第4話 追憶④
「マーネ、準備はいい?」
あたしとマーネは、2年前出会った桜の木の下に来ていた。
新開発の魔法を実行するにあたって、色々話した結果思い出の場所で契約をする事にしたんだ。
当然、やり方と必要な手順はもう説明済みダヨ。まぁマーネにして貰う事は無いんだけども。
なんだか若干マーネの顔色が悪いのが気になるネ……
「あぁ、ちょっとドキドキするけどな……!」
「あたしが開発した魔法に不安があるのー!?」
「いや、不安だらけなんだけど……」
「はぁーー!?ひどくない!?」
こいつぅ……これで魔族との争いが終わるかも知れないってのに。
「いつもどれだけ迷惑を掛けられてると!?でもお前の魔法でなら死んでも構わないさ」
急にそーいう事言うの止めてっての!!
顔が熱くなる……
「も、もう……バカ」
「拗ねるなよ。ほら、そろそろ始めようぜ!」
ムゥ、なんだか納得いかない。
2年間もほったらかしにされてたけど、ちゃんと契約をしてあげるってのに……
「まだ謝って貰ってないもん!そんなんじゃあたしの真名は教えられないな~?」
少し意地悪を言ってやった。へへん。
マーネは少し慌てて、頬を掻いた。
「わ、悪かったってば」
困った顔をした彼の顔も愛おしい。
あーあ、あたしをこんなにダメな女にして……どーなってもしーらないよ。
あたしがニッ、と笑ったのを見て安心したのか、マーネは右手を差し出した。
「さぁルーク──契約しよう。お前の真名を教えてくれ」
差し出された右手に左手を重ねて、マーネに魔族にとって命と同じくらい大事な真名を告げる。
「もーしょうがないんだから。あたしの真名はルミナスって言うの。ど?綺麗な名前でしょ!」
「ルミナスか、これ程お前にピッタリな名前はねぇとすら思うな」
ヒヒ、あたしもそう思う!
マーネに真名も伝えた事だし、これでいよいよ準備は整った。
「よっし、じゃあいくよマーネ!」
「あぁ、どんとこい!!」
あたしは目を閉じて集中する。
「魔術式──契約の儀!!」
瞬間、あたし達の中心から半径3メートル程の陣が浮かび上がる。
桜色の魔方陣にはあたしの魔力が結晶となってキラキラと舞っている。
「綺麗だ……」
マーネは、魔法陣が浮かんだ余波で少し花弁を散らした桜が、あたし達を優しく包んでいる光景に目を奪われているようだ。
あたしから見ても、この光景は本当に綺麗としか言い様が無い程だった。
でも、やることはやらないとネ。
「契約者の真名マーネ、従者の真名はルミナス!!!」
魔法陣は光の帯となり、あたしの左手とマーネの右手の甲に、その輝きを収めていく。
やがて輝きは紋章へと形を変え、契約が無事終了したことを教えてくれた。
「お、終わりなのか……?」
「うん!これでおっけー!どう?あたしとの魔力の繋がりを感じるでしょ!?」
「あ、あぁ……凄まじいなこれは……」
あたしの力をその身で感じて驚いているマーネ。
どんなもんだい恐れいったか!!
「なぁこれで何が変わるんだ?」
「説明してあげましょう!!」
気分がいいので鼻高々に、解説してあげる事にした。
「まずね、これであたしとマーネの魔力は深く繋がったの。だから、お互いの魔力を常にあげたり貰ったりできるの!」
「えっ、それならもう魔族が人間を襲う必要が無くなるんじゃ……!」
「そうだネ。でもみんなしてくれるかなぁ」
「んーー……契約したと見せ掛けて油断した所を──ってのもあるかもだしなぁ」
へぇ結構考えてたんだネ。
その心配は要らないんだけども。
「大丈夫ダヨ!契約してる同士で相手を殺したら殺した方も死ぬから!」
「す、凄まじい拘束力だな……」
ヒヒ、だからこの契約の悪用はほぼ不可能なんだよ。
ただ──
「一つだけ問題なのは、主従の主が契約をしたら魂ごと体がバーンってなっちゃうんだよネ」
「え、てことは俺の方を主人にしたのか?」
「と言うか、魔族は主人になれないの。魔力を供給して貰う立場だから、縛り的に魔族の方がどうしても弱いんだよネ」
「へぇ……」
一通り説明を終えたあたしは、浮かび上がった紋章を見てうっとりしている。
「ヒヒ、これがマーネとの繋がりの証かぁ……」
「これで俺達は一蓮托生みたいなもんか。健やかなる時も死ぬる時も一緒って奴か?」
え、いいじゃんそれすっごくロマンチック!
