第13話 信じる事が出来なかった。
「ん……」
「あ、先輩。大丈夫ですか?」
王宮の医務室で目覚めたメリア先輩は、自分の胸部を服を引っ張り、覗き込み驚いている。
「凄い……聖女ちゃんの力ってここまで……!」
「あ、あの先輩、胸見えてるんですけど……」
「……えっち」
「不可抗力でしょう!」
冗談を言える元気があるならもう大丈夫だろう。
俺は王宮で待機しているエキナやルーク、ライネルさんを呼ぶことにした。
「先輩、ちょっと待ってて下さい。皆を呼んでくるんで」
「……ダメ」
「え?何で……?」
「周り、見て……」
俺が後ろを振り向くと、黒装束を纏った不気味な奴が6人、俺とメリア先輩を囲うように立っており、こいつらにはまるで気配が無かった。
「……誰だ、お前ら……!?」
全員が俺達に拳銃を向けて、一人が静かに口を開く。
「我らは聖国の暗殺部隊。その娘を殺されたく無ければ大人しく付いてこい」
「お前らが先輩を撃ったのか……!」
「さすがは聖女様、瀕死の重症からでもお救いになるとは」
「へっ残念だったな。エキナはもうお前らの所には行かせねーよ」
俺がメリア先輩を守る為に会話をしながら魔力を集中していると、俺の背中から急に熱を感じる。
「……本当にごめんなさい……」
「先……輩……なん、で……」
俺はメリア先輩に背中をナイフで刺され、その隙に取り囲んだ6人から集中放火を浴びた。
室内に俺の血が大量に飛び散り、俺は意識を失った。
最後に見た先輩の瞳からは涙が流れていた──
※
「……ここは……」
俺が意識を取り戻したのは、真っ暗な地下室のような場所だった。
「坊や、お目覚めかい?」
「……誰だ、あんた……」
俺の目の前には胸元を大胆にさらけ出した、髪の長い、気色の悪い女がいた。
俺が動こうとするとズボン以外は脱がされ、椅子に体をくくりつけられており、腕は肘置きに、脚は足首を地面に縛られている。
「あーだめだめ動かないでねぇん」
「おい、先輩はどうした!?」
「坊やを刺した奴の心配かい?優しいねぇ」
「事情があったんだろう。無事なのか!?」
「坊やの隣にいるよ」
左を見ると、俺と同じ様に縛られて眠っているメリア先輩が居た。
見たところ怪我は無いようだが……
「お前ら何が目的だ……!?」
「そこの小娘は人質だよ。父親を殺されたく無かったら、真祖の契約者を殺せ、もしくはあたい達の所の連れて来いって伝えたのさ」
「……ふざけんなよ……!!」
「あらやだ、大真面目よ。あたい達は聖女様を奪われたままだもの。侯爵令嬢くらいは頂かないとねぇ!」
こいつ……!!
間違いない。このイカれた感じ、"聖職者達"だ。それもあのジジイと同じレベルの……!
俺の目の前が真っ赤に染まって殺意が沸いて来るのが分かる。
それに気付いたのか、女は俺の目の前に来て、ポケットから何かを取り出した。
「やだ坊や、もう薬が切れてきたのぉ?」
取り出したのは注射器だった。
そして、それを俺の心臓の上に刺した。
「……ぐっ……!!」
「英雄の紋章から抽出した、対真祖用の魔力抑制薬。効くかしらぁ??」
「……くそっ!?」
体から急速に魔力が消えていく……!!
これじゃ脱出できない……!
「さぁて、お喋りはここまで。ここからはあたいの趣味のお時間よぉ!!」
「……何をするつもりだ」
「言わなくても分かるでしょお?」
暗闇に目が慣れ始め、辺りにはペンチ、ノコギリ、薬品の数々、夥しい量の血が付いたそれらは考えるまでもなく──
「──拷問よ♡」
※
「ぐぅ……!!」
「いい!!いいわぁ死なない体って最高!!!」
……あれから、どれ程時間が経っただろうか。
俺の体はクイーンと名乗った女に拷問の数々を受けさせられていた。
何か口を割らせる為じゃない。
拷問をする為に拷問をされている。
まるで終わりの無いマラソンをしている気分だった。
「坊や、もう一回指全部いっちゃおうかぁ!!」
指を切り落とす専用のギロチンを俺の両手両足に用意したクイーンは、容赦なく刃を落とした。
「アァァァアア……!!!!」
「いいわよぉ!!もっといい声を聞かせてぇ!!!」
奴は俺の指を切り落とすと、再生を待つ間に床に転がる俺の指をバケツ入れていく。
もう、100本はあるだろうか。
「坊やぁそろそろ新しい拷問に目覚めましょうか!」
「……ハァ、ハァ……何をするつもりだ……」
「あらぁん。まだ反抗的な目をできるのねぇ」
俺の顔にクイーンの顔が近付く。
そして、尖った爪で俺の右目を潰した。
「ガァアアア……!!」
「あたい、反抗的な目って嫌いなのぉ。だからほじくっちゃうわねぇん」
そして、取り出した右目を床に転がし、靴で踏み潰した。
「……左目も逝っちゃおうねぇ!?」
「……グッッ……!!!」
右目同様に左目をくり抜かれ、遠くに投げられた音が聞こえた。
「あぁあんスッキリ!さぁて、やっとやりたかったことに移れるわぁ」
クイーンの気配が俺から離れた。
どこに行った!?
