そしてふたごとリスの騎士
頭上から降り注いでくる、焼き菓子の雨。
ココア姫とナーデは、これを盾で受けながらスポンジケーキの階段を上っていく。
「な、なんですのこれー!!」
「きっと、魔女が大暴れしてるんですよ姫様! あぶないですから下で待ってましょうよう」
「そうは行きませんわ!! どうぶつ騎士ならともかく、子どもも二人いるのですわよ!」
「姫様、そういうところ真面目ですよねー。私もそこは同感ですけどっ」
ナーデが大きな盾を抱えつつ、ずんずんと先を行く。
ぼんっ、ぼんっと当たってくるスポンジケーキは、無限に降り注いでくるとなると結構な重さだ。
そこを、侍女のナーデがぐっと踏ん張る。
のしかかるお菓子を、右に左に振り払う。
その後ろから、聖剣カーフェナを抜いたココア姫がずんずんとやって来るのだ。
「姫様っ」
「なんですのっ」
「上から甘い匂いが降ってきて、下からは姫様の聖剣がよい香りを漂わせてきます! お、お腹がっ」
「お腹が減りましたわね……!」
真面目な顔でそんなやり取りをしながら、二人はまっすぐに魔女の工房を目指す。
すると……。
「むわー」
白くてふわふわしたものが、盾の上に降ってきた。
それは、「ぼよん」と弾むと、盾を飛び越えてナーデの頭でまた「ぼよんっ」
ココアの胸元に落っこちてきたのだった。
「ピョンスロット卿!? まさか、卿ほどの方が落っこちてくるとは……ああ、いえ。うっかりして落っこちたのですわね」
「むうー、私のしんようが! いや、それどころではない。上では、まじょめがついにほんきをだしてきたのです。このまま上にむかってくだされ!」
「もちろんですわ! ナーデ、どうやら頂上は近いようですわよ!」
「はい、姫様! むおおおおー!!」
ナーデは気合の声をあげると、どんどんと上がっていった。
そしてついに、魔女の工房に到着。
床一面を覆うお菓子と、流れてくるお菓子の上でテコテコと走っているうりぼう。
うりぼうの上には、リスの騎士。
「無事ですの、ボーリス卿!」
「うむ、せっしゃはぶじでござる! だが、おかしのほんりゅうで、むねやけがして……うっぷ。ヘーゼルとグレーテのふたり、たのむ……!」
ボーリスが口にした双子の名前。
そういえば、一緒に上ってきたはずの子どもたちがいない。
ココア姫は周囲を見回す。
すると、奥には大きな大きな窯が現れていて、そこからお菓子があふれ出してくるのだ。
そしてお菓子の中を、かき分け、つまみ食いしながらどんどん突き進むのは……。
「ええい!! そうだ、忘れていたよ! 子どもには、アテのお菓子が通じないんだ! だから獣人にしたというのに!」
魔女の向かってくるのは、ヘーゼルとグレーテの双子。魔女に向かってくるのは、
お菓子大好きな子どもには、魔女の魔法が通じない。
「獣人よ、出ておいで!!」
魔女フォクシーは大きく手を振り回す。
すると、彼女の周りにトラ、クマ、オオカミの獣人が現れた。
「ひゃー! 獣人だあ!」
「こ、こ、怖くないぞお!!」
勇気を振り絞る双子。
そんな彼らをこのままにはしておけない。
「ナーデ! 盾を上に構えるのですわよ!」
「は? はあ。ほいやー!」
「行きますわよぉ!! とおーう!!」
ナーデのスカート状になった鎧を駆け上がり、跳び上がるココア姫。
上にかざされた大きな盾を足場にしてジャンプ。
獣人たちの間に降り立った。
聖剣カーフェナが唸りといい香りを上げる。
「あっ、いい匂い!」
「ぐわあっ、いい匂い!」
次々に倒される獣人たち。
「さあ、獣人はまかせるのですわよ!」
「うむ! いくのだ、こどもたちよ!」
ココアの頭から跳ねたピョンスロットが、近づいていた獣人をポカポカ叩く。
いきなり乱入して来た一人と一羽に、びっくりしていた双子。
だけど、すぐに気を取り直したようだ。
