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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
Summer Time !!
55/91

最初の壁は……

 


 

「向井聖麻くん……か」


 分厚い表紙のアルバムを捲った香織がしみじみと呟く。資料室から借りたその赤い本は、表紙に“JUNIR years2013”書かれてある……今年の学園アルバムだ。2013年の中等部全学年の生徒が載っている。


「ふふふ」


 怪しげに笑う。出来れば他人の振りをしたいが如何せん真隣にいらっしゃりやがるのでそれも叶わず、道行く生徒に訝しげな視線を向けられているのだ。


「……あのさ、本見ながらニヤニヤする止めないか? 」

「失礼なっ!人を変人みたいに言わないでよ」

「端から見たら違いねーよ」

 それもアルバムて。何それ怖い。


「何を言ってるのかね俊也くん。せっかく新しい戦力が加入しようとしているのに──」

「決まってないからな、まだ」

「あのぐるぐる会長を見返してやる第一歩なんだから、テンション上げていかなきゃ!」

「つーか会ってもいないからさ、そもそも」

「勢いが、流れがきてるんだよ!私達に! 」

「ねぇ聞いてる?俺の声届いてる?」


 職員室前の本棚にあったアルバムを返すと、軽く咳払いをして間を整える幼馴染み。言うまでも無いが、相変わらずの猪突猛進振りである。


「さて、じゃあ早速捜しにいきますか」

「あ、霞達はいいのか? 」

「ん、昼休みに取り敢えず顔を見に行っときたいから。本格的な勧誘は放課後かな、今は……牽制? 」

「戦争でもしにいくのかよお前は」


 白ノ宮が紹介してくれた宛。

 アルバムの写真を見た限りでは正直想像の付かない人物だった。鋭めな目付きと赤い髪が一見怖そうな印象を受けそうでもあるが、整った顔立ちには真面目な印象も見受けられそうでもあって。まぁ実際に会ってみないと分からないか。


「じゃ、中等部へゴー!」

「そのテンションがへし折られない事を祈るよ」

「ふふっ、まさか」


 一体どういうつもりでせせら笑ったのか。尋ねてみたい気持ちを抑えつつ一緒に中等部の校舎へと向かった。



 



 

 



 


 


 


「懐かしー!!」

「言うほど昔じゃないだろ」

「またこの入口くぐることになるなんて、何年ぶりかな」

「4ヶ月ぶりだからな」

「あ、ここの下駄箱!前はあんなに大きかったのに」

「どんな速度で成長してんのお前」


 人生の高度経済成長期ってか。


 中等部の校舎に入るのは数ヶ月ぶりだ、何せつい数ヶ月前まで俺達は中学生だったのだから当然である。香織は実に感慨深そうにあれこれ言っているが、正直それ程でも無い。


「あ、ここって私達の靴があった場所だよね。三年間ちょうど隣同士で──」

「おーい部長さん」

「って、そうだった。あはは」


 ちょっと目を離すと目的そのものを忘れて昼休みが終了しそうである。手綱を引くかのように、目的地である中等部三年の教室へ。確か……3ーBだったかな。


「発見! 」

「おー」


 生徒の中にあった赤髪はすぐに見付かった。高い身長も相まって、やはり中学生らしからぬどこか大人びたその様子は目立つようである。


「では、早速行って話してみよう。なんならこれからの──」

「待て待て」


 どうしてこうも直球勝負が好きなのかお前は。現代社会においてそのアグレッシブさは色々とレアだ。


「取り敢えず様子見だろ、まず周りの状況をもうちょい把握しろ」

「うーん」

「話しかけるにしたって段階があんだろ、いきなり指名直撃なんてしたら不信がられるぞ多分」


 感性が一般的に言う“まとも”といって差し支えない人物だったならば。


「直線とは最大にして最良の近道なんだよ、何事においても」

「聞いたことねーよそんな格言」

「あたしの人生における答えなんです」

「通りで」


 そんな事はさておき。

 まず上級生が下級生の教室に堂々と入っていく事自体、普通なら結構勇気がいるんだけど。


 俺達の目線の先、C組の教室内の窓際。ぼんやりと窓の外を眺めている赤い髪の青年だ。


「という訳で、いこっ!突入だよ! 」

「ちょっ、せめて教室の外に呼んで貰うとかさ」

「もう、そんな消極的じゃ勝てる勝負にも勝てないよ」


 明らかに不満そうな表情で振り返る。気持ちは分からなくも無いが、けど重要な局面だからこそ慎重にならなければいけない時もある。


「ほら、クラスに知り合いとかいないのか?そいつについて話とか聞けるんじゃ」

「え、ここに?どうだったかな? 」


 小首を傾げる香織。色々と顔の広い彼女なら、中等科にも知り合いくらい幾らでもいるはずだが。


「まずは軽い身辺調査をしとくって事か。なるほどな、確かにその方がやりやすいかもな」

「そゆこと。少しでも人となりを把握しとけばってこと」

「うーむ……

でも、結局面と向かって話すんだし……」


 やはりはやる気持ちを抑え切られないようだ。


「大体、昼休みは偵察のつもりだったんだろ。だったら」

「だな、いきなりぶつかっても引かれるとも限らない」

「むむむ」


 俺達の意見は一致しているが、やはり首を縦に振らない──ん?俺達?


