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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
41/91

追憶邂逅

 

 思えば、俺の知っている今の東堂進一は初めて会った時とは面影すら残っていない別人であると言える。正確には、その当時の進一が別人であったと言い直した方が良いだろう。


 この違いは多分とても重要で。あいつがあいつ自身を証明する為の思い出でもあるだろうから。



 俺は飽くまで部外者だ。それでも事実を事実として知る事は出来る。ありのまま、受け止める事は出来る。

 それも、やっぱりきっと大切な事で。そんな役割も舞台にはあって良いんじゃないかって。



 進一と一緒に、墓石に向かって手を併せながら。思い浮かんだのは、あの時の見た青い空だった。







 中等部に上がった年の9月。


 中学生活も何となく落ち着いて……いや、無理矢理新聞部に引き込まれて慌ただしいが、まぁ精神的にぼちぼちといった時期かな。


 当時から俺は、空を撮っている時、散歩がてらもう少し遠くに出掛けてみたいと思う事がよくあった。珍しい空を見つけた時とかはテンションも上がり、考えもなしにカメラ片手に自転車を走らせるなんて事もしばしばだった。


 宛も無く自転車でふらふら、隣町どころか市が変わっている程度の散歩で。気まぐれに近くにあったお寺に足を運んでみた時の事だ。

 いつもとは違う景色を眺めつつ、敷き詰められた小石を踏み鳴らしながら、俺はとうとう裏手の墓地にまで回った。


 ずらり。

視線の遥か先まで一望出来る程、というのは些か大袈裟だろうが、それでも見渡せば墓石が広がっている光景。思わず足が止まり、その石柱の一つ一つに目を奪われる。言い様の無い不思議な感覚、何だか全身が摘ままれたような奇妙な雰囲気。


 それは、不意に目に入った墓石の前の光景によってなおのこと強くなった。



 休日のまっ昼間、閑静な寺の裏手にひっそりと座る一人の少年。小さな墓石の前で、両手を併せて目を閉じている灰色の髪の少年の姿に。


「………? 」


 ふとぶつかる視線。訝しげな瞳は、それでもしっかりとこちらを捉えていた。


「………」


 端正な顔立ち、流し目に綺麗な二重瞼。恐らく立ち上がれば高身長であろう体格。きっとこのイケメン野郎は、さぞかしおモテになるのだろうな。なんて、ぼんやりと考えていた。


「……心霊スポットじゃないぞ、ここは」

「え? 」


 そのイケメンは訝しげに目を細めて俺を見る。

 明らかに好意的なそれとは正反対のものだった。


 うむむ……イケメンとは総じて他人に見せる外面くらいはオールイケメンで繕うものが多いと思っていたが、そうでもないのだろうか。



 そいつはゆっくりと立ち上がると、俺を指差す。正確には俺の右手を。


 右手にはカメラ。そうか、これを見てこのイケメンは勘違いしたのか。神聖なる墓地に不謹慎な奴が来たと。いや、まぁ不謹慎には違いないか。


「空」

「あん? 」

「空、撮ってたんだよ」


 そうしたらいつの間にかお寺に来ていたんだ。取り敢えずそんな旨を伝えてみる。

 するとそいつは、俺に倣うように空を見上げて、暫く見つめた後。


「………」


 あからさまに呆れたように、侮蔑の意をありありと含んだ軽いため息と共に肩を小さい竦めてみせた。


 もう関わり合いたく無いと思ったのか、そのまま俺の横を通りすぎざまに一言。


「……変な奴」


 ……失礼な奴。


 その日の雲には小さな虹が架かっていた。



挿絵(By みてみん)




