第五話 龍王の影
ライラは後ろ姿の星睿と龍王に声をかけようとして、「あら?」と思いとどまった。
それは僅かな違和感だった。
上衣がいつもの漆黒ではなく濃緋であること。ほんの少し上背が低く、全体的に華奢に見えること。
何より、龍王はたいてい中央にある正宮の執務室に詰めており、午後の陽の高い時間に南の宮にいるはずがないのだった。
どなたかしら。
ふと星睿が振り返り、跪拝しようとするのを、ライラはそっと目配せで押しとどめた。
濃緋の君があわせて振り返る。
白磁の肌、黒曜石の髪、金剛石の瞳――夫と同じ顔がじっとライラを見つめた。
「――……ぼくのことを見分けているね」
しばし見つめあったのち、濃緋の君が感心したように呟いた。
龍王の声より幾分高いが、防寒具越しや遠巻きであれば聞き間違えてしまうだろう。
酷似している。
が、夫ではない。
あの凄みを含んだ壮麗さには何かがひと匙足りない。
腰に佩びている剣が龍王のそれより簡素なものだったので、ライラは跪拝ではなく胸に手を当てて軽く膝を折る略礼で済ませた。
恐らくこの人は。
「お初にお目にかかります、ライラと申します」
「ぼくは香露。お茶菓子をどうもありがとう、ご正妃様」
「まあ」
ライラは瞠目した。
「東の宮の方でしたのね。わたくしはてっきり……」
「てっきり?」
「陛下の影武者の方かと」
「おやまあ」
今度は香露が瞠目した。
「ひと目で見抜くなんてさすがは舜龍が選んだご正妃様。ご名答」
すらりとした長身の美人が呵々と笑う。
「ぼくは前の王の側妃でね。血の繋がりはないんだが、あの子によく似ているだろう? だから前王が身罷られて後宮が解散になるときに拾い上げてもらったんだ。誰かに降嫁するにも薹が立ちすぎているから。だけど、初手、しかも後ろ姿でぼくを見抜ける人は中々いないよ。さすがだね」
「お衣装が陛下のお色味ではなかったのと御剣が違いましたので……」
「へえ、よく気づくものだね。ぼくも気をつけないと。あまりに容易くバレてしまってはお叱りを受ける」
「お顔立ちもお声も本当によく似てらっしゃいますね。お外で防寒具越しだったら、きっとわたくし気づけなかったと思いますわ」
「いや? 最初からずっとご正妃様は舜龍だけを見ていたよ」
最初からとはどこからだろう。
一瞬答えに窮したライラに香露は甘く囁きかける。
「輿入れの馬車が襲われたろう。あのときから」
「まあ、あのとき香露さまもいらっしゃいましたの? 近衛に?」
「んーん。あれはぼくの仕業だよ。賊を演じたのがぼく。助けたのが舜龍」
「ッ…………⁉」
「少しゆっくり話をしても? お菓子のお礼もしたいしね」
息を吞んでライラは縋るように星睿を見た。
彼が小さく頷く。
星睿が口を出さないということは、危険はないのだろう。
逡巡しながらも客間に通すよう伝えた。
香露は勝手知ったるという風情で長い回廊を先立って歩いていく。
輿入れの馬車を香露が襲ったということは、砂絹の使用人たちをその手で屠ったということだ。ライラの命をも狙ったということ。
けれどここはライラにとって味方のいない異国の地。
黙っていれば永遠に露見するはずのない事件だった。
なぜ自ら手の内を明かしに来たのか。
香露の裏には龍王がいる。
ライラを賊から助けてくれたのではない。そう見せかけただけ。
「お手本のような世間知らずの箱入り」
あの日、龍王がライラを評した言葉を思い出す。
まったくだ。
ライラはこの国のことも龍王のこともまだ何も知らない。
直感という名の龍王の気まぐれと温情で柔らかく目隠しをされているだけ。
胃の腑にもやもやするものを抱えて、ライラは香露のあとに重い足取りで続いた。
***
「舜龍のお気に入りがどんなお妃なのか、よく知りたかったんだ。あの子の直感に間違いはない。けれどいきなり南の宮へ迎え入れたから少し心配もあったんだよ」