「そりゃ二人はさ──って、あれ? 」


 ………誰と誰だって?


「っ!? 」

「きゃっ!? 」


 いきなりの気配に慌てて振り返る。途端、視界に飛び込んできたのは──


「どーも」


 先程まで教室で見ていた筈の、赤い髪の青年だった。


 香織と顔を見合せて、唖然。


「なるほど、今高等部では下級生の教室を覗き見るのが流行ってるんですねぇ」

「「………」」

「流石明条、変わった学校だ」


 い、一体いつの間に……だって俺達はさっきまで……


「で、こんな所に何の用で?

もしかして人捜しとか」

「あ、えっと」

「何なら呼んできてあげましょうか。上級生が下級生の教室に入るのは抵抗あるでしょ、普通は」


 ニヤリと。口元があからさまに歪んだのを見た。

 ダメだ……コイツ確実に気付いてる。


「俺らの教室覗いてたし、のC組の連中に用があるんすよね。男子か女子か……名前はお分かりで? 」

「………」

「あー、別に遠慮とかしなくていいっすよ。困った時はお互い様って言ってやがるしどっかの誰かも」


 とても爽やかな笑顔で、に手をく差し伸べてくれる青年。


 この場面だけ切り取ってみれば、親切なワンシーンに思えるが……俺達は今、水面下で彼に追い込まれているのだ。どう動くべきか……


「だったら、お願いしようかなっ」

「なっ」


 だというのに。

 気にせずいきなり立ち上がるのがこの幼馴染みである。


 現状として、青年が優位に立っているのは分かるが、何故それに対抗しようとするのか。

 余裕すら垣間見える彼女の挑戦的な笑み、一体何処からそんな自信があるのだろうか。


「向井くん、向井聖麻くんって男子生徒を呼んで来て貰えるかな? 」

「……なるほど、そうきたか」


 フッと、やや小さく息をつきながら口元をうっすらと緩める。

 何だか楽しそうである。


「どうも、向井は俺っすけど」

「うん、知ってるよ! 」

「………」


 ……頭が痛くなってきた。


「あたしは穂坂香織。高等部一年生、新聞部に所属してます」

「穂坂香織……あぁ貴女が。中等科でも有名ですよ先輩は」

「え、ホントに?えへへ」

「無駄に前向きで猪突猛進、他人の形振りも構わない暴走特急、迷惑千万の塊って」

「うぐっ」


 なるほど、有名になる訳だ。中等科時代のコイツはまさしくその噂に相違ないのだから。


「……で、こっちが俊也。藤咲俊也、同じ新聞部だよ」


 いきなり振られて、軽く会釈をする。向こうも余裕の表情で頭を下げてくれた。


「因みに、二人は恋人同士で?」

「え!?

ち、違うよ!ただの幼馴染みだから、ただの! 」

「ほぉ」


 ニヤリと。再び彼の口元が曲がった気がしたが、慌てて否定する香織の方に目がいっていたので定かではない。


「それで、わざわざ先輩方は自分に何のご用で? 」

「うん、実はね……」


 ようやく本題である。てか、彼が引っ張ってくれなきゃいつまでも脱線していた気が。


 それはさておき。

 香織は向かい合った赤髪の青年にビシッと指を突き付けた。


「向井くん!

君には是非、我が新聞部に入って頂きたいのです!」

「………」

「新聞部だよ、新聞部!学内外に囚われず様々な事件を追って真実を追い求める!! 」


 そんな活動したことあったっけか。


 やたら元気な香織の笑顔に対して向井くんは……あれ、話聞いてるかコレ窓の方に視線向いてないソレ。


「ね、私達と一緒にスクープを追ってみないかな?一緒に!! 」


 ……渾身の決めセリフのつもりだろう、香織の中では。

 果たして、彼はどんな答えを──



 


 



 



