~力量~
いきなりに始まったその闘いは、魔王の力を目に焼き付ける事になるのだった。
ラゴールは自らの武器である大鉈を肩に乗せ、ゾルは大きな棍棒を構え、ブライは双剣を抜いた。
憤怒の魔王ラスギャレットは羽織っているコートから煙草を出し、魔法なのだろう指先から炎を出し咥えた煙草に火を着けた。
右手は火の着いた煙草を持ち左手はコートのポケットに突っ込んだ状態で優雅に一服していた。
黙ってラスの行動を直視していた三人は呆気にとられていた。いつまでも動かない三人に向かってラスは挑発した。
「何を呆けている………。さっさと来い……………。」
「ワケのわからん物を出したと思ったら、只の煙管かよ!!」
「舐め腐りやがって!!」
「では、遠慮なく!!」
ドッッッゴゴゴォォォォーーーーーーン!!!!!!!!
ブライの掛け声があがると同時にラスに向かって飛びかかり、三人は武器をラスと共に石床へと叩きつけた。その瞬間、石床の破片埃が飛び散り、一瞬にして周囲は瓦礫の山が出来た。衝撃で砂埃が舞い上がり四人の姿を隠していたが、その中にひとつだけ人影がある事だけがわかった。
埃が収まりその場が露になって現れたのは、右手で火の着いた煙草を持ちながら吹かし左手はポケットにいれたままのラス=ギャレットと、その場に転がる三人の姿だった。
「ウグっ………。」
「ゲホっ!ゲホっ!!」
「ハァ…ハァ…ハァ…。」
倒れている三人に対し、ラスは冷めきった目をしながら吐き捨てる様に見下ろしていた。
「弱いな…………。」
「くそったれぁー!!」
「野郎!俺はまだやれるぞ!」
「まだ、終わってなどいない!」
倒れながらもラスに向かって叫んでいた。倒れてもなお強気なのは誇らしいが、誰が見ても決着は着いていた。
圧巻だった。ラスはブライ達に拳を振らず、足技だけで抑止したのだ。まず武器を振り下ろした直後のゾルの懐に素早く移動し、みぞおちに膝蹴りを入れて倒し、体を反転しラゴールの首裏の延髄に一蹴し、すぐさまブライの馬の背の部分に踵を落としていた。俺を含めた魔王達と大老マツバは目で追えていたが、他の者達は、理解すら出来ない状態だった。
三人は無理矢理立ち上がる。膝がガクガクブルブルになっていたが、闘いをまだしようとしたので制止することにした。
「ストーーーーーーーップ!!もういいだろう!」
(これ以上は、仕事にも影響するだろうからな。)
「お前ら、憤怒の魔王と闘ってみてどうだった?」
立ちすくむ三人に、俺は感想を聞いてみたが悔しくて堪らないのだろう。終わりを告げたとたん片膝を地面についた。
「チクショーが!」
「クソっ!何もできなかった!!」
「出来なかったんじゃない。させてもらえなかったのだ……。我らは弱かった…。ただ、それだけだ…。」
「憤怒の魔王ラス=ギャレット、傲慢の魔王ヴァン=スピリタス。この両名は、ハッキリ言って俺が足元にも及ばないほど強い。他の魔王達もそうだ。闘えば良くて引き分けが関の山だろう。俺が勝てる道理が無いほど魔王達は賢く強い。」
「主よりも、ですか………。」
「ああ。俺は魔王の中じゃ最下層だ。」
「マジかよ……。旦那が足元にも及ばないほどって………。」
「お前達だけが弱いから鍛えてもらう意味でラスに頼んだんじゃない。俺はな、皆を家族と思ってる。だから皆で強くなりたいんだ。国や街の皆を守る為、俺は強くなれるのなら泥水だって喜んで啜るさ。家族や仲間や民の為に強くなる。その先陣をお前達に任せたいんだ。魔王に鍛えて貰う機会なんて滅多にないから、いい経験になるしな。」
「チッ……。分かったよ。旦那より強くなっても知らねぇぞ。」
「そりゃ楽しみだ。」
魔王の前に平伏す事になったブライ、ラゴール、ゾルの三人だったが、その強さに対して納得したのだった。
「話は終わったか…………?」
三人と闘いの後に話していた俺にラスが声をかけてきた。
