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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
Summer Time !!
56/91

アイツを変人だと思ってる自分が実は一番の変人だったりするから要するに自分を客観視してくれる存在の大切さに俺達は気付くべき




 

「………ふぇぇ、はふぅ」

「なんつーため息だよ」

「だってぇ……」


 膝掛けの栗色のブランケットを枕のようにして、だらしなくそこに顔を乗せた香織がやはりだらしなく、深々とため息をついていた。かなり気が抜けた無防備な姿を晒してしまっている。


「疲れたんだもん」

「お疲れさん」

「………」


 ポンポンと軽く、彼女の頭に手を置いてやる。わずかに、そのさらさらとしたサファイア色の髪を撫でるように。


「もっと」

「は? 」


 手を離した途端、何かねだるような上目遣いの瞳が二つこちらを見上げてきて。頭を自分でポンポンと軽く叩いた。

 仕方がないので、もう一度手を乗せてやる……香織の髪はさらさらとしていて心地良い。甘い香りもする。


「ふぅ」


 のほほん、といったように目を閉じてまったりと声を洩らす幼馴染み。出来れば先程からの周りの視線とかにも気付いて欲しいのだが……この際、自分も気付かない振りを通す事に決めた。



「で、どうすんだよ。これから」

「ふむ……どうするべきかね」


 さて、先程から彼女をこんなにふにゃふにゃな状態にしている原因であるが。言うまでも無く中等科の男子生徒、向井君の件である。

 バッサリと切り捨てられた一度目の後、トライする事なお三回、ことごとく失敗していた。それはもうホントに、ことごとく。


 まずはリベンジ一回目、前回同様教室内を窺うところから始めようと試みたが……


「またっすか、先輩」

「きゃあ!? 」


 ものの見事に先回り。前回より更に早く後ろに回り込まれてしまう。慌てた香織が話題を作ろうと「あたしの趣味はね──」なんて寧ろ訳の分からない事を口にし出して収集がつかなくなり、呆れた後輩がため息を残して去っていき。


 二度目は中等科の廊下で運良く捕まえた香織が特攻を仕掛ける。「やぁやぁ向井くん!また会ったね!」なんてあからさまにフレンドリーな態度な彼女に対し中等科の彼は無反応、というか首を傾げてそのままスルー。「いきなり無視なんだ!? 」と最早涙目に近いツッコミを入れなければ本当にガン無視されていたかもしれない始末。で、辛うじて応えてくれた二度目のチャンスにも関わらず香織は再び意味不明な話題を口走り始める。「あたしが中等部の時はね──」とか「あの先生の弱点は──」とか、当然先程と同じように話の途中でいつの間にか消えてしまっていて。さっき外れたというのに全く学習能力の無いやつである。下手に話題作りをするより、直接本題に入った方がいいだろうに。


 三度目に至っては、最早正攻法を破り捨てて授業を抜け出して中等部へ侵入。このままだと恐らく逃げられると待ち伏せするだなんて言い出して………

「まぁた貴様らかぁ!穂坂っ、藤咲ぃ!!」

「何で俺までっ 」

生活指導の石立教諭にまんまと見付かり─中等科の時に香織が無茶苦茶する度に連行されていた─止む無く補導。「全くお前達は高等科に移っても何も変わっとらん!!いいかっ、お前らは……」生活指導室にて、石立に説教されること二時間。ようやく解放された頃にはもう授業が終わっている始末……つーか担任何やってんだよ。


「ふぅ……まさかこんなトラップがあったなんてね」

「………」


 一仕事でも終えたかのように軽く額を拭う幼馴染み。全く反省の色が見えてこない。


「よしっ、ここから大逆転チャンス!今度は失敗しないように、だね!」


 ていうか、する気も無い。


「さっき入った情報によると、次の時間彼等のクラスは体育らしいの」

「だからどうしたよ」

「もうっ、理解力ないなぁ俊也は」


 それだけの情報で察しろなど無茶も甚だしい。


「いい?体育って基本的に二クラス以上でやるでしょ?」

「あぁ」

「向井くんのクラスは三クラスで体育らしいから、チャンス到来だよ!」

「………チャンス? 」

「だからっ、男子の体育に直接潜り込んで向井くんにコンタクトをとるチャンスだってば! 」


・・・・・・・


「は!? 」

「三組もいればバレずにイケルって大丈夫!」

「いやいやいやっ」


 こいつは一体何を言ってるんだ。


「んなもん無理に決まってんだろ」

「大丈夫だよ、そんな一人一人の顔の覚えてる訳じゃないし」「覚えてなかったらそれはそれで問題だっ」

「へーきだって、いけるよ!俊也ならそんな空間にも溶け込める!」

「……自信満々に人を傷付けるのは止めろ」


 なんという無茶振りだろうか。高等科になって落ち着いた、そう思っていた春先であったがそれが大間違いであることに気が付いた。


「イケルって、ね? 」

「………」


 やはり何も変わっていない幼馴染みを前に、俺は深々とため息をつかずにはいられなかった。

 ……これから先、一体どれくらい振り回されるのだろうか、と。


 

