ユウ。
「……ナニ、今いい所なんだケド……」
魔力を解き放つ寸前で、呼び止められちゃったから、あたしはいつでも撃てるように構えながら、ユウの返事を待った。
(お前は皇帝を討つつもりかも知れんが、体は高坂なんだよ!そんな攻撃をしたら──)
「うん。死んじゃうだろうネ」
そんな事、言われなくても分かってる。
(……頼む……待ってくれ。せめてもう一度高坂と話を──)
……ここまでユウが切羽詰まってお願いしてくるとはネ。
だけど、あたしの答えは決まってる。
「待たないヨ。あの女は危険すぎる。このまま消し飛ばすのが皆の為だもん」
ユウには一生怨まれるかも知れない。
それでもあの女は、今ここで消しておくべきだと直感が告げている。
(……ルーク、たぶんお前の判断の方が正しいんだと思う。だから──)
「!? うそっ、もう体の支配権を取り戻──」
あたしは強制的に、ユウとの精神交換を中断させれた。
ゆっくりと、意識がユウの血の中へと戻っていく。
※
「ふぅ……っと、これなんとかしないとな」
ルークから体の支配権を奪い返した後、俺は左手に集まった魔力を、バニシングで消し去った。
そして同時に真上を見上げ、高坂の体を操る皇帝がじっと俺を見下ろしている。
「なんなんだ貴様。さっきからコロコロと雰囲気を変えおって……」
「てめぇには関係ねぇよ。それより待たせたな。さっさと高坂の体を返して貰うぞ!」
「ふむ……あまりにも強大故、月に魔力が満ちるまで10分程掛かるか。よかろう遊んでやろう──」
高坂の体で、皇帝が俺に迫る。
俺はルークと入れ替わっている間、高坂ともう一度話をする方法を考えていた。
話をするまで、誰にも高坂を殺させる訳にはいかない。
俺がルークと強制的に入れ替わる事が出来たのは、魔力の総量が上回っており、支配権を奪い取れたからだ。
だったら高坂も皇帝の魔力を上回れば、あいつを追い出せるんじゃないだろうか。
「……やるしかねぇ!」
「き、貴様……何を!?」
俺は皇帝の背後に回り、高坂の首筋に牙を突き立てた。
「ぐっ!!」
抵抗されるので、無理矢理体を抑え付けて、吸血鬼の負の魔力を注ぎ込んだ。
しかし──
「ふんっ!甘いわ!」
「くそっ……!」
皇帝は首筋を押さえながら、俺の体を振り払う。
「貴様の力を注ぎ込んだ所で、この娘の意識は戻らんぞ」
「うるせぇな…」
さて、どうしようか……
俺は皇帝と数歩程の距離を取る。
すると睨み合う俺達の間に、突然ルークが姿を現した。
同時に、俺の纏っていた魔装も消え、高坂が渡してくれていた制服の感触が戻ってきた。
「ルーク!」
「……ふんっ」
……ご機嫌ナナメだな。まぁしょうがない。
にしてもなんでこいつ出てきて──
──あ。
ルークの顔を見て思い出した。
かつて、皇帝を倒した方法を。
「──目覚めろ、奇跡は俺の中にある!!」
「ユウ!?」
「き、貴様……その輝きは!?」
俺は聖女の力を解放した──
「……皇帝、憶えているか。200年前、先代聖女があんたを封じ込めた技を」
「な、何故貴様が聖女の覚醒した輝きを!?」
「もう一度眠れ、皇帝!!」
地上数百メートルにも及ぶこの上空に、地面から樹木を伸ばす。
それらは高坂の体を捕らえ、いかな皇帝と言えどもこうなれば身動きする事は叶わないだろう。
高坂の額から、ツーっと雫が垂れる。
「おいおい冷や汗かいてるのか?」
「貴様……!」
「わりぃけど、もうあんま時間も無いんでな。さっさと終わらせて貰うぞ──」
このままもう一度、聖樹として高坂ごと封じ込めるのは簡単だ。
でもそれじゃ高坂と大事な話が出来ない。
だから、先代聖女が与えなかった赦しを、皇帝には与えてやることにした。
「皇帝……あんたは200年以上もよく頑張ったよ。高坂の体を乗っ取って何をするつもりだったのか……気にはなるがもう終わりにしようぜ」
「……また我を聖樹へと変えるつもりか。フンッ我は何百年経とうとも──」
「……先代聖女は、お前に死だけは与え無かった。だから俺がお前を解放してやるよ」
「ど、どういう意味だ!?」
俺はルークとの契約の紋章が浮かんでいる右手を、高坂の額に押し当てた。
──真祖の最悪の魔法、その最後の一つ。
紋章を白く輝かせ、この一言をもって魔法を発動させる。
「──ソウル・バニシング」
バニシングの対象を、生物の魂に限定する魔法。
強化版バニシングと言ってもいい。
この魔法によって消された魂は二度と戻る事は無い。
セフィラの残した、セレントの魂のような復活方法も、聖女の蘇生も──そして、輪廻転生も起こり得ない。
──完全なる消滅。
「じゃあな皇帝。俺だけは、あんたの事を憶えててやるよ」
「や、やめっ──」
白く輝く紋章が、高坂の体に浸透していく。
淡く光り出すと、皇帝の魔力が嘘のように薄く消える。
光の粒子は、未だ青く輝く月へと立ち上っていった──
俺が月を見上げていると、ルークが近付いてきた。
彼女は感慨深そうに笑っている。
「ユウ、お疲れ様。……ホント、強くなったネ」
「……皆のおかげさ。ルーク、ゆっくり話してる暇は無いぞ。月が──」
言い掛けた所で、俺達の目の前に転移の魔法陣が浮かび上がった。
それも、高坂を拘束するように絡まった樹木の平たい所に。
精密無比な転移魔法──兄貴だな。
しかし、中から現れたのは──
「ユウ君!ルーク!ご無事ですか!?」
「エ、エキナ?」
意外にも姿を見せたのは高坂と同じ制服を着たエキナだった。
彼女は酷く慌てた様子で、わなわなと喋り出した。
「2人共大変です!!」
「い、いや俺達だって……上見ろよ月が……」
「それは分かってます!!だけどもっと大変なのが!!」
『へ?』
俺とルークが同時に聞き返した。
あの月よりもヤバいのってなんだよ。
その答えはすぐに返ってきた。
「い、隕石です!学園長の予知ではもう間も無く世界中に堕ちて来ます!!」
お読み下さりありがとうございます!
先日投稿した作品が思った以上に伸び、連載用に執筆を行いますので、少し投稿頻度が落ちるかしれません…
40話までには完結となりますので、存外普通に投稿出来るかもですが笑
ぜひ最後までよろしくお願い致しますm(_ _)m
 




