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5、お金がありません。

5話です

ギルドの建物は、黒っぽいレンガで造られた堂々たる二階建てだった。

 入口の上には剣と盾を組み合わせた紋章が掲げられ、窓からは賑やかな声が漏れ出している。


「……よし、いよいよ冒険者ギルドだ」


 期待と緊張が入り混じる胸を押さえながら、重い木製のドアを押し開けた。


 中は熱気に包まれていた。

 長いテーブルには肉やパンが並び、ジョッキで酒を飲む者たちの笑い声が響いている。

 壁際には依頼掲示板らしき板があり、羊皮紙のようなものがずらりと貼られていた。

 武装した冒険者たちが談笑したり、カードらしきものを見せ合ったりしている。


(おお……ラノベでよく見るやつだ……! これぞ異世界ギルド!)


 感動も束の間。俺が入った瞬間、視線が一斉にこちらに向いた。

 血の跡を隠すためにローブは羽織っているが、どう見ても小柄な少女だ。しかも耳と尻尾つき。

 「なんだあれ?」という視線が突き刺さる。


(いやいや、ジロジロ見るなよ! 初ギルドで視姦してこないで、これが女の人が見られると言うことなのか!(違う)  )


 気にしないふりをして受付へ向かおうとした、その時。


「おい、ガキ」


 背後から低い声。振り返ると、筋骨隆々の大男が立っていた。

 頭はつるっ禿げ、顔には無駄に威圧感のある笑み。


「ここはテメーみたいな獣人のガキが来る場所じゃねえ。帰りな」


 わざとらしくニヤニヤしながら言ってくる。

 ……テンプレすぎる。絡んでくる筋肉ハゲ、異世界ギルドあるあるかよ。


(……はいはい、めんどくせー)


 俺は無視して受付に向かおうとした。だが――


「無視してんじゃねえッ!」


 ドゴッ!

 背中に衝撃。俺の体は横に弾き飛ばされ、壁にぶつかった。


「っ……!」


 思わず呻いたが、不思議と痛みは大したことがない。

 人間だった頃なら肋骨いってたぞこれ。

 さすが魔神ボディ、耐久性能が段違いだ。


 周りの冒険者たちは一瞬こっちを見たが、すぐに「また始まった」みたいな顔で酒を飲み直した。


(おいおい! 見てるなら助けろよ! いたいけな少女が殴られてんぞ!? 暴力事件だろ!通報案件だろ!)


 大男が骨を鳴らしながら近づいてくる。


「テメー、Cランクの俺様をなめやがって……ちょっと教育してやらねえとな」


(はいはい、出たよ俺様ランク自慢。どこのテンプレから出てきたんだお前)


 頭に血が上った俺は、殺すわけにはいかないと自分に言い聞かせながらも、右手を突き出した。


「……氷柱、出ろ」


 ゴゴゴッ……!

 大男の目の前、床から一気に氷柱が突き上がった。

 天井まで届くほどの巨大な柱。冷気が一気に広がり、床に霜が走る。


 ギルド内の喧騒が、一瞬で凍りついた。


「で、でか……!」

「あいつがやったのか!?」

「なんだあの魔法……!」


 ざわめきと驚愕の視線。

 氷柱は透明に光を反射し、硬質な音を立てて冷気を撒き散らしている。

 叩けば割れるだろうが、厚みは岩塊に近く、簡単には砕けないはずだ。


 大男は絶句し、口をパクパクさせていた。


「次は当てるぞ。嫌なら消えろ」


 俺が冷ややかに言うと、大男は何度も頷き、尻尾を巻くようにして外へ逃げ出していった。


 ……静まり返るギルド内。

 全員の視線が俺に集まる。


(……はぁ、やっぱりこういう絡まれイベント避けられないんだな。テンプレ通りすぎるだろ)


 ため息をつきながら、俺は氷柱を消し、受付へ向かった。


 カウンターには金髪の女性が座っていたが、顔がひきつっている。


「す、すみません……登録したいんですけど?」


「は、はい! 登録ですね……! えっと、登録には……ぎ、銀貨一枚が必要です」


「……え? 金、取るんですか? ……僕、無一文なんですけど」


 受付嬢の眉が困ったように寄った。


「お金がないんですか……? うーん……それでしたら、“学校”に行ってみてはどうですか? 今の時期なら新入生を募集しているはずです」


「学校!? ギルドじゃなくて!?」


 俺は思わず叫んだ。


(いやいやいや、異世界に来て冒険者ギルドだぜ!? それをスルーして学校!? まさかの学園モノ路線!?)


 受付嬢は真面目に説明を続ける。


「あれだけの魔法を操れるなら、入学試験は通ると思います。しかも学費はかかりませんし、ギルドカードがなくても基礎知識を学べますから」


「無料……だと……!」


(異世界の学校、すげぇ! 奨学金いらず! でも……マジで俺、学生二周目かよ!?)


「その学校ってどこにあるんです?」


「ここから北東、オーシャン地方のアプテットという街にあります。ただし……海を渡らなければなりません。船に乗る必要がありますね」


「……船?」


 まさかの海越え。俺の脳裏にファンタジー的な冒険航海の絵が浮かんだ。


「船はどこから出てます?」


「この街の南門から真っすぐ行った先に“リーフ街”という港町があります。そこから船が出ていますよ」


「なるほど……ありがとうございます!」


 礼を言ってギルドをあとにした俺は、南の門へと足を向けた。


(……冒険者ギルド登録、初日から失敗。俺の異世界生活、いきなり予定変更だな)


 苦笑しながらも、少し胸が高鳴っていた。

 異世界の学校――どんな場所なのか、少し楽しみでもあった。



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魔物倒したらお金が落ちるのはゲームだけです。

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