「終わったよ。こいつらも、お前についていくって言ってくれたよ。」
「うむ………。ならば、先程俺が感じた事を伝える………。まず黒髪人馬。貴様は双剣を使っていたな。素早さを生かす為なのだろう。それは分かるが馬背がガラ空きだ………。それでは、貴様より素早い敵に出くわした時、弱点になる………。双剣では敵の刃から背中を守るには短い……。得物を変えろ……。」
「双剣を…ですか……?」
「あぁ………。そうだ………。七尺(210cm)程度の武器が良いだろう………。」
「使い慣れた剣を捨てるのはちょっと……。」
「強くなりたいのだろう…………?」
ブライは少し考えたが、「強くなれる」という魔王の言葉で決心した。
「わかりました…。ご教授お願いします。」
「うむ………。次に片角大鬼………。大鉈という変わった武器を上手く扱えてはいる。武器を使った守りも雑だが、まぁ及第点だ………。しかし、敵に武器を弾かれた場合や破壊された場合、どう対処する………?」
「そんなもん、拳があるじゃねぇか!」
「そうだ………。たが、拳闘が効かない相手もいるだろう………。そこで貴様には魔法を覚えてもらう………。」
「うっ………魔法かよ!?」
「そうだ………。魔法を使えれば攻撃のバリエーションが増え、色々な対策が容易だ………。死にたくなければ覚えることだ………。」
「マジかよ!! しょうがねー、教えてくれ!!」
「長髪小鬼王。貴様は、他の二人よりも力が強い……。ならばそれを生かすに越したことはない………。だが、力任せの攻撃は隙を生む。魔力が少ないのならば知恵と器用さと身軽さを磨け。」
「考えながら戦えってか?無理だぜそんなもん!」
「少ない脳みそをフルに回転させろ…………。二人に置いていかれたくなければな…………。。」
「ちっ………。わかったよ………。」
ラスが闘いのアドバイスを送くった三人は、嫌がりながらもちゃんと言うことを聞いていた。ブライは武器を変更、ラゴールは魔法習得、ゾルは頭を使った戦方。
不思議と三人は素直にラスの言うことを聞いている。
『強きに従え。従わぬなら強くたれ。』
戦う者にとって、この世界の常套句でもあるその言葉が心に染み付いているからだと後にブライが言っていた。
話が終わると、ラスは謁見の間の右奥にある石柱の方をジッと見ていた。
「おい…………。」
ラスは石柱に向かって話しかけた。
「早く出て来い…………。殺すぞ………。」
そっと、石柱の影から出てきたのは、ラスと闘うことを放棄したプリズナーだった。
その姿は、蛇に睨まれた蛙のようにビクビクしており、顔から噴き出す脂汗が止まらない様子だった。
「はいー!!!!」
「あっ!プリズナー!!」
「てめぇー!隠れてやがったのか!!」
「……何を考えてるだお前は……。」
ラゴール、ゾル、ブライがプリズナーを見てすぐに荒げ声を上げたり、溜め息混じりの情けない声を出した。
「貴様……。対策を立てる為、敵の力量を計り退く事は戦略的には理解できる……。が、貴様のした事は敵前逃亡に等しい!貴様の性根を叩き直してくれる!!」
「えーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「五月蝿い………。貴様は、まず壊れたこの部屋を貴様が修理しろ…………。わかったな………。」
「そ そんなー……。」
ラスは、プリズナーにそう告げた後、俺にも向けて……。
「お前もだジル……。部下を甘やかしすぎだ。貴様も共に修理をしろ!それと、演技が下手すぎる………。上に立つ者ならば、そういう事も出来るようにしておけ……。」
「………うそぉん………。」
ラスは、全て理解しての行動していたのだ。
闘いを見ていた幹部や他の者達へ、敵から尻尾を巻いて逃げたり、下手な庇い立てをすればこうなるぞと見せしめる意味で俺とプリズナーは、皆の前で晒された。
結局、ラスの掌の上で上手く転がされていたのだった。




