1・魔物大臣、現る現る
ピョンスロット側の語り。
つまり、姫を守ってどったんばったんする話です。
明け方であった。
私は、漬物樽の上で仰向けになり、すぴーすぴー寝ていたらしい。
何者かの気配に、ハッと目覚める。
すると、腹の上に掛けられたタオルケットがはらりと落ちた。
「我がしゅくんとなった、ひめがかけていったのだな。やさしい方だ」
私は、タオルケットを腹巻きのように身体にくるくる巻き付けた。
姫の心遣いだ。
お腹から風邪を引いてはいけない。
「私のはたけに、なにものかが入ってこようとしているようだな」
ぴょんと樽から飛び降りると、頭上より羽音が響いた。
ヴィヴィアンだ。
夜は彼女の時間なのだ。
「ホッホーウ」
「こちらに近づくかげがたくさん? オレンジの頭ということは、このあいだのカボチャだろう」
「ホッホーウ」
「ほかにひとり、へんなのがいた? はいいろの顔をしていて、ずんぐりむっくり。ふむ、それはおそらく、まじょの手下だな。かれらはこっちをのぞいていた。私がそれを、キャロンダイトでコツンとやってやったからな」
私は腹巻きから、キャロンダイトを抜き放った。
どれ、出迎えてやろう。
ぴょこぴょこと歩いていくと、街道側からどやどやと入ってくる人影がある。
「いきなりのほうもんか、まぞくたちよ」
私はキャロンダイトを地面に突き立て、堂々と言い放った。
「ウサギだ!」
「本当にウサギが喋ってる!」
「落ち着けカボチャたちー! おお、確かにお前は、シュネーケ様の鏡を壊したウサギ!」
カボチャ達の先頭に立って、私を指さしているのは、ずんぐりとした体格で灰色の顔の男だ。
豪勢な貴族らしい衣装を身につけているが、似合っていない。
どこかニンジンみたいに真っ赤なとんがり鼻から、彼はプスーッと鼻息を吹いた。
「お前のせいで、シュネーケ様はお怒りなのだ! おかげでこのベジマイ、せっかく大臣になったというのにこうして兵を率いてわざわざだな……」
「おかえりねがおう。ここから先は、私のはたけだ」
「ななな、にゃにおう、このウサギめ! 私の話を遮るとは、ふわもこの癖に生意気な! お前たち、このウサギをジビエにしてしまえい!!」
「ジビエ大好き!」
カボチャ達が歓声を上げた。
手に手に剣や槍を振り上げて、私めがけて襲いかかってくる。
「おおかた、お前たちのねらいはひめだろう! だが、かのじょは私のしゅくんだ。お前たちはだれひとり、ひめのもとにはたどりつかせぬ!」
私もまた、地面を蹴る。
ウサギの身体は、私に素晴らしい跳躍力を与えてくれる。
一跳びで、カボチャ達の足元まで飛び込んだ。
「あさのキャロンダイトは、しょうしょう歯ごたえがちがうぞ! 味わっていくがいい!」
文字通りの意味だが、明け方のキャロンダイトはパリッとしていて歯ごたえが素晴らしい。
つまり、破壊力に於いて昼よりも高い威力を発揮するのだ。
振り回したニンジンが、次々にカボチャたちを吹き飛ばしていく。
「うわあーっ!?」
「ダメだ、ウサギが小さすぎて狙えない!」
「押すな押すな!」
「押してるんじゃない! これ以上進むとニンジンが、ニンジンが……ぐえーっ!」
カボチャの一人を、パカーンと砕いた。
飛び散るオレンジ色の野菜をキャッチし、素早く齧る。
いい味だ。
「ええい、何をしとるかあ! 相手はたかがウサギ一匹だぞ!」
「大臣、ウサギは一羽って数えるんですよ」
「うるさいよ!?」
敵の統率はなっちゃいない。
私は当たるを幸いに、カボチャたちをなぎ倒す。
「ぎょえーっ」
ベジマイと名乗った男を残し、最後のカボチャまで私のニンジン捌きの前に打ち倒された。
「ぐぬぬ……!! つ、強い! シュネーケ様の魔力で強化されたカボチャ兵ですら歯が立たんとは……! こうなれば、直接にショコラーデ姫を狙う!」
「むっ、やはりひめがねらいか! させんぞ!」
私はニンジンを咥えながら、ぴょーんとベジマイに向かって飛び掛かった。
だが、ベジマイはそのずんぐりむっくりに似合わず、身軽な動きで空に飛び上がったのだ。
「わはははは! わしはな、空を飛べる魔族なのだ! 数え方は一羽二羽でも、ウサギは飛べまい! そこで姫がわしの手にかかるのを、野菜でも食べながら眺めているがいい!」
ベジマイの背中に、コウモリのような翼が生えている。
手足や爪も伸びて、人間のようだったベジマイは、完全な魔物になってしまったようだ。
あれは……ガーゴイルか!
