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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
異世界吸血鬼は世界欺く初恋少女を紡ぎたい。

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第28話 今度こそ、あたしを幸せにしてくれる?


 俺は数度羽ばたくだけで、京都タワーの隣に高く聳える聖樹にまでたどり着いた。

 皆がホテルからこちらまで来てしまう前に、さっさと聖樹に触れる事にした。

 恐らくこの太い幹に触れるだけで、聖樹内部に侵入することが出来る筈だ。


 兄貴も同じ事を考えて聖樹に触れたんだろうが、高坂に弾かれてしまったんだろうな。


「高坂……今行くぞ……!」


 俺は上空6メートル程の所から、聖樹に両手を触れた。

 瞬間、樹の幹が白く輝き出し、俺の体を包み込むように枝が伸びて来た。


 俺の体に絡み付く枝達は、やがて体全てを覆い、視界は真っ暗になった。

 

 ──やはり、高坂は俺を招いている。


 疑心は確信へと変わり、俺は聖樹の中へと吸い込まれていった。



「ここは……」


 次に目を開けた時、俺の視界に広がるのは真っ白な空間だった。


 いつだったか……そう、ルークと契約を結んだ時、あの時に訪れた何もない空間と少し似ている。


 ここに高坂が居るのだろうか……

 少なくともここが聖樹の中である事に間違いは無いだろうけど……


 俺は思い切って大声で呼んでみることにした。


「高坂ーーーー!!居るのかーーーー!?返事をしてくれーーー!!」


 返事は無かった。


 何かが襲い掛かってくる事も無いし、これじゃ出来る事が何もないぞ……


「どうなってんだよ……」


 仕方ないし、少々歩き回るか。


 歩いている間も、高坂への呼び掛けも続けてみる。


「高坂ーー!俺だ!居るんだろう!?」


 依然として返事は無い。


 だが、一つの変化が訪れる。


「あれ……?」


 気が付くと、遠くの方に誰かが十字架に磔にされているのが視界に入った。


「誰だ!?」


 俺はゆっくりとそいつに近付いた。

 そして、顔がはっきり見える程に近付くと、そこに居るのが誰か、すぐに分かってしまった。


「俺か……?」


 全裸で十字架に磔にされているのは、前世の俺と同じ顔をした男だった。


 ──その時だ。


「マーネ!!!」

「え!?」


 俺の背後から、薄紫の髪を靡かせた美少女が、前世の俺の前へと駆け出している。


「ルーク!?どうしてお前……!?」


 だがどうやら俺の言葉は彼女には届いていないみたいだ。

 ルークは、太古の英雄──マーネの体を十字架から降ろし、その亡骸に抱き付いた。


「マーネ……!!やっと……やっと会えた……!!」


 ルークは脇目もふらず泣き出していた。


 ……少しそっとしてやるか。

 200年振りの再開な訳だしな。


 その時、前世の自分相手に、少しモヤっとした気持ちを抱えてしまった事に苦笑してしまう。

 ……嫉妬してるんだ。ルークが他の男の為に大粒の涙を流している事に。


 他の男って言い方は正しく無いのかも知れないけど……とにかくモヤモヤする。


「マーネ……マーネ……!うぅ……!!」

「ルーク……」


 俺はしばらくの間、泣き続けるルークの後ろ姿を眺めていた。



「ルーク……大丈夫か?」

「……ぐすっ……うん、ごめんネ……」


 ようやくルークは落ち着き始めた。

 マーネの亡骸に、俺が着ていた上着のジャケットを被せる。

 背中をさすってやりながら、俺はルークに何でここに居るのかを訊ねた。


「いや、いいんだ。それより、お前なんでここに……?」

「……どうせ、ユウの事だし一人でどっか行っちゃうだろーなって思ったから、血の中に戻ってたの」

「なるほど……だからお前も聖樹に入って来れたのか……」


 ……それにしたって行動パターンが読まれすぎじゃないか?

 まぁ目の前に居る、前世の俺のせいなんだろうな。

 

 さて、そもそも何でこの亡骸がここにあるのかも疑問だが、そろそろまた高坂を探さないとな。


「ルーク、お前はここに居るか?」

「……居たいケド、今あたしが一番一緒に居たいのはユウだけダヨ。マーネとはもうお別れはしたし……さっきは取り乱してごめんネ」

「なら、遺体は置いて行くぞ。高坂から後で引き渡して貰えばいいさ」

「……うん……!」


 ──ルーク、置いて行かないでくれ。


「え……!?」

「だ、誰だ!?」


 俺達の頭に突如響いた声……

 俺とよく似ている……


「まさか……!?」


 俺とルークは同時にマーネの遺体を見つめた。

 すると、再び頭の中に声が聞こえてくる。


 ──ずっと一緒だって約束したろ?なぁ、ルーク。


「……止めて……お願い……」

「ルーク!耳を貸すな、何か変だ!!」


 ルークは微かに体を震わせながら、じっと遺体見ている。

 

 まずい……高坂の仕業か……!?


