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嘆きの洞窟――最近出現した新たな洞窟。
その奥から人の嗚咽のような声が響くため、そう名付けられた。
人々は不気味がって誰も近寄らない。
だが、今そこを進む二つの影があった。
ひとりは腰まで届く水色の髪を揺らす獣人の少女。髪と同じ色の耳を持ち、歩くたびに尾が揺れる。
もうひとりは、雪のように白い長髪の女性。ドレスアーマーを纏い、落ち着いた足取りで少女の後に続いていた。
「ねえ、ほんとにここに何かいるわけ? わざわざ私が出てこなきゃダメって? ったく、面倒くさいんだから」
少女は不機嫌そうに振り返り、文句をぶつける。
「ええ。あなたにしか倒せないものがいます。もうすぐです」
女は恭しく答えた。
「ふん……。まあいいわよ。師匠が出てやるんだから、ありがたく思いなさいよね」
ふてくされたように前を向く少女――彼女こそ「氷の魔神」フェンリル。
異世界で最強と呼ばれた存在が、唯一“弟子”と認めた者に付き従っていた。
しばらく進むと、広間に出る。天井の裂け目から光が差し込み、水面を照らし幻想的な輝きを生んでいた。
「へぇ……意外と綺麗じゃん。でも、誰もいないじゃない。あんた、何を――」
振り返った瞬間、短剣の切っ先が彼女の胸を狙っていた。
「っ!? お前……何してやがる!」
咄嗟に身を反らし、頬に一筋の赤が走る。
女は冷たく笑った。
「ふふ……さすがは氷の魔神。けれど、この短剣は特別製。かすっただけで力を奪う。……あなたを封じるために造られたのです」
「はぁ!? ……お前、弟子じゃなかったってわけか。バッカじゃないの! この私に勝てると思ってんの!?」
フェンリルは怒気を迸らせ、広間全体を一瞬で氷に閉ざす。尖った氷柱が林立し、吹雪が巻き起こる。
「ひれ伏せ、雑魚がッ!」
咆哮と共に氷嵐が襲い掛かる。
だが、女は怯まず踏み込み、フェンリルの頭を掴んで壁に叩きつけた。轟音と共に岩が崩れ、氷片が飛び散る。
何度も、何度も。
「最強? 笑わせないでください。あなたはもう囚われの獣だ」
「くっ……調子乗んな……ッ!」
フェンリルは血を吐きながらも、なお睨み返す。
女は飛び退き、詠唱を叫ぶ。
「消え去りなさい――《ダイヤモンドダスト》!」
洞窟は瞬く間に氷の牢獄へと変わり、フェンリルの身体も凍結していく。
氷は砕け散り、結晶の雨が舞った。
その中心でフェンリルは膝をつき、荒い息を吐きながらもなお笑みを浮かべた。
「……ふん。いい気になるなよ……。私を封じたこと……千年先まで後悔させてやっからな!」
最後の強がりを吐き捨てた瞬間、女の短剣が背を貫く。赤が地に広がり、同時にクリスタルが輝きを放った。
「この者を封じよ――《エターナルプリズン》!」
白銀の少女の姿は光に呑まれ、宙に浮かぶ結晶の中に閉じ込められた。
女は恍惚とした笑みを浮かべ、結晶を掲げる。
「これで氷の魔神も終わり……一人目、確保完了」
その声と笑いが、嘆きの洞窟に木霊した。
誤字脱字できるだけ、気をつけます。