 



 

 


「では、まずは体操から始めるぞ。皆広がれ」


 体操服姿の男子生徒の列、三クラス分の男子の列が一斉に捌けていく。それに倣うように、俺も小走りに体育館の隅へ。


「…………はぁ」


 ため息が零れたって仕方がない。と、自分自身を納得させつつ……頭を垂れる。



 結局。

 半ば強制的とも言えるだろう、背中を突き飛ばされるかのように、香織の無茶振りから中等科の体育の授業に潜入する羽目になったのだ。

 驚くべきことに、授業開始から10分経過した今のところまだバレてはいない。それ自体授業としてどうなんだという気もするが……てか、さっきから自分達の授業をサボり倒しているから後が怖い。


『いい?体育の授業中に何とか自然に向井くんにコンタクトをとるの』

『とってどうするんだよ』

『流石の彼も、まさか自分達の授業に潜り込んでまで勧誘にくるとは思わないはずです』

『そんな事思い付くのはお前くらいだしな、実際』

『するとね、彼には多大なるインパクトを与えると同時に自分の為にここまでするのかって気持ちになり始めると思うのです』

『普通にドン引きされるだけだと思うが』

『いいの、大事なのはインパクトだから!ここで強烈な印象を残しておけば、これからの駆け引きでもイニシアチブをとれるんだよ』

『………はぁ』

『大丈夫、部長を信じなさいって!』

『………』


 直前までの香織との会話を思い出す。

 ……ホントに上手くいくのだろうか。


「では、次はランニングだ。三分間各自体育館内を走りなさい」


 教師の指示を受けた生徒達が一斉に走り出す。俺はといえば周りを見回し、目的の人物を探しつつ小走りに生徒の間を抜けてゆく。三クラス分とはいえ、目的の人物を見つけるのはそう大変な事ではないだろう。


「………」


 二三回辺りを見回して、あの高身長を左前方に発見した。いかにも面倒そうな、やる気の欠片も無さげに欠伸をしている……俺が言えたことじゃ無いけどさ。


 俺は出来るだけ存在感を消して─と自分自身に言い聞かせて─気付かれないように、勿論周りにも不審がられないように彼の側に近づいて……


「あれ? 」


 ……いない?

 確かにそこに居たはずの人物がいつの間にか消えている。


 思わず口をついて出てきたやや大きめの言葉に周りの連中も振り返る。まずったか?


