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1・姫がドレスに着替えたら

 おはようございます!

 わたくしは爽やかに目覚めました!

 どうやら、疲れが溜まっていたみたいで、昨夜泊めていただいた宿に入ると、お湯をもらって体を洗って髪をとかして……としている間に、眠ってしまったようです。

 ですけれど不思議。

 目覚めたら、ベッドの上なのです。


「すぴーすぴー」


 あら?

 寝息が聞こえます。

 そう言えば、お腹の上に何か載っているような。

 わたくしが起き上がってみますと、白くてもふもふしたものが、ころころとお腹の上から転げ落ちました。


「あっ、ピョンスロット様! さては、ピョンスロット様がわたくしをベッドまで運んでくださったのですね」


 転げてもまだ、ぐうぐうと寝ているウサギさんのお腹をつんつんとつつきます。

 部屋の中を見渡せば、衣装掛けのところには、ヴィヴィアンさんが止まって寝ています。

 ミルクレープさんも、当たり前みたいな顔をなさってベッドの脇で静かにしています。

 みんな一緒ですね。


「カタカタカタ」


「ミルクレープさんは起きていらっしゃったのですね。おはようございます」


 ピョンスロット様とヴィヴィアンさんを起こさないように、わたくしはひそひそ声で言いました。

 すると、ミルクレープさんは鼻先を私に擦り付けてきます。

 あら、お馬さんの骨もきれいになっています。

 もしかして、門番さんたちが磨いてくれたんでしょうか。

 わたくしは、ミルクレープさんをなでなで、すりすりしながらまったりしました。


 しばらくすると、扉をノックする音がします。

 わたくし、ピョンスロット様をひょいっと抱っこして、扉に声を掛けました。


「おはようございます」


「は、はい、おはようございます、ショコラーデ殿下。私はお城から参りましたメイドのアマエと申します。殿下のお召し物をお持ちしましたので、お城にお越しになるまえにお着替えの手伝いをと……」


「あらあら、ありがとうございます」


 ピョンスロット様がまだぐうぐう寝ていらっしゃいますから、これは危険はないのでしょう。

 わたくしは扉を開けました。

 すると、背の高い女の人が、緊張した面持ちで立っていらっしゃいます。

 後ろには、やはり緊張したお顔の女の子が数名。


「ショコラーデ姫様だわ!」


「お城の外を、ウサギさんと旅してきたんですって!」


「旅をしてたのに、おきれいなままなんて!」


「ふわふわの金髪が砂糖菓子みたいできれい!」


「これ、お前たち! 殿下に聞こえますよ!」


 はい、全部聞こえています!

 わたくしがにっこりしますと、女の子たちがぽわーんとなりました。

 お部屋の中に、彼女たちを招き入れます。

 それから、わたくしの身支度とお着替えが始まりました。


 最初、皆さんはミルクレープさんを見て悲鳴を上げかけました。

 ですが、すぐに彼が良い骨のお馬さんだということに気づいたようです。

 次に、わたくしが抱っこしているピョンスロット様に人気が集まりました。

 彼の白いもふもふは、誰だって触りたくなるので仕方ありません。


「む、むむむー」


 きゃっきゃと女の子たちがはしゃぐので、ピョンスロット様が目を覚まされたみたいです。

 わたくしの胸の中で、もこもこがもぞもぞと動きました。


 ぱちっと目が開きます。

 つぶらな瞳に、わたくしの姿が映りました。


「やや、おはようございます、ショコラーデひめ。私としたことが、たっぷりとねてしまいました」


「いいえ、いいえ。ピョンスロット様は、ずうっとわたくしを守ってくれていたのですから、お疲れだったのでしょう。まだまだお城に行くまでは時間もありますし、寝ていて良いですよ」


「ひめを守るきしとして、それではいけません」


 ピョンスロット様は、わたくしの腕からぴょいーっと飛び出しました。

 そして、床に降り立って周囲をきょろきょろします。


「こちらのにょしょうがたは、おしろから来たひめさまのおてつだいですな? では、男である私はそとでまっていましょう」


 彼はそう言うと、おヒゲをなでなでしながら、部屋の外にぴょこぴょこ歩いていきました。

 ピョンスロット様が出ていった後、メイドの女の子たちが、きゃーっと盛り上がりました。


「ウサギさんなのに、ジェントルマンだわ!」


「かっこ可愛い!」


「ほしいー!」


 これにはわたくしも黙ってはおれません。


「皆様、ピョンスロット様が素敵なのはその通りです! ですけど、ピョンスロット様はわたくしの騎士なので、あげません!」


 これだけは、はっきりさせておきます!

