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6.三人の晩御飯

 あやめを連れて家に帰った俺は、早速母さんに事情を説明した。


 しかし記憶喪失で素性も謎、さらに見た目が息子と同年代の女の子を家に住まわせるなんていくらなんでもおかしい話だ。


 きっと反対されてしまう。心の中でそう思いながら話していた。


「記憶喪失……。この子、自分の名前以外は思い出せないのね。可哀想に……」


「ああ、そうみたいだ。というわけで、記憶が戻るまでこいつをここに住まわせてやれないか」


 ダメ元で母さんに頼む。断られたらあやめは警察署行きだが、果たして……。


「全然いいわよ!」


「やっぱダメだよな……って、ええ!?」


 予想とは裏腹に快諾される。


「やったね純……!」


「いやいや! 母さん本気で言ってるの!?」


 あやめは素直に喜んでいるが、俺は驚きを隠せなかった。


「もちろん、母さんはいつだって本気よ!」


「……一応言っておくけど、こいつが本当に記憶喪失かどうかも分からないし、もしかしたら俺たちに何かしようと企んでいるのかもしれないんだぞ。それでもいいのか?」


「あらあやめちゃん、何か悪いことしようとしてるの?」


「ううん、そんなことしないよ……?」


「なら大丈夫ね!」


「いやチョロすぎんだろ!」


 この母、詐欺にあったら簡単に引っかけられてしまうのではないだろうか。


 それにしても信じられない。まさかこんなにもあっさり許可されるなんて……。


「何よ純、そんなにビックリしちゃって。あんたから頼んできたんじゃないの」


「そうだけど……。普通反対されると思うだろ。記憶喪失っていうのを抜きにしても、息子と同年代の知らない女の子が同じ家で住むんだぞ。なんとも思わないのか?」


「別に? 一緒に住みたいって言ってるならそれでいいじゃないの。何。もしかして純、恥ずかしいの?」


「ぐっ……! ち、ちげーよ!!」


 否定するも、顔が真っ赤になっていってるのが自分でも分かった。


「あら、図星ね。その様子だと変なことは起こらないだろうし、母さんは何も文句はないわ」


「確かに変なことなんて起こすつもりないけどさ。もしかして、とか考えないのか?」


「え、だって純、まだシたことないでしょ?」


「あんた息子にどんな質問してんだ!!」


 この人、母親が一番息子にしてはいけない質問を……! 経験があってもなくても、どっちでも答えづらいんだぞ……!


「とにかく、二人がいいなら私は反対しないわ。自分たちで決めなさい」


「だってよ純。私はここにいたい……」


「あやめ……」


 こいつもこいつで、何故俺の家にこだわるのだろう。俺と一緒にいたところで、確実に記憶が戻る保証はないはずなのに。


 とにか俺は、一度命令によって彼女の頼みを承諾した立場だ。今更反対することなどできなかった。


「母さんがいいなら俺もいいよ。あやめ、これからよろしくな」


「……! うん、ありがとう……!」


 うれしそうに微笑むあやめ。ほぼ初対面の男の家に住むことになっただけで、何でそんなに嬉しそうな顔ができるんだよ。ホントに不思議なやつだな。


「決まったみたいね。あやめちゃん、私からもよろしくね~」


「うん……。純のお母さんもありがとう……」


「いいのよ~。あ、私を呼ぶときは『お母さん』で良いからね~」


「分かった……」


 これで本当にあやめはうちに住むことになった。まさか、神の命令に従った結果がこんなことになるなんて……。


「じゃあ母さん、晩御飯の準備してくるからね~。二人ともいい子にして待ってるのよ~♪」


 そういって母さんは、機嫌良さそうにキッチンへと向かっていった。


 二人とも、か。一緒に住むってことは飯も一緒に食べるんだもんな。


 それは当たり前のことなんだけど、今日会ったばかりの女の子となんて……。冷静に考えるとやはり非現実的すぎる。


 こんなことになったのも神の命令のせいだ。つまり、あやめは神の目的と何か関係があるのだろうか?


 でも記憶がないと言っている以上、今はそれを考えても仕方がない。最初の命令のせいで、俺からはこのことを口に出せないから、直接あやめに聞くこともできないし。


 やれやれ。俺はこれからどんな生活を送ることになるのだろうか。いざこうして不思議なことが起きてしまうと不安になる。

 

 自分の境遇に辟易しながらふとあやめを見ると、あやめもこちらの方を向いて、顔を綻ばせた。


「ご飯楽しみだね、純……」


「……ああ、そうだな」


 まあ、平和に過ごせればそれでいっか。いろいろありすぎて考えるのが面倒くさくなってきた。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 晩御飯。いつもは母さんと二人だったが、今日はあやめを加えた三人で食卓を囲む。


