彼女の相談が駆け込む時
8月も残すところ後2日。学生に夢と希望をもたらす夏も、終わり間近といった所。あいも変わらず、部室に集まっていた新聞部の面々はのんびりとした、ダラダラとした、日常を謳歌していた。
香織が部の訓示を高らかと掲げ、向井が屁理屈を並べて一蹴する。霞が静かに読書をしている隣で、粋先輩がキーボードを手早く打っている。火渡がエアコンの風向下で伸びており、俺はといえばぼんやりと窓の外から入道雲を眺めるばかり。
「……何かあるの? 」
「いや、特に何も」
今日は何だか、空が広いから。思わず見つめ続けてしまっていた……なんて、言っても多分分からないであろう火渡は、怪訝そうに首を傾げてまた文明の風に身を任せる。
夏の終わりに、各々が自由奔放に過ごしている新聞部。まとまりが無いと言ってしまえばそれまでだが。
そんな時である。アイツが駆け込んで来たのは。
あぁ、誰が予想出来たであろうか。この来訪があんな事態を招くことになろうとは。
「あのー 」
がチャリと。やや乱雑に開け放たれたドアから、可愛らしい声が飛び込んでくる。ノックも無しに、無礼に開かれた新聞部の入り口からは、見覚えのある女の子がやや躊躇いがちに顔を覗かせていた。
「「……」」
目があった。顔をしかめた。顔をしかめられた。「うわっコイツかよ」というあからさまな表情を、多分二人は同時にしていた。
こいつの名前は知っていた。
古湊茉莉。無礼千万な中等部の後輩だ。後輩といっても関わりはほとんどない、顔見知り程度の関係だ。
「あ、せんぱーいっ! 」
先に表情を崩したのは古湊。きゃるるん☆とふわふわ柔らかいオーラを身に纏い、満面の笑顔を貼り付けて、そりゃもうその辺の男が見たらイチコロなとびきり愛らしい女の子を装っている。
「……何してんのお前」
突然の来訪にポカンとしている部員達を代表して。
ため息と共に、渋々彼女の方へと視線を飛ばしてみせた。
「ちょっ、ひどくないですかー。せっかく可愛い後輩が訪ねて来たのに! 」
「お前だって今あからさまに顔しかめたろ」
「やだなぁ、そんな訳ないじゃないですかー」
頬に右手を当てて、にこやかにNOを突き付ける古湊。完璧である、告白の拒否とかもこんな感じでいなしてるんだろうか。やだえぐいわ泣きそう。
「ちょっとびっくりしただけです、まさかせんぱいがいるなんて思わなくて」
「いや俺新聞部だからさ……え、言ってたよね? 」
「初耳ですよ? 」
訳:テメーの事なんて興味ねぇよ。
……多分明後日同じこと聞いたら同じ答えが返ってくるんだろうなぁ。
「えーっと……」
いつの間にか、すぐ後ろで香織がおずおずとこちらを交互に見ていた。
「あ、えっと、お邪魔します……じゃなくて、お邪魔してます! 」
びしぃ!
どこぞのピンク髪ヒロインよろしく、あざとい敬礼をしてご挨拶をする茉莉ちゃん。いやいや中々出来ないよその挨拶、妄想シン○ロとかデ⚪︎ソードとかとんでも世界にご招待されちゃうよ怖すぎ。
「あ、いえいえ。散らかってますけど」
何故か畏まる香織。
「君、古湊さんじゃないか」
「あ、折濱先輩!ご無沙汰です! 」
ぺこり。会釈よりは深く、お辞儀よりは浅く。ちょこんとした動作でご挨拶。……俺の時とあからさまに態度違わね?
しかし、まだ皆はきょとんとした態度を変えていない。無論俺もだ。一体こんな辺境の部活に何の用であるのか。
「あ、そうでした……えっと、ですねー
私は中等部三年の古湊茉莉と言います!」
本来の目的を思い出したように、ポンと手を打って自己紹介。かと思えば、頬に人差し指をちょんと当ててみせる。うわっ、ゆるふわ系お姉さんがアニメでよくやる仕草だこれ。現実でやるとか相当な手練れだなこいつ、いや愛華もやってた!でも愛華は純天使だからオッケーなのさ!可愛さと甘さと純真と優しさで出来てるからね!
