第3話 追憶③
「き、貴様!どこから現れた!?」
「あんたらの使った転移魔法の残滓を辿って来たんだよ。こう見えてもSランク冒険者なんでね」
「え、Sだと……!?」
そう、マーネが出会った時に言っていた結構有名ってのは本当だったんだ。
結構どころじゃない、エスタード王国で知らない人はいない、そんな人物だった。
なのに、人助けの為にどんなクエストでも引き受ける超がつくお人好し。
最高にカッコいいあたしの初恋の人。
マーネは愛用の剣を肩に担いで、魔族全員に啖呵を切る。
「あそこに座ってる奴、うちのペットなんだ。丁重に返して貰おうか?文句がある奴はかかってこい」
この発言に広間がザワつく。
「ひ、姫様をペットだと……!?」
「今すぐ捻り潰してやれ!!」
「殺せば魔力が回復出来るぞ!かかれ!!」
何千にもなる魔族がマーネを取り囲んだ。
無茶だ……!
いくらマーネが強いからってあんな数……!!
「やれやれ、仕方ねぇな──」
マーネは剣を高く掲げた。
そして、淡く光を帯び始める。
「──目覚めろ、奇跡は剣の中にある」
『なっ……!?』
淡かった光は強烈な眩さに変わり、マーネを中心に光の円柱が浮かび上がった。
光の円柱は、マーネを取り囲む魔族を包み込み、玉座のあたし以外の全ての魔族を弾け飛ばした。
「す、凄い……!」
この場にはあたしに匹敵する力を持つ魔族だっているのに、あの光を浴びて立っていられたのは爺やと、僅か2名の魔族だけだった。
「き、貴様ぁ……..!!」
「へぇ、やるじゃん爺さん。それとお前らも」
マーネは数千の魔族の中で、さっきの光を耐えきった魔族2人を見た。
赤ヅノと青ヅノを一本ずつ生やした、双子の魔族。
赤い方がヴァン、青い方がヴァズ。2人とも女の子だ。
ヴァンがヴァズを支えながらマーネを睨む。
「……人間め……よくも皆を……」
「誰も死んでねーよ。ルークの仲間だからな」
「! 私達は敵だぞ……?」
「俺、そーゆーの興味ねーからな。ただし──」
マーネはあたしの元まで歩き、玉座の手前まで来た後、魔族全員に言い聞かせるように叫ぶ。
「俺の家族に手を出す奴には容赦しねぇ!ルークだって例外じゃねぇ……次は無いからな!!!」
涙が出る程嬉しかった。
マーネがあたしを家族だって言ってくれたんダヨ。
ずっと一人で、道具の様に思われてきたあたしを……!!
マーネは玉座に座るあたしの前で膝を着き、右手を差し出した。
「お待たせしましたお姫様」
「……お…おそ……い。バカ……!」
「悪かったな。お前がもし嫌だったらとか考えちゃって」
「そんな訳無い……!あたしも……あそこに帰りたい……!!」
ぼろぼろに泣いているあたしは、言いたい事をぽつぽつとしか言えず、見かねたマーネがあたしを抱き抱えた。
お姫さま抱っこという奴だ。
「マ、マーネ!?」
「爺さん!こいつは頂いてくぞ!それと戦争はちょっと待て!魔族の問題は俺達が解決してやるからよ!」
「ふんっ……勝手にしろ。どうせこの有り様じゃ最早全員戦意などある筈もない。たった一人の人間にこのザマじゃからな……」
マーネはあたしを抱いたまま、大広間の天井を突き破り屋上へ出た。
「魔族領って綺麗だなぁ」
「魔族は自然を大切にする種族だからネ。それより……」
「ん?」
ヤ、ヤバいまともにマーネの顔を見ていられない……
夕日は赤いあたしの顔を隠してくれているだろうか。
あたしはどうにか続きを口にする。
「何で来てくれたの……?」
マーネは夕日を眺めたまま答える。
「さっきも言ったろ?お前は俺達の家族だからだよ」
「こ、この前はいつまでいるつもりだって言ったのに!」
「いやお前にも家族とかいるだろうし、家出もほどほどになってつもりだったんだよ」
「いないヨそんなの……」
「そうだってのをリース達から聞いたんだ。だから迎えに来た。お前がこっちに居たいなら別だけど……」
変な所でヘタレな男だ。
こんな、まるでお姫様を拐うような事されてトキメカない女の子はいないっての。
まぁ、あたしお姫様なんだけど。
それにあたしの答えはもう決まってる。
「マーネと一緒に帰りたい。皆がいるあそこに!」
「そうか。なら来て良かったよ」
「あ、でもネ」
「え、なに?」
一つ言っとかなきゃネ。
これはすっごく大事なことだから!
