決着
俺は剣を構える。いつもの訓練のはずが、こんな大事になるとは。だがグレゴの覚悟は本物だ、これを受けてやらねば無礼というものだろう。
「往くぞ……オオオオォォォォォ!」
獣の如き咆哮と共に、グレゴの姿が視界から消えた。背後や上空に回ったのではない。魔力で強化したはずの動体視力を以ってしても、その圧倒的な速度を捕らえきれなかっただけのことだ。
つまり、回避、迎撃、いずれも不可能。
「――《獣王の一撃》!」
凄まじい突進力を一切殺すことなく、全体重を乗せた最大の一撃。それは槍の一撃なんかよりも遥かに重く、俺が胸の前に構えていた左腕を貫通し、心臓部を容易く貫いていた。
「――ぐふっ」
込み上げてくる血を堪えきれず、断末魔のような声と共に口から溢れ出させる。
「決着……か?」
背後から獣人の呟きが耳に入る。ああ、確かに決着だ――これがただの訓練ならば。
「テメェ……」
グレゴが両腕で俺の身体を貫いたまま、呻くように言った。
「ああ、謝ろう。だが約束を破ったのはお互い様だよな?」
圧倒的な力を前にした俺は、何もしなかった。正確には、腹部の肉体強化だけを解いて極限まで生身の状態となっていたのだ。
「脆いだろ? 人間の身体ってのは。肩透かしを食らわせてしまって悪いな」
「……クソったれめ」
グレゴは動かない。いや、動けない。何故なら、俺の再生中の身体と左腕で、両腕を固定されているからだ。
「気色悪いなあ、再生中の死徒の感触なんざ知りたくなかったぜ」
「悪く思うなよ。死徒として思いついた唯一の策だ」
どれ程肉体を強化してガードしていたとしても、俺の身体は衝撃で吹っ飛ばされ、反撃は出来なかっただろう。俺の勝ちの目はただ一つ、最大の一撃を透かして、この状況に持ち込むことだった。
「さて、とはいえここから致命傷を与えるのは難しいな。お互いに」
「――いや。人間相手にここまでして決められなかったんだ。オレの、負けだ」
俺が身体をグレゴの腕から引き抜くと同時に、白い煙が昇り、身体に空いた大穴がゆっくりと塞がっていく。
その時、周囲から男達の歓声があがった。
「やるじゃねえか人間! ボスの一撃を受けきるなんてよ!」
駆け寄ってきた獣人の男は自分の事のように嬉しそうだ。正直、彼等から復讐されるのではと一瞬頭に過ぎったのだが、杞憂だったようだ。
「グレゴが負けるなんて……初めて見たわ」
「噛み付いたのはちょっとひいたけど」
周囲のメイド達からもそんな声が聞こえる。これで少しは信頼を得られたと良いのだが。
そんな弛緩した場の空気に、唐突に冷や水を浴びせてきたのは――
「貴方達、これはなんの騒ぎですか?」
氷のように冷たい表情のメイド長、ソフィアだった。
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