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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
乾いた風 編

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第二の章 わたるもの

朝から今日もいい天気。


今日はキャラバンがいない。

なので朝から動ける。


「棟梁さん! 昨日の、持って行っていいですか?」

「おう、菖蒲か。おれも一緒に行こう」


棟梁さんが、ころころと椅子を押しながら運んでいく。


向かう先には、老ハンターさんの家。

藜も一緒にいるはず。


遠くに家が見えてきた。


ん?


「あ、外に出てる」


老ハンターさんが家の前、椅子に座っている。

その後ろには藜。


「お、外にいるな」

「あ、ちょっと待ってください!」


声をかけようとする棟梁さんを止める。


「なんだ?」

「しーっ」


少し離れた陰から、二人の様子を見る。


二人でなにか話してる。


老ハンターさんは和やかな顔。

老ハンターさんからは藜の顔は見えないけど――


ふーん。


「藜ったら」

「どうした?」

「え? 見てわかりません?」


「ん?」

「藜の顔」

「んー?」


「恋してる顔ですよ」

「え? じいさんにか?」


「歳、関係あります?」

「まあ、ないけどよ」


「老ハンターさん、ぜんぜん元気だし」

「元気すぎだろ」


「若くても、お爺さんでも、明日は死ぬかもですよ」

「そりゃそうだ」


「ふーん」


「? あ、菖蒲!」


見つかった。


「はい、藜! 椅子持ってきたよ」


仕方なく陰から出る。


「早かったな」


棟梁さんが椅子をころころ押していく。


「おもしろい物作るのは楽しいからな。ほれ、じいさん、座ってみな」

「じいさん扱いするか?」


「今なに言っても説得力ねえよ」

「くそ!」


老ハンターさんが今までの椅子から立ち上がる。


手すりを支えにして、藜の手を借りながら、新しい椅子へ。


「んー、杖作ろうか?」

「いらん!」

「そっか」


棟梁さんもあっさり。


「それよりもどうだ? 動けるか?」


老ハンターさんが車に手をかける。


ごろごろ。


ごろごろ。


「ほう、なかなかのものだな」

「だろ?」


「この車に巻いた革がいい。手に馴染む」


ふふん。


「わたしの案ですよ」

「菖蒲か。変なこと考えるのうまいな」


「褒め言葉ですよね!」


みんなの笑顔が青空の下に広がっている。



老ハンターさんの家。

一人で暮らしていた割には大きな家。


その軒下に――


ん?


