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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第一部 異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。

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第11話 それでも俺は


 エスタードパークで"聖職者達"と呼ばれる、危険な集団の一人に襲撃された俺達は、重症を負ったルークのお願いで、遥か昔彼女が英雄と契約を交わしたとされる場所を訪れていた。

 彼女が指定したのは、パークからそれ程離れておらず、約1キロ程歩いた丘の上──

 ──そこは墓地だった。


 エキナやオリウス達には先に帰って貰い、ここには俺とルークだけで来ている。

 辺りはすっかり暗くなっているが、墓地特有のおどおどしさは無く、月が一面に咲いている夜桜を照らし、俺達を優しく見守ってくれているみたいだ。


「……ユウ、腕……大丈夫……?」

「あぁ、すっかり元通りだよ。怖いくらいだ」

「……良かった……」


 魔力を右腕に集中するだけで、あっという間に落とされた右腕は再生する事が出来た。

 ルークは自分で歩く力も残っておらず、お姫様抱っこでここまで連れてきた。

 青白い顔で力無く微笑むルークは今にも消えてしまいそうで、自然と彼女を抱える力が強くなってしまう。


「ここで英雄と契約をしたのか……?」

「うん……正確にはもうちょっと先だよ。……ほら、あそこの大きな桜の木の下」


 ルークが指差した場所には、この丘の中でも一際大きな桜の木だった。

 ん?木の根元に何か刺さっている?


「ルーク、あれは?」

「……あれはあいつが使ってた剣ダヨ、お墓代わりなの……」

「英雄の墓なのにえらく雑なんだな」

「……あそこにあいつは居ないからね……」

「それって……」

「……あいつの遺体は"聖職者達"が持ってるから……」

「そうか……」


 俺達は話しながら木の根元まで辿り着いた。

 

「ここでいいか?」

「……うん。ありがとね、ユウ」


 俺はどうして今、ここにルークが来たがったのか、何となく気が付いていた。


 ──ルークにはもう時間が無い。


 聖者の弾丸を撃ち込まれたが、エキナのおかげで即死はしなかった。

 それでも、只でさえ魔力が残り少なかったのに、彼女は血を流しすぎた……

 血=魔力であり、魔力を失う事は死を意味する。

 ルークが不死身としての力は全て俺に渡したせいで、契約を交わし俺とルークの血を繋げ、その上で真祖の力を返さなければ彼女は魔力が尽き、死んでしまう。

 

「ヒヒ……ユウ、そんな悲しそうな顔しないで……」


 俺が……俺が油断していたせいでルークに瀕死の重症を負わせてしまった。

 俺は絶対にルークを死なせない為に、彼女の瞳をじっと見つめて話す。


「……ルーク、もうあまり時間が無いはずだ。契約のやり方を教えてくれ」

「……」


 ルークも俺の瞳を見つめ返してきた。

 彼女は何も答えない。

 代わりに、顔を横に振った。


「な……冗談を言っている暇は無いんだぞ!」

「……もうあたしの体には契約の儀を行うだけの力が残ってないの。だから、あたしの真名も教えない……無理にユウが儀式を行ってもユウが危険だからね……」

「ぎ、儀式でかかる負担なら俺が全部引き受ける!」

「……駄目。主従の主が契約の儀をしちゃったら……ユウの魂が弾け飛んじゃうの……」

「構わない!だから、早く真名を……!!」

「それ……本気で言ってるでしょ……怒るよ?」

「ルークっ……!!」


 奥歯が欠ける程に食いしばる。

 彼女を抱きながら、俺の体は震え始めていた。


「も~……泣かないの、それでも英雄の生まれ変わり?」

「泣いて、……なんか無い……」

「……そうダヨ。泣いてる、暇は無いんだから……」


 ルークが「そこに下ろして」と言ったのは英雄の剣の前だった。

 

