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FPS  作者: N19
第2章 ダークファンタジー編
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38/43

FPS episode.37

episode.37――

2014/5/31 世界教の本拠地


「ええのか、ジャクソン?」

「あぁ……何もしていないよりは幾分マシさ」


 ベルを失った日から3日。ジャクソンは落ち込む暇もなく大主教に直接謁見する為、聖堂から半日ほど移動した所にある教団の地下宮殿へ訪れていた。そしてしばらく待たされた後、大地と共には神父に連れられ大主教が居る大きな広間へ通された。


 そこはここが地下である事を忘れさせる程に豪奢で壮麗に満ちたものだった。



「神父 トーマス・ライアーが拝謁致します」


「……皆、面を上げよ。神父トーマスとヘイトの活躍はワシもよくよく聞いておる。その功績は百万の金にも値する程だ……サーヴェイン様も満足しておろう。そんなお主らがこのワシに用があるとの事、遠慮なく申してみい」


 大主教はジャクソンが想像していた悪の親玉というよりはどちらかというと高名な魔法使いの様で、立派な法衣に身を包み白く長い髭を蓄えた壮麗な老人の様にみえた。だが……



―――…全ての…罪深き者に…死を――――


 その大主教の顔を見た瞬間、まるで胸に直接アドレナリンでも撃ち込まれた様に心臓が異常な脈を刻むと自身の腕が自らの意思を無視して腰に刺したバリスティックナイフへ勝手に向かう。


(―――クソっ、またあの時と同じだ……ふざけるな、勝手に動くんじゃねぇ!!)


 しかし、男爵の時とは違って不意では無い分、自らの意識を保てている事もあり、ジャクソンは必死で自制する。一瞬でも気を離したら、途端に自らの身体は目の前の老人を殺しに掛かるだろう。



――…罪深き者に…死を……死を………――


 視界に無数の赤い呪詛が浮かんでは、囃し立てる様に自らの意識を刈り取ろうとしてくる。


(……くっ……抑えろ………ダメだ…………)



――――ドクン……ドクン……ドクン……――――


 心臓が波打ち“奴を殺せ”と脅迫観念が襲う。ジャクソンは何とか大主教から視線を離しそれに耐えていると幾分か脈が収まってゆく。しかし、その様子を不審に感じたのか、大主教はこちらに目を向けた。


「――どうされた。顔色が優れんようだが?」

「……いえ。何でも………」


「それよりも猊下……実は私達がここに参りましたのは先日に司祭リヴ様の畏れ多くも、とある企ての証拠を見つけ、それを是非ご報告したく参りました」


 ジャクソンの様子がおかしい事を察した神父が、話題を変えるように大主教へ話し始める。



「……ほぅ、これは奇な事を言う。アレは我が教団の巫女として長い間我々に尽くしてきたが、トーマスはそのリヴが何か良からぬ事をしているというのか?」


「はい……その証拠がここにございます」


 その問いに神父は先日の証拠を納めると大主教はそれを手に取り読みながら、ふむ……と頬杖をつく。


「これはまたどうして……驚愕を禁じ得ん内容だな。人を生贄にして魔石を得る魔術(すべ)があるとは……この様なモノを隠しているなぞ、何とも許し難い」


「では………」


「あぁ、この研究はワシも預かり知らぬこと。この事はワシからリヴによく言っておこう。何故、この様な素晴らしい魔術を使って“もっと異教徒共を駆逐せぬのか?”…とな」



「――げ、猊下……いま何と………」


 その大主教の答えはジャクソンを含め、神父でさえも目を見開き驚愕する。何かの聞き違いではないかと再度言葉の真意を聞くが大主教は不服そうに返す。


「“何故もっと使わぬのか”と言ったのだ。愚かで、醜悪な異教徒どもを貴重な魔石に還元出来れば、これ程に効率良く始末が出来る手段は他にあるまい」



(……何を…言ってるんだ……コイツ…………)


 あんな非道な魔術を忌むどころかもっと使えと言うコイツがマトモな筈が無い。ジャクソンの脳裏には落胆と同時に冷めるような感情が自分を支配していく。



「………アンタ、本当にそう思っているのか?」


 そして、許しも得ずその場で立ち大主教を睨み付けると、そう問い掛ける。



「―――貴様、大主教猊下の御膳に無礼なっ!」


 周囲の近衛兵がジャクソンに剣を向けるが、不思議と恐怖など微塵も感じない。



「……異教徒などはこの世界のノミ同然。そんな俗物共を処分するのが世界の為なのだよ」


 何故、それが分からんと大主教は溜息を吐き、常識すら分からない子供を馬鹿にする様な口振りでそれを憐れむが、もうそんな事はどうでもいい……



――…罪深き者に……死を……―――


 ジャクソンはこれまで抑え込んでいた赤い呪詛を受け入れると自身の身体は別の意志を持つかの様にナイフに手を掛ける。この位置からなら周りが動く前に、この狂人を片付けられる。



「――よせ、ジャクソン!友の無礼をお許し下さい。我々は異世界人故に猊下の崇高なるお考えを理解するのにしばし時間が必要なのです」


 だが、ジャクソンが手を掛けた瞬間、それを遮る様にして大地が横に立つと深く頭を下げた。そして、周りから見えない様にナイフを掴んだ手を止める。



「よい、気にしてはおらん……そなたらは英雄ではあるが信者ではない。我々を理解できないのも無理はなかろう……2人とも下がって部屋で休むと良い」


「ありがとうございます。では、我々はここで……」


 大地はそのままジャクソンを引っ張りながら大広間を出させるとさっきまでは冷静だった大地が、今度は早足で苛立ちげに廊下を進む。


「気持ちは分かるが、今は止めておけ――」

「どうして止めた……大地」


「オレだって、あんな危険な思想を持ってる奴に協力していたのかと思うと自分の愚かさに我慢ならん……だが、あの場で大主教をお前が殺せば、間違いなく3人とも生きては帰れなかったさ」