風に揺れているものがある。


「藜」

「んー?」


「あれなに?」


軒下を指差す。


「あれか? 干物だけど?」

「魚?」


「そうだよ」

「ちょっと見せて」

「ああ、かまわんよ」


近づいて見てみる。

魚が開かれて、そのまま干されている。


「魚を開いて干してるの?」

「そうだよ? なんで?」


「初めて見た」

「うちの村では当たり前だったからな」


「へえー」


なんだこれ。

おもしろい。


「で? どうやって作るの?」

「開いて、塩水に漬けて、乾季の風で干す」


「ちょっと待って!」

「ん?」


「食堂でやりましょう、それ」

「あ、ああ。いいけど」



食堂。


女将さんと蓼姉さんが覗き込む中、藜が魚を開いていく。


「へえ、器用だね、あんた」

「うちの村はみんなやってましたから」


「やっぱり、海が近いから?」

「魚は当たり前に小さな時から触りますからね」


「そうなんだ」


蓼姉さんも興味津々で藜の手元を見ている。


「塩加減は?」

「あー、海の水くらいで」

「……海くらいってどれくらい?」


「あ」


藜の手が止まった。


「えーっと……作ってみるわ」

「よろしく」


藜が塩水を作り始める。


海の水くらい。

海を知らないわたし達には、ぜんぜんわからない。



わいわいと女将さんと女の子同士で魚をやっていると、


「蓼ー、お腹空いたー」

「あ、萱おかえり。お昼そこに置いてるよ」


「……」


テーブルの上には、萱さんのお弁当がぽつん。

萱さんもぽつんとテーブルに座って、食べ始めた。


「じゃあ、ついでにもう一つ保存用を」


藜がまた魚を捌き始める。


「器用だねー」

「で、ひっくり返して」


「あ、今度は切り離すの?」

「そうさ。で、おんなじように」


ほー。


「よくそんなに骨だけにできるね」

「蓼姉さん、出来そう?」


「どうかなあ」

「すぐに出来るさ」


藜の手は止まらない。


「で、皮をはぐ」

「え? そんなに薄く?!」


「簡単だよ。引っ張るだけだし」

「うそー」


ぺろりと皮が剥がれていく。


「で、この身を――女将さん! お酢ありますか?」

「ん? あるよ、ほら」

「へえ、酢につけるんだ」


「後は寝かせて、薄く切れば出来上がり」

「薄く?」


「そうさ」


「え、やってみて」

「あー……もっと細い長い包丁ない?」


「ナイフかい?」

「いや、もっと長くて、三角で薄いの」


「三角はないねー。刀みたいのかい?」

「刀とも違ってね」


藜が手で形を説明する。


すると突然、


「藜さん!」

「へ?」


いつの間にか、萱さんが後ろから覗き込んでいた。


「それ、詳しく教えてください!」

「えっとね、薄さはこうで、形はこうで」


「大きさは?」

「あー、頭落とすのは厚みがこうで、薄く切るのは長くて」


「刃先は? ナイフみたいに? 上に反るの?」

「いや、ほとんど真っ直ぐで」


萱さんがじっと藜の手を見る。


「ちょっと工房に戻ります!」


そのまま走って食堂を出ていった。


藜がぽかんと入り口を見る。


「なんなの? 萱さん」


さあ?



夕方。


酢につけておいた魚を切りながら、


「うわ、うっすい!」

「もっと薄く切るの」

「まだ薄く?」


そんなことをしていると、


「蓼ー! 藜さんいる?」


萱さんが帰ってきた。


「ここ!」

「はい、こんな形?」


差し出された一本の包丁。


細い。

長い。

今まで見たことのない形。


「ん、うわ、もう作ったの?」

「あれから直ぐに親方とね」

「すごいな、蓼の旦那は」


ちらっと蓼姉さんを見る。


なんか得意そう。

にこにこしてる。


「使ってみてください」

「じゃあ、これで」


藜が一際細く長い包丁を持つ。


すっ。


「うわ、切れるね!」

「いい感じですか?」

「ほら」


切った一切れを見せてくれる。


「うわー、うっすい!」

「女将さん! 塩か醤油あります?」


「テーブルの上にあるだろ?」

「あ、ありました!」


藜が魚にちょんとつける。


「はい、どーぞ」


つまんで、そのまま萱さんの前へ。


「いや、それは……」


萱さんがちらっと蓼姉さんを見る。


蓼姉さん。

口をとんがらせてる。


萱さんは藜の手からは食べず、自分の手で取って口へ。


「あ、美味しい!」

「うん。もっと長く漬けたほうが良かったけどな」


さっ、さっ、さっ。


新しい包丁で、魚が薄く切られていく。


「はい、食べてみよ」


みんなで一切れずつ口へ。


「へえ、美味しい」


おいしい。

焼かない魚。



「藜、ハンターなるのやめてこっちしない?」

「えー、ハンターがいいよ」

「えー、もったいない」


「別にハンターでもこんなの出来るだろ」

「まあ、確かにね」


「菖蒲だってなんでもやってるじゃん」

「まあ、そうなんだけど」


藜がわたしを見る。


「いったい、なに屋さんだよ?」

「八百屋」


「……どこが?」

「……だよね」

「うん」



食堂の外では、今日も乾いた風が吹いている。


老ハンターさんの家では魚を揺らしていた。


村にはない食べ方を運んできて、

村にはない包丁まで作らせた。


乾いた風はいろんなものを運んでくるらしい。


わたしがなんでもするのは、


きっと、風のせいだ。

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