048 王立劇場で2
ヨシュア殿下にボックス席のチケットをプレゼントしてもらい、私は王立劇場に足を運んでいた。
すると、殿下がミランダ様と仲良く並び、観劇しようとしている事を知った。
私はそんな二人を目にするのが嫌で、美しい天井画を眺め、心を落ち着かせているところだ。
「そう言えばあの記事が出てからミランダ様が、毎日ヨシュア殿下に猛烈アプローチしているっていう噂は、本当なの?」
私は学級委員長であるリリアから聞き、気になっていた事をそれとなくシリルにたずねる。
「あー、今交流会の準備で女学院と連携とってる時期だからな。そういえば美術学院は今年の交流会は、何すんの?」
「その話はやめて」
私はうんざりした表情をシリルに向ける。
「なんでその表情?」
シリルは私の反応に、不思議そうに首を傾げる。
「だって交流会って毎年悲惨な目に遭うからよ。去年なんてワークショップを開いたけど、来たのはたったの五人よ?しかもそれは私達の身内を招いて、ようやく五人という悲しい結果だったんだから。そもそも、シリルなんて忙しいとか言って来てくれなかったし」
私は去年一日中閑古鳥が鳴き、みんなで肩を落として励ましあった、切ない日の記憶を思い出す。
その失敗を活かし、今年は作品展示だけにしようと私たちの話はまとまった。そもそもその日は、私たちが全員で参加した『女性のための絵画コンクール』の入賞者発表が、後夜祭の前に行われる事になっている。
そちらの手伝いもしなければならないし、わざわざワークショップを開く必要も時間もないと、みんなで意見がまとまった。しかし交流会実行委員から、作品展示は当たり前だし、授賞式の準備はマーシャル商会が行うので、受賞者が登壇するだけで済むのだから、ワークショップを開けと勧告された。
その報告がリリアから私たちに上がってきたのが、つい昨日のこと。
『――だから、今年は美術学院の男子たちと合同でって話にまとまりかけてたの。でも男子から「君たちの面倒は見きれない」って拒否されちゃって。あれはたぶん、女学院の子狙いだからだと思う』
学級委員のリリアが代表で参加した三校合同会議の場で、起きた悲劇を私たちに報告してくれた。
『あー、こういう時しか、彼らも出会いがないもんね』
『つまり私達がいたら、嫌厭されて女学院の子がワークショップに来ないと』
『でもさ、女学院の子はみんな騎士学校の男子狙いでしょ?』
『そうだよね。美術学院の男子なんて、女学院の子から、変わり者扱いされて避けられてるらしいし』
『彼らも私達と同じ。肩身の狭い思いをしてるというわけか』
『だからこそこういう時に、同じ学院の生徒として協力すべきなのに、気が効かない上に高望みまでするからモテないのよ』
話し合いの末、結局いつものような流れになり、「どうせお客が来ないなら、今年はもうクッキーでも焼いて騎士学校の生徒を釣るか」と、もはや美術の域を越えた意味のわからない案に決定しそうになっているという状況だ。
「それに一番最悪なのは、後夜祭のダンスパーティね。騎士学校の生徒はみーんな、女学院の生徒にデレデレしちゃって、私達は揃って壁のシミ。あんなの拷問でしかないから。今年はせめて、食事が豪華になるようにお願いしたいものね。主催者に名を連ねるシリル様には、是非そこの所よろしくお願いしますわ」
騎士学校で優秀な成績を収め、生徒会役員でもあるシリルに嫌味たっぷり、告げておく。
どうせ今年も私たちは、蚊帳の外になるだろう。騎士学校の生徒と女学院の生徒が仲良く微笑み合う姿を眺める係で終わるに違いない。
それでも参加しないと単位がもらえないのだから、我慢するしかない。
だったらせめて美味しい食べ物に舌鼓くらい打たせてもらいたいものだ。
「あー、思い出してきたかも。でも仕方ないよね。美術学院の子ってひと癖ありそうな子が多いってイメージが付いちゃってるし」
「あのねぇ。私達は至ってふ・つ・うだから」
私はシリルに「普通」をアピールする。
「でも普通なら、男の裸を見たくはないと思うけど」
「くっ、これだから知的探究心の薄い人は。良い?芸術に愛のある人間は、どんな時だって美しいものに心を奪われ、感動するものなの!」
「へー」
私は力説するけれど、シリルは生返事を返しながら飽きもせず天井画を見ている。
「本当に分かったの?」
「分かってるよ。少なくとも僕はシャーリーが頑張ってるのをずっと見てきたからね。多少変な所はあるけど、悪い人間じゃないのは知ってる」
シリルは天井から目を離さず答える。
「……ならいいけど」
シリルが急に私を褒めてくれたので、何となく恥ずかしくなる。
「あ、そろそろ始まるみたいだ」
シリルに声をかけられハッとした私は、慌てて劇場内に目を向けた。
まだ少しざわざわと観客がしている中、オーボエの音が響く。これは「A」と呼ばれる音だそうだ。その音がホールに鳴り響くと、観客がそろそろだなと気付き途端にシンと静まり返る。
コンサートマスターがオーボエの音に合わせヴァイオリンを弾き、他の楽器もその音に合わせて各々チューニングが始まる。
私はこの混ざりあった音が好きだ。今から始まるという期待感、全ての楽器が揃い音を出す。それは旋律を奏でているわけではないのに、壮大な音色となり、なんとも形容しがたい心に響く感動をいつも感じる。
私は幕が上がる前にもかかわらず、すでに心は今から始まる劇の世界に引き込まれていたのであった。