「新聞部にご相談があると言いますか、何かそんな風味というか、そんな感じです! 」
「だからどんな風味だよ、エスニック? 」
「ラムネ風味ですかね」
「俺あのボールになってる柔らかいのが好きだ」
「誠に遺憾ながら、いえいえ、私も大好きですよ!」
要するに依頼のようだ。段々うちの部活が何でも屋さんみたいになってきているなぁ……ま、良いけど。
・・・・・・
「廃墟⁉︎ 」
素っ頓狂な叫び声が室内に木霊する。無論、恐怖に駆られた香織の声だ。
「はい、北の街外れに放置された建物がありますよね」
「あぁ、確か……ホテルだったんだか、もう20年以上前の話だろ」
「そうです、そこです! 」
古湊が相談してきたのは、もう長くこの街にある廃墟についてだった。向井の言う通り潰れた洋館、ホテルの建物である。街外れということもあって、家からも学校からも距離があるので、滅多に行かない……というか、二回くらいしか行ったことがない。
「ここ、前の新聞部で調査した所じゃなかったっけ? 」
「お前は行ってないけどな」
「うぐっ」
香織の言う通り、かつてその廃墟には訪れたことがある。それも部活動、俺が中等部一年の頃だったはずだ。あれは確か……
「さて、潰れた洋館。今回はここを調査するぞ。私の班は正面から内部だ。藤咲、穂坂、付き添え」
「「えぇ⁉︎ 」」
氷室先輩に強制的に連行されたんだ。幾つかグループに分けて周辺から調査する者と内部調査する者とに。んで、俺と香織は氷室に率いられ内部調査に連行されそうになったが。極度の怖がり性だった香織は泣きそうになっていた為に、止む無く外し、俺は氷室先輩に単身連行される羽目になったのだ。そこからは……それはもう凄まじかった。兎にも角にも凄まじかった。いや最早、凄まじいとしか形容出来なかったのである。部長がドアを蹴破り、崩れる階段をギリギリで回避し、燃え上がる廊下を駆け抜け、暗躍する世界政府の陰謀を嗅ぎつけ、迫り来るSP達をちぎっては投げ、まさかの仲間の裏切りに叫びを上げた。無事に秘宝を手にする頃には二人とも心身共にボロボロであった……あれ、これ違う記憶じゃね?まぁいいか、大体合ってるだろ多分。
「という訳で、あの廃墟には良い思い出がない」
「どこのクルーズ映画なのよ……」
「因みに二回目は古代インドの秘宝の手がかりを求めての大活劇だったぜ」
最新作は海賊王の大秘宝だよ☆
「で、この馬鹿は放っておいて……その廃墟がどうかしたの? 」
「あっと、ですね。実は、その廃墟から夜な夜な泣き声が聞こえるっていう噂か──」
「ひゃあ⁉︎ 」
香織か後ろで飛び上がっていた。……こいつそんなんで部長やっていけるのだろうか。
「え、えっと……」
「あぁ、気にすんな。そいつの怖がりは折り紙付きなんだ」
「はぁ」
怪訝な表情をするも、また真面目な顔つきで人差し指を立ててみせる古湊。
「ここ最近、夜になるとすすり泣くような声が聞こえてくるそうなんです」
「うわっ、怪談っぽい」
「いかにもって感じね」
息を呑むのは部長さんだけ。俺も火渡も、他の皆もケロっとした表情で後輩の話に耳を傾ける。
どうやら、本当によくある怪談っぽい話だった。夜、といっても夜の7時か8時か。それほど遅くない時間帯に、グスッというような子供の泣き声が聞こえるそうだ。誰もいないはずの廃墟から。そのことが、古湊のクラスでは話題になっており、偶々友人達と話している時に、気味が悪いから何とかならないか、という話になったようだ。そこから、最近少しずつ依頼解決の実績を作っている新聞部が話題になったそうである。
「ふふんっ」
「何で嬉しそうなんだよ」
「だって、妃希ちゃんのトコじゃなくてウチなんだもん!これは、私達の実績が勝っている証拠! 」
