一心不乱
「まぁ、アレだね。ただの過労さね」
「過労……ですか」
保健室の先生─俺が入学した時からいらっしゃる気の良いおばさんだ─は湯飲みを一口啜ると、ベッドを横目にそう言った。
三つあるベッドの内、一番奥にあるには目を閉じて横になっている進一が。
「良かった……」
「うん」
振り返ればほっと安堵の息をつく香織と胸を撫で下ろす愛華。俺も何とも言えずに天井を見上げてみる。
進一が倒れた。
その話が突如耳に飛び込んできたのは、部活も終わり日も大分傾いてきた木曜日の放課後であった。
帰り際、学食に寄っていた俺と香織、愛華は駆け付けてきた粋先輩から聞かされた。
偶々武道場を見学していた先輩は、騒動をそのものを目撃し、いち早く保健室への搬送並びに顧問への連絡を手伝ったという。その後、俺達を探して事を伝えてくれたのだった。そうして今に至る訳だが、本当に粋先輩には頭が下がる思いだ。
「まぁ、大事じゃなくて何よりだったろうな、部活の奴等も」
「うん……そだね」
俺と香織は表情を強張らせたまま、保健室の出口に目をやった。
駆け付けた時、ぞろぞろと帰ってゆく胴着姿の生徒達が出てゆく所に出会した。友人である由美、佐賀良由美もその場に居たので俺達は慌てて駆け寄ったものだ。
皆心配して付いて来たらしいが、大事ではなく押し掛けっぱなしなのも悪いという事で戻っていったのだ。
「進一、ここのトコかなり無理してたから……私も注意してたんだけどね」
中等部から進一と長い付き合いの由美─当人は認めたがらないものの俺はお似合いな二人だと常々思っている、まぁそれは今は置いておく─は練習を中断して保健室に残る事にしたらしい。
ベッドの横に腰掛けて様子を窺っていた彼女は振り返って、しかし至って素っ気なく口を開いた。
「皆ゴメンね……進一が迷惑かけて」
「そんなこと!こういう時はお互い様だもん」
「香織……ありがと」
そっとため息をつく由美。が、やはり彼女の表情は拭えない不安の色がありありと見て取れた。
「……熱くなるとすぐに周りが見えなくなるから」
「………」
「それで倒れたりしたら本末転倒なのにね」
確かに由美の言う通りだ。なのだが、普段はともかくこの時期は……
「けど、無理をするなとも言いにくいだろうね……土曜日にはもう本戦なんだから」
粋先輩の言うこともまた正しい。大会まで後二日、目と鼻の先という所まで来ている。進一で無くとも焦るのは誰しも同じというものだ。
けれど、俺は引っ掛かりを覚えていた。それは違和感と言うには些か大きいような気がする。
「なぁ由美、聞いても良いか? 」
「何かしら、俊也君? 」
「明後日の大会って一番大きな大会なんだよな? 」
「うん、年に二回ある全国大会に繋がる大事な大会。と言ってもその前に関東選抜があるけどね」
インハイか。そういえば明条の剣道部は関東選抜突破を目標にしていたんだったな……
「毎年この時期は無理を? 」
「まぁ、ね。うちは特に男子強いから……進一が引っ張っているのが大きいんだけど」
「そっか」
知ってはいたが、やはり彼の存在は大きいのだと実感する。となれば毎度の事ながらこいつが自分を追い込むのも頷ける。
「でも、ちょっと変だよな……倒れたなんて」
「そう、ね。
今までも無理はしてたけど、倒れるような事は無かったから……」
「あぁ、そうだよな」
その辺は俺らより由美、剣道部のやつらの方が詳しいだろうが。
「それだけ、今回の大会は剣道部にとって大事だったって事かな、佐賀良さん」
「うーん、どうでしょう……確かに大事な大会ですけど、それは例年と変わらないと思います」
「うん、そっか……」
やや自信無さげだが由美の返事に粋先輩は考え込むように天井を見上げた。
「だったら、東堂君個人にとって大事なのかな? 」
「それは……私にはちょっと。そういった話は聞いてません、から」
