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FPS  作者: N19
第2章 ダークファンタジー編
37/43

FPS episode.36

episode.36――

2014/5/28 世界教の古びた聖堂


「この様な事が研究所で行われていたとは………」


 教団の魔術研究所から戻ったジャクソンはまず大地と相談した後に聖堂の一室へトーマス神父を呼び出し、研究所から持ち帰った資料を彼に見せた。その内容に普段は整然とした彼も流石に驚きを隠せない様子だ。


「……神父はこの事を知らんかったんですか」


「えぇ……もし私が知っていれば、それを諌めていたでしょう。あの研究所は司祭リヴ・サーヴェインの管轄でしたので、私はおろか大主教猊下もこの様な事を知っていたとは到底思えません」


 神父の反応を伺いながら、大地は静かに問い質すと彼は残念だと言わんばかりの様子でそう答える。



「どうかな……その資料に目を通してみたが、どうも世界教の組織的な企ての様に見える。それを組織全体の長である大主教が知らない訳が無いだろう?」


 彼の言った司祭というのはジャクソンの命を救ってくれた、あの赤い髪の女性の事だろう。 だが、あの研究所は教団という大きな組織の後ろ盾が無ければ、出来なかった事は明白であり、その矛盾点について話すと彼も何かを一考して、神妙な表情を返した。



「……事情は分かりました。では、この事については私が猊下に直接進言して、その真贋を確かめます。それまでは他の者に伏せて下さい。もし擬報であれば、内部で無用な争いが起こりかねません」


 神父の言う事はもっともに聞こえるが、罪を犯した者がそうそう素直に認めるとは思えない。ジャクソンは反論を仕掛けたが、それを大地が途中で遮る。



「――そうやな。神父の言う通りにしよう」

「―――大地、お前っ!?」


 大地の神父を庇護する発言にジャクソンは驚いていると「悪いが少し黙っていてくれ」と言ってそのまま神父と話を進めていく。



「……では、私はさっそく手配します。上手くいけば、明後日には猊下に拝謁が出来る筈です」


「あぁ。よろしく頼むで、神父さん」


 ジャクソンは除け者にされたままの状態で、大地がそう返答すると神父はさっそく上奏文を書くと言って部屋を出て行った。それを目で見送るとジャクソンは大地に食って掛かった。



「何故、止めたんだ大地! あんな馬鹿正直に聞いたとして、大主教が認める筈が無いだろう!?」


「……なぁ、ジャクソン。神父は口ではああは言っていたが、本当に知らなかった様に見えたか?」


 しかし、そんな頭に血が登ったジャクソンに大地はあくまでも冷静にそんな疑問を返す。その意図が読めずに「どういう……事だよ?」と答えを求めると大地は周りに聞こえない様に顔を近づける。


「オレはなジャクソン、この件は神父もグルなんじゃ無いかと考えてる。冷静を装ってはいたが、いつもと違って動揺を隠しきれて無い様子だった……」


 その推論を聞いてようやくその意図を理解したジャクソンは厳しい顔で大地に問う。



「確かに普段の神父なら自分から話題を切ったりしなかった……でも本当にそうなら、どうするんだ?」


「元々、ヘイトは教団と協力関係にあるに過ぎない。目指すモノが変われば自ずと立場は変わる……だが、そうする前にはいくつか課題があるんや」


 思わせぶりな表情でそう呟くと大地は大きくため息をつく。つまり教団から離反するという事だろうが、その課題とは何だろうか?とジャクソンは首を捻る。



「なら、他のメンバーにも伝えて対策を立てよう。早くしないと取り返しがつかない事になる」


 そう提案したジャクソンに大地は首を振る。


「いや、それはやめておこう。もし神父の言う通り、擬報だった場合は皆の士気が下がって戦えなくなる。だから話すのはマクベスとイフリーだけや」


「でも、万が一って事があるだろう!」


「それは分かってるんや。だが、オレ達はまだ大主教の根城すら知らないやろ? だから、神父に同行して教団の本拠地が分かるまでは事は起こさず、何かしらの理由でヘイト本隊を聖堂から出しておこうと思う。オレたちが大主教に会って何も無ければそれで良い。だが、もしクロだと分かれば、そのまま世界教の本営を占拠する。そうすれば帝国の何処かしらの騎士団と交渉の機会は作れる筈や」



「………お前…そこまで考えていたのか………」


 まるでこの様になる事を予め予測していた様な策にジャクソンは驚いていると大地は苦笑する。



「敵を騙すにはまず味方からってな。まぁ任せろよ、こう見えても戦略シュミレーションは得意な方だって知ってるやろ? それよりもベルちゃんの方を頼むで、あの魔術書はオレ達にとって希望なんだ」