「……あたしは幸せ者だ。あたしには2人も英雄がいたんだから」

「……」


 ルークは剣を撫でながら、英雄と話でもするかの様に語る。


「……あんたが嘘を付いてから200年も待ったんだよ、本当待たせすぎ……」

「……」

「……正直、ずっと恨んでた。だって200年だよ!?」


 「でも……」と続け、今度は俺の方を見る。


「……ありがとね、もう一度あたしの所に来てくれて……」

「……ルーク」


 ずっと泣き続けている俺はろくに返事も出来ず、それを見てルークは微笑む。


「……ユウと過ごしたのは本当にちょっとの時間だったよね。それでも……ユウと過ごせた時間は200年を生きて良かったって心から思わせてくれた……!」


 ルークの声は掠れ、涙を流す力さえもはや残っていない。

 俺はずっと返事が出来ずにいた。


「……無理矢理この世界に連れて来ちゃってごめんね。……初めてあたしを呼んでくれた時、凄く、嬉しかった……!あんまり女遊びはしちゃダメだよ……?いっぱいいっぱい……ホントにありがとう……!!」


 情けなくも涙でルークの顔がよく見えない。

 ──いよいよルークは彼女が俺をこの世界に喚んだ目的を果たそうとする。


「……ユウ、あたしのポケットに……手を入れて……」

「……わかった」


 彼女のポケットには拳銃の弾が入っていた。まさか──


 「……聖者の弾丸。たぶん……アデラートが持っている分を除いて、最後の1発……」


 彼女が何を言おうとしているのか、それは──


「さぁ……約束だよ……あたしを殺して。あなたが──あなたの腕の中で、死なせて……」


 拳銃なんか要らない、この弾丸を俺の魔力で射出するだけで彼女を楽にしてやれる。


 それでも俺は──


「駄目だルーク、俺はお前を諦められない……!」

「……!」


 涙を拭い、俺は覚悟を決める。

 呆れた様な表情をしているルークは俺を責めた。


「ここまで来て……ヘタレ無いでよ……!」

「契約が出来ないなら、お前の体がどうなろうと真祖の力を注ぎ込んでやる!」

「……そんな事しても死んじゃうよあたし。契約をしなきゃ負担が大きすぎるから……ゴホッゴホッ……」

「ルーク!」

「……お願い、ユウ……もう死なせて……?」


 縋り付くように俺の頬に手を伸ばすルーク。


 もう、無理なのか……?

 俺はまた救えないのか……?

 真祖の力を貰ったんだろう!?

 要は俺が契約の儀を行えばいいんだ……!

 ルークに恨まれても助けると決めたんだ。後は真名さえ分かれば!!


 ──……ナ…。


「グッ……!?」

「……ユ、ユウ……?」 


 突如、俺の頭が割れる様に痛んだ。

 声が……聴こえる……

 幸せそうな声、それはイメージと共に俺の頭に流れ出した──



 マーネ、準備はいい?


 あぁ、ちょっとドキドキするけどな……!

 

 あたしが開発した魔法に不安があるのー!?


 いや、不安だらけなんだけど……


 はぁーー!?ひどくない!?


 いつもどれだけ迷惑を掛けられてると!?でもお前の魔法でなら死んでも構わないさ。


 も、もう……バカ。


 拗ねるなよ。ほら、そろそろ始めようぜ!


 まだ謝って貰ってないもん!そんなんじゃあたしの真名は教えられないな~?


 わ、悪かったってば。

 さぁルーク──契約しよう。お前の真名を教えてくれ。


 もーしょうがないんだから。

 あたしの真名はね──


 

「──ルミナス」

「え……!?」


 ルークは、これまで見たことが無い驚愕の顔で俺を見つめてきた。

 今、見えたイメージは過去の英雄とルークが契約を交わした時の映像か……?

 しかし、これは好都合だ。

 契約のやり方、そしてルークの真名も知れた。

 俺がどうなろうとやるしかない!!


