3、街を探して
3話です
バットとの初戦闘が終わり、洞窟に静寂が戻る。
息を切らしながら、俺は背中を岩壁に預けて座り込んだ。
「……初めての戦闘とはいえ、やっぱり頭は回らないもんだな。とにかく避けて、撃って……それだけで精一杯だった」
心臓がまだ早鐘のように鳴っている。恐怖は強烈だった。けれど同時に、俺はほんの少しだけ高揚もしていた。
俺は今、確かに異世界で「戦った」のだ。
「……戦い方、覚えないとな。本当に死ぬ」
女神が言っていたことを思い出す。
“魔神には想像魔法がある”。
頭で思い描いたものを、実際に形にできる力――さっきの《アイスニードル》もそれで発動したのだろう。
なら、他にも試せるはずだ。
「よし……まずは盾だ!」
俺の目の前に、青白い氷の壁が立ち上がる。
厚みは十センチほど。光を反射してきらきら輝き、ひんやりとした冷気を放っている。
「おお……出た……! マジで出た!」
恐る恐る手で触れると、表面はつるつるで、指先が吸いつくほど冷たい。
見た目は心強いが――拳で軽く叩いただけで「ゴンッ」と鈍い音が鳴り、表面に亀裂が走った。
「……やっぱり氷は氷だな。厚みがある分、体当たりくらいは防げそうだけど……牙や爪をまともに食らったら一発で砕けそうだ」
心強いようで心細い。そんな微妙な代物だ。
次に、剣を思い浮かべる。
手の中に冷気が集まり、透きとおる刃を持った剣が形を成した。
柄から刃まで全て氷。振るうと空気を裂く感覚があった。
「おおっ……剣だ! カッコいい!」
思わず振り回してみる。
しかし、振り抜いた瞬間にカツンと手に違和感。
刃先が岩壁に触れただけで、白いひびが「ピキッ」と走った。
「うわっ……脆っ!? 切れ味どうこう以前に、自壊する武器じゃねーか!」
それでも完全に無駄ではない。鈍器として叩きつければ威力はありそうだ。
まるでガラスの剣を持っているような心許なさだが。
「……よし、ならでっかいのもいってみるか。氷塊!」
地面に直径一メートルほどの氷の塊が出現した。
表面は白く濁り、手で叩くと「ドンッ」と重たい音がする。
持ち上げてみようとしたが、当然びくともしない。
「……岩ほど固くはないけど……これ、簡単には割れないな。ぶつければ衝撃力は抜群だろうな」
想像次第で色々なものが作れる。だが、あくまで材質は氷。強度は現実の氷に準ずる。
武器として使うには工夫が要りそうだ。
そんなことを考えていると――
「キィィッ!」
また羽音。暗闇から新たなバットが飛来する。
俺は氷の盾を前に出した。
ガッ!
バットが牙を立て、盾に食らいつく。
氷片が飛び散り、盾の表面にひびが広がる。
「やっぱり脆い! ……けど時間稼ぎにはなる!」
すぐに氷の剣を握り直し、振り抜く。
刃先がバットの胴を叩き、氷の欠片が飛び散った。
ギャッと短い悲鳴をあげ、バットは地面に落ちて動かなくなる。
「よしっ、一体目……!」
だが、すぐに二匹目が襲いかかってきた。
俺は咄嗟に氷塊を思い浮かべ、上から落とす。
ゴンッ! 鈍い衝撃音とともに、バットは地面に叩き潰された。
「おお……これは質量攻撃ってやつか! でも床にぶつけただけで砕け散ったな……氷はやっぱり氷だ」
三匹目は真正面から突っ込んでくる。
俺は氷の剣を逆手に構え、息を殺す。
バットが牙を剥いて飛びかかる瞬間――横に跳び、剣を振り抜く。
バキンッ!
剣の刃は折れたが、同時にバットの翼も裂け、地面に墜落した。
「はぁっ……はぁっ……危なっ……。やっぱ実戦はしんどい……!」
合計四匹。どうにか倒したが、武器の消耗も激しい。
俺は氷の武器の脆さと、想像魔法の便利さを改めて実感した。
――やがて洞窟の先に光が見える。
一本道だったおかげで迷わず、俺はついに外へ出た。
外は、眩しいほどの陽光が降り注いでいた。
木々の間から漏れる光。見たこともない鳥が鳴きながら空を舞い、葉の香りと湿った土の匂いが鼻をくすぐる。
地面は落ち葉で埋め尽くされ、枝や苔むした石が散らばっている。
「……すごい。本当に異世界なんだな」
思わず声が漏れた。
空気は澄み切っていて、肺いっぱいに吸い込むと心地よい。まさに“森の息吹”を感じる。
「とりあえず街に行きたいけど……どっちに進めばいいんだ?」
振り返ると、洞窟は岩山に塞がれていて戻れそうにない。
なら、まっすぐ進むしかない。
俺は思い切って全力で駆け出した。
――速い。物凄く速い。地面を蹴った瞬間に、体が風を裂いて進む。
裸足なのに痛みはない。むしろ足裏が地面をしっかり掴む感覚がある。
「すっげぇ……これが魔神の肉体か!」
髪をなびかせ、枝を飛び越え、石を蹴って駆け抜ける。
裸足で走るのが、なぜか子供に戻ったようで少し楽しくすらあった。
――だが。
背後から、ぞわりと気配。
振り返ると、巨大な狼がこちらを追いかけてきていた。
「うわっ!? いつの間に……!?」
俺はさらに速度を上げた。
全力で森を駆け抜け、枝を避け、岩を飛び越え――やがて崖にたどり着いた。
後ろを振り返ると、狼の姿はもうなかった。振り切ったらしい。
「ふぅ……死ぬかと思った……。転生直後に狼のおやつエンドとか嫌すぎるわ……」
崖の下には、草の生えていない道のような砂地が見える。
「やっと道らしいのが……!」
俺は氷の滑り台を作り出し、一気に崖下へ。
つるりと滑り落ちて、軽やかに着地した。
そのまま道をひた走る。
一時間ほど進むと、ようやく街の門が見えてきた。
大きな門扉に鉄の補強。見張りの兵士が立っている。
「やっと……街か……!」
疲労を覚えながらも駆け寄ると、鎧姿の中年の兵士が俺を見て驚いた。
「おい! 嬢ちゃん、その血の跡はどうしたんだ!?」
俺は慌てて苦笑いを浮かべた。
「魔物に襲われて……何とか倒したんですけど、その時に浴びちゃって」
本当のことを言えば面倒なことになる。だから適当に誤魔化す。
「こんなところをうろついてたら死んでしまうぞ。特に嬢ちゃんみたいな小さい子はな。早く中に入りなさい」
心配そうに言う兵士に軽く会釈し、俺は街へと足を踏み入れた。
「……助かった。ちょろいオッサンで良かったぜ」
街の賑わいが目の前に広がる。ここからが、本当の異世界生活の始まりだ。
---
このおっさんはロリこんだきっとそうだ俺にはわかるぞ。




