3・とびだせ家臣たち!
「ふう……お恥ずかしいところをお見せしました」
イングリドはちょっと目元と鼻を赤くしてますけれど、いつもの彼女に戻りました。
「姫様がご無事だったことは、とても嬉しいのですよ? ですけれど、一国の王女ともあろうお方が、そのような殿方のなさるような旅の身なりというのは……。オマール王子様がご覧になったらなんとおっしゃるか」
「あらイングリド。オマール王子様も一緒に来ていますよ。今、わたくしは毒で眠らされて、こうして夢の世界にいるだけなのです」
「待ってください姫様!! 今、とても重要な情報がサラリと二つ語られた気がするのですけれども!!」
イングリドの目が三角形に吊り上がりました!
わたくし、今とっても墓穴を掘った気分です!
手近にいらっしゃったパーシハムさんをぎゅっと握り、わたくしとイングリドの隙間に差し出します。
「うおー! ひめさま、お、俺をたてにーっ! チュー!」
わたくしの手の中で、パーシハムさん大暴れです。
ふふふ、わたくし、この手に掴まえたもふもふは決して逃さないのです!
指先の巧みなもふもふで、すぐさまパーシハムさんを鎮圧します。
「ぬうー。ナイトリーダーをもかんらくさせる、もふもふのわざ。おそるべし……」
パーシハムさんが、お腹を見せてひくひくしています。
彼はちっちゃくてムニムニしているので、思わずもふもふを続行してしまいたくなる、魔性の触り心地です。
三騎士の皆さんは、みんな違ってみんないいですねえ……。
「姫様!」
あっ、イングリドを忘れていました!
わたくし完全に忘れていました!
「まあ、いいでしょう。あの、マイペースでふわふわされていたショコラーデ姫様が、私たちを助けに来て下さったのです。それに、こうして向かい合っているだけで、私は貴女が一回りも二回りも成長なさったことが良くわかります」
イングリドが、優しい声を出します。
なんでしょう。いつもわたくしを叱っている彼女らしからぬ声。
わたくし、不思議そうな顔をしました。
「姫様、そんなポカーンと口を開いてはいけません! 姫様は、私たちを助けに来ただけではないのでしょう? 不肖このイングリド。そして、城の者たちは、ショコラーデ姫様に協力いたします!」
イングリドは、ついてきてください、とわたくしの手を取ります。
そして、扉に手をかけました。
「ここは、いつまでも時間が過ぎない不思議な場所。姫様が夢の世界だと仰られて、やっと得心がいきました。そして、部屋には魔法の鍵がかかり、外からは入れないようになっているのですが……姫様は、抜け道を使って入ってこられました。これはきっと、抜け道だからという理由以外に、姫様はこの世界を自由に行き来できる力をお持ちなのではありませんか?」
「はい、真実の鏡がここにあります!」
わたくし、背中にくくりつけていた鏡を、どーんと出しました。そうしますと、鏡は扉を映し出すや否や、掛かっていた魔法の鍵をたちまちのうちに解いてしまいます。
かちゃりと、ひとりでに扉が開きました。
「まあ……! これならば皆を解放できるでしょう。さあ、参りましょう姫様!」
「ええ! 助けにいきましょう!」
わたくし、イングリドと共に気合を入れました!
あんまりにも気分を盛り上げたので、大きな声が出てしまいました。
「どうしたどうした」
どやどやと、野菜の兵隊たちがやって来る音がします。
やってしまいました!
わたくしとイングリド、慌てて逃げ出します。
「姫様、大声はいけません……! はしたないですし、それにここは今や、あの魔女シュネーケの手の内です……!」
「はい! あまり大きな声を出さないようがんばります!」
「声が大きいです……!」
いけないいけない。
わたくし、気分が盛り上がると声がとっても大きくなってしまいます。
これは注意しないと……!
「よし、ひめさまがこえを出しそうになったら、俺がひめさまのお口にはりつこう」
パーシハムさんから素晴らしい提案です!