「いかせぬぞ!」
「わはははは! そうしてぴょんぴょん跳んでいるが、どんなに跳ねてもわしには届くまい!」
「はたしてそうかな? ヴィヴィアーン!!」
私は素早くキャロンダイトを齧ると、笛状に穴を開けてピーっと吹いた。
白い翼が、私の呼び声に応えて現れる。
「な、なにいーっ!? ふくろうに乗って……いや、背中を掴まれてぶらーんとぶら下げられただと!?」
「かくごせよ、ベジマイ! とあーっ!」
私は裂帛の気合を上げながら、キャロンダイトをピュンピュン振り回した。
穴の空いたキャロンダイトが、ヒョロローッと音をたてる。
ベジマイはこの音に、ビクッとして一瞬動きを止めた。
聖剣が奏でる音は聖なる音なのだ。
魔族達の動きを妨げる力がある。
「う、う、うわーっ!!」
動けず、叫ぶばかりのベジマイの頭に、キャロンダイトがポカポカと当たった。
ベジマイは空飛ぶ力を失い、地面めがけて一直線に落っこちていく。
「お、覚えていろよウサギめえー!! 今度はこうはいかないからなーっ!!」
「にがすか! ……なにっ」
追撃しようとした瞬間だ。
落下するベジマイの横の空間に穴が空き、真っ白な腕が突き出してきた。
それが彼をむんずと掴まえると、穴の中に放り込んだのだ。
穴から顔を出したのは、血の気が通わない顔をした、恐ろしい目つきの女だ!
「ウサギの騎士!! この魔女シュネーケに楯突いたことを後悔させてやるわ! ベベル・ババル・ノウマクモウマク……!」
「まじょが来たか!」
突然の魔女襲来に、私は身構える。
魔法の呪文詠唱が始まっている。
この距離からでは、詠唱を止めるには間に合わない。少々分が悪いか……!
だが、その時である。
「チンチラ・チラチラ・カリフラワー!」
下からも、謎の呪文詠唱が始まった。
シュネーケからは、もやもやとした黒い塊が吐き出され私に襲いかかる。下からは白い塊が吐き出された。いや、あれは塊じゃない、カリフラワーだ!
カリフラワーは、私を守るように飛び上がってくると、黒い塊を真っ向から振り払ったのだ。
「これはまさか、聖なる魔法……!? なんてこと! 魔法使いまでいるとは!! ええい、覚えておいで!!」
捨て台詞を吐くと、魔女シュネーケは姿を消してしまった。
辺りは静寂に包まれる。
だが、私は気を抜くことが出来ないでいた。
魔法を使える、何者かが下にいるのだ。
「なにものだ!」
「何者だ、とはご挨拶だねえ。お互いに名を忘れてしまったが、僕だよ。魔王殺しの騎士よ」
どこかで聞き覚えのある声と共に、茂みから、青くて丸いものが姿を表したのだった。




