第9話 俺は本当に
「高坂、どうしてお前が……!?」
ルークが「誰……また浮気相手……?」と、俺を冷たく睨んでいるが今は無視だ。
高坂も俺を睨むと、すぐさま俺の手を取った。
「聖女が待ってるわ。早くあいつを片付けるわよ」
「……お前を喚んだのはエキナか!!」
あれ、ならどうしてエキナが居ないんだ?
いやまぁその方が安全だしいいんだけどさ。
「あんた……女皇じゃないかい。何をしにきた?」
「私の客人がいつまで経っても帰って来ないから迎えに来てあげたのよ」
「……相変わらず女に囲まれてるねぇ……マーネ」
「おい、余計な事を言うな。それと俺は滝川夕だ」
2人の視線が更にきつくなっただろうが。
「ハァ……その女の事は後で聞くとして、ユウどうするの?」
「そうね、私は別に聞く事は無いけれど」
「あぁん!?」
「なによ……!」
やめて!俺の両隣でやり合わないで!!
「あんたら、緊張感ってものが無いねぇ。死んでも知らないよ──」
ほら!セフィラに余裕を与えちゃったじゃん!!
しかも、あいつ上空へ手を上げて何を……?
「ユウ……!あれ、200年前に見た奴だ──」
「なに……?」
遥か上空、更にその上、月が青く輝いている。
「かつてルーク、あんたを貫いた二段構えの最悪の兵器……私が"聖職者達"を操って造らせた不死殺しの一撃。その味を覚えているかい?」
「待って……操ってってどういう事……?」
「言葉の通りさ。ルーク、元々あんたを殺せる武器を造るのが私の作った組織、"聖職者達"の目的なのさ──」
やっぱりな……
"聖職者達"という異常者の集団、聖国という聖女の為にあるかのような国。
そしてその近くに拠点を置く大精霊セフィラ。
繋がっていて当然だったんだ。
さすがにルークを殺すのが目的だったとは思わなかったけど……
「あんたはこの世界に現れた突然変異みたいな存在だった……不死身の魔族だなんて、世界の秩序を乱す存在は許容出来なかった」
「だったら……」
淡々と語るセフィラに、ルークは涙を流しながら叫んだ。
「だったら何で200年前、あたしを助けたの!!セフィラがくれた防御フィールドのおかげでこうして生きてるのに!!」
「……私はあんたと接触し、利用できると思った。あんたの溢れ出る程の力を聖女に取り込めば、私の目的は達せられると……!」
それだ。ずっと俺はそれが聞きたかった。
ルークには悪いが間を割らせて貰うぞ。
「セフィラ、あんたの目的は何なんだ……!?」
「私の目的かい?そうさね──」
セフィラは答える前に、月に向けて強烈な魔力を送り込んだ。
「ハァ……ハァ……私のありったけの魔力を込めた……かつての皇帝が生贄を使った、あれ以上の威力さ。これを防げたら教えてやるよ……!」
「くそっ……!!」
ほぼ全ての魔力を注いだのだろう。
セフィラはぐったりと地面に膝を着いた。
しかし今、セフィラを攻撃する余裕は無い。
「ユウ!真祖の槍で何とかならない!?」
「……多少抵抗は出来るだろうが……」
どんどん輝きを増す、遥か上空に浮かぶ絶望は、刻一刻と猶予が無くなっている事を報せている。
焦る俺を見て、高坂が口を開く。
「滝川、聖女の力は使えないの?」
「……俺がコントロール出来るのは精霊の力までだ。聖女の黄金の輝きはまだ……」
「そう……仕方ないわね──」
「ちょ、あんた何を──あーーーーー!!!!」
高坂は、唐突にその柔らかい唇を押し付けて来た。
更に、俺の口に甘美な味わいが広がる。
喉に流し込まれる高坂の血に、俺の視界が紅く染まっていく。
「ちょ、こら!!離れなさい!!!」
ルークが無理矢理俺の後頭部を引っ張って、高坂の唇から距離を取らせた。
駄目だ……全然足りねぇぞ……!