「ちゃんと責任、取ってよネ。あたしを家族にしてくれるんでしょ?」
「いぃっ!?それってつまり……」
「あたしを世界一幸せなお嫁さんにして!!」
「お前、俺の事好きだったの!?」
こ、こいつ……さすがのあたしもがっかりダヨ……
はぁー……何でこんな鈍感好きになっちゃったんだろ。
人が恥ずかしいの我慢して告白したのに、あたふたして全然返事返さないし……
でも、あたしの事を好きなのは顔を見たら分かっちゃった。
だって──
「マーネ、顔真っ赤だよ?」
「ゆ、夕日のせいだよ」
「ヒヒ、あたしに好かれて嬉しいんだ~?」
マーネは抱いたままのあたしを見ず、拗ねた様にぼそっと呟く。
「……好きでもねぇ女を迎えに来たりしねぇっての……」
「え……?」
不意打ちで予想外のことを言われたせいで、あたしまで顔を真っ赤にしちゃった。
もう……本当バカなんだから……
「分かったよ、はっきり言うよ。言やぁいいんだろ!」
マーネはあたしを下ろし、両肩に手を置いた。
そして、真っ直ぐにあたしを見て告白をしてくれる。
「ルーク、お前が好きだ。あの孤児院で暮らす事になるし、俺も冒険者を辞めたくねぇ……そ、それでもいいなら……」
「いいなら??」
あたしが続きを促すと、マーネはいよいよ耳まで赤くする。
それでも、きちんと最後まで言葉にしてくれた。
「……け、結婚しよう」
あたしの胸中には、いきなり結婚!?とか、普通お付き合いからでしょ!?とか、色々渦巻いていたんダヨ?
でも気が付くとあたしの頬を、一筋の涙が通った後、こくんと頷いていた。
「──はい」
断言できる。
今があたしの人生で一番幸せな瞬間だと。
※
そしてあれから2年が過ぎた。
今あたしの腕の中にはマーネとの子供が──
──いたりはしない。
と、言うかえっちもしてない。
どころかキスすらしてない。
さらに結婚式だってしていない。
さすがのあたしも我慢の限界ダヨ……!!
丁度お昼ご飯を食べ終わり、孤児院の子供達がそぞろとそれぞれの時間を過ごし出した。
あたしはマーネを捕まえる。
「ちょっと、マーネさん?お話があります」
「え、なに?俺また王宮に呼ばれたから行かないと」
「……昨日はクエスト……!一昨日は人助け……!!」
「ちょ、ルークさん……?魔力を膨れさせるのやめて……?」
わなわなと魔力が立ち込めてきたあたしはその勢いで髪も逆立ち始める。
怒髪天を衝くとはまさにこの事だ。
まぁ、確かに今のマーネは忙しいヨ?
魔族領から帰った後世界中に向けて、
「魔族の頂点、ルーク・エリザヴェートはこのマーネ様が貰ったぁ!全人類諸君、魔族との争いはこれで終わりだ!!」
そういった発表を行った為、今やマーネは英雄扱いだ。
おかげでこの2年間、魔族との調停やら冒険者稼業やらで、休む暇がほとんど無かった。
だからって……普通新妻をほったらかしにする?
あたしがわがままを言う権利、少しはあるよネ?
「マーネ、あたしの事好き?ちゃんと愛してる?」
「い、いきなり何だよ。あ、愛してるって……」
「……オレンジジュースを飲みながら言われてもネェ……」
ジト目で睨むと、ようやくあたしが言いたい事を察したのか、姿勢を正して真剣な表情を作った。
「ルーク、俺はお前の事を愛してる。一時だって離れたくない」
「……この2年、離れてばっかだったヨネ?」
「うっ、でもそれも仕方ない事だったんだ。魔族との戦争を止めさせる為には……」
分かってるケド!
あたしの同族だから気を遣ってくれてたんでしょ!
でもそれとこれとは別なの!!
そういう所をこの男は分かってないんだから。
「ハァ……じゃあその問題が解決したらあたしと一時も離れないんだネ?」
「お、おう!……クエストとかはあるけど……」
「なに?今何か言った?」
「いえ!何でも御座いません!!」
ったく。あたしだって本当に四六時中一緒に居れるとは思ってないヨ。
それでもそういう気持ちだっていっつも言ってくれたら良かったのに。
ほーんと乙女心を分かってないバカなんだから。
マーネは一体どうやって解決するつもりなのかをあたしに聞いてきた。
「ヒヒ、凄い魔法を開発したの!」
「……一応、どんな魔法なのか聞いておこうか……」
不安そうな顔をしているマーネに、あたしは胸を張って答えてあげる。
「その名も、契約の儀!!」
──思えば、ここから世界は大きく動き出していった。
お読み下さりありがとうございます!
それと、誤字報告を下さった方本当にありがとうございますm(_ _)m
誤字だらけの情けない作者ですがぜひこれからも宜しくお願い致します!