正式な委員会にはいささか頼みづらいからだと思うが。大体お前の嫌いな怪談系の調査依頼だぞこれは。
「けど、変だな」
「? 」
話を聞き終えた向井がふと首を傾げていた。
「そんな噂、俺全く聞いたことが無いんだけど」
「ほー、いつも情報強者を謳ってる向井くんらしくない言動ですなぁ」
「あ、部長まだいたんすか」
「ーーっ‼︎」
せっかく煽ったのにも関わらず、あっさり返り討ちにあってしまう香織。飛びかからん勢いの彼女を何とか宥めて抑える粋先輩。大変そうである。
しかし、向井が初耳だというのは腑に落ちない。こいつは学園の情報には敏感なはず、きな臭い噂から荒唐無稽な噂なんかも見落とさずに調べている。そんな情報網に全く感知していないというのは……
「いやいやー、ちゃんと噂になってますよ?まー、女子はこういう噂敏感ですから」
古湊はと言えば。
一瞬視線を泳がせて、でもまた笑顔を浮かべて人差し指を立ててみせる。
「まぁけれど、新聞部向きの噂ではあるわね……委員の方は動きそうにないし」
「廃墟……ミステリアスな展開」
霞と火渡はそれぞれ考え込むようにそう口にする。何処と無く、満更でも無いような雰囲気がある気がしないでもない、が。
二人ともこういうイベント好きだったりするのか。
「うっ、ぐぬぅ……」
新聞委員会では無く、自分達に頼まれた。それは香織を動かすのには十分過ぎる理由である。アドバンテージをとる機会としては申し分ないと思っているのか、怖いものの動きたいというジレンマと必死に戦っているご様子だ。………実際、委員会なら鼻で笑う程度の噂だが。
しかし結局。
「で、新聞部の皆さんならこの真相を暴いてくれるんじゃないかなーって、思いまして。他ならぬ、我が校一の呼び声高い、新聞部なら」
「任せといて‼︎ 」
古湊のあからさまなお世辞が決め手となった。
まんまと口車に乗せられ、胸を張り自信満々に快諾してしまう部長さん。本当に先が思いやられるな……こりゃ。
依頼の決行は明日。夏休み最後の日だ。夜に現地付近に集合して開始する方向で話は進んだ。自宅から指揮を執るだの、後方支援に徹するだの、快諾した癖に往生際の悪いことを宣う部長の全て逃げ道を潰して参加を約束させて、無事本日はお開きとなった。
霞達と別れ、香織と二人で帰路に着いた。来るべき明日に向けて精神統一を行うだとかアホなことを宣う幼馴染みとも家の前で別れ、自宅の玄関を開けようとした俺だったが、ふと思った。
(現地……一回見といても良いかもな)
下調べ、というほどしっかりとしたものでも無いが。まぁ改めてどんな場所か見ておいても良いだろう。最後に行ったのは何せ三年前、学校からは大分離れているから滅多に立ち寄ることがない。それも、噂になっているという事が腑に落ちない点の一つでもあるのだが。
制服のまま、鞄だけを自宅に放る。学校からも遠く離れているのだから、自宅からはより離れている。自転車でも30分はかかる。
夏の終わり。日はまだ明るいが、しかしもう時間は夕刻である。暮れの夏風は少しずつ涼しくなりつつ、肌寒さを覚えないでもない。間近に迫る秋の空気に少し気分が落ち着かされる。
「ん? 」
20分くらい自転車を漕いだ時だろうか、前方の歩道から見知った顔が向かって来ていた。見知った、というか
「あれ、せんぱい……」
つい先程、依頼をぶっこんできた後輩であった。普段なら即顔をしかめそうなものだが、それもせずに何を思ったのかトコトコとこちらに駆け寄ってくる。
……え?何で来るのん?
「奇遇ですねー、こんな所でどうしたんですか? 」
「小首傾げながら荷物入れんなおい、大胆過ぎだろお前」
「そんなことないですよー」
古湊は両手にいっぱいのビニール袋を抱えていた。それを、さも当然のように俺の自転車のカゴに放り込んでくる。え?待ち合わせとかしてないよ?
