09
ユミルとの模擬戦にも慣れた頃。魔族の侵攻と共に、近隣でも魔物の襲撃が発生するようになっていた。
魔物の棲息域に近い町に行くと、冒険者ギルドというものがある。魔物の棲息域を調査したり、魔物を討伐する仕事等を請負う者、冒険者と呼ばれる者達の互助組織だ。レイナード町近辺には魔物の棲息域がないため、これまで冒険者ギルドの拠点はなかったが、その臨時支部がレイナード町に設置され、活動を開始していた。
ちなみに、冒険者ギルドというのは、国や貴族の資金で運営される公共事業という性格の組織でもある。魔物の棲息域に宝箱などないし、魔物を倒しても価値あるものが手に入るわけではないから、どうしてもそうならざるを得ない。冒険者自身も、魔物との交戦がある以上、魔術を使えなければ話にならないから、必然的に貴族である。普通、貴族というのは人を管理する立場にあるが、冒険者はそうではない。貴族らしからぬ役職と言えた。だから、冒険者の成り手は常に少ない。その反面、人々の生活を守るという誇りを持って活動している者が多いようだった。拓真はユミルの紹介として冒険者登録し(ユミルも登録していたことは、その時に知った)、依頼を受けて魔物討伐に赴いた。実戦経験という目的もあったが、人々の助けになりたい、その思いは拓真にもあった。
当初、拓真が依頼を受ける頻度は低かった。けれど、魔物の被害は増え続け、あっと言う間に冒険者のリソースで対処できる量を超えた。拓真も引っ切りなしに依頼を受けざるを得なかった。ユミルもだ。当初、拓真はユミルと共に依頼を解決していたが、次第に一人で依頼を受けることが増えて行った。それでも、未解決の依頼は増え続け、次第に国土は荒れて行った。
そんな中、聖女なる人物が魔王討伐に向かうという話が喧伝された。聖女という称号のイメージと魔王討伐が結び付かなかった拓真だが、どうやら突出した実力を持つ魔術師らしい。さらにしばらくすると、聖女が無事魔王を倒したと。
拓真が、討伐への同行という珍しい依頼を受けたのは、その直後だった。件の聖女が魔物を討伐するため、その案内と補助をする、というものだ。魔王を倒したとしても、増え過ぎた魔物が即座にいなくなる訳ではない。魔王討伐後も、聖女は各地を回って魔物を討伐するつもりらしい。
レイナード町からはやや遠くになるが、タレスという村がある。そこの魔物被害の対応に、拓真が同行する。以前に拓真が魔物討伐に赴いた村であったため、拓真が補助役に選ばれた。
冒険者ギルドに出向き、聖女の到着を待つ間、ギルドの職員に聖女について聞いてみた。
「すみません、聖女って、魔王を討伐した人ですよね。どういう人なんですか?」
「えっ、タクマさん、知らないんですか!?……流石、森の賢者の弟子……」
何やら耳慣れない呼称が聞こえた気がするが、突っ込まないでおく。
「聖女様は、すごい方ですよ!魔術師学院を史上最年少で卒業して、そのまま宮廷魔術師になったんです!その後も、重い怪我の人をたくさん治療したり、各地を回って魔物を討伐したり…。聖女様に会った人の話では、とってもお優しい方だったそうです!」
熱量が高い。ちょっと、聞く相手を間違えたかと思ったが、他の職員に聞いても、テンションに差はあれ、似たり寄ったりな話ばかりだった。随分と人気らしい。アイドルみたいだと思っていると、ギルドの扉が開かれた。
「こんにちは。私、シエラと言います。魔物討伐に来ました。ギルドマスターさんにお話が行っていると思うのですが」
随分と年若い、幼いと言っていい少女だった。長いブロンドに深い空色の瞳。ゆったりとしたスカートに対し、上半身は動きやすそうなノースリーブに身を包み、穏やかな笑みを浮かべている。こんな少女が魔物討伐?拓真が不思議に思っていると、ふとこちらを見た少女が驚いた表情になった。どうしたのだろうか、と思う傍ら、
「あ、はい!少々お待ちくださいっ!」
ギルド職員がすっ飛んで行った。間もなく、ギルドマスターがやって来る。
「聖女様、この度はご協力ありがとうございます。ギルドマスターのザイガです」
何と、この少女が聖女らしい。そういえば、聖女の名前を聞いていなかった。
「討伐には、このタクマを案内につけます。冒険者としての経験は長くはないが、実力は俺が保証しますよ」
「拓真です。よろしくお願いします…聖女様」
ちょっと呼び方に迷ってしまったが、一先ずギルドマスターに倣っておく。
「はい、よろしくお願いします。それから、シエラで構いませんよ。様もなしで」
「ああ…正直助かります。じゃあ、シエラさん。改めてよろしく」
この世界に来て相当な年月が経つとはいえ、ユミル以外との関わり合いは多くない。未だ現代日本の感覚を引きずっている拓真としては、あどけなさの残る少女を様付けで呼ぶのは違和感があった。
ギルドマスターから、依頼の簡単な説明を受けてすぐ。シエラから声をかけられた。
「それじゃあ早速、行きましょうか」
「…はい?ええと、どこに?」
「もちろん、タレス村に向けて。少しでも早い方がいいでしょう?」
行動が早い。1日休んでから行くのかと思ったが。確かに、ゆったりしたところで、この町でできる準備などほとんどないので、異論はなかった。
「確かに、そうですね。では、荷物を取って来るので、少し待っててもらえます?」
そうして、拓真と聖女シエラは、タレス村へ向けて出発した。
聖女シエラは、別の作家さんの作品に登場する聖女をモデルにしています。と言っても、設定と何となくのキャラクターを寄せているだけで、積極的に似せてはいませんし、似せる技量も著者にはありませんでした。
というのも、その作品に描かれている議論を、もう少し深堀して表現したいというのが、本作を書き始めたもうひとつのモチベーションだったからです。その作品のとある場面にインスパイアされたオマージュ的な箇所が本作にいずれ登場しますが、パクりではない……と思いたいです。ドキドキ。