 絶対、ぜーったいにピョンスロット様は誰にもあげません!





「おお! すてきなドレスです。なにより、ひめのあいらしさがより映えるおめしものです」


 外に出てくると、待っていたピョンスロット様が感想をおっしゃいました。

 ぽふぽふと手を叩いて、褒めてくださいます。

 うふふ、嬉しくなります。


「ありがとうございます。白地に金色の飾り糸で刺繍がされていて、素敵ですよね。ちょっとコルセットはきついですけど」


「殿下は少しふっくらしておいでですから、ドレスのためにはお痩せになったほうが……」


「まあ」


「なにをいうのです。わがきみは、ふっくらしているくらいがけんこうてきで良いのです。ドレスがショコラーデさまに合わせればよろしい」


 あっ、ピョンスロット様とメイドのアマエさんの意見が衝突しました!

 アマエさん、まさかウサギさんに反論されると思っていなかったようで、目を白黒させています。


「ピョンスロット様、ありがとうございます!」


「いえいえ。それとひめ! ドレスに毛がつくので、だっこはしばらくだめですぞ」


「ええー」


 わたくし、今とってもがっかりしました。

 なんてことでしょう。

 まるで人生の喜びを半分奪われたかのようです。

 それに、このシルクの手袋では、ピョンスロット様の毛並みをもふっても楽しくありません。


 ドレスはやっぱり、あまり好きではありませんね。

 わたくしはちょっと膨れながら、用意された豪華な馬車まで行きました。

 そうしますと、見覚えのある騎士が横にいます。


「あら、ポール! おはようございます!」


 わたくしが元気にあいさつしたので、ちょっと暗い感じでしょんぼり立っていたポールが、びっくりして顔を上げました。


「お、おはようございます! ショコラーデ姫様! さ、昨日はとてもご無礼を……!」


「いいのですよ。それより、ポールは元気ですか? ピョンスロット様にぽこぽこ叩かれた頭は痛くないですか?」


「は、はい。ピョンスロット殿が手加減をしてくださったようで……」


「うむ。わかききしよ。君はとてもすじがいい。あとにじゅうねんもきたえれば、わたしのとなりにならべるようになるだろう」


 ピョンスロット様はそうおっしゃると、ポールの足をぽふぽふします。

 ポールは、彼の言葉を受けて、うるっと目を潤ませました。


「あ、ありがとうございます、ショコラーデ姫様! ピョンスロット殿! このポール、騎士としてお役に立てるよう、より一層の精進を……!」


「あの、皆様。馬車が待っているので……」


 アマエさんが恐る恐る、と言った感じで声を掛けてきました。

 そうでした!

 お城に向かうところだったのです。


 みんなで馬車に乗り込みます。

 わたくしたちの姿はとっても目立っていたようで、いつの間にか人だかりができていました。

 わたくし、こっちをぽわーんとした感じで見ている子どもたちに、笑顔で手を振ります。

 すると、皆様も笑顔になって、手を振り返してくださるのです。


「ピョンスロット様も!」


「私もですか。では、ポールきょう、かたをかしてもらうぞ」


「はっ」


 ピョンスロット様は、ポールの体を駆け上がり、肩に飛び乗ります。

 そして、人だかりに向かってペコリと一礼しました。

 わーっと、皆さん盛り上がります。


「ウサギだ!」


「ニンジン背負ったウサギさんだ!」


「礼をするなんて、賢いのねえ」


 ふふふ、皆さん、ピョンスロット様の凄いところを知りませんね?

 わたくしは知ってます。

 ふふふふふ。


 こうしてわたくしたち、お城に向かって出発したのです。

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