~強欲の憂鬱④~
「さっき名乗ったじゃねーか。」
「嘘はいい……。いまこのテーブルの周囲だけ外部に音が聞こえない魔法『無音の部屋』をかけてある。気にせず話せ……。」
「嘘なんかねえって!」
「しらばっくれやがって……。まぁいい。そういや、さっきのビールは旨かったか?」
「あ ああ。久しぶりだったからな。」
「お前が飲んだそれは『ビール』じゃない。エールだ。この世界にはビールと名の付く飲み物は存在しないんだよ。」
「なっ………。」
「ビールを知ってるってことは見たことや飲んだことがある奴だけだ。お前、転生者だろ……?。本物のガルフォードをどうした?事の次第によっちゃ…………。」
「ちょ ちょっと待ってくれよ!俺は、偽物だけど本物なんだよ!」
ガルフォードを名乗る男は慌てて真相を話し出した。余程ジルの圧力に気圧されたのだろう。
「…………そうか…そういうことか…………。お前、俺と同じ依り代の転生者だな…………。なら、質問を変える。誰がお前を転生させた?嘘は止めておけよ。これでも少し神には顔が利くんでな……。」
「あんたも、転生者なのかよ……。」
「ああ。俺の腹心や近しい者は知っている。そんなことはどうだっていい。それより、誰だ貴様を転生させたのは?!」
「ク………様だよ。」
「ん?今なんて言った??」
「だからぁ、運命を司る女神クロトーネ様だよ!!」
「なにぃぃぃぃぃぃぃ!!!」!」
ガルフォードへの尋問だったが、ジルは急に現実に戻った感覚だった。それもそのはず、愛する者の名が出てくるとは思いもよらなかったからだ。
「何んで、マナがお前を転生するんだよ!!」
あからさまに口調が変わったジルを見たガルフォードは口をポカンと開けて驚いていた。
「聞いてんのかよ!おい!!」
「あ ああ。………。そっか、そういうことか!!あんたが女神さんの良い人だな!」
「どういう事だ!」
先程まで殺気を当てられていた相手が自分を転生した神族と知り合いだと分かりガルフォードは胸を撫で下ろした。
「ふぅーーー。焦ったぜ。ヤバイことになるかと思ったわ。」
「いいから、話せって!」
「俺が転生させられた理由が女神さんの良い人の護衛なんだよ。つまり、あんただな。」
「護衛??俺はそんなに弱くないが…。」
「まあ、聞きなって。俺が転生した時から話を戻すが、元の体の持ち主のガルフォード=ベインが捕まって逃げたのは本当だ。だがこの地に着く途中に倒れ死んだんだ。んでその後、体を継いだんだ。だから嘘は言ってない。」
「それはわかった。」
「で、転生時に女神さんに言われたのよ。『崇を敵の魔の手から守るなら転生させてあげる。』ってな。女神の言う『崇』を捜すのどうすっかなって悩んでたし、こっちでの名前教えてくれなかったから、すぐに見つかってラッキーだったぜ。」
「そのマナのいう魔の手ってなんだ?新しい敵か??」
「なんでも女神さんの言うことにゃ、某国の厚かましい姫と乳のでかいエルフっていってたな。」
「………………。」
「どした?そんなヤバイ奴等なのか??」
「すまんガルフォード。お前を疑って。」
「お おう。いいってことよ。で、敵はそんなにもヤバイんだな?」
「そういうわけじゃ……。」
「女神さんも神妙な顔だったしな…。それだけでもヤバさがわかるってもんだ。」
「いや、そうじゃなくて………。」
「そうとなりゃ、俺も力を貸すぜ!それなりに強いしな。加護は無いが任せとけ!」
「あのー………。大変言いにくいんだが……。」
「なんだよ、さっきから!」
「マナの言う敵なんだが……。」
「強大なんだろ?」
「えーっと………。一人は同盟国の姫様で、もう一人はこの街にいる俺の仲間なんだよ……。」
「はぁーーー??」
「いや、まぁ、俺がその二人から言い寄られていて、それでマナは怒っているんだと……。」
「ちょっと待て!じゃあなにか、俺はあんたらの痴情の縺れの為に転生したってのか??」
「多分……。」
「おいおい………。マジかよ………。普通転生するっていったら街をモンスターから守るとか、魔王から世界を取り戻すとかだろうが!依りにも因って転生理由が浮気防止の為って………。」
「すんません…………。」
「頼むぜ、ほんとによ……。」
ガルフォードは呆れ返っていた。転生した女神の理由が余りにも自己的なのも、それに気付くことすら出来なかった自らにも。
「そういやお前、転生先選べなかったの?俺の時はあったけど…。」
「んなもんなかったぜ。転生か消滅か選べって言われたし。」
「なんか、色々すまん………。」
「もう、いいわ。疑いが晴れたし、理由もわかった。女神さんが拾ってくれなきゃ消滅するしかなかったんだしな。」
「申し訳ない……。」
「だから、もういいって。でも…そんなに、謝ってくれるんなら俺も仲間に入れてくれよ。あんた等と居れば何かと楽しそうだしな。女神さんの依頼もあるし、死んだ体の持ち主の代わりにジジイにも親孝行したいしな。」
「いいのかよ?お前を疑ってた相手だぜ?」
「ああ、大丈夫だ。立場が一緒なら、俺でも同じことをするさ。」
「そうか…。なら宜しく頼む。」
「おう!こちらこそだ!」
疑いが晴れ、二人は手を取り合い握手した。新たな仲間『ガルフォード=ベイン』が仲間になった瞬間だった。
「そういや、女神さんが言づて頼まれてたんだった…。」
「ん?マナが??なんて言ってた??」
「『もうすぐ、そっち行くから首洗って待っといてね!』ってよ。」
「マジかよ……。俺、悪い事何もしてないって……。」
「俺に言われてもな……。」
後に運命を司る女神クロトーネがこの世界に顕現するまでの間、ジルの憂鬱は続くのであった。




