第7話 御馳走様でした
メリア先輩はボディーガードに何の武器も持たずに近付いた。
「止まれ!貴様、何者だ!?」
「えぇ~固い事言わないでよぉ、お兄さん私とあそぼ?」
「ふ、ふざけるな……!」
メリア先輩の誘惑は端から見ている俺でさえも見惚れてしまうくらいの妖艶さだった。
しかし、サングラスを掛けた筋肉で覆われた肉体を持つボディーガードは、抵抗を続ける。
「止まらないと打つぞ……!」
「ちぇ~けちんぼ。そ、れ、な、らぁ♡」
「……!?」
男はメリア先輩に銃口を向けた。
メリア先輩はボディーガードに近付く事が出来なかった為、作戦を変更したのかその場で立ち尽くし──
「く~らえ♡」
彼女は妖しくウィンクをした。
たったそれだけで、ボディーガードはサングラス越しにも関わらず、メリア先輩に目を奪われているのが分かった。
「ほらぁ~こっちへおいで?」
「はいぃ!!」
ボディーガードはメリア先輩の元へ駆け寄り、膝を着いた。
メリア先輩は彼の耳元で囁く。
「ごめんねぇ~私達ぃここを通りたいの。いいよねぇ~?」
「勿論でございます!」
「それじゃぁ……貴方はここでおやすみね~♡」
「……は、は……い……」
メリア先輩がボディーガードの頭をツンとつつくと、彼はそのまま廊下に転がった。
俺は、完全に意識を失ったボディーガードの横を通り、メリア先輩の元まで急いだ。
「先輩、今のは……?」
「私、実はサキャバスなの♡」
「なんといやらしい!?じゃなかった、魔族だったんですか!?」
「ううん、魔族と人間のハーフだよ。だから魅了の魔力だけはほぼ0で使えるんだよ」
「へぇ、それめちゃめちゃ貴重な能力なんじゃ……」
「うん、だから内緒にしてね。お姉さんとの約束だよ……?」
「俺はおっぱいに嘘はつきません。御馳走様でした」
前屈みで谷間を見せ付けながらそんな事を言われたらもう何も聞きはしない。
──その瞬間
ずぅぅぅん……
「な、なに、船が揺れた?」
「おいおい、何事だよ!?」
「凄い魔力だったよ……?」
急な揺れはすぐに収まり、一体何があったのか無線で聞こうと思ったが、メリア先輩に止められた。
「後輩君、今は先へ進もう」
「……そうですね」
「全部終わったらご褒美あげるからさ♡」
俺が吸血鬼で良かった!!
じゃないといつ魅了されるか分かったもんじゃねぇ!
耐性があるのに、メリア先輩から目が離せない……
「っと、話してる場合じゃないね。急ごう後輩君」
「その前に先輩は服を着て下さい……」
「え~後輩君がチラチラ見てきて楽しいのに~」
「だから困るんです!」
ちゃんとメリア先輩には上着を着直して貰った。
俺達はさらに廊下を突き進む。
※
「殿下、俺達退屈すぎないですか?」
「まぁこれも必要な役目だからしょうがないさ」
レオンとオリウスはゼンデンという聖国の使者の部屋の前に来ており、その動向を監視していた。
2人はひそひそと話す。
「俺もエキナちゃんの為に何かしたいんですけどね」
「あの男の監視は必須だよ。学園長が言うにはおそらく、"聖職者達"の幹部らしいじゃないか」
「みたいですけど、一向に動く気配がありませんし、これ2人も要らないんじゃ……」
「待って、何か話し声が聞こえる!」
2人は扉の取っ手に手を掛けないよう注意しながら耳を近付けた。
『ゼンデン様、ご報告が……』
『なに、賊が侵入しているだとっ!?』
「あれ、俺達バレたんですかね!?」
「いや、少なくとも僕ら2人じゃなさそうだね……」
さらに話を聞く。
『とてつもない魔力を感知致しまして……』
『例の報告にあった真祖か!?』
『我々ではそこまでは……』
『もういい!場所はどこだ?私が向かう!』
『は、はい!甲板の方になります!』
レオンとオリウスは顔を見合わせて小声で叫ぶ。
『ルークちゃん(さん)!?』
※
「ユウめ……ずーーーっとあの女とイチャイチャして……」
ルークは現在船の甲板、誰も居ない静かな開けた場所で作戦の動向を確認していた。
「通信が切れている間は分かってないと思ってるんだネ……甘いヨ」
ルークはエキナがいるこの艦内全員の居場所を把握していた。
それこそ、魔力を張り巡らせて誰が何をして、何を話しているかまで。
しかし、これは思ったよりストレスが掛かる。
入ってくる情報の量が物凄いからだ。
そしてそれ以上に、メリアとイチャつくユウが、ルークのストレスをさらに膨れ上がらせていた。
「なっ!?ダンボールの中で2人で密着ぅ!?」
ルークのストレスメーターは50%まで来ていた。