 そのイケメンと、思わぬ形で再会したのはそれから一週間後。


「………東堂進一です、よろしく」


 私立明条学園中等部校舎一年E組に転校生としてやって来た男子がそれだった。無愛想な顔付きのまま、たったそれだけを宣い垂れる灰色の髪。


 言うなればちょっとした偶然。

 いつものようにぼんやりと窓の外を眺めていた俺は、頬杖から滑り落ちそうになるのを慌てて押さえた。


「転校生だって、俊也! 」

「見りゃ分かるよ……」

「転校生か〜

ねぇ、これって新入部員勧誘のチャンスだよね? 」

「あぁ、そうなんじゃないの」


 俺の後ろの席では相も変わらず喧しい幼馴染みが何か言っているが、相手にするのが面倒なので生返事で返す。


「うーん……中々の素材ね、彼」

「? 」


 隣の席では眼鏡を掛けた女子がキラリと鋭い眼光を黒板の方に向けている。


「ねぇ、藤咲君。彼、攻めと受け、どっちだと思う? 」

「は? 」

「決まってるじゃないっ、情事の際に野獣になるか否かよ」

「は!? 」

「私的には受けよね。もう一回り大きな殿方に無理矢理羽交い締めにされて【自主規制】……きゃあっ!性感帯は首と見たわっ、でももっと敏感な【自主規制】」


 ……今でも覚えてます、隣の席、アブノーマル代表こと西条凜さん。高等部には上がらず別の女子高に行ったらしいです。元気にしてるかなぁ、会いたく無いけど。


「ちょっと凜ちゃんっ、俊也に変な事吹き込まないでよ! 」

「後学の為よ。いずれ藤咲君も薔薇(エデン)の道に導かれるんだから」


 死んでも嫌だ。


「なりませんっ」

「運命なの、男子は皆心の奥底に秘めている真なる気持ち」

「絶対違ーう! 」


 香織と西条さんの言い争いに先生からの渇が入ったのは僅か数秒後だった。


 その後、転校生の席の位置が決まり、普段通り授業が開始されたのだが。

 転校生、それも極めてルックスの良い男子とくれば周りに人が集まるのは必然。休み時間、特に昼休みには女子がそれはもう沢山、他クラスからも押し掛けていた。


「凄い人気ねー、転校生君は」

「お前は行かなくて良いのかよ、佐賀良」

「知ってるでしょ、あたしがああいうの苦手だって」

「まぁ、な」


 クラスでも数少ない女友達の佐賀良由美─正確に言えば香織繋がりの友達─と窓際に座って、弁当をつつきながら教室の中心で起こっている騒ぎを眺めていた。


「藤咲君は行かなくて良いの? 」

「あの包囲網を野郎一人で突破する絵面を想像してみろよ」

「面白いじゃない」

「お前だけな」

「人を楽しませられるのって、素晴らしい才能だと思わない? 」


 軽口を叩き合いつつ、箸を口に運ぶ。


 転校生が来たくらいでわーきゃー騒ぎアピールする女共より、彼女みたいなタイプは遥かに波長が合う。だからこそ、こうして一緒にいたりもする訳だが。


「つーか、香織は? 」

「向こう」

「ん? 」


 ため息混じりに向けられるその指の先。わらわらと転校生の机に群がるミーハー共の中に、居た。


「ねぇ!

部活って……あ、痛っ。私新聞部なんだけど、新入部員……って、押さないでよちょっと! 」


 頑張って机に近づこうとしているが、争う女共に阻まれ押しやられている哀れな幼馴染みの姿が。


「………他人の振り」


 そうしようと今日は決め込んだ。




 ところで気になるのは当の転校生の方である。

 周りの人間の問いかけにも表情一つ変える事無く、聞き流しているのだ。「あぁ」とか「さぁ」とか、ろくに答える気も無いらしく、昼休みも騒ぎにうんざりしたのか10分足らずでどこかに去っていってしまった。

 残念がる女共は、それでも「硬派で素敵」とか「寡黙な所に痺れる」とか結局好評しかしないという有り様が大多数。俺が同じ態度を取ったら、「調子乗んな」「キモッ」「空オタ自重www」など非難の嵐が吹き荒れるに違い……


「最後の関係ねーだろっ」

「え? 」

「あー、いや。何でもない」


 要するにあれが許されるのは彼が彼たる所以なのである。


「これがイケメンの力の一端なのか。どれ、理不尽という言葉を辞書で引いてみよう」

「藤咲は黙ってれば三枚目で通るかもしれないのに」

「ねぇ、黙って三枚目なの?普段の俺はどんだけ酷いの? 」

「やだな、冗談だって。目と鼻と口を変えればきっと大丈夫」

「何それねぇ、死んでいい? 」


 ※三枚目とは、滑稽な役や道化の役をする俳優又はそういったタイプの人の事である。容姿はともかく。

江戸時代の芝居に掲げられた八枚看板の中の三枚目、滑稽な役柄や道化役の名前や絵姿が入った看板に由来する。

 彼等は日々二枚目の看板を粉々にする妄想を励みに、涙をのんで奮起していた。注)一部一方的な個人解釈を含む


「うぅ……勧誘失敗したよ〜」

「……誰ですか貴女」

「ひどっ!負けて帰ってきた幼馴染みにかける言葉!? 」

「いや、ホント知らないんで、困るんでホント」



 転校生の周りの騒ぎも、週が変わるとほとんど嘘のように静かになった。所詮人なんてそんなものだ、目新しいものに飛び付きたがり、飽きたらまたすぐに違った目新しいものに飛び付いてゆく。いくら注目されていたものでさえ、時が経てば風化し忘れ去られるもの──