「なら、約束ダヨ!何をする時も一緒!当然死ぬ時だって一緒!!」
「あの、俺人間なんだけど?」
「すぐにでも吸血鬼にしてあげるってば!」
マーネは少し悩んだ後、首を横に振った。
「今は人間の方が都合がいいかな?人類と魔族の橋渡しをしてぇし」
「ヒヒ、ならマーネが死にそうな時不死身にしてあげるヨ!」
「何て嫌な提案なんだ……でもそうだな約束しよう──」
この約束が長い間、本当に気が遠くなる程長い時間、あたしを苦しめる事となるのを今はまだ知らない。
「──俺達は同じ時間を生きて、同じ時に死ぬ」
「うん!勝手に死んだらダメだからネ!」
「そー簡単には俺は死なねぇよ」
「嘘付いたら絶対許さないから」
マーネは笑ってあたしを抱きしめる。
本当ならここでキスくらいするものだろうに、このヘタレはそこまでしてくれない。
まぁゆっくり待ってあげるヨ。
時間はいくらでもあるんだから。
だから、からかうくらいは許して欲しい。
「ヘタレ……普通ここは誓いのキスでしょ?」
「キッ……!?」
「ヒヒ、可愛いーよマーネ♡」
「ったく……」
頭を掻いてあたしから離れたマーネは、頬を染めて少しだけあたしに振り向く。
「ほら……そろそろ帰るぞ」
「うんっ!!」
そしてそこから一年。
本当に幸せな毎日だった。
輝くような黄金の日々は、その一日一日があたしにとって宝物で、絶対生涯忘れる事は無い。
あたしが開発した魔法は、マーネが王国に伝えると瞬く間に世界中に広まって行った。
魔族と人類は争う必要が無くなり、お互いに共存が出来る様になったおかげで、魔族と人類の共同国家が出来上がる程に世界は平和になったんだ。
そしてその最大の功労者である英雄マーネと、彼の契約者ことあたし、吸血姫ルーク・エリザヴェートの名を知らない者は、世界中見回しても一人も存在しない、そんな風になっちゃったんダヨ。
そのせいで──
「マーネ様ぁー!ぜひ一目お会いしたいですー!!」
「ちょ、あんたみたいな女がマーネ様の名前を呼ぶな!!」
「ルーク姫、ここに俺の想いの全てを置いていきます」
孤児院の周りには連日人だかりが出来るようになり、はっきり言って軽いパニック状態だ。
それと、変な物置いていくな!!
「マーネ兄さん……怖いです……」
「ごめんなリース。いやぁさすがにこう毎日だと困ったな……」
出会った頃から3年が経ち、聖女の力を持っているかも知れないと聞いていたリースは、すっかり大人の女になっていた。
な、なんであんなに胸が大きくなるんだろ……
スタイル抜群で正直羨ましい……
っと、そうじゃないや、いい加減あいつらをどうにかしないとネ。
「マーネ、そろそろあたしも我慢の限界なんだケド……」
「……よし。みんな大きくなったしな、この場所も手狭になってきたことだし引っ越すか!!」
「え」
マーネの言葉を聞いた瞬間、あたしの胸中にズキンとした痛みが走った。
理由は分かってる。
この場所には思い出がいっぱい──本当に、生まれてから一番の幸せが詰まった場所だから。
ここから離れたく無かった。
「ルーク、嫌か……?」
「え、う、ううん……引っ越すのが嫌なんじゃなくて……」
心配そうにあたしの顔を覗き込むマーネ。
ちょ、顔近い……
「……ルーク姉さん、なに赤くなってるんですか」
「リ、リース!別に赤くないって!」
リースはジト目で腰に手を当てている。
出会った頃はあんなに臆病だったのに……
「マーネ兄さんのお嫁さんだからって私の前でイチャイチャはさせませんから」
「イチャイチャなんてしてないもん!……いや本当に……全然してくれないの……」
「……あ……何かすみません……」
謝らないでよ……
結婚しようって言ってから3年間もほったらかしとかあり得なくない?
当の本人は、あたし達の会話なんか聞きもせず、ずっとこの先どうするかを考えている。
──いつものあたし達の光景、そこに突如異物が混じり込む。
「この状況にお悩みとは、ならば今ここでこの辺り一面を吹き飛ばしてあげましょう!」
あたし達は背後に現れた謎の人物に振り返る。
しかしその顔を見る暇も無く、マーネが叫ぶ。
「伏せろーーーー!!!!」
マーネの叫びとほぼ同時に凄まじい威力の爆発が起こった。
あたしは咄嗟に近くに居たリースの上に被さる。
「いたっ!?」
爆風と共に、何かがあたしの頭部にあたり、僅か数秒だけどあたしは意識を失ってしまう。
次に目を開けた時、部屋の壁から外が見える大穴が空いてるだけで、あの凄まじい爆発からは考えられない少ない被害で済んでいた。
粉塵も収まり、爆発の中心と思われる場所を見ると──
「……無事か……ルーク、リース……」
信じられない程大量の血を流したマーネが倒れていた。
「マーネ!!」
「マーネ兄さん!!」
すぐに彼の近くに行こうと、床に手を着いたら何か大きな塊にぶつかった。
「……これは……!?」
きっとあたしの頭部に当たったのもこれだ。
意識を失う程に大きな物体──マーネの下半身がここまで吹き飛んでいた。
「あの爆発をここまで防ぐとはさすが英雄ですね」
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべた男がマーネの横に立っている。
「……こ……殺してやる……!!!」
──ここがあたし達と"聖職者達"との因縁の始まりだ。
お読み下さりありがとうございます!
本日いつもと更新時間が違いすみませんm(_ _)m
明日はいつも通り25時更新です!