「背中に胸を当てられて喜んでるし……!!」
…………70%。
「あたしに報告するつもりなら耳元で囁くのを止めなよ……!!」
……80%
「やめて殺されちゃうってなに!秘密にするつもりだったんだ……へぇ……」
99%
「御馳走様でしたーーーーーー!!!??」
彼女のメーターは限界を振り切った。
──数字で言うなら120%と言ったところか。
ルークは、怒りと共に無意識に、強烈な魔力を放出してしまっていた。
すると、ルークの無線にアデラートから通信が入った。
『ルーク君、何事だ!?』
ルークは落ち着きを取り戻し、冷静に答えた。
「ん?あぁ何も無いヨ」
『いやいや、とんでもない魔力を放っただろう!?』
「だから大丈夫だって」
『……今のせいで君の所にゼンデンという"聖職者達"の幹部が来るみたいだ』
「ヒヒ、ストレス発散には丁度いいネ!」
『後が面倒だから殺さないでくれよ』
「分かってるってば、じゃあね」
ルークは通信を切り、魔力を巡らせた。
しかし、そうするまでも無く、男は姿を見せた。
「お久しぶりでございます。忌むべき魔族の頂点よ──」
うすら寒いニヤけ面を浮かべ、甲板にゆっくりと歩いてきたその男は、ゼンデンと呼ばれた"聖職者達"の幹部だった。
ルークは、2ヵ月前に同じ台詞を言った男を思い出しながら、あの時言ってやろうと思っていた言葉を口にした。
「あんたの事なんか知らない。──そして、今はあたしの英雄が世界の頂点ダヨ!!」
ルークは、恐ろしく冷たい魔力をゼンデンに浴びせた。
不敵な笑みを伴って。
※
──CALL
「こちらス○ーク、聞こえるか?」
『……あぁ僕だよ。じゃない!ふざけてる場合じゃ無いんだよ!?』
「なんだ?お前は雷○派だったのか?」
『……もういいかい?』
「ノリの悪い奴め」
ちぇ、せっかくこっちはワクワクしてたってのに。
てかよくよく考えたらあっちの世界のノリが通じる訳ないか。
「んで、なんだよ?」
『ルーク君が見付かった』
「あぁ……やっぱりか」
『まぁあっちはいいさ、僕らはあくまでエキナ君の奪還が目的だ。そして夕……』
「あぁこの先がエキナが婚約式を行うという部屋だな」
俺達はいよいよ、エキナがいるという部屋の前まで来ていた。
この後の動きを確認する。
「これ、一つしか出入口が無いからバレずに行くのはきつくないか?」
『ルーク君が見付かった時点で隠密作戦は破棄するしか無くなった。正面から奪って帰って来たらいいさ』
「いいのか?見付かったのがルークだけなら戦争までは行かないだろう?」
『君ら吸血鬼のおかげではっきりした未来じゃないけど、戦争はもう避けられなさそうだしいいよ』
何で俺達2人なんだ。ルークのせいだろ!
しかし、アデラートが言うなら、もう後はこそこそしなくていいか。
「なら俺は暴れるぞ?」
『存分にやってきな』
「了解!」
通信を切ると、メリア先輩に声を掛けられた。
何だかニヤけている。
「後輩君、花嫁を連れ去るんだ。その格好じゃあんまりだと思わない?」
先輩はカバンから何かを取り出し、俺に渡してきた。
「こんな物を作る為に魔力をたくさん使ったんですか……」
「私は妥協はしない女なの!ほら、後輩君早く準備して!」
「へいへい……」
エキナの婚約式が始まる──
※
神父が何やら祝いの言葉を言っている。
しかし、そんなものはエキナの耳には何も入っていなかった。
目の前の横暴そうで下卑た笑みを浮かべる男に、心底嫌気が差していたからである。
「聖女様、いやエキナ。今夜が楽しみだなぁ……」
「……はい……」
エキナの顎を掴み、舌を嘗めずるヒュースに、彼女の瞳はもう何も写してはいない。
結局、ユウはこの護送船には来なかった。
周りには聖国の貴族であろう人間が30名程出席しており、警備も厳重だ。
最早ユウが居てもどうにもならないだろう。
それでいい。──私が突き放したんだから。
心残りは、初めてをユウと出来なかった事。
ただその思い出があれば頑張れると思っていたから。
「──それでは、誓いの口付けを」
神父のその言葉を皮切りに、ヒュースの醜い顔面が近付いてくる。
ベールを上げられ、目を閉じて、キスをす──
──突如、出入口の扉が開いた。
中に居たのは白いタキシードを見事に着こなした、目付きの悪い少年だった。
「よぉ、言った通りぶっ壊しに来たぞ。聖女様」
今回から少し分量を減らして読みやすくしてみました!
自分としても書きやすいくらいの量なのですが、もし前の方がいい等ございましたらご意見お願いしますm(_ _)m