「例え死ぬ事になろうと、それくらいの覚悟はある」


 熱り立つジャクソンに大地は首を振る。


「……勘違いするな、ジャクソン。今のお前はベルちゃんを失ってただ自棄になっているだけだ。そんなもんはただの自己満足に過ぎないんや……それに奴とオレたちの命とじゃ、価値がまったく吊り合わないからな」


 からかうような調子でそう言う大地に「違いないな」とジャクソンは笑った。



「しかし、お前の嫌な予感が当たったな。大主教は恐らくオレ達をこのまま無事に返さないだろう」


「……そうだな。これからどうするつもりだ?」


「ここを出てマクベス達と合流する。そして、当初の予定通りこの根城を制圧するさ」


「神父はどうする?」


「たぶん大丈夫だろう。彼だけ呼び止めたという事は殺される心配は無いと思う。むしろ神父を取り込んでオレ達を始末する算段を話しているかもしれない」


 先程の大主教の様子からそれが思い込みでない事は確かだろう。そうなる前に近隣で密かに待機している本隊に合流して、この教団の本拠地を攻め落とす必要がある。



「なら……ここからは時間の勝負だな」

「そうだ。遅れるなジャクソン!」


「あぁ、任せておけ!」


 ジャクソンたちは装備を置いていた客間へと戻る。そして、ヘイトが待機しているポイントへ向かう為に装備を整え客間を出たが、その途中で僧兵とは名だけの武装したガタイの良い衛兵に呼び止められる。


「この夜更けに何処へ行かれるおつもりか?」


 あくまでも儀礼的で高圧的な態度で、衛兵は職務質問の様に俺たちの道を塞ぐ。



「せっかくだから、少し観光でもしようと思ってね」


「それはなりません。大主教猊下のお許しが無ければ、ここから一歩たりとも出す事は出来ない」


 ジャクソンがからかう様に茶化しても、衛兵は聞く耳を持たないという感じを崩さない。


「何故、外に出るのに許可が居るんですか?」


「私は存じ上げません。猊下は既にお休みですので、お伺い出来るのは明日改めてとなります」


「じゃあ、トーマス神父を呼んでください。話があるんですよ」


「トーマス神父は現在、大主教の(めい)で此処にはおりません」


 大地の質問にもまったく取り合う様子を見せない。恐らくはジャクソンたちをここから出すなと大主教に言われているに違い無いだろう。



「そうかい……なら力ずくで通してもらうっ――!」


 こちらを見下げる程ある巨体の顎に掌底を打ち込み、衛兵が怯んだ隙に脚を跪かせて張り倒す。


「まったく、手荒無いなお前は……バレる前にここを抜けだそう」


 衛兵を気絶させたジャクソンの横で肩をすくめている大地に「まぁな」と返す。


「このままコイツと話してたら、夜明けまで付き合う羽目になる。そんなのはゴメンだろ?」


「あぁ、違いない」


 宮殿を出るまでは幾人かの衛兵達を同じように仕留めながら外に出るとジャクソンたちは追手を振り払う為に森を抜けて、マクベス達との合流ポイントへ急ぎ向かった。


 それから数時間掛け徒歩で移動した後、2人は無事マクベス達との合流ポイントへ到着する事が出来た。聖堂と宮殿のちょうど中間辺りに配置されたこの場所は敵からは目に付きにくく身は隠しやすい場所だ。ここなら世界教の連中にも、その存在を知られる事は無いだろう。


「――無事のお戻り安心しました。隊長、ジャクソン先輩っ!」


 部隊の中では比較的に最近入った新人に迎えられ、マクベスが居るテントにまで案内される。だが、テントの中には夜だと言うのに彼の息の掛かった部下が妙に警戒した様子で武装している。


「予定よりも早かったな。やはり世界教はクロか?」


「あぁ、大主教に会って世界教の実態が分かったで。そして、彼らが信用するに足らないという事もな……このまま放っておけば、そのうち大きな惨劇の芽になる。だから今のうちに潰しておくのが一番やろう」


 大地が悔しそうに唇を噛むがマクベスは驚く様子も見せずに頷く。普段から自分の感情をあまり見せない奴だが、今日はいつもに増して不気味なほど表情を変えない。


「そうか……残念だ…………」



――――ダァン!!


 だが、それはマクベスが大地に近寄り肩に触れた瞬間だった。奴は何を思ったのか、自らの懐から抜いたリボルバーで大地の腹を突然撃ち抜いたのだ。


「―――ぐぁっ!?」

「――大地っ! マクベス、貴様ぁ!!」


 その凶弾を受けた大地本人でさえ、何が起こったか理解できずにその場で倒れ込む。そして、奴の行動に合わせる様に周りのメンバー達も一斉にジャクソンへ銃を向けて完全に包囲すると、少しでも動けば殺すという殺気で張り付けにする。


「くっ…裏切ったの…か……マク…ベス………」

「お前が悪いのだよ、大地……お前がな」


 そして、マクベスは不快なモノでも眺める様に大地を見下ろすと再び銃を撃ち放ったのだ。

 

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