第20話 あの夢と同じ結末は
「どうだ?びっくりしたか?」
3人が俺の輝きを見て呆然としているのを見て、ニシシと笑ってやる。
「とりあえずこれでメリア先輩を生き返らせる事が出来るな」
「! ま、待って!」
俺の言葉を聞いて、焦った様子のルークが目の前に飛び出てきた。
ち、近い……
「確かにそれは200年前のリースと同じ力を感じる……だけど……!」
不安そうなルーク。
恐らく過去、英雄マーネが聖女の奇跡を使って、自分を生き返らせた時の事を言いたいのだろう。
俺がこの力を使ってメリア先輩を生き返らせたら、きっと俺は死ぬ。
あの時の英雄とは違い、不死身の肉体だからやってみないと分からないけど、リスクがあるのは確かだ。
「お前の言いたい事は分かってるさ、たぶん聖女の力を俺では真の意味では使いこなせない。だから──」
俺はエキナの方を見て、優しく微笑んだ。
そしてゆっくりと頭を下げた。
「エキナ、お前にこの力を全て渡す。お願いだ、先輩を……!」
「ユウ君……」
エキナは頭を下げている俺を、しゃがみこんで下から見上げた。
「お願いなんてされなくても、大丈夫ですよ。私だってもう一度メリアさんに会って、お礼を言いたいですから」
「……ありがとう……!」
思わず溢れそうになった涙を抑えて、俺は頭を上げた。
覚醒した聖女の力を全てエキナに渡す為に──
「すぐにお願いしたい!エキナ、構わないか?」
「は、はい!どんとこいです!!」
俺はエキナの手を取り、この黄金の輝きを体内から取り出すイメージでエキナへと──
「──待ちなさい」
「……な、なんだよ高坂」
不意に高坂が俺とエキナの間に割って入った。
彼女はとても不満気な顔をしている。
「それは後よ。今するなら滝川、貴方の手伝いはしないわよ」
「……何で駄目なんだ……!」
俺は目前に迫った大事な人との再開を邪魔されて、少々気が立っていた。
思わず、魔力が荒ぶってしまう。
床にはヒビが入り、教会の天辺に位置する部屋の窓が割れたせいで、激しい風が吹き込んでくる。
「高坂……確かにお前の手伝いは必要だが、最悪無くても俺は目的を遂げられるんだぞ……!」
「この私にそんな事言うなんて、本当よっぽど大事な人なのね……忌々しい……」
「茶化すな……俺は──」
「それでも駄目よ。どうしてもと言うなら、私は今ここで自殺するわ」
「!!」
……どうしてそこまで……!!
何か理由があるのか……?
だが仕方無い、そこまで言われては俺も引き下がるしかない。
「……分かったよ。なら先に俺のもう一つの目的を済ませよう」
「ユウ君の目的……そうです!どうして黙って出ていったんですか!!」
「うっ……」
「あたしも、出来れば話して欲しいなユウ……」
「……言うよ……」
俺は一旦聖女の力の解放を止め、エキナとルーク、2人の猛攻を受ける事にしたのだった。
※
聖女の力を体内に戻したユウは、「気分を変えたいから外へ行こう」と言った。
あたし達3人は大人しくユウに付いて行き、大きな聖樹の根元まで移動した。
……否が応でも200年前を思い出してしまうヨ。
あたしはブンブンと首を振って、嫌な思い出を振り払う。
ユウの話に集中しないとネ。
ユウはあたし達それぞれの目を見て話し始めた。
「俺の目的……それは過去へ戻る事だ」
『!?』
あたしとエキナはユウの言葉に驚きを示したケド、この高坂って女は何の反応も示さない。
……手伝うとか言ってたしネ、知ってたんだろうネ。
横目でこの嫌な女を見ていると、ユウは続きを話し始めた。
「……俺は過去へと戻り、英雄マーネが死んだその日にルーク、お前と会うつもりだ」
「……何でそんなことを……?」
「200年も俺を待たなくていい、そう伝える為だ」
「……どういう意味」
「お前は200年もの時間を俺の為に費やしてくれた。その恩返しだよ」
「い、いや気持ちは嬉しいケド、それじゃあ──」
そう、あたしがユウを探すのを諦めたらあたし達は出会わないんじゃ……
それに第一どうやって過去へ戻るつもり?