では、この件はこれで解決ですね。
イングリドが首をひねっていますが、どうされたのでしょう。
今はとにかく、みんなを解放しなくてはなりません。
わたくし、次々と、閉ざされた扉を開いていきます。
ある扉の中では、騎士の皆さんが、命を得た掃除用具の方々にお尻を叩かれ、ひいひい言いながら床を拭き掃除していました。
「何をなさっておいでなのです?」
『ショコラーデ姫様!! 私たち掃除用具は、いつも汚すばかりでお掃除をしない騎士に腹を立てていたのです! こうして掃除の大切さを教えています!』
「まあ! お掃除は大切ですね! わたくし、雑巾がけもモップがけも、ハタキも箒もちりとりも、みんな大好きです! 綺麗になるのは気持ちいいですものね! でも、今は騎士の方々を許してあげてください! わたくしが代わりにお掃除をしましょう!」
わたくしがそう言いますと、掃除用具の方々は、柄のところに付いたお顔の目をうるうると潤ませるのです。
『そう言えば、ショコラーデ姫様はイングリド殿にお仕置きされて、いつも我らを使ってお掃除しておられた……!』
『ショコラーデ姫様、我々は姫様についていきますぞ……!』
「はい! では、騎士の皆さんと一緒にわたくしを手伝ってください!」
騎士の皆さんは、わたくしに感謝しながら立ち上がります。
そして、迫ってくる野菜の兵隊たちと向かい合うのです。
『野菜の兵隊には、普通の武器は通じません! ですが、我々は命を持ったお掃除道具! 魔法のお掃除道具です! 我々を使えば、野菜の兵隊と戦えます!』
騎士の皆さんと、お掃除用具の方々の共同作業です!
彼らが、野菜の兵隊を食い止めてくれることになりました。
わたくしたちは、次の場所へ急ぎます。
次に来たのは、調理場でした。
コックさんに、調理助手の方、それに調理道具の皆さんが、顔を寄せ合って不安そうでした。
わたくしが登場すると、皆さんがわーっと喜びます!
「ショコラーデ姫様が来てくださった!」
『わしらで調理されたものを、いつも美味しそうに召し上がる姫様が来てくださった!』
『ぜひ今度は、できたての温かい料理を召し上がってください!!』
調理場の皆さんも、野菜の兵隊たちに立ち向かってくれます。
「ヒューッ、すげえな。ひめさま、あんたほんとうにしろのみんなに好かれてるんだな! あきらかに好かれるりゆうがひめっぽくないが、そこがプラスになってやがる!」
「私も、王女としていかがなものか……と思ったことが何度もありましたが、まさかこのような形で、皆の心を掴んでいらっしゃったとは……」
むふふ、パーシハムさんと、イングリドの尊敬の視線が気持ち良いです!
わたくしとしては、ごく当たり前にわたくしらしく過ごしていただけなのですが、それをお城の皆さんが好ましく思って下さっていたのなら、それはとっても素敵なことなのです。
こうして、わたくしたちは次々と城の皆さんを解放します。
お城の文官たちは、魔女について調べていました。
「魔女シュネーケは、何十年か前に退治された、魔王グレイゴーアの手下だったものでしょう。魔物としての本当の姿があるはずです!」
「シュネーケは魚が好きだったぞ」
「我々は図書館の本で爪とぎをするシュネーケを注意したら、みんな夢の世界に閉じ込められてしまったのです」
なるほどなるほど。
侍女の皆さんは、暇つぶしにたくさんの布を織っていました。
わたくしがやって来ると、色とりどりの布が出迎えてくれます。
赤、青、緑、橙、紫。まるで虹のようです。
この布を、イングリドがまとめて持って、わたくしに続きます。
いよいよ目指すのは、魔女シュネーケの部屋!
わたくしは塔を、張り切って登っていきました。
そして、見えてきた魔女の間に続く扉。
本当ならば、お父様と、亡くなられたお母様の部屋です。
『おやおや、こんなところまでやって来るとは。だが、残念だったな王女。ここで行き止まりだ』
扉には大きな、恐ろしい顔がついていました。
鷲鼻で、耳まで裂けた口の、緑色の怪物の顔。
それが、わたくしを見て笑いました。
「行き止まりではありません! 道が無かったら突き進んで開くのだと、わたくしは教わりました!」
わたくし、ニンジンさんを持って道を切り開く、ピョンスロット様を思います。
そして、扉の怪物目掛けて、真実の鏡を向けました。
「えい!!」
『ぐわーっ!? か、鏡の角で叩いてきたー!!』
怪物は目を見開いて叫ぶと、どろんと消えてしまいました。
「ひ、姫様! 鏡で物を叩いてはいけません! 割れますから……!」
「いけません、つい……」
「だが、ゆめのなかなら、たたいてもうつしても、同じ力があるようだな。とびらがひらくぜ……!」
パーシハムさんが、わたくしの肩の上で身構えます。
わたくしも、真実の鏡を振りかぶって準備します。
そうしましたら、顔の横にある真実の鏡に、何か見覚えのあるものが映った気がしました。
「……まあ! ピョンスロット様!」
それは、現実の世界で、ピョンスロット様が活躍する光景だったのです!




