第21話 剣撃
「ルーク、ユウ君……!!」
俺とルークの対立を見て、エキナが心配そうにしている。
まさかここまでルークが反対してくるとは……!
……いや、俺の考えが甘かったんだ。
何も言わずにこの2人が、俺が死ぬかも知れないような事を黙認するはず無かったんだよ。
かと言って、伝えた所で結果は変わらないのも事実だ。
なら──
「ルーク……今の俺は強いぞ……?」
「元はと言えば、半分はあたしの力でしょ。精霊の力や聖女の力をいくら使おうが、今負ける訳にはいかないヨ……!」
俺とルークは、3歩程距離を取った状態で互いの魔力をぶつけ合っている。
擦れる様に衝突を繰り返す俺達の魔力は、空気の揺れを起こし、紫色のスパークが弾け始めていた。
──本気なんだな、ルーク。
俺は見守ってくれているエキナと高坂の方を見た。
「エキナ、高坂、手を出すなよ」
「……分かりました」
「……勝手にしなさい。バカ……」
心配するような視線を向けてくれた後、2人は教会の出入口へ向かい、俺達を見守る事にしてくれた。
さて、後は目の前に居る大事な女の子をどう捩じ伏せるか、だな……
ルークが剣を使うなら俺も──
「その魔力での物質錬成……メリアの得意技だっけ?」
「! 知ってたのか」
「エキナを助ける時、ずっと見てたからネ。でも残念、それじゃあたしには勝てないヨ」
「やってみれば分かるさ……!」
俺とルークは、スパークの一番激しいタイミングで同時に地面を蹴った。
俺は魔力で造った長剣を、ルークは英雄の剣を、お互いの刃が喰い合うようにぶつけ合った。
魔力を浸透させた互いの剣は、先程と同じ紫色の火花を散らしている。
つばぜり合いはすぐに終わり、剣の腹を滑らせるようにルークが柄を狙ってきた。
「ぐっ……!」
「ヒヒ、よく剣を落とさなかったネ……!」
剣を落とすまいと、ぐっと握ったのは良かったが、叩き付けられるような斬撃で膝をついてしまった。
ルークの大振りの上段切りを見ているだけじゃ、やられる──
「おぉっ……!!」
本気で俺の四肢を切り落とすつもりの、ルークの一撃が振り下ろされる。
俺は斬撃を受けるまでのコンマ数秒、時間が引き延ばされるような感覚に襲われる。
気が付くと、メリア先輩の力を借りて造った剣が、俺の腕を引っ張るようにルークの剣の前で火花を散らしていた。
「やるネ、ユウ……!」
「俺だけの力じゃないさ。そらよ!!」
俺はルークの一撃を剣の腹で受けたまま、なぎ払う事で退けた。
数歩後ろへ下がったルークは、一度呼吸を整える。
「ふぅ。まだまだイケるよネ、ユウ」
「おぅ……!!」
「せいっ!!」
再び俺達は剣撃を交わした──
正直、剣と剣での腕はあまり変わらない。
俺はこの世界に来てから、兄貴に叩き込まれたけだが。
そしてルークは、そもそも剣を使って戦って来なかった。
おかげで悠久の時を生きてきたルークに引けを取らないが……
「お前……あらゆる分野でセンスありすぎるだろ!」
「ユウにこれを言うのは初めてだネ。ヒヒ、年季が違うヨ!!」
「くそっ……!」
ルークは一撃一撃を振るう度に、その鋭さを増していく。
俺の攻撃を凌ぎながら、華麗に繰り出す斬撃は、僅かだが確実に、俺との実力に開きをもたらしていた。
ルークの先程よりも数段早い、俺の右肩を狙って振り落とされる鋭い斬撃を、剣の腹で受けた。
すると、英雄の剣の重い攻撃に耐えられず、中間からポッキリと、朽ち折れてしまった。
瞬間、英雄の剣は俺の左腕を捉える──
「……ルーク」
「……なに」
ルークの攻撃は俺が剣を持つ腕とは反対、左腕を確かに捉えている。
──薄皮を切り、僅かに血を滲ませる程度に。
「何で止めた?」
「……あー……あたし、やっぱりダメみたい。ユウを斬るなんて出来そうも無いや。さっきは本気でやるつもりだったんだけどネ……」
「……ルーク……」
今にも泣きそうな顔をして、俺に微笑んだ彼女は、諦めたように英雄の剣を地面へ突き刺した。
「……ユウを斬れないなら、あたしの負けだネ……いいよ過去へ行って来なよ」
「いいのか……?」
「エキナを説得出来るならネ。あとそうだ、もう一つ条件」
「何だ?」
ルークはすとん、と地面へ座り込んだ。
顔を傾けて、俺の顔を覗き込む。
「もしも、ユウが死んだらあたしもすぐに死んでやるから。もう二度と輪廻転生は待たない」