まぁ、進一は自分の事情をペラペラ話すような事はしないからな。
「東堂君、一人で無理してたのかな……倒れるまで」
「………」
愛華も心配そうに両手を併せて小さく呟く。その言葉のせいと言う訳では無いが、やはりぼやぼやとしたわだかまりのような違和感は頭の中から消えなかった。
進一が目を覚ましたのはそれから一時間後。
「佐賀良、お前何でこんなトコに居るんだ? 」
「あなたが部活の最中に倒れたからでしょ……」
それが一番初めのやり取りだった。ケロッとしていた彼の様子を見て、安堵とも呆れとも似つかぬため息を溢した由美は後を俺達に任せて、皆に知らせに武道場に戻っていった。香織と粋先輩もそれに協力する形で担任、顧問を呼びに保健室を後に。
結果として、部屋に残されたのは俺と愛華。顔を見合わせて暫く続けていた沈黙を破ったのは進一からだった。
「えっと、さ。ホントに悪かったな……迷惑かけて」
「ううん、そんなこと。
それより東堂君、大丈夫? 」
「あぁ、問題ないよ。このくらい、どうって事ないさ」
寧ろピンピンしてるくらいだぞお前。何か毒気が抜かれた感じだ。
「けど、今回はどうって事あったから倒れたんだろ? 」
「………」
「もしかして、昨日の怪我も? 」
愛華の言う通り、昨日の今日だからな。まぁ無理をし過ぎて怪我をした、そんなよくある話なんだろうけど。
「まぁ、ちっとばかし飛ばし過ぎたかな……今日は」
「今日“も”、だろ? 」
「あ……まぁ、うん」
どうも煮えきらないな、進一らしくない。それは最近感じていた、愛奈ちゃんに言われて気付いたくらい些細な違和感から始まったものだが、やはり今はもう視界を遮るくらいになってしまっている。
「やはり、私の予想は正しかったですの」
「「!? 」」
え?あれ?おいちょっと、今どこから声が聞こえてきたんだ?しかもよく聞き慣れた……
「白ノ宮!? 」
「白ノ宮さん!? 」
いきなり隣のベッドの中から掛け布団をはね退けて白ノ宮が姿を……っておい、嘘だろ!?
「え、お前……いつの間に? 」
進一も真向かいのベッドを見て唖然としている。無論、俺も愛華も同じリアクション。
「昨日の東堂さんの怪我の件、何かしらの動きはあると踏んでおりました」
「は? 」
「そして、私の予想通りでしたの。やはり動きがありましたわ! 」
ベッドから降りたお嬢様は、スカートのシワを伸ばすようにパッパと払う仕草をする。
「放課後からずっと動向を観察していた甲斐があったというものですの」
「………」
………何つーか
「ゴキブリのような奴だな……」
「誰がゴキブリですのーーっ!? 」
ぴょこんと飛び出た彼女のアホ毛は触覚といったところか。そういや最近家でも見てないな、ゴキブリ。
「ふ、藤咲君……流石にそれは言い過ぎだよ? 」
愛華は俺の人生という空に輝く太陽だから。うわっ、何この歯が浮くような台詞。恥ずかしい、第○新東京市地下シェルターがあったら逃げ込みたい……あ、やっぱネ○フ行きたい。
「因みに俺はマヤさん派なんだ」
「え?え、藤咲君? 」
「ごめんなさい忘れて下さい」
只でさえややこしい奴が増えたというのに、俺自身がボケ役に走ってどうする。立場を弁えろ藤咲俊也。
「……で、会話に入る気満々みたいだけど、取り敢えず帰って貰っていいか? 」
「即時退去ですの!? 」
「保健室ってのはなぁ、病人の休む場所だぞ」
「そんなの知っていますわ! 」
「だから、さっさとget out here」
「藤咲さんは冷た過ぎますわーっ!! 」
そんな事は無いと思うが。っていかんいかん、またも余計な脱線をしてしまったな。
「それより……進一」
「え、あぁ……うん? 」
進一もずっとお嬢様に気を取られていた様子だ。……話を戻しましょう。
「無理し過ぎるな……とは言えねーけどさ。愛奈ちゃんに心配だけはかけるなよ」
「……あぁ、分かってる」
「分かってねぇだろ……」