しかし、すぐに左隣から奴の声が聞こえた。
「小娘、起きなさい」
「え……」
クイーンがメリア先輩を起こすと、メリア先輩はすぐに俺に声を掛けた。
「後輩君……!!ごめんなさい……本当にごめんなさい……!!」
「先輩……泣かないで下さい。俺なら大丈夫です……」
「私のせいで……!ごめんなさい……!!」
姿が見えないが泣いてる事だけは分かった。
俺がメリア先輩を慰めようとしていると、クイーンが遮る。
「あーそーゆーのいいから。ほら小娘、立ちなさい」
ガチャ、とメリア先輩に取り付けられた器具が外される音がした。
「ほら、これを持ちなさい。キャハッ!」
「拳銃……?」
「そうよぉ、リボルバー式で後で一発だけ弾を入れるわぁん」
クイーンはニタニタと、気色悪い声で説明を始めた。
「ゲームよぉ。6発中5発をこの坊やに撃つの。1発はあんたが受けなさい。但し、あんたが外す度に坊やかあんたに拷問を受けて貰うわぁあ。どちらが受けるかは2人で相談しなさい」
クイーンは「最も」と続けた。
「もう随分と精神磨り減らしている坊やがどれだけ耐えられるかは分からないけどねぇ!!」
「先輩……大丈夫。全部俺が受けます。安心して引き金を引いて下さい」
「い、嫌……出来ない。私には出来ないよ!!」
「ん~なら6発撃ち終わった時点であんた達どっちか帰してあげる。これでやる気がでるかしら?」
「……本当だな?」
俺の確認に、このゲームを受ける意志があると感じたのだろう。
クイーンは嬉しそうに奇声を上げた。
「もちろんっ!!!私に見せて頂戴、限界を迎えて信じた相手を裏切る瞬間を!!!」
クイーンは、メリア先輩の持つ拳銃に1発の弾丸を装填した。
そしてリボルバーの銃創をクルクルと回転させる。
「さぁ、小娘が死ぬ確率は6分の1よぉ。坊や、あんたの"底"をあたいに教えて!!!」
──聞き逃すな。弾丸が入った場所の位置を。
俺は吸血鬼として強化された五感を全て聴覚だけに集中させた。
どうせ視覚は無いんだ。
これくらいやってのけろ!!先輩を守るんだ!!
「さ、準備は完了だよ。小娘、自分と坊やどっちを撃つんだい?今回の拷問はそうさねぇ、爪10枚ってところにしとこうか」
見付けた!!
しかも1発目だ。最初にケリが着く!
「先輩、俺です。大丈夫ですから」
「嫌だよ……!!」
「俺は銃弾くらいじゃ死にませんよ。さぁ早く」
「小娘、狙うのは腹だよ。腸を撒き散らすようにねぇ!」
「……ぅう、っ!!」
──バァァン!!