「東堂君のファンクラブ出来たんだって」

「あれ? 」


 ……こほん。

 まぁ俺が言いたいのは、転校生の机の周りの騒ぎはひとまず鎮静化したという事だ。


 俺はといえば。美術や技術の時間で偶々席が隣となった事もあり、近くで彼を見る機械が多くなったくらいだ。とはいえ、相変わらず無愛想でほとんど喋らないので会話などほとんどしていなかったが。


「………」


 だが、どうしてか。俺は何となくそいつの事が気にかかっている節があった。頭の片隅で、だが。


 墓地という、これまた極めて不思議な場所で出会ったからか。正直な所、今でもよく分からない。でもあの当時、俺は確かにそう思っていたのだ。


「なぁ」

「………」

「おーい」

「………」


 とある美術の時間。


「東堂進一、謎のイケメン転校──」

「黙って描け、時間が無駄になる」


 隣の席の人とペアを組んで校内の何かを書け、そんな突拍子もない課題に俺はこの無愛想な転校生と風景描写に勤しむ事となった。

黙々とやっても良かったのだが、単純な好奇心から会話を成立させてみよう思ったのだが。


「ならねーだろ、二時間あんだぞこの授業」

「お前と話す時間だよ」

「はっきり言うな」

「性格だ」

「あぁ、さよけ」


 俺も他人の事は言えないような性格だからそんなに気にならなかった。


「そういえば、この間お寺で会ったよな?」

「………」

「はいはい、課題ね課題」


 そんな感じで、ほぼ一方的に俺が話しかけて美術は終わった。課題も終わった。



「俊也っ、東堂君を新聞部(うち)に勧誘して! 」

「はい? 」


 香織から、そんな突拍子も無い依頼を受けたのは暫くもしない放課後、部活の時間。

 こいつ、まだ諦めてなかったのかと呆れたのは無理も無いと思って頂きたい。


「これは私の勘なんだけど、彼はきっと10年に一人の新聞部エースになれる逸材だと思うの! 」

「その的外れな勘で今まで何回俺を危機に巻き込んだと思ってんだ」

「なっ、そんな事ないもんっ」


 とか何とか言い合っていたんだけど結局。


「まぁ良いじゃないか藤咲。うちは年中人材不足、面白そうな奴がいると言うなら、声だけでもかけてやってみてはくれないか」

「いや、」

「香織の勘に免じて、な」

「………」


 圧倒的な美貌と人望、手腕で新聞部最強の黄金時代を築き上げた当時の部長、氷室(ひむろ)悠妃(ゆうひ)の一言で決定した。



「なぁ、東堂」

「………」

「おーい」

「………」


 翌日の技術の時間。


「聞いてるか?聞こえたら返事を──」

「黙って切れ、余所見していると指が落ちるぞ」

「バカ、んな訳……おわっ!?危なっ!? 」

「馬鹿はどっちだ」


 電ノコで木材を切っている時に、偶々向かい側になった転校生に交渉を持ちかける事にした。本当は面倒だったが、あの氷室先輩に言われたのでは仕方ない。あの人に逆らう=学園を敵に回すのと同義である。