ぶっ倒れるまで無理をして何を言ってんだ……そう言ってやりたい気持ちを何とか押さえる。
「具合は? 」
「ただの寝不足だ、何ともねーよ」
表面部分の方は、だろうけど。
「今日はもう帰んだろ? 」
「いや……まだ部活が終わってない」
「おいおい」
冗談だろ、まさか倒れたっていうのにまた部活に出るとでも言うのか。
「東堂君、やっぱり今日の所は帰った方が良いよ……」
「心配するなって桜。ただの寝不足だからさ」
「でも……」
ほれ見ろ、愛華だってこんなに心配しているじゃないか。
「何か、理由がございますの?あの東堂さんが、ここまでご無理をなさるなんて……」
「あのな白ノ宮、俺って結構熱くなる性格なんだぜ? 」
「いえ、そうではなく……
その、東堂さんらしくないと言いますか……」
「熱くなる性格」
「その、ですから……」
白ノ宮の言わんとしている事は分かる。俺も多分、彼女と同じ感覚を持っていたから。
「進一、今日は帰っとけ」
「………」
「明後日だろ、本番は。今日じゃない」
もうすっかり薄暗くなった外。すきま風に揺れるカーテン、暫く進一は返事もせずに眺めていたが……
「なぁ、俊也」
「あん? 」
「明後日……何日か知ってるか? 」
それだけを言い残して。
「あん? 」
進一は保健室を後にしたのだった。
「東堂君、もう家に着いたかな……」
「多分、ね」
進一が自宅に帰っていったらしい情報を得たのはそれから30分後。
戻ってきた香織達に、彼が顧問や部活の皆に挨拶をして帰っていったという話を耳にしたのだ。
何か言い知れぬ不安を抱えているであろう香織や愛華、疑問を目の前に首を傾けて唸っている白ノ宮。帰ろうにも帰れないような雰囲気が室内をぼんやりと包んでいた。
「俊也君……どうかした? 」
「え? 」
先程進一がそうしたように、暗くなった窓の外を眺めていると粋先輩が声をかけてきた。
もう時刻は6時過ぎ、下校時刻は過ぎている。
「先輩、明後日って何日でしたっけ? 」
「28日、だね」
「……ですよね」
不覚、とは言わない。
というより今までその話題には触れていなかったから、元々念頭には無かったのだ。進一にとっての、5月28日を。
「東堂さん、やはりちょっと変ですわね」
「そうだね……毎年試合前は取材してるけど、今年は何だか妙だって感じるかな」
「あら、それは私だって同じですのよ。むしろ、私の方が先に気付いていましたもの」
「むっ、私の方が取材は早かったよ! 」
「私クラスともなればその前からは当然です」
「私はその前の前から! 」
「私なんて……!! 」
お前らは小学生か。
「……何だか焦ってる感じ、だったよね? 」
「あぁ………」
言い争いを始めた後ろの二人は置いておいて。
愛華の言う通りだ。あいつがここまで焦りを露にしている理由、正直な所は分からない。
ただ……
「確か……28日だったよ、な」
「「え? 」」
「あ、いや……」
東堂進一にとっての5月28日、その一面を知っていた。その事に今頃になって気付いたのだ。
が、これは恐らくこの中だと俺しか知らないだろうから……
「何でも無いよ」
「? 」
当人の居ない所でペラペラ喋るような真似は出来ない、よなぁ。
小首を傾げてこちらを見つめていた愛華に、曖昧に天井を見上げて言葉を濁してみせた。
「取り敢えず、いつまでもここにいる」
「うん、そだね」
「この一連の事件、謎が謎を呼びますの。独自に調査する必要がありますわね」
「ほ、ほどほどにね……白ノ宮さん」
そういう訳で、特にする事も無い俺達は保健室を後にした。
普通ならこのまま帰宅する所だが……さて、どうしたもんか。
「あ、穂坂じゃないか! 」
「田中君! 」
武道場の横を通り過ぎようとした時、ちょうど降りてきた田中と出会した。後ろからも続々と男女が続いている、どうやら剣道部も練習が終わったらしい。
「今から帰りか? 」