「魔術式──契約の儀!!」


 瞬間、俺達の中心から半径3メートル程の陣が浮かび上がる。

 桜色の魔方陣には俺の魔力が結晶となってキラキラと舞っている。


「……ユウ!?どうやって……!?」


 ルークが問い掛けてくるが気にしている暇は無い。

 俺は契約の儀を続ける。


「契約者の真名滝川夕、従者の真名は──」

「ダメッッッ!!」


「──ルミナス!!!」


 叫んだ瞬間、俺の心臓がドクンと跳ねた。


「グッッ……アァ……」


 クソ、心臓が引き裂かれそうだ……!!

 体が……駄目だ……保たない……


「……ユウ、お願い、術式を解除して……!」

「だ、駄目だ……!!」

「ヤダ……お願い、ユウの魂が……無くなっちゃう……!」

「……クソ……がァァァアアアア!!!」

「ユウ……!!!」


 魔方陣は弾け、側にある桜の木の花びらが舞った。

 俺とルークは2人共、衝撃で意識を失ってしまった──



 ここは……

 周りには何も無い。

 真っ白く、だだっ広い空間が広がっている。


「ユウ……?」

「ルーク!?」


 俺の後ろにはルークが居た。

 一緒だったのか良かった……


「あたし達2人共死んじゃったのかな……」

「さぁな……でも死ぬ時は一緒だって言ったろう?」

「バカ……!!」


 ルークが俺に抱き付こうとすると──


「な、なんだこれ!?」

「ユウ!!」


 俺の周りに手の形をした触手の様なものが纏わり付いてきた。

 ルークから引き離す様にどこかへ吸い込もうとするそれは、俺に微塵も抵抗を許さなかった。


「お願い、ユウを連れてかないで!!」


 ルークは悲痛の叫びを浴びせるが触手は全く手を緩めない。

 ……ここまでだな。


「さよならだ、ルーク」

「イヤ!諦めないで、手を伸ばして!!」


 ルークは俺に手を差し出すが2人の距離は離れるばかりで掴むことは出来そうもなかった。


「お前がくれた4ヵ月ちょいの異世界旅行……悪くなかったよ。達者でな」

「そんなの聞きたくないよ……!ユウ……!ユウーーー!!」


 ルークは涙を流しながら未だに手を伸ばし続けている。

 俺はもう抵抗するのを止め、間違ってもルークが巻き込まれないようにする。

 しかし次の瞬間、俺は何かに背中から吹っ飛ばされた。


「なぁ!?」

「え……?」


 俺はルークに抱き止められ、触手のある方を見た。そこには──


「……まさか、マーネ……!?」

「その名前って……」


 ──久しぶりだな、ルーク。


 俺の代わりに触手に纏わり付かれているのはさっきイメージの中で見た顔──太古の英雄だった。


「どうしてあんたが……!?」

「言わなくても分かるだろう?」

「分かんないよ!それに……あんたには言いたいことだらけなんだから!!」

「それはそこに居るもう一人の俺に言えばいい。もう俺は消える」

「……待って、あんた……まさかその触手に吸い込まれるつもり!?」

「ほら、やっぱ言わなくても分かってんじゃん」


 何が起こっているのか頭が追い付かない俺は黙って2人のやり取りを見ていた。


「ダメ!早く戻って!!またあたしを置いていくつもり!?」

「……あの時はすまなかった」

「……っ!今謝るなっ!一体あたしがどんな思いで……!!」

「でも、こうしてまた逢えた。俺はあの時のこと、後悔はしていない」

「あんたの事なんかだいっきらい……!!」

「俺は愛してる。例え、何百年過ぎようと、生まれる世界が違っても……俺はまたお前と巡り逢う。証明は出来ただろう?」


 太古の英雄は俺と瓜二つの顔で俺の方を向いた。


「ルークの事を頼むぞ。泣き虫で寂しがりでワガママだけど、俺の愛した女だ。もう一人にしてやるなよ」

「自分そっくりな奴に頼み事されるとは不思議な気分だよ。まぁ……任せろ」


 もう一人の俺は、フッと笑うと触手に吸い込まれ、どんどん遠くへ見えなくなっていく。