「お気に入りかどうかは……まだわからないのですけれど……」
恐縮するライラに香露は軽く肩を竦めて苦笑した。
「わかってないね。あの子は十七で龍王となった。大陸最大最強のノルシエの主にね。今は肩の力も抜けてきているけれど、玉座を継いだ直後はそれはもう張りつめていて。寝食など二の次。とにかく自分が完璧でなければノルシエは終わるというのが口癖だった。いつか壊れてしまいそうだったその子がね、ぽろっとこぼしたんだ。君の隣はよく眠れるって。――お気に入りでなくてなんだっていうんだい?」
「まあ……そんなことが……」
「後宮になんてとんと足を運んだことがない舜龍が南の宮には毎晩通う。いったいご正妃様はどんな技を使ったんだろうって王城内はもちきりだ。どんな魔法を使ったのかよーく話してもらうからね」
「い、いえ魔法なんてとてもとても」
「何もないわけがない。閨房術がとんでもなく巧みだとか、冰蝶のように妖しい薬を使うとか、何かあるだろうよ」
「わたくしは本当に何も……ただ、寝物語としてつまらぬお話を少々……きっと話があまりにくだらないものだから気を緩めてお休みになれるのですわ。陛下は色々なことに気を揉んでいらっしゃるから」
「寝物語」
きょとんとした顔で香露は首を傾げた。
子どもを寝かしつけるための単語が、龍王とも新婚夫婦とも上手く結びつかないからだろう。
ただ、ライラと龍王の間に艶めいたことは嫁いできてから今日まで一度もない。
本当に白い結婚なのである。
「それよりもわたくしの馬車を襲った賊が香露さまというお話はいったい……陛下もご存じなのですよね? なぜ陛下はわたくしをここへお連れになったのでしょうか」
「おや。殺されなかっただけマシでは?」
「ええ、それはもう。けれど雪馬車を襲い、わたくしだけを救い出すことに何の意味があったのでしょうか」
「あの子はね、ご正妃様が思っている以上に中央からこの極北へ嫁いできてくれる姫のことをそれはもう楽しみにしていたんだ。――だからこそだ」
「だからこそ?」
「君の故郷はよろしくない」
乾いた声で香露がばっさりと斬った。
「砂絹は君を殺して、ノルシエに非があるように見せかけ、慰謝料をぶんどろうとしていた。あの雪山はもうノルシエ領に入っていたからね。あそこで消息を絶てば我らが何か仕掛けたのだと世間は思うだろう。それにかこつけて有利な条件を勝ち得ようとしていた。我らと戦端を開くつもりはなかったろうが、君を殺して存分に我らを利用しようとしていたのさ。君の首がかき切られる前にぼくが合流できてよかったよ」
「従者たちはみな、わたくしを狙った砂絹の刺客だった。それを賊に扮して排除した……ということでしょうか」
「まあ、簡単に言うとね」
「そんな情報をいったいどこで……わたくし、全然気がついておりませんでした」
「白い悪魔。極北の蛮族。世界最大最強を舐めてもらっては困る。舜龍や我が軍諜報部隊が預かり知らぬことなどこの世にいくつ存在するか。特にきな臭い話はね。国土が広い分、耳と目はいくつあってもいい。――気落ちしてはいないかい?」
「――……いえ。やっと得心がいきました。なぜ、父王が突然わたくしを嫁がせたのか。殺すつもりであれば、不要な者から切り捨てる。当たり前の道理ですわ。それにわたくしを使ってノルシエを脅迫しようというのも、お恥ずかしながら彼らの考えそうなことだと腹落ちいたしました。このたびは大変なご迷惑を。この度のことは国際問題になりますか? 砂絹はどのような代償を支払えばよろしいのでしょうか」
ライラは動揺した様子もなく答え、香露をじっと見つめた。
香露は痛ましげに目を細め、嘆息した。
「おそらく表沙汰にはならないよ。砂絹には『姫君は無事輿入れした』と伝令を送ってある。その意味に気づかないほど愚かではないだろう。君が砂絹の間者でなければ、これで終わりの事件だ」