「うん、ちょっと遅くなっちゃったけど」
「そ、そっか。俺も今から帰りなんだ」
剣道部の連中は次々と正門から出ていくが、田中だけは俺達の方にやって来た。
俺達と一緒に、いや香織と一緒に帰りたいのだろう。
「調子はどう?大会、明後日だけど」
「良い感じかな、このままいって欲しいよ」
「ファイト、頑張ってね!」
「勿論、穂坂に奢って貰わなくちゃいけないしな」
「あ、やっぱりお手柔らかに? 」
「そりゃ無いだろ」
「ふふ、冗談冗談! 」
楽しげに会話に華を咲かせる二人。
中々良い感じですよご両人、てなもんかな。という訳で少し離れてついて行く。
「では、私はここで。
迎えがありますので、お先に失礼させて頂きますわ」
「あ、そっか。じゃあ、また明日ね妃希ちゃん」
「また明日、白ノ宮さん」
「えぇ、ごきげんよう」
お嬢様はリムジンでご帰宅らしい。もしかしてまたこの間の執事さんが迎えに来るのだろうか。
ペコリと丁寧に一礼、フワリとスカートを翻して去っていった。
「あ、私も今日は向こうのデパートに用事があるから」
「反対方向か」
「うん、だから今日はここで。また明日ね」
正門からは反対方向だという愛華。香織達に別れを告げて小走りに去ってゆく。
残ったのは香織、田中、俺の三人。
明るく元気、皆から人気のある幼馴染みと彼女に好意を寄せる剣道部期待のイケメン。二人から一歩半だけ離れて続くのはただの男子。これといった取り柄もない、ただの男子A。
「あ、やっぱりその話には裏がありそうだなぁ」
「もう、違うったら。私、そんな性格悪くないよ? 」
「ほほぅ」
「信じてないな〜
ホントだったら、ね、俊也? 」
「え?あ、あぁ……」
二人は楽しげに話を交わしながら中々良い雰囲気。だというのに、その幼馴染みは度々振り返っては男子Aに話を振ってきやがる。
人がせっかく気を遣ってやっているというのに、鈍い奴だ。
そんな感じで、並木の連なる坂道を下っていく俺達三人。
夜風に揺れる木々をぼんやり眺めていると、コツンと何かが引っ掛ったような音が。
「わっ!? 」
幼馴染みが思い切りつまづいてよろめいた。
「香織──」
「危ないっ」
俺が動こうとするよりも早く、田中が素早く前に出て。よろめいた香織を咄嗟に抱き止めた。
そっと彼女の身体を腕に抱いたまま、バランスを取らせた。
「あ、ありがと……」
「え、あ……!! 」
密着していた事に気付く男女二人。
思わず赤くなって礼を言う香織に、田中も大慌てで離れて視線を空にぶん投げる。
「ご、ごめん!俺、咄嗟の事で……!! 」
「ううん、そんな。私の方こそ不注意で」
「け、怪我とか無い? 」
「う、うん、大丈夫。ありがとう」
妙な気まずさを隠そうとしているのか、会話をしつつも顔を赤らめて視線を合わせない二人。
「………」
取り敢えず、だ。
今分かった事、それはこの場にいるのは三人では無いということ。二人+一人かなこの場合は。絵的にも、雰囲気的にも、気分的にも……
「さて、と……」
仕方ない、か。
俺は香織みたいに鈍くはないからな、身の程も立場もわきまえてるつもりだ。
「あー、二人とも。俺はここで」
「え?俊也、何処行くの? 」
「ちょっと寄るトコあってさ」
……本当は明日寄ってみるつもりだったんだけどな、予定変更だ。
「寄るトコって? 」
「良いだろ、別に何処だって。子供じゃあるまいし、何で一々言わなくちゃならねーんだよ」
「何よ、その言い方」
ムッとした彼女を敢えてスルーして、田中の方に視線を移すと、彼の耳元にそっと口を寄せる。
「悪いけど香織の事頼むわ」
「え? 」
「一応夜道だし、念のためって事で。家は方向違うかもしんないけど」
「あ、あぁ!勿論、任せといてくれ! 」
嬉しそうに、だが小さく頷いてみせる田中。
夜、二人きりの下校。ラブコメ的にはこれ以上とないシチュエーションだ、せいぜい頑張ってくれ。
