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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第二部 異世界吸血鬼は花嫁聖女を壊したい。

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第6話 それはどんなにか


「よくお似合いですわ聖女様」


 護送船に移動したエキナは、艦内で婚約をする為に、ウエディングドレスに着替えていた。


「……これが私……」


 この姿をユウに見て貰えてたらそれはどんなにか──


 そんな風にエキナは思った。

 しかし、それは叶ってはいけない願い。

 自分はもうユウ達に会うことは無い。

 世界を守る力を手にする為。

 世界を守る事が出来れば、それはユウを守る事になるから。

 

 それでも頭を(よぎ)るのは、


 ──俺はそれでもお前を諦めない。明日、必ずお前を奪いに行く。


 ……ほんの少し、期待してしまう自分が居た。

 叶ってはいけないと分かっていても……


 しかし、恐らく無理だ。

 護送船は3隻、警備はあり得ない程厳重だった。

 護送船は魔力を用い、空を移動する。

 例えユウがいくら強くてもかなり厳しい。

 そう、ユウだけであったなら──


「聖女様、お時間でございます」

「……はい」


 婚約式は船の入り口から最奥。

 エキナの婚約式まで残り30分程。


 

「どうだ、聖女様の様子は」

「緊張はしているみたいですが、準備は万端です」


 聖国の使者ゼンデンは頭を下げながら、丁寧に答えた。

 エキナの婚約者となる、小太りで下卑た笑みを浮かべる男は、白いスーツをボタンを弾けそうにしながら着用している。


「ヒュース殿、この度はご婚約おめでとうございます。これで、我が国は永遠の安泰を得ますね」

「その通りだ。ふっふ……今から楽しみだよ。麗しい聖女様をこの私の物の出来るんだからな……!」


 小太りの男──ヒュースは、下品に笑う。

 ゼンデンはそれを見て自分達の思い通りに事が運んでいることに安堵するのだった。

 "聖職者達"にとって、都合良く操り易い男と婚約させることが出来たと、ニヤつきながら。


「おい、ゼンデン。間違っても誰にも邪魔をさせるなよ」

「警備は頑丈です。ネズミ一匹入れません」

「はっはっは!それでは、我が麗しの聖女様とご対面といこうか!」

「ははっ」



「皆……準備はいいかい?」


 学園長室に集まった俺達は、全員が迷彩服に着替え、各々が必要だと思う荷物をカバンに入れ背負っている。

 現在、エキナが護送船に移動したタイミングで、アデラートの転移の魔法の発動を待っていた。


「いつでもこい!」

「さっさとしなヨ」


 俺とルークが意気揚々としているとレオンが俺達に言う。


「こっちは緊張してるっつーの」

「だよね~。でももうやるしかない感じじゃん」


 冷や汗を流しながらも覚悟を決めているレオンとメリア先輩。

 ちなみにオリウスはディセートと別れの挨拶をしていた。


「殿下……どうかお気を付けて……」

「大丈夫だ。必ず生きて戻る」

「帰ってきたらまたデートして下さいね?」

「勿論さ」


 やめろやめろ。変なフラグを立てようとするな!

 そう言えばディセートには教えておくことがあった。


「おい、縦ロール」

「私を髪型で呼ぶの止めてくださいませんか!?」

「お前の依頼、もう心配要らないから安心しろ」

「え?」


 俺はディセートに説明した。

 例のあのリーダー格の女はやはり"聖職者達"のいきのかかった奴だったと。

 アデラートが素性を調べ上げ、学園を退学にさせ、しかるべき処罰を与えると言っていた。

 公爵令嬢の取り巻き相手でも容赦ない奴だよほんと。


「……ありがとうございます。お礼は帰ってきたら必ずしますわ」

「楽しみにしてるよ」

「……お気を付けて」


 すべき挨拶を済ました所でアデラートの魔法の準備が整った。


「お待たせ。それじゃ行くよ──」


 アデラートが指をパチン、と鳴らす。


「魔術式──集団転移」


 俺達の足元に白銀の魔法陣が出現する。

 独特浮遊感を伴い、俺達はエキナがいるらしい船の中に転移をした。


「……っ……どこだここは?」

「ん~真っ暗で何も見えないね~」


 俺は気が付くと何も見えない真っ暗な場所に居た。

 人がいてはまずいと身を屈めながら、小さな声の呟きに返事があった。

 隣に居るのはメリア先輩か?