世界を渡る魔法は作れたケド、時間を遡る魔法だけはあたしにも開発出来なかったのに……
ユウはあたしの言葉の続きに気付いたのか、首を横に振りながらあたしの考えを否定した。
「俺達は出会うよ、必ずだ。200年後の12月31日に俺を迎えに来てくれ、そう伝えるただそれだけで、お前は孤児院の家族達と幸せな時間を送れるだろ?」
「そう……だけど……」
確かに、200年間ずっとあたしは一人で旅を続けてきた……
その時間を、僅かでもあの子達と過ごせるなんて、どれだけ幸せな贈り物だろうか……でも──
「時間を遡るなんて危険を犯してまでやる事なの!?失敗したらどうなるか分からないのに!」
「大丈夫だよ、時間を遡るのは俺の体じゃない」
「ど、どういう事……?」
手伝うって言ってたから、まさか高坂が……?
でもあたしの考えは、またしてもユウの続きの言葉が否定した。
「俺の前世の肉体……200年前の俺の肉体に精神を移すんだ」
「マーネに……!?」
ユウはそのまま聖樹の太い幹に触れ、ニヤっと笑った。
「さらに、過去へ戻るのに必要な莫大な魔力はこの聖樹を使わせて貰う。死んだ後の空っぽの俺じゃないと出来ないから、あの出来事を無かった事にするのは無理だけどな……」
確かに、時間移動で起こり得る危険は死体であるマーネが引き受けてくれるし、精神移動もあたしとユウでも出来た、同一人物ならリスク無く出来るかも知れない。
でも、何でだろ……さっきのユウの言葉、全部を言ってくれたと思えない……
エキナも同じ様に思ったのか、ユウに詰め寄った。
「ユウ君今のお話、リスクに見合ったリターンがあるとは思えません。過去はどうあれ、ルークは今幸せですし……何かまだ隠してますね?」
「……」
ユウは何も答えなかった。
沈黙は肯定だネ。
あたしもエキナと共にユウの隣へ詰め寄る。
「ねぇユウ……また何か無茶をしようとしてるよネ?お願い、もう止めて。少しはあたしの言う事を聞いて……!」
「……ふぅ、悪いがこれと先輩の蘇生、この2つだけは例えお前ら2人であっても邪魔はさせない……!」
ユウは先程の聖女の力を解放させて、あたし達にその激しい余波を浴びせてきた。
「ユウ……!」
「どうしてなのですかユウ君!理由さえ教えてくれたら私達だって……!」
「……」
ユウは俯いてその表情を隠した。
「ユウ、過去で何をするつもり……?まさか、死ぬような事しないよネ……?」
「……」
ユウはずっと何も言わない。
嫌だ……そんな沈黙要らない……
「なんで……!なんで何も言ってくれないの……!」
思わず涙が溢れてきてしまう。
あれ、この光景は覚えがある……いつか、夢で見た事がある気がする。
そうだ、この後あたしはお別れを言われる。
あの夢では、そのまま彼は居なくなってしまった。
──ヤダ。あの夢と同じ結末は絶対迎えない。
「……ごめんなルーク。ここで──」
あたしは背を向けるユウの腕を掴んだ。
「ダメ。今度は失敗しない!」
「ルーク……」
「もしも、これだけ止めてもまだ過去へ戻るって言うなら──」
聖女の黄金の輝きを放つユウに対抗して、あたしは魔装を身に纏う。
魔力を込めた翼を広げると、その余波でユウやエキナ達の髪が激しく靡く。
すると、あたしの魔力に呼応してか、光の粒子が目の前で集まっていた。
段々と型どっていくそれは、かつての英雄の奇跡が顕現する予兆だった。
(もう一人の貴方を止めて、マーネ……!!)
光り輝くマーネの剣を手に取ったあたしは、その切っ先をユウに向けた。
「ユウ……!体をバラバラにしたって絶対に止めてやるんだから……!!」
「ルーク……!!」
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