「砂絹をお咎めになっても益がないということですね。承知いたしました」
「……強いね、君は。舜龍をひと目で王と見抜いたあの雪山から、ずっと怖くて心細かっただろうに。本当はぼくをここへ招くのも怖かったろう。ごめんね。あの子があんなにも楽しみにしていたご正妃様があの子を傷つけないか心配だったんだ」
向かいに座るライラの手を身を乗り出してさすった。労りの手つきだった。
「あの子の直感は当たる。君はご正妃にふさわしい姫君なんだろう。でももし砂絹と同じくノルシエを利用しようとやってきたんだったら? 龍王の名を私利私欲で使う人間だったとしたら? あの子が必死に守ってきたノルシエが腐り落ちるのをぼくは見たくない。だから……君が、あの子が隣で眠れるようなお妃で本当によかった」
「陛下は……本当にわたくしを待っていてくださったんですか……? だから殺さずお咎めもなく大事にしてくださるんですか……? まだわたくし、悪い女ではないと何も証明できていないのに。信じてくださるんですか……?」
香露は喉の奥で小さく笑って足を組み替えた。
龍王としての仕草が染みついているのだろう。まったく同じ顔でまったく同じ笑い方だった。
「愛の言葉はあの子から聞きな。ぼくから聞いても意味ないからね。でも、あの子は遠く中央からひとりきりで悪魔に嫁いでくる腹の据わった姫君はどんなだろうって笑ってたよ。嫁いできてからは君といると興味深いって笑ってた。しかもあの堅物の星睿がご正妃様の買いものが慎ましやかすぎて見るに見かねて商人からしこたま買いつけたっていうじゃないか。もうびっくりして大笑いさ。ぼくから見て、君はノルシエに授けられた奇跡のような姫君だよ。これで君が本当は稀代の悪女なんだったら仕方ない。そのときはノルシエは滅びる運命だったんだ」
ライラは耳まで赤くして俯いた。
自分は奇跡の姫君なんかじゃない。
これ以上、香露を見つめていたら甘い言葉に泣いてしまいそうだったから。
ノルシエの人々こそ、ライラにとっての奇跡だった。
故国では誰からも選ばれなかったライラのままで皆が受け入れてくれる。
母のように書に溺れて狂気を埋めずとも、ここでなら生きていけるかもしれない。
「ありがとうございます。香露さま、なんでもお申しつけくださいましね。わたくし、ノルシエの――陛下の御為になるのならきっとなんでもいたしますから」
「なんでもなんて安請け合いするもんじゃないよ。そうだなぁ。本当は狼も寝かす寝物語を聞いてみたいものだけどね。きっとぼくだけが聞いたらあの子が盛大に機嫌を損ねるだろうから、今日はお茶をいただいたらお暇するよ」
「昨夜、陛下はいらっしゃらなかったので、毎晩お越しになるかわかりませんし……」
「厄介な案件を片付けるって言ってたから遅くなったんじゃないかな。きっと今晩は来るさ。ぼくへの気遣いは嬉しいけど、新しい話はあの子にしておあげ」
***
暖かい王城から一転。
地下牢はノルシエの外界と同じく、凍りつく厳しい寒さだった。
簡素な石造りの壁に分厚い霜が降りている。
硬質な靴の音がかつかつと石の廊下に反響する。
「やあ。ノルシエは寒くて嫌になるだろ。砂絹人には耐えがたいほどに」
「…………」
龍王がぼやくように言った。白い息が地下牢の中で細長くたなびく。
鎖で全身を拘束された初老の男はちらと横目で龍王を見ると、黙したまま目を閉じた。
「どうあっても砂絹はライラを殺したいと見える。お前で四人目だよ、この王城に入り込んだ刺客は」
「…………」
「喋らないのも統一されてる。砂絹の刺客はずいぶんと躾が行き届いているな。――さてここで取引だ」
曲刀がギラリと閃く。
男の首に刃を当てて龍王は言う。静かで凪いだ声音だった。