「ぐっっっ……!!」
「後輩君!!!嫌、嫌だよぉ、ごめんなさい……!!」
俺の思った通り、1発目の弾丸入っており、俺の腹部を貫いていった。
もう散々痛め付けられた後だ。
内臓が出ようが、どこの痛みかも分かりゃしない。
「……ごほっ……さぁもう終わったぞ。さっさと先輩を解放しろよ」
「ま、待って!私が残るから!お願い、もう後輩君を離して!」
「あらぁ?あたいは6発撃ち終わった後って言ったわよ?拷問は今回は無しにするけど、あと5回受けて貰わないとぉ!」
「くそが……」
そして、メリア先輩は空の拳銃を4発、連続で俺に向けて撃った。
「じゃ、4回の拷問だけどどっちが受けるのぉん?」
「わ、私が──」
「俺が受ける。さっさとしろ」
「後輩君……お願い。私にさせて……もう君に迷惑を掛けたくないの……」
メリア先輩が膝から崩れ落ちる音が聞こえた。
「そう言ってるけど?」
「俺だ。先輩の言う事は全て無視しろ」
「やるわねぇ坊や!それじゃ遠慮無く!!」
「ダメ!後輩君止めて!!」
「邪魔だよ小娘」
先輩は蹴り飛ばされ、床に這いつくばった。
「それじゃ、さっき出来なかった爪からいきましょうか!!」
クイーンの拷問はそこから体感だが3時間程続いた。
ずっと泣き叫んでいる先輩の声が、段々と俺には聴こえなくなっていった。
※
「さぁて、いよいよ最後だわねぇ」
「……」
俺にはもう声を出す元気すら無かった。
歯や爪は失われ、耳も落とされた。
腕や足は再生する度に切り落とされ、内臓は何度も引き摺り出され、焼かれ、最早俺は吸血鬼の持つ不死性を恨みすらしていた。
とうに自我は消え失せ、俺の意識はたった一つの気持ちが繋ぎ止めている。
──先輩を守るんだ、と。
「さぁて、最後に小娘が受ける1発だけど、残念なお知らせがあるわぁ」
「……」
何も答えずに、俺が聞いていると、クイーンはつまらなさそうに続ける。
「弾丸だけど、実は最初から1発入っていたのぉ。だから小娘とはここでお別れねぇん」
……今何て言った?
もう1発だと?
俺は掠れた声でもう一度確認した。
「……もう1発……だと?嘘を付いたの……か?」
「嘘は付いてないわぁ。別に空の拳銃だとは言ってないし。それに、見えてたら分かることだものぉ」
……待て、なら先輩は分かってて空の4発を俺に?
「……先輩……?」
「クイーン、最期に2人きりして」
「いいわよぉん但し、撃ったかどうかはちゃーんと分かるからねぇ。それに、戦争も始まったみたいだしあたいも行かないと。もう小娘にも用は無いし、坊やとはまた戦場で会えるわねぇ」
もう聖国が攻めて来たのか!?
ルークやエキナ達が心配だが、まずは先輩を……!
「それじゃあねぇ坊や、また戦場で」
「……待て、待て!俺に撃てばいいだろう!」
「約束破る気?どっちにしろ小娘を殺すわよぉ?」
「最初に破ったのはお前だろう!!ふざけんな!!!」
「あ、そう。じゃあ小娘はあたいが殺すわよぉ?」
クイーンが魔力を集中させて攻撃をしようとしたのに気付き、メリア先輩が待ったを掛けた。
「待って!約束なら破らないから!後輩君ももう刺激しないで!」
「駄目だ、先輩──」
「──スリープ」
「……せん……ぱ、い……」
「後輩君、さよなら──」
俺は睡眠魔法を掛けられ、眠ってしまった。
いつもならこれくらいどうって事ないが、今は疲弊しきって、レジスト出来なかった。
最後に聞こえたメリア先輩の声はとても優しくて、慈愛に満ちていた──
※
目覚めた時、俺の口元には血が付き、甘美な味が広がっていた。
傷は完全に塞がり、眼球も元に戻っていた。
しかし、そんな事はどうでもいい。
「先輩!先ぱ──」
俺を縛る器具は外され、椅子から立つと床にはぬるっとした感触があった。
ぴちゃぴちゃと、血溜まりの上を数歩進む。
それは俺の口元に付いた血と同じ匂いで、俺が座った椅子の隣に倒れた人影から流れ出ている物だと解った。
「メリア……先輩……?」
俺に少しでも多く自分の血を飲ませる為だろう、腹部を撃ち抜いた跡がある。
床の大量の血はそれがメリア先輩の冷たくなった体から流れた出た物だと語っていた。
俺が受けた拷問なんかよりずっと苦しんだ筈だ。
「起きて……下さい……先輩……!」
彼女は返事をしない。そして動かない。
抱き抱えても嫌がってくれない。
「先輩……!!あぁぁあーーーー!!!」
信じる事が出来なかった。
こんなに綺麗な顔をしているのに、これで彼女は死んでいるのだと──
お読み下さりありがとうございます!
すみません、今回ちょっと分量増えましたが内容があれだったのでご勘弁を…
次回第14話後輩君へ
明日25時頃更新ですのでぜひよろしくお願いします!




