第15 何度も
「エキナ……これはちょっとまずいかも……」
「そうですね……!」
王宮から出たあたし達が目の当たりにしたのは、100隻は越える戦艦の数々だった。
既に市街の爆撃は始まり、それを守る為に多くの兵が戦いを始めている。
「ルーク、ユウ君はどこに……!?」
「エスパら辺の地下っぽかったんだけど、さすがにピンポイントでは分からなかった……」
「エスタードパークですか……」
「走ったら20分くらいで行けるよネ。お願いエキナ……!」
「うっ、走ったら……頑張ります!!」
エキナと分かれようとした時、流れ弾が飛んできた。
「やらせないよ……!!」
あたしは防御フィールドを展開し、エキナを守る。
「ル、ルークありがとうございます……!」
「エキナ、手を出して」
「え?は、はい」
あたしはエキナに手を重ね、魔力を注ぎ込む。
「熱い……!」
「2,3度は爆撃とかの攻撃からエキナの身を守ってくれるはず!ユウを見付けてあげて!」
「任せて下さい!!」
「それじゃあまた後で!」
「はい!」
エキナと分かれてあたしは戦艦が向かって来ている、市街地へ向かった。
王国からも戦艦が出て来ており、その先頭に躍り出ている戦艦から強烈な魔力を感じる。
「……あの魔力、アデラート!」
アデラートの乗り込む戦艦から恐ろしい数の爆撃が開始され、10隻程が市街地へ落ちていく。
「あ、あのバカ!まだ人がいるのに……!もぅっ……あたしに雑用をさせるつもり!?」
仕方ない……!
「──バニシング!」
あたしが消したいと思う全てを消し去る魔法を唱える。
戦艦10隻を市街地に落ちる寸前に消し去り、それを見た聖国の連中が引き下がっていく。
「よし、これで思う存分やれる──」
あたしは左手の紋章を薄紫に輝かせ、魔装を身に纏う。
翼をはためかせ、引き下がる聖国の戦艦を追った。
どうせお互いの国境付近でやり合う事になるし、今の内に減らせるだけ減らしてやる!!
──ユウ、終わったらちゃんとあたしの話を聞いてよネ。
※
「ユウ君!!どこですか!?」
私は精一杯頑張って30分くらいでエスタードパークに着きました。
ルークの話では地下室という事だったので、地上に居ては仕方ないのですが、地下に続く道が全然見付かりません。
「ユウ君……──!!」
しばらく探し続けた後、私はとうとう見付けてました。
2ヵ月程前に、"聖職者達"と呼ばれるお爺さんに襲われた場所、パークの出入口のゲートの影にハッチがありました。
「ここしかない!」
私が重いハッチの蓋を持ち上げると、そこから血生臭い異臭が立ち込めて来ました。
「……ユウ君、待ってて下さい……!」
私は意を決して中に入ろうとしましたが、そこで銃声が聞こえました。
「!? 今のは……!?」
私が驚いて足を止めた時、後ろから声を掛けられました。
「これはこれは聖女様、こんな所で何を……?」
「あ、貴方は!?」
「ほっほっほ、この老骨を覚えて下さっているのですか誠に恐縮でございます」
丁寧に頭を下げた人物は、つい先程思いだし、現在王宮の牢獄に幽閉されているはずの人物だったのです。
「どうしてここに……!?」
「戦争が始まったので、王宮内部に潜入させている兵に出させて頂いたのですよ。聖女様は?」
「貴方に言う必要はありません……!」
「ほっほっほ。まぁさしずめあの小僧を助けに来たのでしょうなぁ。……聖女様少々手荒になってしまいますぞ……?」
「邪魔しないで下さい!!」
私が精霊セレントちゃんを喚び出そうとすると、背後から近付いていた黒装束の部隊に捕まってしまいました。
「は、離して下さい!!」
「聖女様、失礼ですが、ここで眠っていて貰いますぞ……」
黒装束の一人に注射器で何かの薬品を注入されてしまいました。
ルークの加護もこれには効果がありません。
「……ユ、ウ……君……」
「さて、我々はクイーンを待つとしましょうか」
私の意識はそこでプツリと途切れました。
※
「あら、キングじゃない。あたいを待っててくれたのかい?」
「お久しぶりですね。閣下からの命令でしたので」
「そーゆーことぉ。ま、いいわ戦争が始まったのでしょう?さっさと行きましょお」
「いえ、私はここで聖女様と共に小僧を待ちますよ。失った右腕が痛むんですよ。彼は生きていると」
