御形の章 第三幕の後
昼下がりの食堂。
お昼の忙しい時間も過ぎて、店の中ものんびりしている。
「ねーねー、菖蒲さん。聞きました?」
蓼さんが、なんだか楽しそうに寄ってくる。
「蓼さん、いきなりなにをですか?」
「昨日の御形さんのこと」
「ああ。帰りに聞いたら、何にもなかったって言ってましたよ?」
「なんにも?」
「何にも」
「でも、わたし見ちゃったんです」
「なにを?」
「それで気になって、いろんな人に聞いたらね」
「聞いたんですか?」
「そしたらね、昨日は朝から農地の裏で手を繋いで歩いてたって」
「どこから?」
「西の櫓にいた親父さん」
「へえ」
「それからね」
「まだ?」
「まだまだ。ひょうたん池のほとりでね、仲良くくっついてご飯食べてたって」
「だれが?」
「当番のハンターさん」
「へえ」
「ほっぺのご飯つまんだり、自分のおにぎりあげたり。もう、いちゃいちゃだったって」
「まあ、あるかもね」
御形姉さんなら、そのくらいはやりそう。
「それでね」
「まだ?」
「お店回りもね、後ろの籐吾さんをちらちら見て、めっちゃ気にしてたって」
「へえー」
「それから」
「まだ! そんなに?」
「極めつけ。うちの前でさ、なんか仲良く座って話してたの」
「ふんふん」
「籐吾さん、顔真っ赤にしてさ。絶対なんか意識してるなーって」
「へえー」
「そしてね」
「まだ!」
「雨が来たじゃない」
「来たね」
「そしたら、籐吾さん、御形さんをさっと抱いて走って来るんだもん」
「えーー、あの兄さんが?」
それはちょっと驚いた。
「めっちゃ、かっこよかったです」
「あらまあ」
蓼さんが、うんうんと何度も頷く。
「絶対なんかあったよね、二人」
「でもね、御形さん、けろっとしてた」
「はあ、姉さんったら」
思わずため息が出る。
あれだけ一日一緒にいて。
手を繋いで。
一緒にご飯を食べて。
ずっと後ろを気にして。
二人で座って話して。
最後には抱き上げられて。
それで、何にもなかった。
御形姉さんなら、本当にそう思ってるんだろうなあ。
蓼さんが、少し声を落とす。
「あれ、御形さんにだけだよねー」
「だけに決まってますね」
「だよねー」