「どーも」

「っ!? 」


 と思ってたら、いきなり後ろから声が。慌てて振り返ると、幸か不幸か目的の男子生徒がこちらをしっかりと見据えてきていた。

「随分面白ぇことやってますねぇ、先輩」


 ニヤリ。格好の獲物を見つけた鷹のごとく、悪魔のように口元を歪めた人物が。


 ………まずったぁ。


「意外だなぁ、まさか同い年だったとは。いや、これじゃ先輩じゃ無ぇな」

「……はは」


 並んで走る。目を逸らすしかない。


「それとも体育だけ単位落として再履修とか? 」

「いやぁ、まぁ……」

「運動音痴っぽそうですからね、見た感じ」

「………」


 失礼だと思う以前に「その手があったのか」と思ってしまった俺はもうダメかもしれない。


 どうでもいいが、見た目が運動音痴=知的で物静かな男子、なイメージと考えれば悪い気はしないかもしれない。

本当にどうでもいい話だけど。



 等と考えていたら、目の前の彼はあからさまにため息をついてみせる。

 ……おい香織、


「で、わざわざ潜り込んでまで何の用すか」

「……てか、驚かないんだな」

「驚く以前に呆れ果てますよ、関わり合いたくない方面で」


 おい香織、話が全く違うぞ。インパクト云々の話はどうしたんだ。


「まさか、ごくごく良識があればまず考え付かない方法でくるとは」

「刺々しいな」

「いやー、さすが社会の環から外れた方の考えは読めませんねぇ」

「悪意の塊か」


 俺が社会の環から外れたかどうかはさておき。目的が全くと言っていいほど達成されていない事は確かである。


「要するに、あの部長さんの差し金って話ですよね」


 ……お見通しらしい


「あー、まぁ」

「いやー大変っすね、心中お察しはしたくありませんが」

「言葉遣いおかしくね?」

「取り敢えず、御愁傷様とだけ」


 周りの中学年と混ざっていつの間にか並走していた俺だったが、その一言を最後にその足はピタリと止まった。


「……おい」


 気が付けば、目の前には仁王立ちしてこちらを睨み付ける体育教師が。隣ではこちらにニヤリと笑みをくれる向井が。それを見て悟った。


 嵌められた。いつの間に教員に連絡をしたのかは知らないが、まんまとしてやられた訳だ。

つーか驚くどころか対応早すぎ、柔軟過ぎるでしょこの人。あとそのエスっ気満載な笑み止めろ。


「お前、所属と名前を言え」

「さ、三年B組……片瀬です」


 いやまだだ、まだ抵抗の余地はある。困った時の三年B組を今こそ――


「この授業はDEF組の合同だ、それからB組に片瀬なんて生徒はいない。担任は私だからな」


 世は無情だった。


「職員室まで来い、少しきつめに話し合う必要がありそうだな、片瀬」










「え、えーとさ。ほら、中等部の職員室って思ったより狭くなってたでしょ」

「………」

「む、昔は広かったのにねー

それってアレだよね、私達はちゃんと成長してるって証?だよね」

「………」

「あ、あはは……」


 放課後。

 中等部の職員室で散々に叱られ倒した挙げ句、やっと解放されたと思ったら時計は4時過ぎを指していた。窓の外はまだまだ明るいが。



 目の前にはふわりと揺れる蒼い髪、キッと結ばれた桜色の唇。泳いだその紅い瞳の行方など知るよしもない。


「ご、ごめん!俊也!」


 次の瞬間、それは強く瞑られてパンっと両手が併せられる。

 が、俺の冷めきった脳内からは微弱な電気信号しか送られて来ず、特に感慨も無く視線を逸らした。


「帰る」

「わ、わっ!?ちょっと待った! 」

「待たない、帰る」

「え、えっと、あの……!! 」




 ギュッと腕を取られる。離すまいと結構強く。恐らく無意識だろうが、腕には彼女の胸が当たってしまっているが当人はそれどころでは無い様子。


「次は、次こそは上手くいくから!今度こそリベンジ、リベン、ジ……」


 因みに、リベンジは復讐って意味だからリトライが適切だと思うが……まぁどうでも良いか。


「あの、やっぱり……怒ってる、よね? 」


 恐る恐る、といった上目遣いでそう尋ねてくる。

 こうして見ると、まるで仔犬のようで……何か気が削がれるな。


「……ゴメン」


 あからさましゅんとした様子で俯いてしまう香織。

 ……その手には乗らないからな、一体何年の付き合いだと思ってるんだ。


「とにかく、今日はもう帰るから。リベンジなら一人で」

「ううん、あたしも帰る。勧誘は諦める……」

「………」

「帰ろ、としや」


 

1.仕方ない、リベンジ内容を聞く

2.それでも突き放す



 ……はぁ。選択肢、あって無いようなもんだろコレ。



「……で、次は何すんだよ」

「え」

「だから、次の作戦?ていうのか、どうせまだ諦めてねーんだろ。ここまでくりゃ変わらねーよもう」


 さっきまでの落ち込んだ―ような態度―とは打って変わってぱあっと笑顔が輝き出す。ここだけ見れば、まぁ純粋に可愛いと思わなくないこともない気がしないでもない。毎回思う……って事は毎回上手く乗せられてるって事ではないか。

