FPS episode.13
episode.13――
2014/8/12 スフィーダ伯爵邸 使用人寮
――カチャ!
先の部屋で手に入れた鍵をジャクソンは寮の裏口で使ったところ予想通り素直に鍵は開いた。ジャクソンは何が出て来ても良い様に銃を構えドアノブに手を掛けると一気に扉を開ける。
「……なるほど、ね」
だが、その警戒は良い意味で裏切られた。扉を開けた先は菜園でもやっていそうな小さな畑があり、その更に奥は断崖絶壁となっていた。崖の遥か下には大きな川が見え、作戦前に見た地図ではあの川の下流に大きな街がある筈だ。
「確かにあの川を下れば、街に逃げる方法があるかもしれない……だが………」
あの日記に書かれていたこと事が事実だとすると、この先には化物が居る可能性が高い。現に欠損が酷く判別が難しいが、人の死体と思われる屍が辺りに幾つか転がっている。
「喰われた人間達か……エグいな………」
――カタ…カタカタ………
畑の屍を確認していたジャクソンは微かに響いた物音を捉え、音の聞こえた辺りを入念に見回すも何者の姿も無い。
「……気のせい………だよな」
気を取り直したジャクソンはそのまま畑の奥までいくと、そこには段差を利用した大きな溜池があった。その溜池の一部には人為的な細工がしてあり、トリガーとなるレバーで畑一体に大量の水を流すことが出来そうだ。しかし、あれだけ大量の水が一気に放出されれば、その水に押し出されて全てが崖の下に落とされてしまうだろう。
「日記に書いてあったのはあれか……」
メイドの日記に書かれていた“助かる方法”を見つけたジャクソンは満足げな表情を浮かべ、その他に何か無いかと探索していると畑の柵にシーツやロープを繋ぎ合わせた長い縄ばしごを見つける。有り合わせではあるが、これで数人程度は崖の下まで降りることが出来るだろう。
「ヨシッ、ここからなら逃げられるぞ!」
ようやく見つけた脱出手段を十分に確認したジャクソンは他の仲間と合流する為に寮に戻ろうと歩を進める。だが、これで助かると安心したのも束の間、現実はそう上手くはいかない。
「キィャーーーーーーーーーー!」
突如、寮の屋根から不快な金切り声が響く。何事かとジャクソンは見上げると血だらけでボロボロのメイド服を着た女性のゾンビが、奇声をあげながら屋根から降りてくる。
先のメイドゾンビとは違い変異種なのか、腕と手の爪が異様に伸びて鋭くなっており、今までの化物とはタイプの違う様相にジャクソンは直感で危険を感じていた。
「コイツが例のメイド長だな……」
ジャクソンはまず相手の挙動を確かめる為、ゾンビメイド長に向けてショットガンを構えると素早くトリガーを引く。
「――おわっ、嘘だろ!」
だが、確実な狙いをつけていたにも関わらず、メイド長はまるで忍者の様に跳躍するとショットガンの散弾を容易に避けた。
「Ok、ただのゾンビとは違うってことか……」
ジャクソンはメイド長と距離を保ち、次の手を考える。ショットガンの残弾は3発。無駄な弾は使えない上にあれ程素早い動きをされたら、ハンドガンで捉える事も難しいだろう。どうしたものか……。
「キィャーーーーーーーーーー!」
しかし、考える暇を与えるかと言うばかりにメイド長はヒットアンドウェイで、何度も攻撃を仕掛けてくる。ジャクソンはそれを当たらない様にギリギリの所で攻撃を避け続けるも、防戦一方で守る事しかできない。
「……いちかばちか、やってみるさ」
悩んだ末、攻勢に転じることにしたジャクソンは腰に差したハンドガンを抜くとメイド長に向けてばら撒く様に撃ちまくる。だが、それは全て避けられ弾を撃ち尽くし弾切れとなった瞬間、再びメイド長がここぞとばかりに襲い掛かってくる……が、それはジャクソンの想定通りの動きだった。
「――ウェルカムッ!」
そして、メイド長がその爪でジャクソンの頭を串刺しにする直前、ハンドガンを持ち替えたジャクソンは一気にショットガンを撃ち放った。
「ギィャーーーアァーーーーー!」
メイド長は飛び込んだ勢いを加えショットガンのストッピングパワーで吹き飛ばされ、絶叫をあげ身悶える。ここがチャンスと考えたジャクソンは次弾を装填し、畳み掛けるように残りの散弾を浴びせるとメイド長はそのまま動かなくなった。
「……ハァハァ………やったか……」
全身から血を流しピクリとも動かなくなったメイド長にジャクソンは安堵する。そして、メイド長が首の下げている金色の装飾された鍵に気がついたジャクソンはそれを手に取る。
「これって、もしかしたら……」
メイド長が使っていた屋敷のマスターキーかもしれない、と考えたジャクソンは酷い形相で死んでいるメイド長の首からそれを外し自分の首に掛けた。だが、まだジャクソンの災難は終わらない。