「「いただきます」」


「はい、召し上がれ~♪」


 あやめと二人で手を合わせて一礼してから、俺は目の前にあったからあげに箸を伸ばす。


「ねー、純……」


「ん、どうしたあやめ?」


 すると、隣にいたあやめに袖をクイッと引っ張られる。


「これ、何……?」


 あやめは俺の服の袖から手を離して、彼女の目の前に置かれている箸を指差していた。


「何って、箸だよ。新品だから衛生面は心配しなくていいぞ」


「これ、どうやって使うの……?」


「あらら。あやめちゃん、お箸の使い方覚えてないみたいね」


「あーそういうこと……」


 どうやら食事という概念は覚えていても、箸の使い方は忘れているらしい。


「持ち方から教えるよ。まず親指と人差し指と中指の三本で箸の上の方を持って、下の方は残りの二本の指で支えるんだ。ほら、こんな感じ」


 実際に箸を持って見せながら説明をする。あやめはそれを、ぎこちない手つきで真似していた。


「ん……。こう?」


「そうそう。で、おかずを掴むときは箸の上下を指で動かして挟むようにするんだ。こんな感じでな」


 さっきと同じように実際にやってみせながら説明を続ける。あやめもまた俺の真似をしておかずを掴もうとするも、うまく箸で挟むことができない。


「うーん、難しい……」


「最初はそうかもしれないな」


 使いづらそうに箸を動かすあやめ。記憶がなくなると箸の操作までできなくなるのか。


「むう、これだとご飯食べにくい……。純、食べさせて?」


「何でそうなる!?」


「あら、それはいいわね~! 純、あやめちゃんにあーんしてあげなさい」


「母さんまで何言ってんだ!? 絶対面白がってるだけだろ!」


 楽しみそうにニコニコしている母。いつも優しげな母さんの笑顔だが、今は見ていて腹立たしかった。


「そ、そんなことやるかよ。スプーンとフォーク取ってくる。それなら食べやすいと思うぞ」


「純は食べさせてくれないの……?」


「当たり前だろ! あーんなんて恥ずかしいことできるか!」


「そう…………」


「何で残念そうなんだよ」


 表情はあまり変わらないが、明らかに声のトーンと首は下がっていた。そこまであーんしてもらいたかったのか?


「純、あーんぐらいしてあげればいいじゃない」


「今日会ったばかりのやつにそんなことできるかよ」


「もう。そんなんだと、いつまで経っても童〇卒業できないわよ」


「実の母親が童◯とか言うな!!」


 この人、母親としてのモラルが著しく欠けているのではないだろうか。というか、何で俺が童◯だって決めつけるんだよ。


「と、とにかく今持ってきてやるからな」


 スプーン等を取りに行こうと席を立つ。


『命令。あやめにあーんをして、童◯卒業への一歩を踏み出せ』


「いやふざけんな!!」


 今までと違って明らかにふざけた命令に思わず大声をあげてしまう。


 てか何が『童◯卒業への一歩を踏み出せ』だ! 絶対馬鹿にしてんだろ!


 というかこんなアホな命令、絶対神の目的に関係ないだろ。さてはあのクソ神、命令できるのを良いことに俺で遊んでやがるな……?


「ど、どうしたの突然叫びだして。もしかして純、怒っちゃった?」


「びっくりした……。いきなりどうしたの……?」


 ゴミクズの命令が聞こえない二人が、驚いたように俺を見ていた。そうだった。神(こいつも絶対童〇)の声が聞こえない人からすれば、今の俺の行動はいきなり叫んでるようにしか見えないよな。


 これからはなるべく動揺しないように気を付けないと。


「い、いやごめん。何でもないんだ。それよりあやめ、やっぱりあーんしてあげるよ。ただし一回だけな」


「え、ほんと……!」


「急にやる気になったわね? 母さん、楽しみだわ~!」


 目がキラキラと輝き出す女性二人。くそ、何でこんな恥ずかしいことやらされなきゃならないんだ……。


「はあ……。じゃああやめ、口を開けて」


「ん……。あーん………」


 素直にその小さな口を開けるあやめ。……改めて顔を見るとやはり、めちゃめちゃ綺麗な顔してるな。おまけに口を開けていることで、子供のような無邪気な可愛さも醸し出している。


 ……おいおい、余計に緊張するじゃないか。


「あ、あーん……」


「はむ……。ん……」


 緊張する心を何とか落ち着けながら、一口サイズの唐揚げをあやめの口に入れる。


「美味しい……♪」


「う……!」


 それを飲み込んだ後、幸せそうに微笑むあやめはとても魅力的で、羞恥心がまた一気に込み上げてきてしまった。無意識に顔が熱くなる。


「んーいいわね~! 青春って感じがするわ~!」


「ぐ……。もうやんないからな! 今度こそスプーンとフォーク持ってくる!」


「もうやってくれないの……?」


「そ、そんな悲しそうな目で見てもダメなもんはダメだ! 一回だけって言ったろ?」


 寂しそうにシュンとするあやめ。良心が痛むのを振り払って席を立ち上がり、スプーンやらを取りに行く。


「純の真っ赤な顔が見れただけでも母さんは満足だわ~」

 

「母さん、趣味悪いぞ。ほらあやめ、スプーンとフォークだ」


「ん、ありがと……」


 早速それらを持っておかずを取ろうとするあやめ。今度は簡単におかずを取ることに成功していた。


「これ、使いやすい……!」


「それはよかったな」


「うん。ありがとう、純」


「おう」


 これで一件落着。食事を再開しようと、また唐揚げに箸を伸ばした時。


『命令。明日の放課後、自宅の倉庫の部屋にて菊一謙信、篠田四葉、鶴日苺の三人にあやめを紹介しろ。なお、その際にはあやめも同伴させること』


 ……やれやれ、今日は命令が多いな。


 あやめをあの三人に紹介しろ、か。嫌な予感がするな。変な誤解をされなきゃいいんだが。


 それに、神もどういう目的でこんな命令を出しているんだ? 全く見当がつかない。


 はあ……。こうしてこれからもあの神に振り回される生活を送ることになるのだろうか。


 俺は一つ溜め息をついたあと、唐揚げを口に入れた。


閲覧ありがとうございます。

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