FPS episode.14
episode.14――
2014/8/12 スフィーダ伯爵邸 医務室
……あれっ……おれ生きてるのか………
メイド長との戦いで負傷し意識を失ったジャクソンは冷たくなった身体に暖かな感触を感じて、鉛の様に重たくなった目蓋をうっすら開ける。すると何も聞こえなかった耳に誰かの声が少しづつ聞こえてくた。
「……かった。先輩、気がつきましたか?」
まだ目が慣れないジャクソンは傍らに居る人影を目を凝らして覗き込む。
「何か、シャーリーに似た天使が見えるけど……やはりお迎えが来たか………」
「ふふっ、寝ボケてるんですか?残念ながら天使じゃありませんが、起きて下さいね」
寝起きを満面の笑みで迎えられ、寝ボケてたとは言え、せっかく“頼れる先輩”を水面下で必死に演じていたジャクソンはポロりと自が出てしまった事に気がつき、ギリギリのところで軌道修正する。
「……悪い、ちょっと寝ボケてたよ。キミが手当てしてくれたのか?」
「えぇ、先ほどにザック副団長が血だらけの先輩をここに連れて来たので、その時はもう死んでしまうかと思いました」
「そっか……俺、どれくらい寝てたんだ?」
「う〜ん、1時間と少しというところですね。それより、あんなに血だらけで冷たくなって、先輩は無茶し過ぎです。いくらドッグタグで肉体を強化をしてても、アレだけ血を流せば死んじゃいます!」
シャーリーは本気で心配していたのだろうか、その目は真剣そのものだ。ジャクソンは予想外の迫力に押され、悪い事をした子供の様にペコりと頭を下げる。
「……ごめん」
「ホントですよ……って、あっ…すみません。私こそ、生意気な事を言ってしまって……」
あ、ちょっと本音が出たな……と思っても、ここは大人の対応をしておこう。
「いや、色々と迷惑を掛けたみたいだからね。俺の方が頭が上がらないよ」
シャーリーは口には出さなかったのだが、失血と水に濡れて冷え切ったジャクソンを恐らく彼女が暖めてくれていたのだろうと推測が出来た。その証拠に枕元には彼女と同じ赤い髪の毛が落ちており、自身も上着を脱いでシャツのみだ。その身を呈しての優しさに感動しつつ我が同居人2人にもこういう女子力を期待したいが、その姿が全く想像出来ずにジャクソンはゲンナリとする。いっそのことあのホラー並に怖いメイド長に鍛えてもら……
――って、待てよ!!
あの日記には何と書いてあっただろうか?確か“メイド長に手を噛まれた”後、そのメイドも最終的にはゾンビになっていた筈だ。粘膜や血液がウィルス感染の原因であれば、肩に傷を受けた自分も同様の可能性があるだろう。それに気づいたジャクソンは一気に青ざめる。
「シャーリー、ちょっと手を見せてくれ!」
ジャクソンは打って変わり真面目な表情でシャーリーに問いかけると、彼女の手や腕を入念に調べ始める。何をしているのか検討もつかない様子だったが、少し恥ずかしそうに自分の手を差し出す。
「あの……先輩?その………あらたまって、どうしたんですか」
「悪いな、でも良かった……傷は無さそうだ。直接、肩の傷を触ったりしてないかい?」
「先輩に傷口から菌が入らない様、手術用の手袋をしてましたけど……どういうことです?」
シャーリーはジャクソンの言う事がイマイチよく分からずにキョトンとした表情で返す。
「この肩の傷だが、さっきゾンビから受けたものなんだ。これだけの傷だからね、恐らく俺もウイルスに感染している可能性がある」
「ういるす……ですか?」
この世界ではまだウィルスに関する技術がほとんど進んで居ない。良くて細菌が人体に入ると害を成すという程度の知識が一般的でシャーリーが知らないのも無理は無いだろう。
「……あぁ、簡単に例えると病気の原因になるバイ菌みたいなものさ。それに感染してしまうと屋敷に居たゾンビの様になるらしい」
「じゃあ、その…先輩もゾンビに……」
「恐らくはね……手に入れた情報では発症するまでは1日か2日らしい」
「そう、ですか……」
シャーリーは俯くが、何かを思い出した様に手を合わせるとジャクソンの顔を覗く。
