第30話 未来を
「高坂、世界を元に戻してくれ!」
「……まずは服を着なさいよ……」
おっとそうだった。
俺はメリア先輩が得意だった、魔力による物質錬成で服を作る。
イメージするのはテキトーな白Tシャツと、ジーパン──
「あ、やっぱり少し待ちなさい。こっちがいいわ」
「これって…」
高校生の制服……?
よく見ると、高坂も制服を着ている。
これ、この世界に来てすぐにルークとエキナが着ていたやつかな……?
「貴方、覚えていないの?自分が卒業した高校の制服だと言うのに」
「あー!そう言えばこんな感じだっけ。もう10年くらい前だから忘れてたわ」
「そうね……貴方からすればそうだったわね」
少ししんみりしてしまったな。
とにもかくにも、俺は高坂から制服を受け取り、コスプレよろしく、高校生のあの頃の姿になった。
「何か……すげぇ恥ずかしいな」
「そう?私はそんなにだけれど」
「って待て、こんなゆっくり話してる場合じゃないんだ!マーネを止めてくれ!」
「……なんなの。あの吸血姫を助けたいから?」
「そうだよ!」
俺がきっぱりと断言すると、高坂は顔を歪ませた。
「あのさ、滝川」
「え、な、なんだよ」
「私は吸血姫はおろか、この世界にやって来てまだ生きてる連中皆殺すつもりなのよ?」
「は?」
平然と、それが自然であるかのように、高坂は告げた。
「私と滝川、2人だけの世界を創る。それが私の目的なの」
「ど……うして……」
「私が貴方を愛しているから。そう言えば納得してくれる?」
納得……出来る訳ねぇだろ!!
俺は高坂の肩を掴んで、顔を近付けた。
「無理だよ……!そんな事をしようとしているお前に、俺が着いて行くと思うのか……!?」
「……来ないでしょうね。貴方は私以外にも大事な人を見付けたから」
「分かってるならルークを──」
どんっ、と高坂は俺を突き飛ばした。
彼女から暗い魔力を感じる。
「……もう手遅れよ」
「どうして……!?」
「貴方、忘れているの?こっちの世界には、まだ月があるわよ」
「!?」
お、おい……嘘だろ……!?
「かつて大精霊が作らせた魔法だったわね。200年前、皇帝は自らの敵を標的にこの魔法を使ったわ。私は──」
高坂が右手を上に向けると、聖樹が作り出したこの空間がひび割れていく。
「──私は滝川、貴方以外の全ての生物にこの魔法を使うわ」
「止めろ高坂──」
俺が高坂に伸ばした手は届かず、聖樹に溜め込まれた魔力を解き放ってしまう。
真っ白だった空間は、やがて黒く光を失っていく。
そして聖樹の魔力が月へと注がれたと思った時だった。
──この時を待っておったぞ。
「えっ!?」
「誰だ!?」
聞き覚えの無い声が空間の中に響いた。
高坂も本気で驚いた顔をしている。
「……あぁっ……!!」
「高坂!?」
不意に高坂が悲鳴を上げる。
彼女の体をよく見ると、聖樹の枝が手足を縛っている。
なんなんだよ……!?
「……滝川……逃げ……て、皇帝だわ……!!」
「皇帝って、ルークが200年前に戦った……!?」
「わ、私の中に……入って──」
「高坂、何が起こってるんだ!?」
俺の問い掛けに、高坂は答える事なく絶叫を上げた。
「……あぁあああーーー!!!」
高坂は枝に掴まれたまま、上へ上へと消えて行く。
「一体なんなんだ……!?」
俺はどうすることも出来ず、その場で聖樹の先を見上げる事しか出来なかった。
すると──
「ユウーーー!!」
「ルーク!」
遥か下から魔装を纏ったルークが、翼をはためかせて俺の元へやって来た。
「お前……大丈夫なのか……?」
「大丈夫ダヨ。もうマーネとはお別れしたもん。今のあたしにはユウしか見えないヨ」
「そ、そうか」
「え?なに?嫉妬してるの?可愛いーー!!」
俺をおちょくるように、頭を撫でながら抱き付いてくるルーク。
……く、くそぅ、なまじ反論は出来ん……
でも今はそれよりもこの後どうなるかの方が気掛かりだ。
「ルーク、皇帝って覚えてるか?」
「! リースが樹に変えたあいつじゃ……」
「そうだ。そいつが恐らくだが、高坂に憑り付いたかも知れない……」
「どういうこと!?」
ルークに説明しようとした時、聖樹内部のこの場所が唸りを上げた。
この場所もあちこちにヒビが入り、限界を迎えてるんだ。
このまま崩壊すると、ルークと離れ離れになってしまうかも知れない。
俺は紋章の浮かんでいる右手を、ルークへと伸ばした。
「ルーク!俺の血の中に!!」
「わ、分かった!!」
一瞬でルークの体は煙のように消え、俺の血の中に戻って来た。
そして同時にいよいよこの空間に限界が訪れる──
「……くっ……!」
空間の歪みに体が軋み、思わず目を閉じてしまった。
何かが弾けるような音が聞こえ、次に目を開けた時、聖樹の姿は無く俺の視界には、青く光る月が浮かんでいた。
「おいおい……勘弁してくれよ……!」
辺り一帯は真夜中だが、京都タワーや周りの建物が、仄かに夜の闇を照らしている。
しかし一際輝くのは遥か上空に浮かぶ、忌々しいあの青い月だ。
見上げていると、うっすらと影がちらついているのに気付いた。
「高坂……?」
俺も京都タワーの天辺の辺りに居るが、それよりもずっと遠くに、高坂の姿が見える。
(! ユウ!今すぐ魔装を!!)
「分かった!!」
ルークの指示通り、俺は魔装を纏った。
その瞬間、俺の腹部に強烈な魔力による砲撃が行われた。
「ぐっ……!!」
(大丈夫!?)
「あ、あぁ……魔装が無かったら貫かれてたよ。サンキュールーク……」
(良かった……)
俺にこんな攻撃を仕掛けて来た奴が誰か、見なくても分かった。
遥か上空から落ちてきた砲撃、犯人は高坂だ。
いや、高坂の中にいる──
「その魔力……覚えがあるな。それにその顔……生きておったのか。英雄マーネよ」
天空から青い光を浴びながら、かつてルークやマーネを殺した皇帝が近付いて来た。
……すげぇよこいつ。見たこと無いくらい濃い魔力を持っていやがる。
「……俺はマーネじゃねぇよ。て言うかいいから高坂を返せよ……!」
睨み付けると、高坂の体を操る皇帝は、にやっと笑う。
「ならばやはりかの英雄は死んだのか……ククク……いい気味だ。聖女も死んだのだろう……全ては我の計画通り運んだのだな!」
高笑いをし始めた皇帝は、高坂が絶対にしないポーズで喜んでいる。
具体的には、でこに手を当てて、口を全開に。
うぜぇなと思っていると、ルークが話し掛けてくる。
(ユウ、少し変わって)
変わるってなに?
そう思ったがとにかくルークの好きなようにしてやろうか。
「何だか分からんが、いいぞ──」
瞬間、俺は意識を失った。
唯一耳に聞こえたのは、ルークの勝ち誇ったような言葉だった。
「残念だったネ。あんたの思い通りにはなってないヨ──新たな英雄と聖女が未来を創ってるんだから!!」
お読み下さりありがとうございます!
また短編を書きましたので、お時間あればぜひご一読頂けたら幸いです!
タイトルが、
『義理の妹で童貞を卒業した事が親バレしたので、緊急家族会議の結果……義理の姉の家に追い出されました。』
となっております!