「……っ……!」
「どうせ死んでもマーネと同じ様に──とか考えてたんでしょ。そうはさせない」
……本当、参ったよ。
さすが、俺の相棒だな。
「紋章を見れば生きてるかは分かるからネ。死ぬ時は一緒、今度こそ約束を守って貰うヨ」
「……エキナに頼んで生き返らせるように頼むか」
「残念、エキナも必ずユウの後を追うよ。ユウの命は一つじゃないっていい加減分かった?」
ルークは本気で悲しそうな顔で俺を睨んでいる。
俺だって死にたくは無いけど、どうなるか分からんからなぁ……
「そう言えば、結局何をするつもりだったの?」
……まぁここまで来て隠す事も無いか。
「さっき言ったのも嘘じゃ無いぞ?だけど俺がやりたかったのは……」
俺はルークから少し視線を外して、聖樹を見上げた。
「この聖樹を消そうと思ってさ」
「聖樹を……?それがどうして死ぬかも知れないの……?」
「こいつが無くなれば、俺がタイムリープをする動力が無くなるって事だ。俺の魔力で代用するつもりだったけど、それじゃ何が起こるか分からないだろ?」
ついでに言えば、俺がタイムリープした歴史が、俺が過去に居る時点で無くなるかもしれない。
とにかく何が起こか分からない、ただそれに尽きるんだ。
「どうして……そこまでして……」
「元々聖国へ来たのはメリア先輩の為と、この国にあるだろう莫大な力を壊す為だったんだ」
聖国には常にルークを殺し得る武器が製造されてたからな。
何か物凄い動力源があると思っていた。
高坂の話を聞いて確信を持った俺は、聖樹を破壊するには、ルークの話に出てきた過去へ戻りそこで聖樹となる皇帝の成れの果てを破壊するしかないと踏んだ。
現在のここまで膨れ上がった魔力の塊を破壊したらどうなるか、分かったもんじゃないからな。
ルークに俺の考えを伝えると、彼女は「結局……」と続けた。
「ユウは何でそこまでして聖樹を破壊したいの?」
「お前の為だよ」
「え?」
こいつ、意外と察しが悪いよな。
人の事言えないけどさ。
「こいつが無くなれば、俺達を苦しめた天の矛やらは生まれないだろ?エキナを奪う事も出来ないだろうし、お前を脅かす物も全部無くなる」
だって、聖国の武器は聖樹の力を使って出来たんだから。
「ほら、説明は終わりだ。行ってくるから、エキナにも伝えといてくれ」
「あ、こら自分の口で言いなさ──」
「もういいかしら?それじゃ滝川始めるわよ」
「わぁ!?あんた、いっつもいきなり現れて……」
いきなり俺達の方へやって来た高坂に、俺も少々面食らったが、いいタイミングだ。
遅れてエキナが小走りでやって来るのが見えるが、また説明してたら時間が掛かるからな。
──悪いなエキナ。
「高坂、やってくれ」
「えぇ──」
高坂が聖樹へ手を伸ばし、その太い幹に触れた。
すると、聖樹は淡く輝きだす。
樹の頂点まで、一直線に光の筋が走ると、俺の体から光の粒子が溢れだした。
まるで樹に同調するかの如く、意識が薄れていく。
──これが精神が体から離れる感覚なのか。
過去へ戻り、必ず俺はまたここに戻ってくるぞ。
体の感覚が無くなっていく途中、ふと高坂の方を見ると、彼女はニヤリと笑っていた。
まだ離れていなかった聴覚が、高坂の言葉を捉える──
「ようやくこの時が来た──」
「……高……坂……?」
意識を手放しそうになりながら、不審な高坂を見つめたが、最早手遅れだった。
俺が最期に聞き取れた言葉はこうだ。
「さぁ、世界を欺け──」
俺は──俺達は聖樹の輝きに魅せられ、この世界から遠く離れていく──
次に目覚めた時、俺は懐かしい光景を目撃する事となる。
「……嘘だろ……?」
季節は冬なのか、かなり寒い。
人はおらず、ブロック塀が立ち並ぶ閑散としたこの道には酷く覚えがある。
呆然と立ち尽くしていると、信号が青に変わり、また赤へと。
パラパラと降る雪は、隣にある地蔵の頭を、僅かに濡らしている。
200年前にこんな景色がある筈が無い。
なのに俺はこの場所を知っている。
混乱する頭でもそれだけは理解出来た。
俺がこの場所に見覚えがあって当然だ。
なぜなら──
「……日本……なのか……!?」
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