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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
10/91

お嬢様と書いてライバルと読んでみたり

僕の書くキャラは本当に性格が安定しないな、と常々思う今日この頃です。





 

 

コロコロ。

穂坂家のリビング、ゲージの中でユメが気持ち良さそうに寝転がっている。

可愛らしさ抜群のその様子を眺めつつ、俺はハムエッグの残りを口に運んで朝食を終えた。



「俊也、お母さんもう出掛けたの?」


向かいの席に座って同じく朝御飯を食べていた香織がリビングに掛けてあった時計に目を向ける。


「ああ、おばさんならさっき出ていったよ。用事があるって言ってたぞ?」


「うーん……あ、そういえば。昨日そんな事言ってたような……」


「相変わらず大変だよな。親父さんも確か今日は仕事だろ?」


空になったプレートの側にあったコーヒーカップを口元に寄せる。


「うん。お父さんは新聞記者だからね、休みなんてあって無いようなものだし」


「昔から大忙しだったもんな、お前の親父さん。うちの親父とは大違いだ」


「そんな事、俊也のお父さんだって立派な人じゃない」


「息子を一人放置していく奴を立派とは認めたくないな、あまり」


「それは俊也を信じてるからだよ」


「どうだかね……」


香織の親父さんは正真正銘の新聞記者、それも三本指に入る大手新聞の記者で社会部に勤めている本当に立派な人だ。

人柄も気さくで明るく子供思いで、周りからの人望も厚い。


『お父さんみたいな立派なジャーナリストになる』


香織の昔からの口癖でもあり、彼女にとって尊敬出来る存在、まさしく父親の理想だと思う。


うちもその新聞をとっているが、彼の記事は必ず目を通している。昔はもっともっと記事を書いていたらしいが、今は出世して記者の人達をまとめる役にあるのだと香織から聞いた。

悲しきかな、海外でフラフラしているうちの両親とは何か根本的に違うなと常々感じる。


「で、今日はどうすんだよ?本当に隣町まで行くのか?」


「勿論!

今日はせっかくの日曜日、こんなに良い天気なんだから」


「だったら大人しく二度寝させて欲しいもんだけど」


テーブルに座ったまま窓の外に目を向ける彼女に深々とため息をつく。良い天気なのは認めるが、何故こいつの買い物になど付き合わなければならないのか。


「何よー、そのため息は。せっかく私とショッピング出来るっていうのに寝てる方が良いって言うの?」


「ああ、寝てる方が良い」


「うわ、即答……」


睡眠は人間が生きる為には不可欠な要素なのだ。一方彼女の買い物など生命活動維持には何ら関係無い。

よって以下のような式が成り立つ訳だ。


買い物<<<睡眠


優先度は言うまでも無い。


「ま、そういう訳だから俺は帰って寝るわ。んじゃ、ごちそうさま」


「………」


コーヒーを飲み終え、空になったプレートを片手にキッチンに向かっていく。後ろから香織の物言いたげな視線を無視しつつ、俺は流し台にお皿を置いて水を流し始める。


「あーぁ、勿体無いなぁ。せっかく俊也が喜ぶショッピングにしてあげようと思ったのに」


「はいはい……」


「後でやっぱり行くって言ってももう遅いよ?」


何てわざとらしい。

押してダメなら引いてみろって、今時そんな言葉に引っ掛かる奴がいるとでも思って……


「実は愛華も呼んでるんだけどなー」


「それで?何時集合だ?」


ニヤリ。

彼女が不敵に口元を緩めたのに気付いた時には既に遅し。


条件反射、俺の悪い癖だな。日曜日の予定は決まってしまったな。









隣町、というよりすぐ隣の市内には大規模なショッピングモールがある。

生活用品全般から電化製品や衣類関係、スポーツ関係に玩具類、書籍類、各専門病院にネイル等のファッション店、フードコート等、各専門店が数をなして並ぶこのモールは市内は勿論、周りの地域からの客も後を絶たない程年中賑わいをみせている。

豊富な品揃えは純粋なショッピングにはうってつけだし、そうで無くても吹き抜けや並ぶヤシの木とお洒落な雰囲気漂うショッピングモールは散歩するだけでも良い気分転換になる。


「はあぁ……」


賑わうモールの一角、ヤシの木が囲む広場のベンチに座っていた俺はそれはもう盛大にため息をついた。思わず買い物を楽しんでいる周りの人間さえも巻き込んでしまう程、深々と。