「国に帰って、もうライラを狙うのはやめるようお仲間に伝えてくれないか? 僕はライラがいないと中々寝付けなくてね。砂絹と争うつもりもないし、あの子を付け狙われるのは単純に迷惑なんだ。お仲間を諭してくれるならお前を解放しよう」
「…………」
「砂絹に帰還してからの無事も保証するぞ」
「…………」
「なるほど、至極残念だ」
血飛沫が舞う。
牢との気温差でもうもうと血煙が上がった。
ごとりと首が落ちる。
「星睿、片付けておけ」
「陛下が御自ら手を下さずともよろしかったのでは」
「可愛い寵姫のためじゃないか――ライラには何も言うなよ」
龍王は顔に跳ねた血を袖で雑に拭うと、曲刀をしまい牢をあとにした。
地下牢からの回廊を上ると、正宮の中庭に出る。
血塗れのまま悠然と庭を歩く姿に文官たちがさざめく。
すれ違う際にぎょっと目を丸くする者もいたが、咎める者は誰もいない。
必要であれば血を流しても排除する。
それが龍王が龍王たる証で、今回もきっと血が流れる必要があったのだ。
龍王の判断に間違いなどあるはずもない。
そう、誰もが信じている。
「言ってくれれば、ぼくがやったのに」
背中からの香露の声に龍王は空笑いした。
「そこまで完璧に僕の影たれとは思っていないよ、仮にもお前は女だからね。手を汚すのは男の仕事だ」
「舜龍、」
「大丈夫だ。僕は決して間違えない。砂絹との線引きもちゃんと見極めてる」
「別に咎めたりしないよ。ご正妃を狙う輩の排除は正当防衛だ。ご正妃がノルシエに賊を引き入れているわけじゃないんだから、彼女と線を引く理由は今のところない」
「――今日はこのまま南宮に行く。政務は明日片付けると皆に伝えてくれ」
「血はよくよく落としてから行くんだよ。ご正妃に見せないように」
「わかっている」
去っていく龍王の背を見ながら香露はライラならば血塗れでもおろおろしながら迎え入れてくれるだろうなと想像した。
顔を真っ青にして、「お怪我ですか? わたくし医療の心得はないのです」などと錯乱しつつも龍王の衣に染みこんだ血飛沫を必死に拭おうとするだろう。
自分を含め、東の宮の妃にはできない。
龍王の冷酷無比な顔を知っているから。
即位してからこれまで、必要とあれば敵も味方も一切躊躇わず消してきたことを知っているから。
龍王の残酷さと冷静さで守られてきたノルシエの民だからこそ、畏れを知るからこそ、血塗れの龍王を抱きしめてはやれない。
龍王は間違えない。
だから、彼が選んだ正妃にも間違いはない。
彼が決めた以上、東の宮の妃が正妃に選ばれることはもはやない。
実家のことを思えば瑞雪も冰蝶も正妃の座はほしいだろう。
けれど選ばれない方がいいのだ。お互いの安寧のために。
「ご正妃様の隣はよく眠れる、か。どれだけ稀有なことかわかっているのか。舜龍」
香露は小さく微笑むと文官に今日はもう王が戻らない旨を伝えるために踵を返した。
***
その日はいつもより早く龍王が南の宮へやってきた。
香露の言う通り忙殺されていたのか、髪と衣が軽く乱れていて、心なしか顔色も澱んでいる。
「宮に変わりはなかったか」
「香露さまにお会いいたしました」
「ああ。あれと。ならば賊の件も聞いたか?」
「はい。香露さまからもお伺いいたしました。砂絹がご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした。陛下のご温情に感謝申し上げます」
「……砂絹のやり口は受け付けないが、僕はお前でよかったと思っている」
龍王はライラの額に軽くくちびるを落とすと、いつものようにぎゅうぎゅうと抱いて寝台に寝転がった。
「済んだ話はもういい。――今日はどんな話を用意してくれてるんだ?」
だいぶ疲れた様子の龍王は、きつく抱きしめたライラの耳元に顔をすりつけるようにして寝物語をねだる。