「んじゃあな」
「あ……俊也」
背を向けてヒラヒラと手を振る、そのまま俺は脇にあった小道を進んでゆく事にした。
「………」
いやはや、まったく何て友達思いなんだろうか俺は。という訳で皆様、藤咲俊也をどうかよろしく。
「………二人きり、か」
若かりし男女が夜道で。
自分で言っておいて難だが、どうにも胸がすっきりしない……気がする。何つーかこう、モヤモヤするというか、むしゃくしゃするというか。あー、何かもう面倒だな。
「……止め止め」
紳士な田中君がまさか送りオオカミになんてなるわきゃないな、っと。
取り敢えず、俺は目的地に向かうとしよう。
ちょっと回り道、同じ方向の香織達に会わないように一回学校の方に戻ってから大きく迂回。駅前に着いた時には7時過ぎになっていた。
多分、アイツはまだ居るだろう。勘だけど。
『間もなく、一番線に電車が到着します。黄色い線の内側に下がってお待ち下さい』
待つこと15分、各駅列車がゆっくりとホームに到着した。7時とあって帰宅の人が多い、学生やらサラリーマンやら。向かう人と降りる人と。
『明条〜、明条〜』
人をすり抜けてささっと電車に乗り込む。席に座るつもりも無いのでドア付近に寄り掛かる。
窓の外、街の夜景でも眺めながら時間を潰す事に。
『東野台〜、東野台〜』
「おっと! 」
各駅で四つ、明条駅より一回り小さい駅で慌てて電車から飛び降りる。
危ない危ない、外を見つめていたら危うく通り過ぎるトコだった。
「ふわぁ………」
駅前に出ればお店の明かりの数々が目に飛び込んでくる。もうすっかり夜だ。
不意に出てきた欠伸を噛み殺して。暗くなった空をただ見上げながら歩き─
「あだっ!? 」
目の前は電柱だった。
*
駅から徒歩20分、辺りの灯りも少なくなってきた住宅街の一角。そこにひっそりと佇むとあるお寺。
「………」
すっかり静まり返った院内に小石がじゃらじゃらと音を響き渡る。全ての音を自分が支配しているようで、何だか妙な優越感を覚えてみたり。
裏側に回れば墓石がずらりと並ぶ寺院墓地。
この時間帯になると石柱の間を吹き抜ける夜風がぴゅうぴゅうと不気味な音を立てている、香織や白ノ宮だったら絶対怖がって進めないだろうな。
何となく足音を立てないように─バタバタすると何か善からぬモノまで呼び起こしそうで─一歩一歩ゆっくりと。
何回か角を曲がった先、一つの墓石の前で俺は足を止めた。
「よぉ、期待の高校生エース」
「……トシ? 」
じっと石柱を眺める剣道部のエースの姿が、そこにあったから。
「お前、何で……」
「何となく、な」
「………」
目を丸くする進一に軽く肩を竦めてみせる。
「ここに居るんじゃないかと思ってさ……明後日、28日だろ? 」
「覚えてたのか……」
「んにゃ、ついさっき思い出したんだよ。悪いな」
「………いや」
そっと首を振って視線を墓石に戻す。
「これは俺の問題だからな、気にするな」
その瞳はいつも通り真っ直ぐ、の筈がどこか違和感を覚える。強いて挙げれば、不安……かな。
「お前には、一度しか話した事無かったよな」
「だったな」
「もう何年も前の話だったろ」
「バーカ」
進一の隣にそっと腰を降ろすと、目の前の墓石に彫られた名前が視界に入ってきた。
「たかだか三年前の話だよ……」
西宮秀。
進一にとって、かけがえのない親友の名前が。
たまに話に出てきていた剣道部の由美ちゃん。フルネームで出てきたのは今回が初めてです。
一応、由美は俊也、香織
、進一と中等部からの長い付き合いという事になってます。
それはさておき、ささやかながらアプローチ中の田中君。今回はちょっとベタ過ぎたかなとも思いましたが。意外と良い雰囲気、と言った所でしょうか。
という訳で、ちょっぴりひねくれモードの俊也君。
さてはてどうなる事やら。
では、次回は俊也と進一の思い出話になります。
よろしくお願いいたします!