「マジ……かよ………」
恐らく、先の戦闘で銃声を聞きつけた黒い化物が壁を伝い2匹、3匹と降りてくるのが見えジャクソンは目を剥く。もはや逃げるしか無いとジャクソンは寮の裏口まで全力で走るが、ドアノブに手を掛けたものの先程に開けたばかりの扉にまた鍵が掛かっており、どうやっても開く様子が無い。
「――嘘だろ、何で閉まってるんだ」
鍵はキッチンの中から掛けられる様になっていて、扉の向こうから鍵を閉めるにもジャクソンが今持っている鍵が必要な筈だ。一体、何故鍵が閉まっているのかと焦るジャクソンの背には次々と数が増えた黒い化物達が徐々に近づいてくる。
「マズイ、マズイ、これはマズイぞっ!」
完全に逃げ場を絶たれたジャクソンは扉の鍵を銃で壊そうとするが、ガバメントの威力では十分に足りず壊すことが出来ない。
「覚悟、決めるかな……」
もう目前まで迫り来ている化物の群れを見て、ジャクソンは腰のベルトからハンドガンを抜く。多少の抵抗をした所で雀の涙ほども効果が無くても、このまま何もしないよりは幾分はマシだろう。だが、ジャクソンがそう決意したのと同時に背中から聞こえてきたのは、聞き覚えのある渋いオッサンの声だった。
「――オイ、そっちに誰か居るのか!」
「ザックかっ!俺だ、ジャクソンだよ!頼む、そこの扉の鍵が開かないんだ。そっちから何とか開けてくれ、化物に囲まれてるんだっ!」
「――分かった。下がってろ!」
ジャクソンは返事を返すとザックが扉を開けるまでの時間、目の前の化物達を何とかしようと考える。そこでジャクソンは1度は辞めたプランを再考して覚悟を決め、銃口を化物から外すと先程に見つけた溜池のレバーがある方向へハンドガンを構え直す。
「落ち着け、左手は添えるだけだ……」
そして、深呼吸を終えた後、ジャクソンは惜しむことなく連続して残る弾丸をレバーに向けて撃ちまくる。1発、2発と外す中、その内の1発が壁からの跳弾で運良く縄に当たると溜池を抑えていた壁の亀裂が崩れ決壊する。溜池からは大量の水が濁流となって一面を飲み込み、一気に化物達を崖の下へ押し流した。
「――オイオイオイ、勢い良すぎるだろ!!」
その想像以上に強烈な流れに驚いたジャクソンは咄嗟に後ろにある扉の枠を掴んで必死で耐える。ドッグタグの力で多少は身体能力が強化されているにしてもあの崖の高さから落ちれば、助かるのは無理だろう。徐々に手の握力が無くなっていく中でザックが扉を開けるのを今か今かと待つが、身体を支えていた指が水で濡れて滑り始める。
「……クっソ……このままじゃ流される」
――バガンッ!
だが、激しい破壊音と共にようやく扉が開くと、外れかけていたジャクソンの手を別の手が掴んだ。ザックは慎重に少しづつ寮の中へ引き釣り戻そうとするザック。
「――掴まれ、ジャクソン!」
「オッサン、ナイスタイミン――っ!」
しかしもう少しで助かると思った矢先、ジャクソンの左肩に激痛が走る。自身にも何が起きたのか分からないで出来ないでいたが、振り返ると死んだはずのメイド長の爪がジャクソンの肩をザックリと貫いていた。
「ぐぁああぁっぁぁああ!」
「――この死に損ないめっ!」
それに気がついたザックが食い下がるメイド長に向けてマグナムを容赦無く撃つ。しかし、強烈なマグナム弾を受けても尚、メイド長はジャクソンを引き釣り込もうと必死に食らいつき離れようとしない。
「んなくそが―――っ!」
メイド長の重量と水流による勢いがモロに乗って、腕が千切れそうな程の痛みがジャクソンを襲う。そのあまりの激痛に最早ヤケクソになったジャクソンは渾身の力でメイド長を蹴り飛ばす。
「ギィャーーーーーーーーーー!」
するとジャクソンの肩から爪が外れ、メイド長が凄まじい狂声をあげながら崖を落ちていく。解放されザックに命からがらもジャクソンは寮のキッチンに引き戻されたが、串刺しにされた肩から大量の血を吹き出したままグッタリとして動かない。
「……うぅ………ぁ……」
「――オイ!しっかりしろ、ジャクソンっ!!」
その状態に命の危険を感じたザックが横で止血を行いながら、必死で呼びかけるとジャクソンは片目だけを開けてユックリと声を絞り出す。
「……悪いオッサッ、あとはた……ぁ…」
そして、生気の失せた表情でザックにそう言い残すとジャクソンは静かに意識を手放した。
13話目、アップが遅くなってしまい申し訳ないです(ノД`)シクシク
何気ないお話だったのですが、実はメチャメチャ作るの大変な話となりました。
いつもプロットの無いで、イメージを文字にするのが厳しかったです…
次回はマターリとした、ゆるーい話を書きたい予定です♪
PS
2100PVですよ!ホンマ、皆さんのおかげですわΣd(゜∀゜d)