「錬金術師は毒薬を兵器として作る時には、必ず解毒剤を作るそうです。だから、もしかしたらそのういるすを直す薬を作っているかも知れませんよ?」
「確かに……その可能性はあるかもしれないな。まだ諦めるのは時期尚早か……」
「はい!それにもし先輩がゾンビになったら、これでちゃんと私が退治してあげますから、心配しないで下さいねっ!」
嬉しそうにグレネードランチャーを見せるシャーリーに「容赦ねぇな…」と苦笑いしながら、彼女の気遣いには心の中で感謝した。
「ところでザックのオッサンとここで寝ていたリックは何処に行ったんだ?」
「……先輩をここへ運んできた後、ベイダーを探すって、2人で出て行きました」
「そうか……アイツも無事だといいんだが。……俺もあまり休んでいられないな」
「――ちょ、まだ動いちゃダメですよ!」
「たかが肩をやられただけさ。それにこの屋敷の裏に研究所があるらしいんだ。せっかく見つけた縄ばしごも水で流れてしまったし、別の脱出方法を見つける必要があるからね」
「ハァ……分かりました。その代わり、今度は私も一緒ついて行きます。また怪我をされたらかないませんっ!」
そう言うとシャーリーは怒っているのか喜んでいるのか分からない表情で、鼻歌まじりに準備を始めた。女心は難しいな……と宙を仰ぎならジャクソンも装備を整えた後、ザック達と入れ違いにならない様にメモを残し医務室を出る。
そして2人は手分けしてメイド長から手に入れたマスターキーを使い、今まで閉じられていた扉を開けながら研究所の入口を見つけるために屋敷をシラミ潰しに探した。するとその途中、いかにも何かがありそうな鋼鉄製の扉を見つけるが、ひとつの問題が立ち塞がった。
「開かないな……鍵を刺す場所も無い。一体どうやって、開けるんだコレ?」
「う〜ん、何か鍵以外で開けるんでしょうか。ここに何かをはめる部分もありますし」
「かもね。別の場所を探してみよう……」
一旦引き返した2人は上階へと範囲を広げ、探索を続ける。するとシャーリーが一際豪奢な作りが施された屋敷の主スフィーダ伯爵の書斎を見つけ、ジャクソンを呼んだ。
「――先輩、これを見てください!」
彼女が見つけたのは、机の下に落ちていた伯爵の手記と思われる大きめの手帳と伯爵家の紋章が入ったレリーフだった。ジャクソンはシャーリーと共に開いた手記を推読する。
――スフィーダ伯爵の手記
何故だ。何故この様な事になってしまったのだ。全ては世界教を信じたのが間違いだ。
異世界人の科学という錬金術で、帝国を我が手に出来ると言うから奴らに協力したのに不死の兵士を作るどころか、この屋敷を出来損ないのゾンビだらけにしよって……。
それにしても忌々しいのは大司教と一緒に居た口だけのあの女と下等な異世界人だ。
奴らめ、何かあれば直ぐに対応すると言っていたクセに収集が着かなくなったら、あっさりと裏切りおる……だが、覚えておれ、この怨みは10倍返しにしてやるぞ。
だが、まずはこの屋敷を出るのが先だ。研究所に用意させたあのボートという船ならまだ脱出も出来よう。研究データを奴らに渡すものか、アレは―――
「ここから先が意図的に破られてるな。でも……これは伯爵が世界教に繋がっているというまたと無い証拠だ。これがあれば何かと煩い保守派の連中を黙らせることが出来るかもな」
「えぇ、脱出の方法も研究所に行けば、まだ残っているかもしれませんね!」
「あぁ……それにこのレリーフは多分、さっきの鍵の無い扉に使うんだろう。さっそく行ってみよう」
ジャクソンは手記を閉じるとシャーリーを連れて研究所に脚を進める。この先に更なる化物が待ち受けているとも知らずに……。
14話目ですよ~。ゾンビまでのカウントダウンは刻々と進んでいきますよ?
主人公だけがウィルスに掛からない何ていう都合の良い展開はありませんw
さて、次回からサバイバルホラー編は終盤に突入予定です!
気長に読んでいって頂けると嬉しいです(*´ω`*)ノ
PS
次回からは出来るだけ水曜日にアプしていこうと思いますΣd(゜∀゜d)