「それに、女の子が重いモノ持ってたら率先して持ってあげるのが男子ですよ」
「古典的だな、俺はジェンダーフリーの時代を尊んでんだよ」
「じぇんだー? 」
若者の学力低下は深刻だ。ひいては特別措置として俺の数学試験の点数水増しを要求する。
「よく分かんないですけど、後輩が困ってたら助けるのが先輩の役目です」
「それは、何かその辺の甘っちょろい男子にでも頼め」
「……だから頼んでるんですけど」
こちらをガン見してきやがる後輩。どう意味だコラ、舐めとんのか。あと一言も頼んでもいない。
「っと」
ずっしりと、カゴから伝わる重みに一瞬ハンドルが揺らぐ。この辺のスーパーの買い物袋だ、お菓子や飲み物や、ゴミ袋、ゴム手袋、洗剤なんかも大量にある。……こいつ、なんでこんなにまとめ買いしてんだ。実は専業主婦?奥様は女子高生……今更過ぎるな。
「……で、どこまで行くんだよ」
これ以上言っても無駄そうだし、何よりまぁ、確かに重い。……まぁ、こっちは自転車だしな。
「……せんぱい、十分甘っちょろいですね」
「うるせ」
何が可笑しいのかクスクスと笑う生意気な後輩に一睨みくれてやってから、歩き出す。
古湊が示した方向は、都合良くも目的地と同じ方向だった。
放課後。普段とは異なる道を、普段と違う面子で歩く。夕暮れに染まった歩道は人々の影を伸ばし、地面の世界は入り乱れて忙しなく黒い進行を囃し立てていた。
「そういやさ」
「はい?」
「お前って進一と面識なかったんだな」
ふと思い出したように、そんな言葉が洩れた。ついこの前、こいつの事を知っているかと進一に尋ねたが、全く知らないと言っていた。てっきり知り合いとか、そういう間柄なのかと思っていたが。
「いえ、私の方はありますよー」
「一方的につけ狙ってるという感じか」
「言い方が引っかかるんですけど……」
じとーっとこちらに睨みをくれる後輩。曖昧に肩を竦めると、不満そうに声を零しつつ続ける。
「以前に一度だけです、それもほんのちょっとした事で助けて貰ったんです」
「そんだけ? 」
「……わかったんです。この人は〝ちゃんとした〟人なんだーって」
ちゃんとした。それがどういう意味なのか、俺には全く分からなかったが。ただ、そう口にする彼女の目は真剣であった。
「結局、お前も甘っちょろいじゃねーか」
「私は人を見る眼があるんですー」
「まぁ……それは否定しないけど」
古湊はきょとんと、小首を傾げてこちらの言葉の意味を促した。
「顔が良いからとか、剣道が強いだけとか、言う奴もいるけどさ……」
「…………」
「あいつは、上辺だけの奴じゃないよ。それは保証する」
そんな悪評自体滅多にないんだけれども。
根も葉もない噂だって、妬みや嫉みの混じった上辺だけのものがほとんどである。逆恨みとか多いかも知れんが、それはモテ男の宿命だ甘んじて受けやがれコノヤロー。
「……え、せんぱいって東堂先輩のこと好きなんですか? 」
「違うでしょ⁉︎ 」
せめて友達思いって言うんでしょこの場合。
「ドン引きです……」
「お前らの頭の中は二択しかねーのかよ」
「まぁまぁ、ほんの冗談ですよー」
こういうお花畑兼恋愛脳が言うとシャレにならない場合がある。
「……ってことは、進一のこと知ったのって最近なのか? 」
「そんなことないですよー、二カ月くらいも前です」
「つい最近じゃねーかっ」
やだ、最近の若い子とは時間の感覚が違いすぎて困っちゃうわ。
「でも、二カ月って私の中では第二位ですよー」
「……え、そなの? 」
「はい」
ちょっと?なんでこの子しれっととんでもないこと言うの?
