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古代魔術具の内側に、一回り縮小してコピーを作れないだろうか。
「魔力パターンを縮小しないといけませんね。また難易度を上げて来ますか」
縮小コピーというものが成立するかは、やってみないと分からないが、できるとすれば、最初のイメージ段階で、縮小した形を構成できるかが重要だ。つまりシエラ任せということになる。またもガラクタの山が積み上がることになったが、次第に魔力変換が古代魔術具の形に収斂しそうな気配が見え出した。これは行けそうだ。そう思えば、士気も上がる。さらに試行錯誤を重ねる。
一体、何度目の挑戦だったろうか。これまでにない勢いで魔力変換が収斂し、気付けばオリジナルの中にもうひとつ、魔術具が鎮座していた。
「……できました!」
「やりましたね!」
「よっし!ナイス俺達!」
魔力を流して起動を確認。問題ない。縮小コピー成功だ。
これだけ複雑なものを、イメージをベースとした魔力制御で、手直しで済むレベルまで構築してしまうこと自体、シエラの驚くべき技量だ。さらに単なるコピーではなく縮小コピーとなると、自分でアイデアを出したものの、拓真には人間業とは思えない。逆に、細かく精密な修正を、魔術が破綻しないだけの素早さでやってのけるのは、ユミルと拓真にしかできないことだった。さらにそれを、3人が互いに邪魔をせず、協働して行う。困難なチャレンジだった。それだけに、言葉にし難い達成感があった。
これで、保管の魔術具が起動するようになった。それ自体も成果ではあったが、目標はこれをアレンジしてオリジナルの機能を追加すること、そして別の魔術具を作ることだ。魔術の解析を進めなければならない。
中から保管庫を開ける安全機能は難しくない。中から魔力回路にアクセスできるよう、ポートを作るだけでいい。
尤も、それを魔術具として製造することは簡単ではない。コピーできるオリジナルがないからだ。ポート部分だけを一から魔力変換で生成し、その部分に合わせてオリジナルの魔術具をシエラに切断してもらう。こうして空いた部分にポートを嵌め、全体のコピーを作る。こうして、新たな機能を魔術具に付け加えることができた。空間切断、これもまた便利な魔術だ。空間切断で切るからこそ、切断面が非常に綺麗になる。別の方法で切ったのでは、パーツを当て嵌めたところでコピーはできないだろう。
一方、保管庫を作る魔術の解析は進まなかった。見たことのない魔力操作の型だったのだ。では、保管庫では、物理的に何が起こっているのだろうか?内部の時間の流れが遅いということは、光速に近い速度で運動している?あるいは、見かけ上の光速を遅くすれば、時間の進みが遅くなるだろうか。拓真の理解が間違っていなければ、空間を歪ませることで、光を歪みの内部へと引っ張り、光速を遅らせることができる。その有名な例がブラックホールだ。巨大質量によって空間が無限に歪み、光が抜け出せないほどに引っ張られる。だから、ブラックホールの近くで、ブラックホールから離れた方向に向かおうとする光は遅くなる。その分、外からはブラックホール付近の時間が遅く見える、そんな説明だったはずだ。ちょっと自信はないが。
けれどもちろん、ブラックホールなど作ってしまえば中身が無事では済まない……はずだ。ユミルの魔術で拓真がこの世界に無事に転移できた例があるので、方法があるかもしれないが。よりあり得そうなのは、別の方法で光速に近い状態を作り出すことだろう。
いずれにせよ、古代魔術具の魔術を理解するには、知識と分析手法が足りない。科学では、新たな分析手法の登場と共に大きなブレイクスルーが起こると言う。そんな分析手法の開発が待たれるところだ。と言っても、現状自分で開発するしかなさそうなのが辛いところ。全く、こんな過去文明の遺産があって、何故魔術の、いや世界の理解がこんなにも進んでいないのか。
結局、保管の魔術具をさらにアレンジすることは、諦めざるを得なかった。せめて空間的、時間的な魔力分布の繰返しパターンが見つけられないかと思ったが、複雑過ぎて繰返しパターンがあるかどうかすら分からない。新たな分析手法としてまず必要なのは、魔力分布とその変化を記録して可視化するものかもしれない。
ただ、保管の魔術具のアレンジは無理でも、別の魔術具を作ることはできるのではないか。魔力回路を維持するためのモジュールは、古代魔術具の解析で分かるはずだ。それを、魔術具として発揮したい機能モジュールと結合させればいい。例えば、明かりを灯す魔術具を作るとしよう。これは、魔力を光に変換する魔力制御を、術者がいなくても維持できればいい。
けれど、これも簡単ではなかった。魔力を維持するモジュールと、魔力を光に変換する魔術のモジュールを、どうすれば結合できるのか。これは、試行錯誤するしかなさそうだ。
そして、試してみて気付くのは、保管の魔術を維持するためのモジュールと、明かりを灯すだけの単純な魔術を維持するためのモジュールは、かなり異なるのではないかということだ。少し見方を変える必要がありそうだった。
明かりを灯す魔術具を作る、これを、明かりを灯す機能と自身をシールドする魔力勾配を作る機能を持つ、低次の意識を魔力回路で作る、と考えてみよう。どんな魔力回路がどんな魔力操作を生み出すのかは、古代魔術具の魔力回路を部分的に模倣してみることである程度理解できた。光を生み出す魔力回路、シールドを形成する魔力回路は、これで構築できるようになった。では、その魔力パターンをどうやって維持するか。根本的に重要なのは、ループを作ってやることらしい。光を生み出す魔力回路を形成した魔力を、その魔力回路のスタート地点に再度戻してやるのだ。古代魔術具では、シールドにぶつかった魔力の流れが、シールドに沿って移動し、別の場所で収束して再びシールドから離れて行く様子が見られた。シールド自身が、魔力を循環させる一助になっている。
そう、循環だ。魔力回路とは、知らぬ間に本質を突いていたらしい。その一方、モジュールという考えはあまり適切でなかったようだ。まあ、仮説が棄却されるなど、よくあることだ。
ともあれ、明かりを灯す魔術具は実現できた。他の魔術も、簡単なものであれば、そう苦労せずに実現できるだろう。魔術具が一般に普及すれば、非貴族階級に対する貴族の優越性は薄れるだろうし、魔物への対処もしやすくなるはずだ。うまく普及できれば、国を荒れさせている原因の解消に、役立ってくれるだろう。けれど、魔術具の普及には相当な時間を要するはずだ。今目の前の問題は、別の手段で解決しなければならない。