「むぅ……」

「あっさりだったな」

「むむむ……」


 予鈴が鳴るまで後10分くらい。

 高等部の教室に戻ってきた俺と香織。頬を膨らませて、不満そうな表情を隠そうともしない。


 向井から返ってきた返事は言うまでも無くNO。本当に拍子抜けするくらいあっさりしていた。ただ「興味ない」と。


「うぅ~、せっかく決めセリフまで一生懸命考えたのに……」

「ホントにアレ考えてたのかよ」

「一生懸命、徹夜だよ徹夜! 」「嘘つけ」


 徹夜では無いにしても懸命に考えた結果があのセリフでは。スポ根系のマンガを読みすぎだ。


「ま、ダメならしゃーないだろ。諦めて他の宛を探すしか──」

「リベンジだよっ」

「………」


 諦めるという文字は無かったらしい。


「元々一筋縄でいくなんて思ってないよ、寧ろ中々骨のある子っぽくてあたしは嬉しい! 」

「俺達が弱すぎるだけな気がするけど」

「それに、噂に違わずかなり洞察力もあるみたいだし! 」

「俺らが分かりやす過ぎるだけな気がするけど」

「これは大当たりな人材だよ、何としても確保しなくっちゃね!! 」


 穂坂香織侮り難し。その徹底した前向きさと行動力は最早称賛に価する。でも話聞けな。


「……でも、あんなに一刀両断されると凹むかも」

「結局落ち込むのかよ」

「だって………あうぅ」


 自分の席につくや否や、ぐたーと両手を伸ばして机にだらしなく突っ伏してしまった。特に慰めてやる必要もないので(面倒なので)手持ちぶさたに辺りを見回すと──


「お、おっす。藤咲」

「ん、お前」


 意外な人物、田中康太が手を上げてこちらに近付いてきた。


「何でうちのクラスに? 」

「え、あぁ。弦に教科書貸してたんだ、それを回収にし」

「なるほど」


 隣のB組に在籍するイケメン男子。剣道部所属、ついでに言えば……


「そ、それよりさ。穂坂どうかしたのか?何か落ち込んでるみたいだけど」

「ん、あぁ」

「というか、二人はどこに行ってたんだ? 」


 香織に好意を抱いている。このくらい説明すれば彼については十分だろう。


「中等科、ちょい野暮用でね」

「野暮用? 」

「そ、野暮用」


 好きな女の子が他の男(っても俺だけど)と一緒にどこか行っていれば気になるものだろうか。田中の目は何の用事かと追及したくて堪らないと語っていた。


「香織がしきりに気にしてる男子と話をしにな、中等科へ行ってきたんだよ」

「き、気にしてる!? 」

「ラブコールもしたんだが、残念ながら受け取り拒否されたんだ」

「ら、ラブコール!? 」


 ちょっとからかうつもりだったのだが、よほどショックだったのだろう。

 大きく目を見開いて体を硬直させてしまう田中。大袈裟過ぎやしないか。


「部活の話だよ、部活」

「え? 」


 面倒臭いのでちゃんと話してやることにした。部活の現状とその経緯を含めて簡潔に。


「な、なんだ……それを最初に言えよ」

「………」

「でも、同好会か」


 田中は深々と息をついて何か言いたげな視線をこちらに向けてきた。


「同好会ってさ、部活と掛け持ち出来るんだよな」

「何だよ突然」

「あ、いや……もし新聞部が同好会になってくれたら、俺も剣道部掛け持ちして入れるかなーって」


 なるほど……下心しかない目的である。


「要するに香織目当てって事ね」

「ばっ、ちょっお前、そんなはっきり──」


 慌てて香織の方に目線を落とすが、彼女は相も変わらずぐてーと伸びている。話なんて聞こえっこない。が、田中に引っ張られて教室の隅へ。


「けどさ、そうしてでも距離を縮めたいんだよ。部室で二人きりになるとか」

「はぁ」

「一緒の活動してたら絶対仲が深まると思うんだよ、だからさ色々と深めたいって……」


 色々とってなんだ。


「部活の西本ってヤツが最近彼女が出来たんだけど。この間学校でヤったんだって、放課後の教室で」

「ヤったって、何を? 」

「何をって……その色々とアレだよ、男女の関係的に抱くって意味で」

「あぁ」


 ……聞くんじゃなかった。


「それ聞いてさ、なんつーか俺ももっと頑張らないとなって」

「頑張るって」

「頑張って早く、その、何とか穂坂と……べ、別に恋人同士にならなくても、ヤってからそういう関係に発展するパターンだってある訳だし」


 まさかコイツ、香織を無理矢理襲う気じゃ………ってんな訳ないか、そんな行動力も勇気も持ち合わせているヤツじゃないか。

 でも、何が引き金で変な行動に出てしまうかも分からないタイプかも……


「なぁ、何とかもっと仲が深まる方法とかないかな。偶然二人きりになれる方法とか、偶然がいい──」

「却下」

「何でだよ!? 」


 そこだけ声がやたらにでかい。