キングは左手で右腕の付け根を抑え、興奮を抑え込んでいる。
「まぁもう一人の小娘は殺しちゃったけどねぇえ」
「侯爵家の娘でしたか?別に構いませんよ。聖女様もここにいらっしゃる事ですし」
「だぁよね。じゃ、後はよろしく~」
「ほっほっほ、お任せあれ」
クイーンがゲート前を去ってから2時間程経った後、キングはようやく目当ての人物と顔を合わせる事が出来た。
「小僧……随分とあんまりな姿ですなぁ」
「あぁ?見たことある面だな……」
ユウは血塗れのズボンを履いただけで、傷こそ無いが、とてもやつれていた。
抱き抱えたメリアを決して離そうとはせず、キングに恐ろしいまでの殺気を浴びせている。
「ジジイ……何でエキナがそこにいるんだ……?」
「私が捕らえたまでの事ですよ」
「……そうか、まぁいい。お前らは全員殺してやるからもう今更何をされようがどうでもいい……」
「ほっほっほ、あの臆病者の貴様がか!?」
「……先輩、ちょっとだけおろしますね。あいつの血を少しでも先輩に付けたくないですから……」
ユウはそっと地面にメリアを寝かし、濃密な魔力を右の拳に集めた。
以前、キングに突っ込んで行った時とは比べものにならないスピードでキングに迫る。
「消えっ──」
キングはユウを視界に入れること無く地面へと叩き付けられた。
「ガッッッ!!!??」
そら恐ろしい衝撃はエスタードパーク全体を揺らし、キングが倒れた地面には深さ3メートルにもなる穴が地割れを起こしぽっかりと空いている。
「おい、先輩が受けた苦しみはまだまだこんなもんじゃ無いぞ……」
「小……僧……貴様、どうやってこれ程の力を制御──」
ユウはキングの言葉を遮るようにマウントポジションを取り、拳を叩き付けた。
──何度も、何度も。
※
「……ん……」
ユウの拳は一撃毎に地響きを起こし、その衝撃でエキナは目を覚ました。
「ユウ……君……!」
エキナは、意識を取り戻してすぐに地響きがする方へと走り出した。
そこには──
「ユウ君……?」
「エキナ、目を覚ましたんだな。無事で良かった……」
顔の形の原型を留めていないキングが、吐き出せる全ての血を撒き散らして事切れていた。
「ユウ君……その人を殺したんですか……?」
「ん?あぁもう決めたんだ。こいつらは皆殺しにするって。俺から大事なものを奪ったんだ当然の報いだろ?」
ユウはクレーターとなったその場から跳び、エキナの横を通りすぎる。
メリアの遺体を抱き抱え、エキナはそれを見て、その全てを察してしまった。
「ユウ君、メリア先輩は……」
「あぁ、もう動いてくれないんだよ。俺のせいなんだ」
「ち、違います!それにメリア先輩はユウ君に人殺しなんかして欲しくないはずです!」
「……先輩は……」
ユウはメリアを強く抱き締め、声を震わせてエキナに言う。
「先輩は!お前やルークを大切にしろと言ってた!!もう誰も失わない為に俺の敵は全て殺す!!!」
「だめ……ユウ君、……だめです。誰もそんな事、望んでないです……」
エキナは泣きながらユウの前に崩れ落ちた。
それを見てもユウはもう止まらない。もう、止まれない。
「……エキナ、一旦王宮に避難しよう」
「避難した後、ユウ君はどうするつもりですか……?」
「……」
ユウは何も答えなかった。
エキナも聞かなくても分かっていた。
ユウは最後に淡い期待を込めて、エキナに問う。
「……聖女の力で先輩を生き返らせる事は出来るか?」
「……少なくとも今の私では無理です。力が覚醒してもその時にメリア先輩を生き返らせれるか分かりません……」
「そうか……」
ユウはエキナの答えを聞いた後、エキナに背中に捕まるように言った。
「エキナ、飛ばすからしっかり捕まってくれ」
「は、はい……!」
王宮にたどり着いた後、ユウはメリアの両親を探した。
彼女を自分のせいで死なせてしまったと。
そして、彼女の最期の言葉を伝える為に。
お読み下さりありがとうございます!
読切にはなりますが
乙女ゲー世界に転生して30年、公爵令嬢の一人娘ができました。
という作品をアップしました!
お時間あればぜひそちらも楽しんで下さい!
また明日もよろしくお願い致しますm(_ _)m




