第14話 後輩君へ
どうしてこうなった?
俺は世界最強の吸血鬼じゃなかったのか?
何で、人1人も守れないんだ?
あの抑制薬のせいだ。
あれのせいで全く魔力が使えなかった。
あのクイーンとか言う女のせいだ。
あいつが約束を破ったからだ。
──違うだろ。
俺が……俺が弱いからメリア先輩が死んだんだろう!!
ルークの、真祖の力を扱い切れないから守れなかったんだろう!?
「先輩、お願いですから……目を開けて下さい……」
返事は無い。
何度もこうして呼び掛けた。
やがて、俺の心は真っ黒に染まっていく。
そこにはあの女、引いては聖国に対する殺意だけが残った。
俺が心を閉ざし掛けた時、俺の頭の中にイメージが浮かび上がった。
メリア先輩の声が聞こえる。
これは、先輩の血の記憶──
※
後輩君、こんな事に巻き込んでごめんね。って聞こえてないか。
……私の自己満足だけど、言わせてね。
──後輩君へ。
君と出会ったのは、女子トイレだったね。
本当にびっくりしたんだから。
気絶した女の子抱えた男子が女子トイレにいるし。土下座してくるし。
でも、女の子の為に頑張ったんだろうなってすぐ分かったよ。
目付きは悪いけど、優しい目をしていたから。
いいな~、こんな人が彼氏だったらなって聖女ちゃんが羨ましかった。
そして、その聖女ちゃんを助ける為にまさか世界を敵に回してもいいって。
どんだけカッコいいんだよ!
出会ってこんな短い期間でこの私が、魅了の力を持つ私が惚れちゃうなんてびっくりだよ。
聖女ちゃんを助けられて本当に良かったね。
でもね、私はずるい女だからこうも思ってた。
もし、上手くいかなかったら私の事を見てくれるかなって。
まぁ君にはルークちゃんも居るから無理そうだったけどね。
パーティーでの事は本当にごめんなさい。
私の招待状の中に紛れてたの。
パパを殺されたく無かったら君を殺すか、動けなくしろって。
君は死なない、死ねない男の子だって言ってたから、パパを……君の命を利用して助けようとしたの。
ごめんね、背中痛かったよね……
今から私の命で償うから、どうか許して──いや、怒らないでね。
せめて、君が受けた苦痛分くらいは苦しんでから死ぬから……!
──バァァン!!
……痛いね……ごぼっ……君は私の為に、こんなに痛いのを我慢してくれたんだね……
……君は吸血鬼だから……私の血を飲んだら傷も癒えるよね……
あ~でも……私なんかの血を飲むのは嫌かな……?
沢山傷付けて、痛い思いさせちゃったもんね……
……私をいっぱい恨んでね。
……実はちょっと嬉しいの。
……私を恨んでる限り、君の心の中にずっと私がいるって事だから……
……後輩君、キス……するね。
……私の血を手ですくって飲ませるのは難しそうだから……
っ……ん……
……ファーストキスなのに血の味しかしないや。
……そうだ、パパに謝っておいて欲しいの、あと今までありがとうって。ママには……パパと仲良くねって。
……後輩君、どうか復讐してやろうとかは思わないで。
……ルークちゃんや聖女ちゃんを大事にしてあげるんだよ……
そして……少しだけ、私の事を覚えていてくれたら嬉しい……
……君が先輩って呼んでくれるの凄く嬉しかった。ドキドキした。大好きだった……
……あ~まだまだ喋りたいのに……もうダメかも。ごめんね、全然苦しめ無かった……
……後輩君とキスしちゃったんだもん……今この瞬間が人生で一番幸せだったや……
……もしも……もしももう一度会えたら、また私を先輩って呼んでね……約束だよ……
──さよなら、私の後輩君。
※
「──先輩……」
冷たくなったメリア先輩を強く抱き締めた。
「先輩……メリア先輩……!」
何度でも先輩って呼ぶよ、先輩が望んでくれるなら。
だから、お願いします。さよなら何て言わないで下さい……!
「……あぁ……あぁああ!!!」
喉が裂けても、俺は叫び続けた。何度も。
──先輩、と。
……ずっとそうしていると、この地下室のような部屋全体が激しく揺れ始めた。
「……そうだ、戦争……」
あのクイーンと名乗った女が言っていた。
戦争が始まったと。
「……行かないと。ルークやエキナ達を守らないと……」
──守る?メリア先輩一人も守れなかったのに?
