第10話 今やらなきゃ
俺達の上空に輝く青い月は、いよいよその恐ろしい魔力を俺達に落とそうとしている。
「ルーク!!ありったけの魔力を!!!」
俺の血の中に戻ったルークに叫ぶと、右手の紋章が光り、それに呼応するかの様に体が破裂しそうな程の魔力が溢れ出した。
(ほら、でも大丈夫なの?ちゃんとコントロール出来る?)
ルークが頭の中に直接語り書けてきた。
一人で喋っている様に見えるかも知れないが、心の中ではなく、直接声に出して答えた。
どうせ俺の行動を怪しむ奴も居ないしな。
「高坂のおかげかな……魔力が全然荒ぶらねぇんだ。精霊と魔族の力を完全に混ぜた、過去最高レベルの一撃にしてやるよ……!」
何故だろう……不思議な程に魔力を上手く使いこなせる気がした。
だから、全身に纏った魔装をも解き、俺とルークに残る全ての力を真祖の槍に込める。
「良しっ、溜まりきった……!!」
(ユウ!来るヨ!!)
待っていたかの様なタイミングで、青い月からスパークが発生し、俺達目掛けて光の筋が浮かび上がる。
それに後追いするかの如く、充填された魔力が解き放たれた。
──絶望が、落ちてくる。
(ユウ!!!)
「……いっっけぇぇえーーー!!!」
俺が上空へと放った一撃は、絶望の閃光とぶつかり合う。
俺はほぼ全ての魔力を使い切ったせいで、立っていられなくなり、2つがぶつかり合う衝撃に備えて、伏せている事しか出来なかった。
セフィラも同様に、地面へと膝を着いたまま目を両腕で覆い、2つの魔力の行く先を見守っている。
「滝川夕……やるじゃないか──」
俺が放った一撃は、徐々にだが青い閃光を押し始め、やがて月へと跳ね返していった。
「いけるっ……!!」
このまま月を破壊すれば、例の二段階目の赤い閃光は来な──
(ユウ、ダメ!避けて!!)
ルークの声に気付いた時には遅かった。
遥か上空に浮かぶ絶望は、青い閃光を放ち終える前に、第二射である赤い閃光を撃ち落として来た。
赤い閃光は、青い閃光を上書きするかの様に地面へと迫る。
真祖の槍も、青い閃光との衝突で磨耗されていた為、すぐ消え去った。
「……ずりぃぞ!……くそっ体が動かねぇ……!!」
俺の体は全ての力を使い果たし、文字通り1ミリも動く事が出来なかった。
ヤバい……このままじゃ血の中に居るルークまで……!!
(ユウ、体借りるヨ──)
「え?」
ルークの声が聞こえた瞬間、俺の意識がプツリと途絶えた。
※
「これがユウの体……っと、興奮してる場合じゃなかった!」
ずっと前から、契約者なら出来るんじゃないかと思ってたんだよネ……体の交換。
ただし、どんなリスクがあるかは分からない。
只でさえ人間と魔族では体の構造が違うのに、この状態で魔力を行使すれば、恐らくどちらかの体の器官に治らないダメージが……あるいは死ぬかも知れない。
まぁどっちにしろ今やらなきゃ死んじゃうんだ。
「せめて死ぬならあたしにしてヨ──ダメ押しの真祖の槍ダヨ!!!」
体内にはもう魔力は残っていない。
だから、あたしの生命エネルギーを燃やす。
不死身のあたしの生命エネルギーだからネ、威力はさっきのにもそう劣らない筈!!
やれやれ……回復するのにどれだけ掛かるか……後でいーーっぱい血を貰わないとネ!
その為にも──
「……お願い……!!」
これでダメならもう出来る事は無い……
あたしの放った極太の一撃は、赤い閃光とぶつかり、その衝撃が大気を揺らしている。
「……おっ……?」
徐々にだけど、赤い閃光を押し返してる押し返している様に見える……
よしっ……これなら……
「……いけ……た……カナ……」
あまりにも力を失い過ぎたあたしは、せっかくのユウの体を堪能する間も無く意識を失った。
※
「月が……無くなっている……?」
俺が意識を取り戻した時、辺り一面は真っ暗になっていた。
普段ならこの暗闇を照らす月が無い事に、異常を覚えた俺が空を見上げると、星が輝くのみで月は完全にその姿を消している。
「一体何が……?」
俺が意識を失っている間に何が……?
さっきからルークに声を掛けているのに返事も無いし。
紋章は残っているから死んじゃいない筈だけど……
それにそうだ、高坂はどこへ!?
俺が一人困惑していると、回復した様子のセフィラがこちらへ近づいて来た。
しかも高坂を抱えているじゃないか。
「……あんたがやったんだろうに。覚えてないのかい?」
「俺が……!?」
「無意識に体が動いたってのかい?愛の力は素晴らしいねぇ」
この状況に疑問はあるが、それよりもまずい事は、セフィラは魔力が戻っている様だが俺は立っているのがやっとだということだ。
詰んだ、かな……
……覚悟を決めよう。
大切な人を守る為にはこうするしかない。
──メリア先輩……すみません。生き返らせる事、出来なかったです……そっちで沢山謝らせて下さい。
「セフィラ……後生の頼みだ。どうかルークを見逃してくれ」
ルークは怒るだろうな……
きっと、200年前の俺も同じ気持ちだったのかも知れない。
「……ほう?代わりにあんたの命を……とでも?」
「そうだ。今の俺でも聖女の力は十分強くなるだろう……お願いだ」
地面へと額を付け、人生で一番真摯に土下座をした。
ルークの為ならこれくらい何でも無いさ。
セフィラの表情は分からないが、少なくとも殺気は感じられない。
頼む……セフィラ……!
彼女が次に発した言葉は──
「──足りないねぇ。これっぽっちもだ。マーネが手にした聖女の力はこんなもんじゃない」
「……セフィラ……!!!」
ギリッ、と奥歯を噛み締めた。
閉じられた両の拳からは血が滲んでいる。
しかし、セフィラは「だが……」と続けた。
「だが……まぁそうさね……あの月を止めれば私の目的を教えてやる約束だったからね……それまではルークの命を取っといてやる。精霊は嘘を付かない種族だ」
「……!」
セフィラはゆっくりと高坂を地面へと寝かし、俺の顔をじっと見た。
高坂の口元の血は止まっており、どうやらセフィラが治療をしてくれていたみたいだ。
一体何故……?まぁいい。セフィラの言葉を待とう。
「私も疲れたからね……そうだ滝川夕、賭けをしようじゃないか」
「賭けだと……?」
セフィラの予想外の提案に、おうむ返しで答える事しか出来なかった。
「あぁそうさ。賭けるのは──ルークの命と私の命。私の話を聞いて、あんたがどちらを生かすか決めな」
「はぁ?それじゃ賭けになって無──」
「いいから黙って聞きな。これはあんたへの試練の続きさ」
「……分かった。乗ってやる……」
「いい顔だ。それじゃちょいと長くなるよ──」
セフィラは語り始めた。
この世界の真実とやらを。
そして、ルークの出生の秘密を──
お読み下さりありがとうございます!
また次回もよろしくお願い致します!