「だ、だからごめんってば。

そんなにあからさまに落ち込まなくても良いじゃない」


「そうよ。過ぎた事を一々悔やんでいつまでもうじうじしているなんて、やはり貴方はその程度の男なのね……」


右隣に座る香織が申し訳無さそうにこちらの頭にポンポンと手を置いてくる。

一方、左隣からは抑揚の無い辛辣な言葉が容赦無く突き刺さる。

まぁ、言うまでも無いがうちの毒舌部員、成條霞だ。


「だって、愛華今日部活があるって言うんだもん」


「お前、来るのが決まってるみたいに言わなかったか……?」


「えーと、それは言葉の綾……みたいな?」


みたいなって、お前。

詐欺みたいなもんだろ、そりゃ。



俺達は朝ご飯を終えて自転車でこのモールにやって来たのだが。

愛華は予定があって来れないらしく、それを到着してから知らされたのだからガックリというものだ。

しかもいつの間にか霞も居るという。


「………」


「………」


右隣に改めて視線を向けると無表情でストローを口にする霞の姿。ふと彼女と視線がぶつかると、スッとに目を細められる。


「女々しいわよ俊也、雑用はつべこべ言わずに働きなさい……」


「それが頑張って荷物を運んできた人間に向ける言葉か?」


「そうよ」


「さいですか……」


ベンチの側には日用品やら食料品の入ったビニール袋二つに、茶色い少し洒落たちょっと大きめな袋。


モールに来てからの荷物持ちの結果である。女子陣曰く、女性との買い物では男が荷物持ちをするのが当然らしい。


ま、今まで香織に散々引っ張り回されて身を持って経験してきた事ではあるが。


「というか、そろそろ昼だろ?どうするんだ?」


広場の真ん中に立っている支柱の時計に目を向けると時刻は既に12時20分。

モールに来てからもう1時間半も経ってしまっていた。


「そうね、もう一件かすみんと行きたいなってお店があるから……」


「えぇ、ここから少し離れた場所になるけど」


「だから、それ見た後にしよっ」


女というのはつくづく買い物が好きな生き物らしい。男が例外というつもりは無いし、物を買うという行為がストレス発散になるのは分かるが、物を買わずに見るだけという行為─一般にウィンドウショッピングというらしい─が主だというそうだからますます不思議だ。

一体何時間続ければ飽きるのかと、昔香織に尋ねた事があったが結局明確な答えは返って来なかった。

男性だから理解出来ない、という言い方はあまりよろしくないがやはり自分にはよく分からない世界だ。


「じゃあ、俺はここで待ってるから二人で行って来いよ。暫くのんびりしてるからさ」


「え?俊也は来ないの?」

「あら、ここまで来て付き合わないつもり?」


ちょうど休憩もしたかったのでここで待っていると伝えると二人は首を傾げてみせた。

いくら男だからと言っても付いてくる荷物持ちが当たり前のように言わないで欲しい。


「あのなぁ、荷物持ちで疲れたんだよ。少し休ませろって」


「貧弱ね」


「………」


皆まで言うな。

キツめ言葉を何とか受け流すように首を振ると、意見を示すように黙ってそのまま腰を降ろした。

疲れたのは本当だし、荷物持ち過ぎて肩が痛い。


「じゃあ、すぐ戻ってくるから少し待ってて」


「仕方ないわね、そこで干からびてなさい」


軽く手を振る香織と妙な捨てセリフを残す霞。二人は仲良く並んで広場からそくさくと歩いていってしまった。


「………はぁ」


荷物を脇に寄せて吹き抜けの上空に広がる青空を見上げた。

恐ろしく晴れた青がまた澄み渡っている。何だってこんなに良い天気に、睡眠日和に俺はこんな場所で荷物持ちなんてやっているんだろうか。


無意識にポケットからデジカメを取り出していたのか、左手に掲げているのに気付いた。そのまま電源を入れて液晶画面越しに移る空をじっと見つめる。

綺麗な羊雲がふわりと……



「あら、藤咲さんではありませんの」


「ん?」


高い女性の声、それも聞き覚えのある声に視線はデジカメから真横に外された。

か、すぐ。そこに居た意外な人物に、俺は思わず首を傾けてしまう。


「……白ノ(しろのみや)?」


「ごきげんよう。本日も良いお天気ですわね」



白ノ(しろのみや) 妃希(きさき)