「東堂先輩の前に好きになった人は一つ上先輩のでした。その前は、えーっと、同級生でしたねー。その前はまた先輩で」
「………」
「でも、話してみたり、付き合ってみたりして……浮気性だったり、二股男だったり、ヤラシイ事目的だったり。結局全然で」
……今時の子ってアグレッシブだなぁ。つーか。
「要するに、全然見る眼ねーじゃねぇか」
「うぐっ」
痛い所を突かれたようである。あからさまに目を逸らしてみたが、認めるような態度ではまるでなかった。
「良いんです、眼は着実に成長しています! 」
「けど、次から次へ好きな奴を替えてる気が多いやつに聞こえるな……それだと」
人聞きの悪いことを言うな。そう怒られるかとも思ったが、彼女は小さく首を振るのみにとどめた。
「それって、悪いことでもないと思いますよー」
「というと? 」
「学生の期間は限られてますから。
色んな人と出会って、好きになって、知っていって……喜んで、後悔して」
先程から時折見せる真剣な目で、ハッキリとした口調で、しかしその言葉には何か拘束力のような、妙な硬さがあるように思えた。強さ、というには些かアンバランスなそれの正体は俺にはわかるはずもなかった。
「そうやって、本当に大切なものを探していけるって……とても素敵な事だと思います」
なるほど。
それも一つの考え方なのだろう。大切なものを探す為に、か。そんな風に考えることが出来る人は、やはり少ないかもしれないが。
「なんですか? 」
「……いや、意外と達観してること言うなって」
「むっ、どーゆう意味ですかー」
頬を膨らませて不満を露わにする古湊。そういう仕草をされると、どうしても幼く見えてしまう……なんと言うか、調子の掴みにくい後輩だ。
ピタリと。隣の後輩が足を止めたので、それに倣う。
「あ、すみません。ここです」
「ここ? 」
「はい」
彼女の視線の先、そこはどことなく見覚えのある場所だった。ブランコやジャングルジム、シーソーや砂場。広いグランドの先には、横に長い二階建ての建物。古めかしい木製の表札に、こうあった。
『ひまわり』
あぁ、そう言えば。ここには〝孤児院〟があったんだよな。氷室先輩に連行された時用ら廃墟に向かう途中の、比較的広い施設だったから、記憶にはある。
しかし、こんな場所で彼女は一体……
「お前……」
「いやいや、べつに孤児だったとか、そんな裏設定はありませんよ」
「裏設定て」
ゲームのキャラクターかお前は。
「遊びに来ただけです。昔ちょっとお世話になったことがあったので」
古湊はそう言うと、カゴから荷物をひょいと取り出すと、軽く会釈をしてみせた。
「ありがとうございました、わざわざ荷物を運んで下さって」
「いや、君が無理矢理乗せたんだけどね? 」
「せんぱいってお人好し……いえ、優しいんですねー」
しれっと都合の良い解釈をして笑顔をみせる後輩に、半ば呆れつつも、この施設と古湊と接点が気になった。が、詮索をするのは野暮というものなのだろう。
気を取り直して、俺も目的地に向かうとするか──
「あら、あらあらぁ? 」
「「え? 」」
と思ったら、後ろから女性の声が聞こえてきた。ふんわりとした、柔らかく耳当たりの良い優しい声色。
「あらー、まつりちゃん、いらっしゃい」
「あ、優香さん、こんばんは」
古湊がお辞儀をするその先で、笑顔を浮かべているのは、亜麻色の綺麗な髪を伸ばして、人の良さそうな顔付きの女性だ。20代後半くらいだろうか、その美人さんは、ひまわり柄のエプロンをかけていた。
「あらあら、まぁまぁ」
「……え? 」
古湊から視線を移動した優香さんと呼ばれた女性は、そのままこちらに向けてきた。
くりくりとした淡い翡翠色の瞳を、実に興味深そうに、小首を小さく傾げる仕草も何だか様になっている。
「お名前は? 」
「はぁ……えっと、藤咲って言います」
「下のお名前は? 」
「俊也、ですけど……」
そう、俊也くんね。
女性は何か嬉しそうに頬に手を当ててみせる。暫し何かを考えるように「うーん」と呟いていたが、思い付いたように人差し指を立ててみせる。
「あ、そうだ!これから晩御飯だから、俊也くんも一緒に、ね」
「「え? 」」
良いアイデアだ、と言わんばかり。……え?どゆこと?
気付けば自転車を駐輪所に停めて、古湊と共に『ひまわり』の入り口をくぐることに。
「……ちょっと、古湊? 」
「あ、せんぱい袋一つ持って下さい」
「いやそうじゃなくて」
優香さん、あれで結構強引な所ありますから。やや苦笑混じりでそう囁く後輩に、半ば無理矢理買い物袋を渡される。
全く唐突な流れに、まだ困惑を隠すことは出来なかったが。ルンルンと、まるで少女のように前を歩く女性の姿を見ていると、いきなり断るのも何だか憚られ……大人しく従うことになるのだった。
夏休みはもう終わりましたが、話の中では夏休みはクライマックスです。
廃虚の話……の前にちょっとした寄り道です。
では、次回もよろしくお願いします!