「……すみません先輩、俺は……」
──命の価値は平等じゃ無かった。先輩の命と聖国の奴らの命、1ミリも釣り合わない。
「俺は聖国の奴らを許せない……!!」
復讐じゃない。
これは俺が取るべき責任なんだ。
あの時、ルークの言う通り護送船を沈めておけばこうはならなかったかも知れない。
あの船には聖国の中枢を担う人間が多く居たからな。
「先輩が流してくれた血、俺が全部貰っていきます。一滴たりとも無駄にはしません」
床に溜まった血を手ですくい、一口。
吸血衝動は起きなかった。
まるで、メリア先輩が抑え込んでくれているみたいに。
でも、俺の目から溢れる涙は抑えてくれなかった。
「……先輩……先輩……!!!」
俺をからかって楽しんでた彼女はもういない。
思い出は少ないけれど、俺の細胞全部に先輩を染み込ませる様に、流れ出た全ての血を俺の体内に取り込んだ。
「一緒に帰りましょう……先輩のご両親にも伝えなきゃいけない事があるから……」
俺は軽くなったメリア先輩を抱き抱えて部屋を出た。
ここから先、俺は躊躇はしない。
聖国は──"聖職者達"は皆殺しにしてやる。
※
──ユウ達が連れ去られた時、王宮の客間にて。
「何の音!?」
「銃声です!!ルーク、医務室の方です!!」
「……ユウ!!」
ルークとエキナは急いで医務室の方へと走った。
しかし、その道中。
「待ってエキナ……ユウの魔力が感じられないの……」
「えっ!?」
「どれだけ探知を広げてもユウの魔力が無い……まさか死──」
「ルーク!!しっかりして下さい!!」
「……エキナァ、あぁあ……!!」
「泣いてる暇は無いです!今は医務室に急ぎましょう!」
「……うぅ……うん……!」
医務室のドアの前に立ったエキナとルークは、部屋の中に入って絶望に顔を歪ませた。
部屋中に、血が飛び散っているからだ。
スプラッタ映画顔負けの医務室は凄惨と言う他無かった。
「な、何ですかこれ……!?」
「……ユウの血だ……エキナ、ユウが……ユウが!!」
「……嘘ですよね……?嫌、嫌です……ユウ君……!」
2人がその場にしゃがみ込むと、遅れてやって来た警備兵や、ライネルが部屋の前で立ち尽くしていた。
「これは一体……!?」
ライネルは、憔悴しきっているルークとエキナに気付き、事情を聞こうとする。
「君達、一体何があった!?娘は……メリアは!?」
「……分かりません……」
2人の絶望した顔を見てライネルは事態の異常さをとくと感じた。
ライネルは膝をつき、幾ばくかの時間をそうして過ごした。
すると──
「──感じた」
「……ルーク……?」
ルークは一瞬膨れ上がったユウの魔力を見逃さなかった。
そして、そのタイミングでけたたましい音量の警報が鳴り響いた。
ライネルはこの警報の意味を知っている。
「聖国が攻めて来たんだ……!」
「え……もうですか……!?」
エキナは警報を聞きながら、頭が混乱し始めていたが、それでも自分にとっての最優先事項だけは忘れなかった。
「ルーク、感じたというのはユウ君ですか?」
「……うん……!ここからそう離れてない。またすぐ消えちゃったけど……場所はもう覚えた!!」
「行きましょう……!」
「駄目だ!!」
ルークとエキナがユウの魔力を感じ取った場所へ赴こうとした時、ライネルが2人を引き止める。
「すぐにでも戦争が始まる!君達は避難するんだ!」
「確かに危険だネ……エキナ、あたしが聖国を止めとくからユウをお願いしてもいい?」
「分かりました。ルーク、気を付けて!」
「任せて!!」
「き、君達本気かい!?」
ルークとエキナはそれぞれがやるべき事の為に部屋を後にする。
ライネルに一言告げて──
「あたし達にとって危ないとかどうでもいいの」
「そうですね。私達はユウ君が全てですから」
「どうしてそこまで……?」
『大好きだから』
2人は駆け出した。
もう一度愛しい人と会う為に──
お読み下さりありがとうございます。
今回を持って第一部の話数を越えました。
皆様の応援のおかげです本当にありがとうございます!
第二部完結までもう少しですのでお付き合い頂ければ幸いです!