「ところで、お前部活とか入らないの? 」

「……部活? 」

「そ、部活。学校つったら部活じゃねーの、やっぱり」

「無いな」


 相変わらず無表情な奴だ。俺も目が死んでるとよく言われるが。


「あー、だったらうちの新聞部なんかに入って見る気は」

「断る」

「秒殺か」

「………」


 少しは俺の身にもなって欲しい、というのは転校生には酷か。

 まぁともかく俺は最善を尽くした、後は面倒……いや、やりきった感を出して氷室先輩に報告しよう。理解のある人だから、ちゃんと説明すれば余裕だ。だというのに……


「そんな事言わないでさ、ちょっとだけでも考えてみない? 」

「………」

「せめて見学だけでも! 」

 ややこしい女が入って来やがった。嫌だというものを押しても余計嫌がるだけだというのに。


 彼は意外にも不思議そうな視線を香織に向けていた。


「誰だ? 」

「えぇ、そこから!? 」

「………」

「同じクラスの穂坂香織だよ、この間から新聞部って勧誘してる……」

「知らない」

「んなっ……」

「興味無いからな」

「はうっ! 」


 哀れ香織。気力を失った幼馴染みはそのまま崩れ落ちた。


「はぁ……悪かった。面倒かけたな」

「面倒? 」

「んじゃ」


 首を傾げるそいつに軽く手を振って、俺は撃墜した幼馴染みを保健室に運ぶ事にした。授業もサボれた。




 それから、俺は少しずつ進一に話しかけるようになった。話しかけるといっても、他の友達とするような馬鹿らしい会話とかではない。例えば挨拶とか、次の授業を聞くとか、課題を尋ねてみるとか、そんなごく他愛ない事だ。顔見知り同士が交わすような言葉。


 それでも多分お互いにクラスメートくらいは認識するようになったとは自負したい。

 最初のうちは返事をしてくれる事も稀だったが、話しかければちゃんと言葉─一言二言ではあるが─が返ってくるようにもなった。無愛想なままだが。


 俺の方としても、東堂進一と友達になりたい、もっと仲良くなりたいという気持ちがあった訳では無く。ただ何となく顔を合わせたら気まぐれに話しかける程度のものだった。


 たまに昼が一緒になる事があった。屋上で一人のんびり食事をとるのを好む寂しい俺と同じなのか、あいつもまた一人屋上でパンを食らっている姿が見受けられる事があって。そんな時は特に何も語らずに、隣に座って俺も昼食をとるのだった。いつもと変わらぬように。

 

 時々帰りが一緒になる事もあった。

 帰宅部であるあいつと、仮病という病気で部活を休む時の俺は時間帯的に同じだからだ。帰り道はこれといった会話がある訳でも無く、けれどもそれが気まずいという訳でも無かった。

「危ないぞ」という忠告の直後、ボーッとしていた俺が電柱に激突したり、溝に落ちるといった会話はあったが。


 周りからしてみても、今思い返してみても、奇妙な関係だったように思える。当時は……特に気にしなかったかも知れない。



 しかしやはり、何か気にかかるのは間違い無かった。


 例えるならば“違和感”

 何て言えば良いのだろう、東堂進一という人間を纏う雰囲気というのだろうか。寡黙で無愛想、人との付き合いが不得手。そんな人間像に、どうしてか違和感を覚えずにはいられなかったのだ。


 言っておいて難だが、これは明らかにおかしい。だって俺は東堂進一という人間をほとんど知らないのだから。あいつの過去なんてこれっぽっちもだ。

 会った時から無愛想で寡黙。それなのにそこに違和感を抱くなんて、全く持っておかしい筈なのだ。


 だからこそ、自分が何について気にかかっているのかその時は気付けなかった。



 ただ、僅かな表情の変化を見せる時があった。

 それは校舎を出て、武道場の前を通り過ぎようとした時。


「………」

「? 」


 外にまで響き渡る竹刀を打ち付ける音と大きな掛け声。剣道部の猛練習が行われているであろうその武道場を、何処か遠い目をして見つめる姿がそこにあった。


「どうかしたのか? 」

「………いや」


 その変化はどういう訳か一瞬で消えてしまって。

 またいつもの愛想の無い男が一人戻ってくる。


「何でもねーよ」


 そう言い残して、そいつは一人帰ってゆくのだ。

 その時、俺は決まって後を追わずに部活に戻るのだった。




 東堂進一という妙な男子が転校してきてから二ヶ月。冬の寒さがその片鱗をありありと見せ始めてきた頃、俺は一人の女の子と知り合った。


 東堂愛奈。


 無愛想男の妹である。

 偶々帰りが一緒になった時、進一がスーパーに寄っていくなんて言い出したものだから、これは面白そうだとついて行く事にしたのだ。その時、これまた偶々商店街に来ていた制服姿の愛奈ちゃんと出会ったのだ。


 これがまた出来た妹さんで、可愛らしい笑顔で「兄のお友達の方ですか。いつもお世話になってます」なんて丁寧に頭を下げるもんだから、「いえいえこちらこそ、何のお構いもしませんで、はい」などと慌ててよく分からん事を口走る始末。クスリと笑われてしまったが、めちゃくちゃ可愛かったので全力で喜んだ、内心で。


 無論、進一からは「別に友達じゃない」と案の定の返答。どころか、妹に色々と話しかけられると罰が悪そうな表情で「やっぱり帰る」挨拶も無しにと帰宅してしまった。


 シャイボーイかっ!