「あ、あぁ……分かった………」


 何とも頼りになる親友に世界教への対策は任せて、ジャクソンは自分の部屋へと戻った。するといつもの様に脚の届かない椅子に座りながら、ベルが“黒曜の吸血鬼”に貰った魔術書を熱心に読んでいた。



「――ベル、どうだ。それ読めそうか?」


「うん…あのね、もうちょっとなの………」


 まだ渡して間も無い筈なのだが、ベルの手元にある魔術書のページは既に残り三分の一程になっている。



「すごいな、もうそんなに読んだのか?」


「えへへ……本読むの、速いの。でもね、喋るのはちと苦手の………」


 褒められたのが嬉しいのか、ベルはその後は本の虫の様に渡した魔術書を夢中で読み進める。


 その速さは一目ページを見るだけで次に進むという常人のジャクソンから見れば尋常じゃない速読だが、ベルが同じ歳の頃の子供に比べ、言葉が舌ったらずなのは先天的な才能の代償なのかもしれない。


 そんなベルの横でジャクソンは魔術書と一緒に受け取った紅い人造魔石を眺めつつ、しばらく様子を隣で見守っていたが、何も役に立たない大人はせめて補給物資の調達にでもと聖堂のキッチンにまで脚を運ぶ。


「確かこのへんに……あったっ!!」


 茶葉などが置かれた棚に目を通すと以前にイフリーが用意していたココアを見つけて、冷蔵室に保管してあったミルクを温めるとそれで割り、大きめのマグカップに入れて自分の部屋に戻った。



「フフン。このジャクソン特製ココアを飲めば……」


―――ガシャン!?


 だが、自室に戻ったジャクソンがそこで見たのは閃光と共に凄い風が吹き荒れる部屋だった。思わずマグカップを落とし、何事かと慌てて扉を開ける。


「―――い―たん――た――すけ…――――」


 すると、その先には辺りを収束して視認出来る程、高密度のエーテルが円状となり、ベルを包んでいた。



「――これは一体どうしたんだっ!?」


「―――を読で――た――急にこん…――――」


 ジャクソンは暴風の中を何とか側まで寄って叫ぶ様に問い掛けるが、猛烈な風のせいで上手く言葉が聞き取れない。


「くそっ、待ってろよ。今助けてやるからなっ!!」


 吹き飛ばされそうな風圧を受けマトモに立つ事さえ容易で無い状況の中、少しづつベルに近づいていく。


そして、あともう一歩のところでジャクソンはベルに向けて目一杯に手を伸ばす。



「――――掴まれ、はやくっ―――――」


――――バチィン!!



「―――がぁっ!」


 だが、円状のエーテルに触れた途端にまるで、突き飛ばされた様に壁まで吹き飛ばされてしまう。



「……何だ今の! これじゃ近づけねぇ……」


 ベルを助ける為に何度も繰り返し手を伸ばそうと試みるが、何か空間を歪めるモノに弾かれてしまい自らの腕と身体を痛めつける以外は変わらない。


(どうしたら良い……このままじゃベルが………)


 焦る内心と対比して、ベルの居る内側の空間が徐々に歪んでゆくと黒い渦の様な物が彼女を覆った。



「―――おい――た…っ―――――――」


「くそ! やめろ、ベルっーーーー!!」


 そして、眩いエーテルと共にベルを渦へと呑み込むとジャクソンの目の前から姿を消した。後にはまるで元から何も無かったかの様に静寂と破れた魔石の破片だけが残された。



「……嘘だろ…何でこんな…………」


 ジャクソンは唖然と力無く膝をつく。


 それから程無く聖堂を揺るがす程の大きな物音に、何事かと駆けつけた大地達に事情を聞かれたが、ジャクソンはしばらく喋る事すら出来なかった。


 高度な魔術師ではない子供にあんなものを読ませれば魔術の暴発を起こす可能性がある事くらい何故、気付けなかったのか………。


 あんな物さえ受け取らなかったら……大地の提案を受けなければ……そんな後悔が頭を巡るが、1番は自分の不甲斐なさに憤りだけが込み上げる。


 そう、自分達が元の世界に帰る術を得ようとして、その代償に守るべき大切なものを失ったのだ。

 

36話目です。更新の頻度が遅い分、お話のテンポが早くなっておりますよ?


また徐々に鬱展開が増えるのは、ダークファンタジー編なので許して下さい。。

シルバーウィーク終わっちゃったので、作者もちょっと病み気味です(笑)


次章はもっとコメディやりたいなぁ~(ボソ)


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