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虹、あるいは浮遊する音楽 |〈孤狼の領域〉|  作者: Mareureu08
第4章 宝さがし
13/13

虹、あるいは浮遊する音楽 §11 |〈孤狼の領域〉|

§11



歌が後奏まで再生され終えると、ゾエはエンマに話しかけようとした。


「あの、エンマさん、あたし――……」


「待ってください。この音声ファイル、まだ続きがあります」


エンマは口許に手を当てて注意深く耳を澄ましていた。



――ゾエ、聞こえてる?



無機質に再生形式の名前だけが立体ロゴになって浮かぶスクリーン上に、ゾエももういちど目をやった。



――綴部ツヅリベ芹那セリナです。



かすかに聞こえてきたのは芹那の声だった。



――あなたが〈領域A〉に入れられたとお店の人が話してくれました。


 入所中は外部との連絡も取りずらいかもしれないけど、もしかして気づいてくれたらと、約束のデータはここに預けておきます。


“Drop of Daylight”、うまく〈領域A〉のあなたに届くといいのだけれど。


 退所後のこと、そちらで相談に乗ってもらえそう?


 もしよかったら、次に身を寄せる先が決まるまで、わたしといっしょに暮らさない?


 あの、えーと、わたしも今は店をやめてその日暮らしみたいなものだし、そんな頼りにはならないと思う。


 ただ法律に詳しい人間が身内にいるので、少しはお役に立てると思うの。


 連絡先を伝えておくから、退所したらぜひ一言知らせてちょうだい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



――数分ののち。


ゾエと、片づけたペッパーポットを抱えたエンマは、5号棟の階段を下りていた。


エンマからもらった紙片に書き付けた芹那の連絡先を見ていても、ゾエはまださっきまでのことが夢のような気がしていた。


いまだにどうにもぼんやりしている頭に手をやる。


髪はこのごろ少し伸びてきて、もともとのくせっ毛がまた目立ってきた。


「幸せな気持ちになるような音楽だったわね。


 自分のために作ってもらった曲だから、あたしにはなおさらだわ」


「手伝った甲斐がありました。宝物といっしょに、ゾエさんのことを心配してくれる人が見つかって」


「ここを出て、しばらく経って、自分の生活を取り戻したら、もういちどエイダ母さんのことを訪ねるわ。


 ゾエでも、空像ムナカタ家の人間でもない、ただの幸波として」


「ゾエさんにとっていちばんの方法が、自分でわかったなら何よりです。


 わたしも、〈領域A〉を出たら、ぜったいサザキ兄さんのところへ帰るつもりです」


横でぺたぺたと足音を鳴らしながら、エンマが機器を抱え直した気配があった。


「たまには出た後のことでも考えなくちゃ、ふわふわしてしかたないですもんね、ここって」


あたりはまだ真っ暗だ。


エイダはもちろん、自分や芹那がいなくても、何事もなかったかのようにどこかで代わりを見つけて、元のように楽しくやっていくのだろうという気がした。


でも、もうここに来てしまったからには、自分が彼女と同じ道を辿ることは決してないと思っていた。


視界を満たす闇を遮るように目を閉じると、また座標軸の格子に区切られた市街まちと、市街を縫うように走る幾本もの軌道がよみがえってきた。


“蛇”は虹の道を飛んだのだ。




 あなたの 微笑みを

 見ることが できたなら

 何もない日だって

 それだけで 輝くの


 未来に待ちうける いっぱいの未知

 お天気も 雨降りも 越えて

 いつまでも並んで 歩いていこうね

 どこにもない わたしだけの

 陽だまりでいて これからも

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