「先輩ですか?」

「お、そうそう!後輩君……だけ?」

「みたいですね……」


 そのタイミングでアデラートから無線が入る。


『みんな聞こえるかい?少々予定を変更してバラバラの地点へ送らせて貰った』

「どういうことだよ」

『奴らの警備が思ったより厳重でね。ペアで転移させたからこれから細かく指示を出すよ』


 ペアの組み合わせは、俺とメリア先輩、レオンとオリウス、ルークは単独との事だ。……ルークを独りにして大丈夫なのか……?


『ちょっとアデラート!何であたしがユウと一緒じゃないの!?』


 やっぱり噛み付いた。


『君と夕を一緒にしたら護送船3隻が海の上に沈む未来が視えたんだけど、心当たりは?』

『……仕方無いから指示に従ってあげる』

「おい、ルーク!?」


 あいつの案は却下したのに、何をするつもりだったんだ!?

 アデラートは『よろしい』と言い、指示を続けた。


『レオン君、オリウス殿下はそこから3つ程ドアを開けた先の部屋にゼンデンという男がいるからそいつがユウ達に近付かないよう見張りだ』

『了解!』

『もし近付きそうになったら報せてくれ。そして夕達だが……』

「なんだよ」


 何やらあまりよくない報告があるのか躊躇いつつ言った。


『あと20分程で婚約式が始まる……急いで船の最奥まで向かってくれ!』

「なっ!?というかここがどこだか分からん!」

『食糧庫だよ。式場まではそこを出て、廊下を道なりに進んだ先にある!』

「いや、真っ暗で何も見えないんだけど……」

『暗視魔法くらい使えないの?』

「あ、それなら私使えるよ!」


 メリア先輩、そんな魔法があるならもっと早く言ってくれ。

 まぁ一応感謝するけどさ。


「後輩君、私の手を握って」

「は、はい!」

「ちょっと、握り方がやらしいよ……」

『ユウ!?』

「しまった!通信を切ってなかった!」


 いやそもそもそんなやらしい握り方はしてないんだけどね。本当だぞ?