人懐こい大きな犬のようだなと思いながら、ライラは記憶を探った。
そういえば商人が届けてくれた書の中に気になる話があった。
「――……本当につまらぬお耳汚しですが」
繰り返しの口上に、律儀だなと龍王が耳元で笑う。
単純にくすぐったいし、龍王の仕草はどこか艶めいているのでどぎまぎしてしまうのだが、この時間が多忙な夫の癒しになっているのであればとライラは気を引き締めて語りを始めた。
「陛下はシャフリの民族をご存じでしょうか」
「ああ、文明最古……すべての民族の祖であるという」
「お買い与えくださった書によると、シャフリの人々は天から遣わされたという説もあるそうです」
「天から?」
「はい。法律、文学、暦や占星術、大規模な灌漑技術に地図や測量までも……ありとあらゆる国家の枠組みがシャフリ人によって生み出されました」
「今とそう変わらないな」
「そうなのです。あまりに高度な文明だのに、彼らの祖先が誰なのかは明らかになっておらず、突如歴史上に今とそう変わらない文化を持つ人々が現れたので、神が智慧を授けるため遣わした民族だという説が囁かれるようになったのです」
「祖先がわからないというのはトウモロコシと同じだな」
ふうんと相槌を打って、龍王がライラの耳を食んだ。
鼓膜に反響する低い声がやけになまめかしくてライラは真っ赤な顔で、ぎゅ! と目を瞑った。
どうした? それで? と不思議そうに続きを促される。
ライラにとって心臓が痛くなるような仕草も龍王にとっては戯れのひとつにすぎないらしい。
はひゅ……と情けない声を絞り出しながらライラは続けた。
「け、けれども、当然シャフリ人は天の御使いではありません。これにはカラクリがございます」
「シャフリ人のカラクリ」
「彼らの発明品がヒントです」
「――ああ、なるほど。文字だな」
「さすがは陛下。仰せの通りシャフリ人の最大の発明品は文字。シャフリののちには記録が残るようになりましたが、彼ら以前の民族は後世に残す術を持っていなかった」
「ゆえにシャフリ人は歴史に突然現れたように見えた」
「紐解けばあっけないようにも思えますが、人類史の謎として大変興味深く拝読いたしました。それにシャフリ以前と以後では明らかに文明の強度が違うのです。劇的に人々の暮らしが変わっている。そしてまた、彼らが御使いではなかったという証拠もございません」
「つまり?」
「もしかしたら本当に神がお遣わしになられた人々なのかもしれませんわ」
龍王は満足げな吐息を漏らして、行儀悪く歯でライラの胸紐を解くと控えめな谷間に鼻先をうずめた。
「まだあるだろう。星睿のやつ、書も衣も景気よく買いつけたって言うじゃないか。他にはどんな書を読んだ?」
ぺろりと胸元を舐められて、ライラは小さく声を上げる。――次の話をということは今夜も褥は白いままなのだろう――愛でられているのはわかるが、龍王のじゃれ方は初心な生娘にとって心臓に悪い。
どうして陛下はわたくしをお抱きにならないのかしら。
狡猾な砂絹の娘だから? 痩せぎすのみすぼらしい見た目だから?
それだったらお渡りもなく捨て置かれて当然。
けれども龍王はライラの隣で眠る。
じゃれあいだってどこか色めいて指先でライラを翻弄する。
白い結婚である必要があるのかしら、何がお気に召さないのかしら、とライラは少し肩を落とした。
くぁ、と龍王が生あくびを噛み殺す。
そうよね、陛下はお疲れなのよねとライラはその背を優しく撫ぜた。
「次のお話は何にいたしましょうか……」
どうか、龍王がライラに飽きて放り出す日が来ないようにと願って。
そうして寝物語を話して聞かせるだけで日々はあっという間に過ぎ、白い結婚のまま和やかで平穏な二か月が過ぎた。
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