「お前と二人きりなんかにしたら危険だ」

「ちょっ、どういう意味だよ」

「見返してみろ、ついさっきの自分のセリフ見返してみろ」

「ぬぅ……」


 首を傾げる田中、本当に理解していないのなら本格的に危険な訳だが。

 かと思うとこの男いきなり難しい表情になって。


「……やっぱり藤咲、穂坂に恋愛感情があるんじゃ」

「は? 」

「藤咲とはライバルになるのか……」


 もう夏だというのにコイツの頭の中は未だに春らしい。


「あのなぁ、どこをどうしたらんな的外れな結論が弾き出されるんだよ」

「的外れ、か? 」

「単純に幼馴染みを心配してるだけだろ、それ意外にねーよ」

「幼馴染み……だけ? 」

「そーだよ」


 何か言いたげな表情をしながら顎に手を当てて考え込む。お前が危険だという意見については頭の中から抜け落ちてるらしい。


「そか……だったらやっぱり、もっと積極的にいかなきゃダメだよな。男女の関係的に大きな一歩を……」

「………」

「その為には二人きりで良い雰囲気というか、ムードを作って……偶然が装えればいいな、出来れば」


 どれだけ積極的になっとして、果たしてコイツに香織が振り向くのか、甚だ疑問になってきた。


「としや~」

「ん? 」


 とか何とか思っていたら、いきなり後ろから何者かに押される感触。

 噂をすれば、香織が抱き付くように後ろからのし掛かってきていた。


「なにしてんのお前」

「充電? 」

「可愛らしく首を傾げて訳の分からない事を宣うな」


 というか、背中には直に彼女の胸の感触が……柔らかいな、やっぱ。


「ほ、穂坂!おはよう」

「え、わわっ!? 」


 微妙に表情をひきつらせた田中がぎこちなく挨拶をすると、その存在に気付いたのか香織は慌てて抱き付いていた背中から離れてしまう。


「おはよう、田中くん。どうしたの、俊也に用事? 」

「あ、いや、えっと、弦に教科書貸してたから」


 さっきまで変な話をしていただけに、田中は狼狽えているようだ。一体何をどこまで想像していたのか、香織のどんな姿を……


「それより、穂坂大丈夫か?何だか元気ないように見えるけど」

「え、あー、うん。ちょっとね」


 言葉を濁す香織。

 せっかくのチャンスと、話題を探しているあろう田中には悪いのだが、こちらから香織に尋ねる。


「で、どーかした? 」

「あ、そだ。俊也に購買で奢って貰おうと思って」

「悪びれも無く言うな」

「じゃ、奢って欲しいな」


 どうしてか、コイツにそういう風にねだられると弱い気がする。


 ……これも充電の為か。


「一つだからな」

「ありがと!俊也が幼馴染みで良かったよー♪」


 数百円レベルの関係なのか。


「早く行こ、授業始まっちゃうから!」

「へぇへぇ」


 彼女に腕をとられて、半ば引っ張られるように。


「じゃあ田中くん、またね! 」

「え、あ、あぁ……」


 あからさまに物足りなげな田中を教室に残して、香織と俺は廊下へ。正直、アイツの話が頭の片隅で若干の不安として(くすぶ)ってはいたのだが……まぁ多分大丈夫だろう。



「おや、穂坂とその変態付き人か。いらっしゃい」

「あ、藍さん!おはよう!」

「付き人冥利につきますね、いやホント」


 いつも通りお綺麗な藍さんにも迎えられて購買に。香織にはデザートを奢ったのだった。……二つも。



「で、結局新入部員の件はどーすんだ? 」

「勿論、リベンジだよ!」

「どうやって」

「……どうしよっか? 」


 …………こちらは不安しかない。







今回から、龍王の光翼様から投稿下さったキャラクターを登場させて頂きました!

龍王の光翼様、誠にありがとうございます!!後輩ということで、イメージやしゃべり方など色々と違和感もあったかもしれません。意見、訂正がありましたら何卒お願い致しますm(_ _)m



次回から香織の新入部員確保の話がちょっと続きます。果たして勧誘の行方は何処、新部長の力量が問われる時ですね!


それから、最後の方に出てきた田中くんの思惑が色々とアレでしたね(笑)まぁ健全な男子高校生ならば仕方ない、のかな。

まぁしかし、俊也の不安のようにまさか田中くんがいきなり香織を襲ったりとか、とんでもない行動に出ることは……ここはノクターンではありませんからね


しかしまた更に積極的に動き出すのかもしれません。果たして俊也は香織を守ることが出来るのか………そんな話だっけコレ(笑)

冗談はさておき、恋愛関係はこれからやたら複雑になっていくと思います。一応、夏休みを一つのターニングポイントにしようかなと。



では、次回もよろしくお願い致します!

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