 メリア先輩は小声で呪文を唱えると、目の前は薄暗いが、赤外線カメラで見るような世界が眼下に広がった。


「ありがとうございます先輩」

「お安い御用だよ。でもちょっと魔力がヤバそうだし、これからは魔法は温存するね」

「分かりました」


 アデラートは、俺達の準備が整うと、ルークに最後の指示を飛ばした。


『最後にルーク君。君の役目だが──』

『分かってるって。万が一の保険でしょ?』

『あぁ。全員の作戦が失敗した場合の判断は君に任せる。その為に船の甲板に転移させたからね』


 それはつまりエキナを連れ出せず、俺達が捕まった場合、という事だ。

 恐らく、ルークは俺達全員を船から出した後、3隻を全て沈めるだろう。

 俺とペアの未来でも沈めるつもりだったみたいだし、まぁあいつは最初から破壊する頭だったのだろう。

 勿論、エキナを連れ出した後にだ。


『それでは、皆何かあればまた連絡をくれ。作戦開始!』

『了解!』


 ルーク、レオンとオリウスは基本待機だから、動くのは俺とメリア先輩だ。

 俺はメリア先輩に声を掛け、この食糧庫の出口を探す事にした。


「メリア先輩、とりあえずここから出ましょう」

「そうだね~。たぶんあっちが出口なんだけど……」


 メリア先輩が指を差した方には、よく見えはしないが扉のような物があった。

 ただし、扉の前には見張りがいたが。

 俺達と同じように暗視魔法を使っているのだろうが、俺達を身を屈め姿を隠している。

 ここが第一関門だな。まずは……


「先輩、悪いんですけど睡眠魔法って使えますか?」

「使えるけど、温存したいんだよね。結構魔力がカツカツでさ~」

「先輩って結構魔力少ない方なんですか?」


 無線に魔力を使っているとは言え、結構消耗が激しいように思えた。

 メリア先輩に失礼かと思ったが、戦力把握の為に確認をしておくのは大事だろう。

 すると、メリア先輩は何かをカバンにしまいながら答えた。


「いや~普通だとは思うんだけど思ったよりこいつに魔力を持ってかれちゃって……」

「……何したんですか」

「そいつぁ後のお楽しみ♡さて、後輩君どうしようか、出来ればここは魔力を使わず突破したい所だよね」

「そうですね……俺が魔法を使えば感知されそうですし」


 吸血鬼の魔力を浴びせて気絶させるくらいは出来るだろうが、そんなどえらい魔力を使えば気付かれる恐れがあり、俺は基本魔法を使えない。


 今こそ、異世界転移者ならではの知識を活かす時だな。

 ──ずっと一度はやってみたかった……!!


「先輩、これを」

「後輩君……これは……!?」

「ダンボールです!!」

「……頭大丈夫?」


 おかしいな。

 前の世界では潜入任務スニーキング・ミッションの必需品だと言っていたのだが……


「いいから、ほら人間2人入れる大きさなんで!」

「ちょ、後輩君!?」


 俺はメリア先輩をかなり大きめのダンボール箱の中に引き入れた。

 それでもさすがに箱の中は狭く、メリア先輩は俺の背中に抱き付く体勢になってしまった。


「……後輩君、これセクハラだよね」

「しっ、静かに!」

「……もうっ……」


 先輩は諦めたのか俺の背中に体重を預けてくれた。

 おっふ、背中に柔らかく、大きな感触が……!

 メリア先輩は俺の耳元で囁く。


「……後でルークちゃんに言うからね」

「やめてください殺されちゃう!」

「ほら、この後どうするの?」


 あまり冗談をやっている場合じゃなかった。

 俺は、メリア先輩の疑問に答えるべくダンボール箱の隙間から、空の銃創を扉から少し離れた所に投げ捨てた。


「ん?」


 敵の頭上には、?マークが出ている事だろう。

 銃創の付近に近付いたので、そのまま後ろを失礼する。


「先輩!今です!」

「えっ!ほんとに!?」

「GoGo!!」


 足音を消し、離れていく敵の後ろを通り抜け、大型のダンボールは突き進む。

 扉の前までたどり着き、そのまま扉を開け廊下へと出る。

 同時にダンボールを脱ぎ、畳んだ後カバンにしまった。

 暗視魔法も解き、メリア先輩の顔を見る。


「おぉ、上手くいった……」

「やるね~かなりヒヤヒヤしたけど」

「俺もです。さぁ人が来る前に行きましょうか」

「そうだね」


 エキナがいるのはこのまま廊下を道なりに進んだ所だったな。

 俺が進もうとすると、メリア先輩が俺の腕を掴んで止めた。


「待って後輩君、そこの曲がり角……誰かいる」

「え?」


 廊下の曲がり角からこっそり顔を出すと、そこにはいかにもと言った見た目のボディーガードが立っていた。これは、第二関門だな。

 メリア先輩は腕捲りをし、俺の前に立った。


「さっきは後輩君が何とかしてくれたからね。今度は私の番だね」

「でも、先輩魔力が……」

「心配要らないよ。ちょっとはカッコつけさせて」

「……あまり無茶はしないで下さい」

「大丈夫!」


 メリア先輩は言うと同時に迷彩服の上着を脱ぎだし、胸元を大き開いたキャミソール一枚の格好になった。


「先輩……?」


 メリア先輩は妖艶に微笑んで、ボディーガードに近付いていく。

 何をするつもりだ……!?


 エキナの婚約式開始まで、残り10分──

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