第8話 もう二度と
「ユウ……!」
「ユウ君、どうして……!?」
エキナとルークは、俺のいきなりの登場に困惑している。
まぁそりゃそうか……2人に何も言わず居なくなった人間が、突然現れたんだから。
でも、今は話してる場合じゃない。
「2人共、話は後だ。今は──」
「そうだネ。セフィラを何とかしなくちゃ……!」
「あぁ。ルーク、エキナを連れて離れててくれないか?」
万が一にでも2人に危険な目に遭って欲しくない。
俺のそんな気持ちとは裏腹に、ルークは俺の右隣に一歩踏み出した。
「……ハァ?怒るよ?あたしもエキナも引き下がるような玉じゃないし」
「その通りです。私だって闘えます!」
エキナまでもがルークとは反対、俺の左隣に来てしまう。
挟まれる形で2人の決意を聞いてしまっては、これ以上強くは言えなかった。
「ったく……絶対死ぬなよ」
「ヒヒ、ユウが守ってくれるんでしょ?」
「それに、私達の誰かが死ぬ時は皆一緒です!」
そんな未来は絶対に変えてやるけどな。
さて……
「お話は終わりかい?そろそろ死んで貰うよ、ルーク」
「やらせねぇよ」
「天の矛を防いだくらいで調子に乗って貰っては困るね──」
セフィラの凍てつく様な魔力が、急速に辺り一面に広がっていく。
「滝川夕、それにエキナ。あんたらは死なれたら困るからね。ここから出ていって貰おう」
「なっ!?」
「きゃっ!!」
俺とエキナの足下に突然、転移魔方陣が出現する。
「ま、まずい離れろエキナ!!」
「ユウく──」
俺は咄嗟に飛び退いたが、ワンテンポ遅れたエキナはそのまま虚空へと消えていった。
「残念、聖女だけかい」
「エキナをどこへやった!!」
「何の心配も要らないよ。教会にある一番高い部屋に送っただけさ」
そこって……?
喉まで出掛かった言葉を、ルークが先に口にした。
「リースが居た場所……?どういうつもりセフィラ!」
「他意は無いよ。ただ、200年前を思い出すだろう?ルーク」
「……今はあの時とは全然違う!」
「まぁ細かい差違はあるけどね。でも歴史繰り返す。あんたはまた誰も救えない──今度は自分自身も!」
俺を無視してルークに突撃していくセフィラ。
完全に意識は俺から離れ、その殺意はルーク一人に注がれている。
本気で俺の目の前でルークを殺すつもりか……
もう二度と、大事な人を失いたくない。
そして俺も死んではいけない。
もう二度と、ルークを絶望させてはならない。
今度こそ失敗はしない──
「──解放しろ、奇跡の全てが俺にある」
精霊化、それもルークと得た力である魔装をも併せた、神にも匹敵する力。
魔族と精霊の力を混ぜ合わせたこの力なら、セフィラをも凌駕できる筈だ──
「滝川夕……ここまでとはね……!!」
ルークへと襲い掛かろうとしていたセフィラは、急ブレーキを掛けるように止まった。
俺の膨れ上がった魔力の余波で、薄暗かったこの雑木林が朝方のように明るくなったからだ。
「まだ聖女の力を解放とまではいかないけどな」
「マーネめ……つくづく余計な事をしてくれたよ……!」
「よそ見厳禁、ダヨ!!」
ルーク一点に注がれていた意識を、俺に割き始めた為、飛び掛かっていたルークの一撃を脇腹に喰らっていた。
「ちぃッ……!」
「おいおい、俺の事も忘れるなよ──」
一瞬で決めてやる。
以前はルークのほぼ全ての魔力を受けとる事で発動した。
だが、今は精霊の力をも利用出来る。
今回はかなりの余力を残して使える──
「真祖の槍……!!!」
極太の魔力は辺り一面の自然を焼き尽くしながら、セフィラへと迫った。
これは直撃する。
そう直感した時だった。
「──反転」
俺の一撃は、セフィラへと到達する直前で、その攻撃を俺の方へと逆流させた。
「なっ!?」
襲い掛かる自らが放った魔力は、俺の体を焼き尽くす──
「ユウ!!くそ……直接攻撃するしか──」
「ルーク、さよならだよ」
「セフィラ!?」
一瞬でセフィラはルークの背後へと移動しており、気付いた時には遅かった。
「天の矛……!?」
「喰らいな──」
まずい……!
あれを心臓にでも喰らえば、いくらルークでも……!!
業火に身を焦がしながらも、俺は真祖の魔力を解き放つ。
「バニシング!!」
セフィラの袖口から覗いた、小さな天の矛に狙いを定める。
天の矛は一瞬で塵と消え、ルークに迫る脅威は取り除かれた。
「ありがと──ユウ!!」
背後に居たセフィラに回し蹴りを浴びせ、一旦距離を取った後、俺の隣へルークがやってくる。
ルークがパチン、と指を鳴らすと俺を焼いていた炎は消え去り、黒焦げの俺はルークを見た。
「サンキュ。なぁルーク……あいつ倒せそうか?」
「んー……どうだろネ……殺すのは厳しいカモ」
「いや、それは大丈──」
俺とルークが話をしていた時だ。
突如俺達とセフィラの間に転移の魔方陣が浮かび上がった。
「一体なんだい!次から次へと!!」
イラつくセフィラは魔方陣へと魔力を集中させ始めた。
「俺達だって誰かは知らんが……やらせねぇよ!」
魔方陣は浮かび上がっているが、まだ誰かが出てくる気配は無い。
命中するとは思わないが、絶対にセフィラの邪魔をしなければならない。
──使うぞ。兄貴!!
俺は自らの魔力を親指へ集め、聖者の弾丸を指で弾く事で射出した。
「ユウそれ……!!」
ルークも一目で俺が持っている物に気付き目を丸くしている。
自分で俺に渡していた事、忘れてるのか?
まぁそれは今エキナが持っているが……っと、そんなことより──
「当たらなくてもいい……せめて……!!」
魔方陣から出てくる誰かを守ってやってくれ!!
拳銃で放つよりも早い速度で、セフィラへと向かう聖者の弾丸に気付き、以前ルークが見せた○Tフィールドの様な防御フィールドを出現させた。
「何故あんたがこれを……ちっ、おかげで転移が完了しちまった」
「まぁ……上出来か……」
無事に転移の魔方陣から姿を現したのは──
「滝川、いつまで遊んでいるの?早く帰るわよ」
「高坂!?」
──冷たく俺を睨む女王様がそこに居た。
お読み下さりありがとうございます!
短編にはなりますが、私の可愛い霞兄さんというお話をアップしました!
もしお時間あればそちらも読んで頂けますと幸いですm(_ _)m