「すみません、兄が失礼な態度を……」

「あぁ、いや。別に気にしてないから」

「本当にごめんなさい。

でも、本当は優しい兄ですから……」

 

 妹が欲しい。割りとマジでそう思った。今でも切実にそう思ってるけどね(笑)

 ↑いや、(笑)とか入れないてくんない?

 


 とまぁそんな訳で、成り行きでスーパーに入る事になった俺と愛奈ちゃん。


 しかし聞けば聞くほどよく出来た妹さんである。

 スーパーには晩御飯の材料を買いに来たそうなのだが、食事は主に彼女が作っているらしい。両親が共働きだそうで、掃除に洗濯等々。まさにアニメに出てくるような家庭的な妹ktkr、ってな感じである。


 妹が欲しい。転生したら妹がいる家に生まれるんだ、俺……



 スーパーでの話は、大体が愛奈ちゃんからの質問で兄の学校での様子とか態度であった。正直な話、俺だって仲が良いとは曲がり間違っても言えない訳だが、まぁ客観的な意見をそのまま口にした。

 愛奈ちゃんが「やっぱり、そうですか……」とどこか悲しそうな表情をしてしまったので、慌ててフォローを試みたが。


 スーパーを出ると、兄をよろしくお願いしますとまたまた改めて丁寧に頭を下げられた。

 この清楚さ、しおらしさ、女の子らしさ。どっかの幼馴染みに見習わせたいものである。


「本当は、明るくて優しい人気者だったんですよ……兄さんは」

「え? 」

「な、何でもないです。

それでは藤咲さん、また」


 別れ際に、呟くように放たれたその言葉。

 違和感をますます強いものにしたことは言うまでも無い。


 明るくて人気者、か。


 それが一体いつの話なのか俺にはさっぱり分からないが。そう遠くは無い話では無いかと、夕焼け空を見上げてふと思った。


 


 

 11月の後半。

 ふらり自転車の旅、という程の距離でも無い散歩。

 とある小さなお寺の前で自転車を止めた。そういえば、二ヶ月前にここでアイツと初めて会ったんだっけ。

 敷地の周りをくるりと一周してみようか。思い出したら、不意にそんな気が起こったのだ。


 

「…………」


 半周で足が止まったのは裏手の墓地に、案の定の人物の姿を見かけたから。

 二ヶ月前と同じ場所に。


 そのまますぐに、その場を立ち去ったのは……多分今は見なかった事にしておいた方が良いと考えたから。



 寂しそうに、それでも微笑している進一の顔を見て。優しげに話しかけているアイツの顔を見て。


 笑うんだなって、思った。

 よく知りもしない癖にとも、思った。


主人公の回想録です。

もう一話と半分続く予定です。もう半分で戻って事情が明らかになって……大会が遠い

丁寧にやりたいので、という言い訳にさせて下さい。本当にすみません。



さて。

中等部時代の主人公は香織に対して結構冷めた感じだったり。実はそんな事は無いのですが、今がちょっとちょくちょく気になる関係だったりするので、昔はそう見えてしまうように書きました。当時の意識としては、本当にただの腐れ縁ですね。

後、中等部の香織は主人公を巻き込みまくってたヤンチャ時代だったので(笑)


ともあれ。何より進一の性格がアレです。誰コイツ状態です。ちょっとオーバーかなと思いつつ、ここまではっきりしてれば分かりやすいかなと思ってやってみました。次回かその次で回収します。


あと、何か進一しか話す相手居ないっぽい描写になってますが、主人公にもクラスメートに男友達はい……居ますよ、多分。きっと居る筈です、いつしか必ず(あれ?)

ちょくちょく出てくる由美とは一年で知り合いました、この頃はまだ苗字での呼び合いですが。




退屈な回想録かもしれませんが、あと一話半お付き合い頂ければ嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします!

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