「もうっ!!あれだけ浮気はダメだって言ったのに──」
「ルーク!!」
「は、はい!?」
俺は背後で倒れているルークに覆い被さった。
悪いが今はもう血の事しか考えられない──
「え、ちょ……うそでしょ?そんな強引に……!」
ルークの首筋辺りの服ずらし、乱暴に白い皮膚を食い破る。
「痛っ……!こら……まだ血も出始めて無いのに、吸う……なっ!!」
強烈な喉の渇きを、ルークの甘い吐息が一層に掻き立てる。
無理矢理に血を吸いだそうとすると、後ろから女王様の体重を感じた。
「ちょっと、この私を差し置いて何を始めようしているの。滝川、私の方を飲みなさい」
「あっ……ダメ!ユウ、あたしのにしなさい!!」
抱き付く高坂の口元から垂れた血が、ルークの首筋へ落ち始めた。
俺の眼球がその瞬間をゆっくりと捉えていた。
──ドクン、と心臓が跳ねる。
2人の血が混ざり合った所に舌を這わせてみると、今までにない濃い血液の甘さを感じた。
「もっとだ……!!」
『え??』
俺は後ろを向き、高坂の唇を不意に奪う。
「……んっ……!?」
「こら、ユウ!!」
未だ溢れていた血を口に含み、続いてすぐにルークの首筋に噛み付いた。
「あっ!滝川何で……!」
「ちょっ……またいきなりっ……!」
俺の口の中で、2人血が混ざり合ったのを確認してから喉の流し込む。
「……これはやべぇ……!」
ようやく吸血鬼の体が満足したのか、徐々に理性取り戻す事出来た。
しかし、時は既に取り返しの付かない方向へと転がっていたみたいだ。
「ユウ……覚悟出来てるネ……?」
「滝川……私の血だけじゃ満足出来ないとは……少し教育が必要かしら……?」
俺は2人からそっと視線を逸らした……
そんな俺を見て、高坂はため息をつきながらも、上空に浮かぶ月を指差した。
「まぁいいわ。ケガも治って魔力も回復したでしょう。あれ、何とかしなさい」
「お前、その為に……?」
確かに。先程跳ね返ってきた真祖の槍で負った傷は全て塞がり、体には魔力も満ち溢れている。
しかし……
「それでもあれは……」
「あら。誰の血を吸ったと思っている……の……」
「高坂!?」
いきなりバタリ、と倒れた高坂は未だに口元から血を流し続けていた。
「お前、舌を噛み切ったのか!?」
「2回目なのにやり過ぎちゃったわ……ほら、早く終わらせないと、私……死んじゃうわよ……」
「バカ野郎……!!」
高坂は青くなった顔で俺に微笑み掛けた。
あいつのあの顔を見るのは、もう二度とごめんだと思った筈なのに──
しかし、後悔してる時間は無い。
「ルーク、力を貸してくれ!俺の血の中に!!」
「まったく……そうやってまた他の女の為に無茶するんだから……」
「お前を助ける為でもあるんだ!あの攻撃はお前を必ず殺してしまう!!」
「フンッ。仕方無いご主人様なんだから。んっ!」
ルークは仏頂面だが、俺に左手を差し出してきた。
お互いの契約の紋章が浮かんだ手が重なるように。
「これで満足か?」
「ヒヒ……今は、ネ」
ルークと繋いだ手は温かく、俺の心拍数を上げていく。
凄く安心する。ドキドキする。あぁ……俺は本当に……本当にルークの事が好きなんだな。
早く全部片付けて、今まで言った事が無かった、この気持ちを伝えてやりたい。
だから今は、俺はルークにこう言うのだった。
「さっさと終わらせるぞ、ルーク」
「了解、あたしの英雄」
いたずらにぎゅっと握ると、ルークは赤くなった頬を隠す事も無く、笑顔で俺を見つめながら血の中へ消えていった──
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