魔の森行進曲
「行きますわよ!」
「ああーん、待ってくださいよ姫様ぁー」
どたばたと走るココア姫と、後についていくナーデ。
そしてピョンスロットは、ナーデに抱っこされつつ楽をしていた。
突然走り出した一行が、沈んだ雰囲気の村で目立たないわけがない。
「おいおい、どこに行くんだ!?」
入り口で会った村人の男性が走ってきて、一行を呼び止める。
ウサギが喋ってびっくりして逃げたが、後々考えてみたら、小さいウサギが喋っても怖くないということに気付いたらしい。
ココア姫は立ち止まると、彼に向かって胸を張った。
「もちろん! 魔女の手下とやらが出たという、雑木林に行くのですわ!!」
何を当たり前のことを聞くのだ、と言わんばかりの彼女。
「いやいやいや! 待ってくれよ! 君たちは、女の子ふたりに喋るウサギじゃないか。そんなの、危なくて行かせられないよ! だって、魔女の手下には王国の兵士でさえ何もできなかったんだぞ?」
「あら、わたくしたちをただの姫騎士とその仲間とウサギだと思っていらっしゃるの? ご心配は無用です!」
「姫様、ここは心配されてることですし、私たちは兵士のみなさんがやってくるのを待つことに……」
「だめよ! いきましょう!!」
「ひいー」
ナーデを引っ張ってぐいぐい行くココア。
村の男の人も慌てて止めに入るのだが、やる気に満ちたココアの勢いが止まらない。
「おーいみんな! 助けてくれえ! この女の子たちを止めるんだあ!」
ついに男は仲間を呼んだ。
村からわいわいと、村人がやってくる。
その間にも、ココアは村の男とナーデを引きずり、どんどん雑木林に向かっていく。
ちょうど間が悪く、林から魔女の手下がひょっこり現れた。
「へっへっへ、この村は次の生け贄まではまだ早いが、ちょっと味見を……」
魔女の手下は、鹿男。
鹿の頭をした大男で、彼の姿を見た人間たちは震え上がる。
だけれど、今日はちょっと勝手が違った。
銀色の鎧を着た女の子が、黒い鎧の女の子とウサギを引き連れて、どんどんこっちにやって来るのだ。
その後ろには、たくさんの村人たち。
「な、なんだ!?」
おかしな状況に出くわしてしまい、鹿男は一瞬頭の中が真っ白になった。
「出ましたわね、魔女の手下! 成敗ですわ!!」
魔女の手下を確認するやいなや、ココアは走り出す。
その手に握りしめたのは、ボンボン王国の宝剣“カーフェナ”。
切っ先がない変わった形の剣で、淹れたての紅茶の香りがするという業物だ。
いきなり振り下ろされてきたこれを、鹿男は慌ててよけた。
「あっ、いい匂い!」
「ええい、よけましたわね!」
「ふふふ、そんなにいい匂いをさせていては、ここから攻撃しますと言っているようなものだぞ小娘」
紅茶の香りでリラックスした鹿男は、余裕を取り戻していた。
よくよく見れば、冴えない村人たちと、武器を持っているのも年端もいかない少女二人ではないか。
黒い鎧の女の子など、「あわわわわ」とか言いながら立ち止まっている。
その腕から、ウサギが「よっこいしょ」とか言いつつ抜けてきているのだが、ウサギに何ができよう。
「わたくしが成敗しますわ! そこに直りなさーい!!」
ココアが、ぶんぶんとカーフェナを振り回す。
だけれど剣は当たらない。
まともに実戦したことがない彼女が、百戦錬磨の魔女の手下に剣を当てるのはとてもむずかしいのだ。
「ふふふ、小娘、少々育ちすぎているが、ギリギリフォクシー様も気に入って食べるかもしれん。お前をつれて行こう……」
「育ちすぎとはなんですか! ええい、何をするのですー!」
一転しておそいかかってきた鹿男。
ココアは退却という言葉を知らないので、カーフェナをぶんぶん振り回して抵抗しようとした。
「ひめ、そのまま!」
鋭い声が響いた。
ポテポテポテッと地面を駆ける足音。
「ピョンスロット卿!?」
「いかにも。とあーっ!」
あっという間に追いついたピョンスロットが、ココアの背中を駆け上がって、頭の上に。
「わっ……わたくしをふみだいにー!!」
「ちょうどいい高さのあたまでしたな! 行くぞまものめ! とああーっ!」
ココアの頭を足場にジャンプしたピョンスロットは、目にも止まらぬ速さでニンジンを抜く。
これこそ、聖剣キャロンダイト。
かじってもかじってももとに戻る、魔法のニンジンにして、魔物たちの天敵とも言える聖なる野菜。
「なっ!? ウサギ、お前いつの間にーっ!!」
鹿男が驚きに目を見開いたところを、ピョンスロットはニンジンでポコンと叩いた。
「ぎょえーっ!」
鹿男の全身にヒビが入る。
そして、ぱりーんっと乾いたものが砕ける音がして、鹿男は元の姿……チョコがけビスケットに戻り、割れてしまったのだった。
「魔女の手下が!!」
「女の子たちとウサギが、獣人をやっつけたぞ!」
「魔女の手下は無敵じゃないんだ!」
驚きが、次いで、明るい感情が村人たちの間に広がっていく。
彼らが目の前で見たのは、今までどうしようもないと思っていた、恐ろしい魔物が倒される姿だ。
倒すことができるのだ。
それはもう、どうしようもない恐ろしいものではない。
どうにかできるものだ。
「みよ! まじょのてしたは、このピョンスロットがたおしたぞ! ひとびとよ、くわとかすきとかを持つのだ! まじょはやっつけられるぞ!」
ココアの頭に着地したピョンスロットは、朗々と語りながら高らかにキャロンダイトをかかげた。
おおおーっと、村人たちが歓声をあげる。
「ピョンスロット卿かっこいいー!」
ナーデも大喜び。
一人だけ、ココア姫だけはむくれていた。
「わっ、わたくしがやるはずだった美味しいところ、みーんな持っていかれましたわっ……!」




