遭遇、ノームのこと
あたしは、こそこそっと草むらに隠れようとしました。
「ん? どうしたんだグレーテ! 離れたらあぶないだろー!」
「お兄ちゃんこっち来ちゃだめ!」
「だめってなんだよ! 僕はグレーテのこと心配してるんだぞ!」
お兄ちゃんは怒った顔をします。
だけど、ダメなものはダメなのです!
「ヘーゼル、これはひょっとしてひょっとするぞ」
「わかるんですか、ししょー!」
「うむ。トイレであろう」
「ばかー!!」
あたしは、デリカシーがない男の子たちにカンカンです。
とにかく、ごそごそと影にかくれました。
トイレしたりとか、色々、女の子は大変なのです。
あたしがぷりぷり怒りながらしゃがんでいたら、ごそごそっと横合いが揺れて、グレちゃんが顔を出しました。
「ぶぶ?」
「だめよグレちゃん! ……って、あれ? 紙を持ってきてくれたの?」
「ぶいー」
どこから持ってきたのかな?
でも、ちょうど紙がいるところでした。
あたしはグレちゃんに感謝しながら、紙を使います。
さあ、下着をはいて、スカートをおろして……。
「なんじゃなんじゃ。随分でかい娘っ子がおるのう」
そしたらいきなり声がしました。
「きゃっ、きゃー!!」
あたしは思わず、思いっきり叫びます。
向こうもびっくりして、「うわっ、うわーっ!!」って叫びました。
丸くて、もこもこしたものがころんと転がります。
あれあれ?
あれはまるで、丸っこい小さいなおじいさん。
その姿は、あたしが絵本で読んだ、妖精のノームにそっくりです。
「どうしたでござるかー!」
そこへ、枝から枝を跳び渡って、ボーリスさんが駆けつけました。
リスの騎士さんは、あたしの前で転がっている小さいおじいさんを見ると、
「むむむ、くせものーっ」
と言いながら、木の枝を取り出します。
これをカリカリカリとかじると、あっという間に木の枝は短剣みたいな形になりました!
「うわーっ、待て、待つのじゃー!」
小さいおじいさんは慌てて起き上がり、両手をバンザイして降参のポーズをしました。
「むっ、こうさんか。まけをみとめた相手を、きしはこうげきしないのだ」
案外物分りのいいボーリスさんが、枝からぴょいっと降りてきました。
あたしの頭の上に、ストっと立ちます。
「それで、おぬしはなにものだ? 今、グレーテじょうがおしっこをしていたところでござるぞ」
「ボーリスさん! もー!! ばかばか!」
「むむむ!? なにかせっしゃはまちがったことを!?」
「そりゃあ仕方ないのう。デリカシーっちゅうもんが無いんじゃよ、そこのリス殿。申し遅れたな。わしはノーム。わしらの村の入口で、何やらじょろじょろ音がすると思って顔を出しに来たんじゃ」
「もー!!」
みんなみんな、さいってーです!
遅れてお兄ちゃんがやって来て、みんながそろいました。
ノームさんは、昔からこのあたりの地面の中でくらしていたそうです。
「だけどのう。いきなり魔女フォクシーがやってきてな。わしらの村の上に森をこさえてしまったんじゃ。フォクシーは恐ろしいし、手下はわしらをおやつ代わりに食べてしまったりする! じゃから、わしらは見つからんように、こっそりこっそり暮らしておるんじゃ」
「ノームっておいしいのかあ」
お兄ちゃんがじいっと、ノームさんを見ました。
ノームさんが、ぶるるっと震えます。
「美味しくない! 全然美味しくないぞい! じゃから食べるのは勘弁してくれえ! ……そうじゃ、美味しいと言えば、お前たちは人間の子どもじゃろう? なんで魔の森を歩き回っておるんじゃ?」
「それはね、あたしたち、いけにえになる所だったんだけど、ボーリスさんに助けてもらったの」
「そうだぜ! ししょーは、すっごく強いんだ!」
「ほう、この喋るリスがのう……」
「ためしてみるかね」
ボーリスさんが不思議な構えをしました。
短い片足で立って、もういっぽうの足を相手に向けています。
尻尾でバランスをとりながら、いつでも相手に向かって飛び込める、そんな姿に見えました。
「いやいやいや! 冗談じゃよ! わしらノームに戦う力なんぞ無いわい! わしらは土の下を掘って、それでキノコを育てて暮らしておるんじゃ!」
ノームさんが慌てます。
「きしのじつりょくを、うたがうものではないでござるぞ」
「悪かったわい。そうじゃな。このリス殿が強くなければ、子どもたちが魔の森を歩ける道理がないわい。それで、おぬし、騎士とか言ったか」
「いかにも。せっしゃはきしにござる」
「リスの身で馬に乗るんかね」
「せっしゃの馬は、今はグレにござる。はいよー!」
「ぶぶー!」
ボーリスさんの声に合わせて、グレちゃんが鳴きます!
そして、ぽてぽてぽてっと走ってきたグレちゃんの上に、ボーリスさんがひらりとまたがりました。
もふもふともふもふの夢のコラボ再びです!
「ボーリスさんとグレちゃんを見てると、あたし幸せになっちゃう」
「そうかー? 僕はこう、ししょーみたいに騎士になりたいなーと思うけど」
男の子には、女の子の気持ちはわからないのです。
お兄ちゃんはまだまだ子どもだなあー、なんて思うあたしなのでした。
その後、ボーリスさんがグレちゃんと一緒に、走り回ったり技を見せたりします。
ノームさんはすっかり、ボーリスさんが強いんだっていうことに納得したみたいでした。
「なるほど、大したもんじゃ!! そもそもなんでリスが喋ってうりぼうに乗るのかはサッパリ分からんが、どうやら凄腕らしいことは分かった! どうじゃ、わしらの村に来ないか?」
「おぬしの村に?」
ボーリスさんがピョインと降りてきました。
並んで立つと、ノームさんとボーリスさん、背丈が同じくらいです。
「いかにも。いかにお前さんが強かろうと、子供二人を連れて魔の森を抜けるのはきつかろう。わしらノームの村を使えば、魔の森のあちこちに出られるぞ!」
ノームさんが示したのは、あたしがしゃがんでたところのすぐ先でした。
そこには大きな石があって、それがちょこっとずれて、跡には穴が空いています。
「ノームの、村……!」
魔の森から、地下世界へ。
あたしたちは向かうことになったのです。