「よっし、いくぞおー!」
「いきまーす!」
またまた、お菓子をかき分けて魔女に突き進む。
やがて、お菓子は途切れ、魔女の目の前にやって来た。
「ぬううー!! こ、子どもがアテのところまでやって来るなんて! だけど、子どもに何ができるんだい!」
「むっ」
魔女に言われて、難しい顔をするヘーゼル。
だが、グレーテは少し考えた後、続けた。
「できます! 弱くっても、できることあります! お窯のふたをしめたりとか!」
「な、なにっ」
フォクシーが動揺する。
「魔女なのになんて分かりやすい!?」
「いや、あいてが子どもだからと、ゆだんしていたのだ! いいぞ、ふたりとも!」
「はーい! お兄ちゃん!」
「おう!」
ヘーゼルが窯に向かって走った。
慌てて立ち塞がる魔女は、ヘーゼルの腕をつかみ上げた。
「やらせるものかい!! なんなら、この場で食べてやるわ!!」
魔女の姿が、どんどん大きなキツネに変わっていく。
口は耳まで裂けて、その中から真っ赤な舌が炎のようにチロチロとのぞく。
「うわー!?」
「お兄ちゃん! う、うううーっ!」
グレーテが、床をがんがんと踏みしめた。
「グレーテどの!!」
ボーリスの声が響く。
「まじょの手はふさがった! まじょのうしろには、かまがあるでござる!! グレーテどの!」
「ぶーいー!!」
「わっ……わかりました! やります!!」
グレーテは決心したように目を見開く。
そして、走り出した。
小さな体全部で、魔女のお腹に体当りする。
「うっ!? こ、子ども、お前ー!!」
バランスを崩してよろける魔女。
その体がお窯に近づき、尻尾が熱い窯の中に突っ込まれた。
「ぎゃ、ぎゃあーっ!?」
魔女が叫ぶ。
尻尾で窯は塞がり、お菓子の流れは消えた。
「いまでござる!! えいやー!!」
ボーリスが、グレちゃんの上からジャンプした。
「ボーリス卿、どうぞ!」
ナーデが盾を足場にする。
そこを踏みつけて、ボーリスはまたジャンプ!
「えいやー!」
ついにリスの騎士は、魔女の頭上までやって来る。
「ボーリスさーん!!」
魔女の足にしがみついたグレーテが呼ぶ。
魔女の手には、未だにつかまれたヘーゼル。
このままでは、魔女をやっつけられない。
ならば下から!
ボーリスは、グレーテの頭の上に着地する。
「ボーリスきょう! まおうのまほうをとくのだ! グレーテじょう! どこでもいいのでボーリスきょうにチュッとやるのですぞ!」
「えっ、ええ!?」
いきなりピョンスロットが言ってくるものだから、グレーテは慌てた。
「いつまでくっついてるんだい!」
魔女はその隙に、グレーテを振りほどく。
弾き飛ばされたグレーテ。
眼の前に、ボーリスのふわふわ尻尾がある。
「チュって、やる……! やります!」
グレーテはぎゅっとボーリスを捕まえると、「むぎゅう」その尻尾にキスをした。
すると、リスの騎士の全身が、金色の光に包まれる……!
あまりの眩しさに目を閉じたグレーテは、誰かに抱きとめられたのを感じた。
それは、大きな体の男の人だ。
「まさか、この姿に戻れる時が来るとは思わなんだ。これが一時の事であろうと、今ならば拙者の力を存分に振るえよう」
「ボーリス、さん?」
「感謝でござる、グレーテ殿。今、終わらせてくる」
そう告げると、男はグレーテをそっと下ろし、疾風のように魔女に向かって突き進んでいく。
「ぶもー!!」
その横を、猛風が走った。
それは、ボーリスと共に大きくなったうりぼう。
自分の背中に乗れと、ボーリスを促す。
「良かろう、行くでござるぞ、グレ!」
大きなイノシシの背にまたがる騎士の鎧は、チョコレート色をしていた。
同じ色のイノシシと騎士、一つの風になって魔女に立ち向かう。
いよいよ、魔の森を巡るお話は終わりに差し掛かった。