中等部の時に二年間一緒だったクラスメートだ。

クルクルと縦ロールのかかった美しい金髪が特徴的なその少女。

言葉遣いや髪型からも想像出来る通りかなり良い所のお嬢様である。

財閥の一人娘、という肩書きは学内は勿論、市内でもあまりに有名だ。


「まぁ、相も変わらずだらしないお顔ですが本日はいつにも増しておりますわ。お加減でも優れないんですの?」


「悪かったな、相も変わらずで。ちょっと疲れただけだ」


白く澄んだ肌が目を引く端麗な容姿がこちらに向けられる。パッチリと大きな翡翠色の瞳がこちらの視線とぶつかった。意味も無く、まるで呆れたように目を細められる。


「なら良いのですが……(わたくし)に会ったのならばもう少ししゃんとした態度を取って頂かないと困りますわ」


「はぁ」


「また、その生返事!

私の話を聞いていますの?」


彼女がやや勢いをつけて身を乗り出した。黒いカーディガンの裾と下に着た白いワンピースのスカートがふわりと揺れた。


「あー、重ね重ね悪い。

少しボーっとしてた」


「全く……これだから藤咲さんは」


パッと扇子を開いてため息をつく妃希。

言動からも行動からもよく分かるが、彼女はマンガとかに出てきそうな程典型的なお嬢様タイプである。



「「こらー!藤咲俊也ー!」」


「?」


今度は甲高い声が白ノ宮の後ろから響いてきた。

と思っていたらいつの間にか彼女の側に二人の少女が急ブレーキをかけん勢いで駆け寄ってきたではないか。


「妃希さんに何タメ口聞いてるのよこの一般庶民!」

「そうよそうよ!妃希さんを困らさないでよ藤咲俊也の分際で!」


一人は長い黒髪の少女、もう一人は白髪のショートカットの少女。

名前は……何だったけかな。覚えてないから、モブABという事にしておこう。

「黒瀬さん、ちょっと声が大きいですわ」


「だって妃希さん、こいつが生意気で……」


長い黒髪の少女、モブAが白ノ宮に抗議の声をあげる。俺を指差しながら、まるで虫けらを扱うかのように言うではないか。


「そうですよ!こんな奴に同情なんて……」


「ですから白木さん、まずは声を抑えていただけませんこと?」


慌てて口をつぐむモブAB。相変わらずの取り巻き振りだな、この二人は。

こいつらも一応それなりのお嬢様らしいが、悠然と金髪を右手で拐う白ノ宮の姿の前ではそれも霞んでしまうようだ。


「………白ノ宮の髪型って、相変わらずのチョココロネみたいだよな」


「へ?」


その縦ロールをぼんやりと眺めていると、どうしても菓子パンのチョココロネみたいに見えてしまう。


「ちょっ、藤咲俊也!何て事を口にするのよ!」


「そうよ!妃希さんをバカにするのは許さないわ!」


きょとんと目を点にする白ノ宮とは対照的に取り巻きのモノクロコンビはギャーギャーと騒ぎ始める。


「いやいや、別にバカにしてる訳じゃ無いよ」


少し面白くなってきた俺はポカンとしている白ノ宮に顔を向けた。


「白ノ宮、チョココロネって知ってるだろ?」


「はい、何度かパティシエに作って頂いた事がありますわ。何でも日本発祥のお菓子だとか」


一般の高校生の回答とは到底思えないがまぁ良しとしよう。


「チョコと生地の甘さがちょうど良くてとても美味しかったですの」


「そう、総じてチョココロネはとても美味しいお菓子なんだ」


思い出すように呟く白ノ宮にわざとらしく同調する。“とても”美味しかったのはそのパティシエの腕のだと思うがこの際関係無い。


「だから、チョココロネみたいっていう言葉は褒め言葉なんだよ。最近渋谷界隈で流行っている表現でさ」


「まぁ、そうでしたの」


「特に髪型に対してよく使われるんだ。意味は綺麗で手入れの行き届いた髪質ってこと」


それを聞くと白ノ宮はさも嬉しそうに自分の髪に触れ始める。どうやら本気で信じたようだ。

ま、本人が嬉しそうならそれも良しとしよう。めでたしめでたし……


「「って、そんな訳あるかーっ!!」」


すかさず入る、モノクロツッコミ。


「騙されてはいけません!そんな褒め言葉なんてありませんよ!」


「また貴方は!妃希さんに嘘八百を並べて!」


「えぇ!?嘘だったんですの!?」


モブABの言葉に、ようやく真実へと辿り着いたお嬢様。いやはや、本当にからかい甲斐のある奴だな。


「そ、そんな面白半分で騙すなんて……」