「待って……!嘘だから……あたしも愛してた!マーネ──」


 英雄に言葉が届いたのかは分からない。

 ただ、彼は笑顔で消えていった。

 英雄の魂は触手へと吸い込まれ、優しい光の粒となって散っていく。

 そして真っ白い空間はぼやけ、やがて俺達の意識は現実へと帰還していく──



「お、目が覚めたか?」

「マー──ユウ?」

「顔色、良くなったな」


 ニヤリと笑うと、俺の膝の上で眠っていたルークは、一筋涙を流した。


「無茶して、ホントにバカバカバカ……!!」

「これで契約完了だな。お前との魔力の繋がりは安定した。後はお前に真祖の力を戻せば完璧だ」


 ほら、と右手の甲をルークに見せる。

 契約を交わした証拠であろう紋章が俺の右手の甲に浮かんでいた。

 恐らく、彼女にも同じものがあるはずだ。


「……ここまでされたら、もう文句は言えないネ……」


 ルークは諦めたように肩をすくめ、膝の上から起き上がり、俺と向き合った。


「ユウ」

「なんだ?」

「あたしを助けてくれてありがとう、あたしを諦めないでいてくれてありがとう」

「どうした、今さら。元々そのつもりだってば」

「ヒヒ、ユウ大好きだからネ」


 ルークは頬を赤らめ、俺を見つめながら上半身の服を脱ぎ始めた。


「ちょ、ル、ルークさん!?」

「もぅ、そんな反応しないでよ!あたしも恥ずかしいんだから!」

「い、いや何で服脱いでんだ!?」

「……あたしにユウのをぶち込むんでしょ?」

「は、はぁ!?」

「だ、か、ら、噛まなきゃあたしに力渡せないでしょ!初めてだろうし、ユウがやり易い様に脱いであげたのに……」

「あ……そーいう……」

「ナニ想像したの……」


 愛想笑いでやり過ごし、いよいよルークに力を返す時が来た。

 上半身はブラジャーだけで、少し控えめだが柔らかそうな胸元は劣情の誘い方が尋常ではなかった。


「ユウってホントおっぱい好きだねぇ」

「ソンナコトナイヨ」

「目、合わせなよ。でもちょっと嬉しいカモ……! 」

 

 ほぼ半裸で抱き付いてきたルーク。

 華奢で、先程まで死にそうになっていたその体は健康な白さを取り戻していた。

 彼女を今度こそもう離さないと、俺も優しく背中まで手を回す。

 ルークは俺の耳元で囁いた。


「あたし、噛まれるのは初めてだから──優しくしてね……?」


 心臓が跳ねる音が聞こえた。

 吸血鬼としての本能が俺の瞳を赤くする。


「ルーク──」

「……来て、ユウ──」


 ルークの細い首筋にゆっくりと、確実に牙を沈めていく。

 溢れでた血の味は、今まで口にしたどんなものよりも俺の舌を唸らせた。

 ごくん、と一口飲んでしまうと、またもう一口……と、止まらなくなりそうだ。


「……あっ、ん……こらユウ、血……飲んじゃ……ダ、メ……」


 咄嗟に我に帰り、慌てて首筋から口を離す。


「わ、わりぃ、あまりにも──」

「……分かるけど、あたしを助けてくれるんじゃないの?」

「……もう一口だけ駄目……?」

「……一口だけだからね」

「! ありがとう!」


 密着していたルークの体をさらに強く抱き寄せ、また首筋に牙を突き立てる。


「っ!は、……激しい……よ、バカ……」


 もう一口だけルークの血の味を堪能した俺は、今度こそ、ルークの体に真祖の魔力を流し込む。


「ハァ……ハァ……熱、い……ユウ……」


 ルークは痙攣しながら俺の背中に回した腕を、服がくしゃくしゃになる程強く掴んだ。


「……っんっ……ァッ……!!」


 妖艶な彼女の吐息は俺の吐息と混ざり合い、やがて彼女は本来の力を取り戻していく。

 墓地に咲く夜桜は、その花びらを散らしながら重なった2人の影を優しく包んでいた──

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