「ホントに!? 」

「はいはい、ホントホント」

「さっすが俊也だよ!あいしてる!」


 何て安い愛だろうか。

 女子じゃなかったら一発殴ってるトコロだ。


「んで、どーすんだよ?アイツ、かなり手強い……つか変わり者だぞ」

「む、分かってる!だからもう小細工無しの正面突破をするしかない」


 突破しちゃうのかよ……


「それが失敗してんのが現状だろ? 」

「ホントにホントの正面攻撃、シンプルisべすと!の攻撃!」

「攻撃してどーすんだ」


 名言もコイツにかかれば形無しだ。

 要するに原点に返って正面から勧誘する、という事らしい。これでダメなら諦める、と。


「もう放課後だろ、帰ったかもしれないぞ」

「放課後は始まったばかりだよ!まだHRやってるかも知れないし。とにかく、教室付近に行ってみよ!」

「つーか、俺らのクラスどうなってんの?担任なにも言ってこないとか怖すぎるんですけど」


 今日ほとんど授業出てないどころかHRすら出席してない始末、向こうからしてみれば問題児でしかないはずだ。

 そんな不安など物ともせずに、香織は意気揚々と目的の教室へと突き進んでいった。……いっそ萎れるくらい説教を受ければいい。




「ありゃ、誰もいない? 」

「みたいだな」


 目的のクラスは空っぽだった。もうとっくにHRは終わってしまったらしく、香織の読みは敢えなく外れ。


「呆気なく終わったな、お前の作戦」

「むぅ……」

「んじゃ帰るか」

「つめたっ!?ドライアイス並みに冷たいよ俊也!! 」


 全身二酸化炭素になってしまうのか。冷酷の極みだな。


「さっき見せてくれた優しさは偽りだったのか!騙したな怪人二十面相!」

「優しいより寧ろ諦めなんだけど、つーか無駄にテンション高いなお前」


 お前は少年探偵団か。好きだなそういうの。


「そやって、いつもはひねくれ全開なのに時々ちらっと見せる優しさにコロッと落とさせる作戦だよっ」

「被害妄想って言葉を辞書で引け」

「乙女心を弄んだ!キズモノにした!」

「誤解を招く発言は止めろ」


 社会的に死んじゃうだろ。


 けど乙女心揺さぶられちゃったのか……それはもしかしたら、こんな俺でも駆け引き如何によっては女の子とトキメキ青春展開も可能になr


「それはないよ」

「何でこんな時だけエスパー使うんだよ、辛辣さと相まって余計ダメージでかくなんだろ」

「とにかくっ、俊也が優しさを見せたら最後まで責任持たなきゃダメなの! 」

「あーはいはい俺が悪かったよ」


 もう面倒臭いので折れることにした。とてつもなく無茶苦茶な理論をぶつけられてる気がするが。


「けど、教室空っぽじゃしゃあないだろ」

「うー」

「何か宛がある訳でも──」


 無い。そう言いかけて、近くに一人の女の子が近寄ってきていた事に気が付いた。香織とは異なる気配が。


「あ、あの……!! 」


 振り返ったのは二人して同時だっただろう、まだ明るい外の日を逆光にして、とある少女が立っていた。


 眼鏡をかけた女の子が黒髪を揺らして、ゆっくりと。


「新聞部の方ですよね?

あの、お話は伺ってます」

「「?」」


 お話?

 当然身に覚えがない俺達は顔を見合わせるしかない。


「あ、えっと、同じクラスの男子に紹介して頂いたんですけど……」


 紹介って何だ……つーか、同じクラスの男子って。クラスってこの教室のことだよ、な。



「紹介?

あ、ひょっとして入部希望の人かな!? 」

「いえ、そうじゃなくて」

「? 」


 女の子はふるふると、セミロングの髪を大袈裟に揺らす。そして次の瞬間、彼女の口をついて出てきたのは……


「その、私のお願いを聞いて頂けるって……」

「「え? 」」


 ……嵌められた。


 直感的にそう思ったのは、ふと廊下の先の角に見えた【男子生徒】の幻影のせいだったのかも知れない。


 曰く、『先に動いたら負け』これはよく、拮抗した戦力同士の戦いの場や達人同士の戦いにおいてよく用いられる。

 ともすれば、これは俺達が達人とも呼べる境地に到り戦いを繰り広げていたとも言えるのではないか。


「ふむ、よく分からないけど……相談事なら私達新聞に任せておいて! 」

「あ、ありがとうございます! 」


 ……いや、違うな。単純にアホなだけだコレは。





2ヶ月間、全く更新出来ずに誠に申し訳ございませんでした。尤も、自分のお話などを読んで下さっている心優しい方がいたらの話ですが(笑)

とにもかくにも、今後はこんなにスパンが開かないように気をつけて買いていきたいと思います。同時進行中のリメイク作業もしつつ、頑張っていきたいと思います。


次回あたりで、新入部員の件は一旦決着する予定です。その後はぼちぼち進めていきたいと思います。これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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