「安心してくれ、面白全部だ」


「はぅ!」


白ノ宮は面を食らったように仰け反ってその場に蹲ってしまった。


「あぁ!妃希さん!」

「大丈夫ですか!?」


慌てて取り巻き二人が駆け寄り助け起す。

ちょっとからかい過ぎたな、俺は顔の前で軽く手を併せてみせた。


「悪い悪い、まさか本当に信じるとは思わなかったんだ」


「ま、まぁ、この程度の事は大目に見て差し上げてもよろしくてよ」


無理しているのが見え見えだが、スッと背筋を伸ばして立ち上がると再び扇子を開いて優雅に決める白ノ宮。

しかも、取り巻き二人までいつの間にかそれぞれポーズを決めているという。

三人ともお笑い芸人とか向いているんじゃないだろうか。


「ところで、貴方はどうしてここにいらっしゃいますの?」


「見ての通り、荷物持ちだよ。午前中に散々引っ張り回されれてさ」


俺は買い物袋と幾つか見せた。すると、白ノ宮は何かに勘づいたように眉を吊り上げる。


「という事は、もしかして……」


そのまま彼女が何かを口にしようとしたが、後ろから聞こえてきたまた別の声に遮られる。


『おーい!俊也ー!』


振り返るまでも無い、香織達が戻ってきたのだろう。足音が近付いてくるかと思えば真隣で急ブレーキをかけていた。


「あれ、俊也一人じゃ………」


香織は俺の横にピタリと並ぶや否や、目の前の白ノ宮とモブ二人に気付いてハッとして言葉を止めた。


白ノ宮も広げた扇子で顔の半分を隠し、スッと目を細めてみせた。


「やはり貴女もいらっしゃりましたのね……」


「それはこっちのセリフよ」


向かい合い対峙する香織と白ノ宮。両者の視線はぶつかり合いバチバチと二人の間で火花の散る音が聞こえてきそうだ、というか散ってるな確実に。


(おー、怖っ)


俺は二人の間から早めに退散を決め込む事に。近くのベンチに座ってジュースを啜っていた霞を見つけてそこへ歩いていく。


「委員会のお仕事?白ノ宮家のご令嬢が普通のショッピングセンターご用があるなんて、ね」


「だったらどうだと?

非公式の方々には関係の無い事ですわ、香織さん?」



ギリギリと張り詰める緊張はまるで無数に張り巡らされた導爆線のごとく。

触れればどこからともなく爆発してしまいそうな、そんなプレッシャーに、俺はただ汗ばんだ手を握りしめることしか出来なかった。


そう。この時、俺達はまだ気付いていなかったのだ。この二人が出会ったこの瞬間。運命は決したといって過言ではない事に」


「ねぇ雑草(としや)、そういうふざけたモノローグ止めて貰えるかしら?」


「気にするな、雰囲気だ雰囲気」


霞にキツいお言葉を貰ったので、上記のふざけたモノローグは無かった事にして欲しい。

では、改めて……



ベンチに逃げた俺は香織と白ノ宮(+モブAB)が対峙する様子を何となく眺める。二人は決して喧嘩のように睨み合っている訳では無い。それよりもっと複雑というか、お互いに探りを入れるように見つめ合い、相手を観察しているのだ。


それもその筈。

白ノ宮妃希……とあのモノクロコンビは香織の、新聞部(うち)のライバルにあたるとされている。



新聞委員会。



我が新聞部が最大のライバルとする ─一つしか無いが─ その組織に所属しているのが、香織と対峙しているあの少女。

白ノ宮妃希であるのだから。





「……これ、次回に引っ張る気?」


「いや、それは無いだろ」


俺と霞は顔を見合せると、何とはなしに空を見上げた。

日曜日、よく晴れた青空を眺めながら、二人の睨み合いが終わるのをのんびり待つ事にでもしよう。





中途半端な終わり方でしたが、日曜日はこれにて終了です。



次回からは学校です。

新聞の刊行、クラスのあれこれ、新しく新聞部に入部してくるオリキャラ、新聞委員会とのあれこれ、等々をのんびりやっていきたいと思います。




さて、今回。登場したライバルの新聞委員会。

新聞部と何やら因縁がありそうですが、それは一体。

そして今回登場したお嬢様キャラ、白ノ宮妃希。

彼女と俊也の関係、香織達との関係は如何に。


まだまだ説明不足な点は山程、4月5月は盛りだくさんな予定になりそうです。



ではでは、次回もよろしくお願いいたします!!





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