 遺体からの声は続き、次第に光を帯び始めた。


 ──ルーク、こっちに来い。あの時出来なかった結婚式を挙げよう?


「……本当にマーネなの……?……今度こそずっと一緒に居てくれる……?」

「ルーク!!!」


 俺は声まで震わせているルークの肩を掴んで、一歩遺体に近付こうとした彼女を止めた。


「……ユウ……そのまま離さないでネ。あたし、たぶんもう戻れなくなるから……」

「……バカ野郎……!」


 どれだけ大好きだったんだよ……!


 同じ魂の器を持った相手だが、俺にはマーネに勝てない。

 事ルークとの思い出、その深さには隔たりがある。

 だから、俺にはこんな事しか言えない。


「ルーク、前も言ったろ。太古の英雄は死んだんだ、俺がここに居るのがその証明だろ」


 そんな事、ルークだって言われなくたって分かってるだろう。

 でも、今の俺に言える事はこれくらいしか無かった。

 ルークは肩を掴んだままの俺に、振り向く事もせず答えた。


「……分かってるの……頭では分かってるの。でもネ、あたしの魂がまたマーネと一緒に居れるかも知れないって喜んでるの……バカだよネ、だけど……!!」

 

 ルークはまた涙を流し、体全体を激しく震わせ始めた。

 

 そして同時に、光を帯びた遺体が浮き上がり、僅かだが生気を取り戻していく──


「……ルー……ク、さぁ……こっち……に……」

「……マーネ……!!」


 青白い顔のマーネは、ルークに手を伸ばそうとしている。

 ルークもその手を掴もうと、更に一歩踏み出──


「──そこまでだ」


 俺は掴んでいた肩から手を離し、ルークの体全部を抱き締めて、数歩後ろへ飛び退いた。


「ユウ……?」


 涙を隠そうともせずに、俺を見上げるルーク。

 俺は未だルークに手を伸ばそうとしているマーネを睨んだ。


「もうこいつはお前の女じゃねぇよ残念だったな」

「……えっ……!?」

「……返……せ……ルーク……俺の所……おい……で……」


 こいつも大概しつこいな。


 気付けば、俺は今まで口にする事は無かった、ルークへの想いを声に出していた。


「ルークは俺の女だ!他の誰にもやらん!返せだと?ふざけんなよ……いいぜ、お前がほったらかしにした女を、お前の目の前で俺のものにしてやる──」

「ユウ……んっ……!?」


 俺は、マーネの目の前でルークの唇を奪った。

 目を閉じる事はなく、俺とルークは見つめ合ったまま数秒の間キスをしていた。


「……ユウから……初めて……」

「ルークもいい加減目を覚ませ!今お前が愛してる男は誰だ!?」

「ユ、ユウダヨ……!」

「だったらもうマーネの事は忘れろ!好きな女が他の男の事を考えてるのは我慢ならん!!」

「あ、あたしの事……好き……!?」

「好きだよ、大好きだよ!結婚してやるから、もう俺から離れるなよ!!」


 勢い余って、すげぇ恥ずかしい事言った気がするけど、いいさ。これくらい言わなきゃ、ルークはマーネの所に行ってしまう。


 俺がマーネに勝てるとしたら、今この瞬間ルークを幸せにしてやれる、その一点だけだからな。


 目を見開いて固まっているルーク。

 ……何も言ってくれないとフラれたみたいじゃないか。


「……返事は?」

「……本当に結婚してくれる……?子供は2人は欲しいヨ……?浮気はダメダヨ……?あたし、重いヨ……?」


 マーネの遺体がずっと手を伸ばしたまま動かないからって、悠長にしてる場合じゃないんだけどな。

 ……ちゃんと答えてやるか。


「どんなルークでも大好きだよ。安心しろって」

「……なら、最後に聞かせて──」


 俺の腕の中のルークは、一度視線を外した後、涙の筋を光らせて口を開いた。


「──今度こそ、あたしを幸せにしてくれる?」

「当たり前だ。だけどちょっと言い方を変えてもいいか?一緒に、幸せになろうぜ」

「! うん!!大好き、ユウ!!」


 俺達はもう一度、甘く蕩けるようなキスをした。

 それを見て、マーネの遺体はゆっくりと光を失い、今度は暗いオーラを纏い始めた。

 

 俺達の頭にまた声が響く。


 ──どうしてなの、滝川。

お読み下さりありがとうございます!

また次回もよろしくお願い致します!

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